【特集3】高付加価値を意識した物件開発 ZEHなど環境配慮にも取り組む


【大阪ガス都市開発】

大阪ガス都市開発は大阪ガスの子会社として1965年に設立。以来、同社本社の大阪ガスビルディングをはじめとしたグループ会社のビル管理業務にとどまらず、一般の顧客を対象としたオフィスやマンションを手掛けてきた。

昨年の売上高構成を見ると、Daigasグループ関連が2割、その他が8割であり、現在はグループ外を顧客とする事業がメインとなっている。

2000年代以降は関西圏だけでなく、首都圏にも進出。新規に取得した用地に賃貸マンション「アーバネックス」と分譲マンション「シーンズ」を展開する。賃貸マンションの保有数は100棟を超え、取り扱い戸数は6000戸以上。分譲マンションも累計販売数は共同事業での共有戸数を含めると約6700戸に上る。

同社の不動産開発で欠かせないのが、物件の快適性や高級感、サービスといったハイスペックな付加価値の提供だ。住まいに関するきめ細やかなアンケートを実施するなど、些細な「気づき」や「ニーズ」を大切にし、商品企画に生かしている。特に、分譲マンションについては、入居後の顧客に対して、個別に新居の暮らしや物件の快適性などのヒアリングを行い、その結果を後の開発に反映してきた。これが奏功し、多くの顧客を獲得してきた。

近年はSDGsやカーボンニュートラルなど、環境を意識した建物づくりが社会的な要請として高まっており、不動産開発にもそうした要素を取り入れることが求められている。 経営企画部の新村隆浩副課長は「顧客のニーズ以外に、社会課題への対応が求められてきたのはここ数年の新たな展開だ。分譲マンションのシーンズでは22年4月以降、ZEHオリエンテッドを標準採用している。家庭用燃料電池『エネファーム』も採用し、創エネもできる特長をさらに生かしたい」と話す。

賃貸マンション「アーバネックス文京本郷」

首都圏の開発にも注力 独自サービスも展開

賃貸マンションでは、人口が多い首都圏にも注力している。「関西圏で蓄積してきた建設や改修工事、お客さまへのサービスなどのノウハウを生かした都市型住宅を拡大展開している」(新村氏)。

関西地区の一部賃貸マンションでは「スマモル賃貸」などグループ各社のサービスを合わせて提供する。スマモル賃貸は、スマートロック「bitlock LITE」や警備員駆けつけサービス、優待・割引サービスがセットになった、集合住宅専用の電気料金プランだ。

オフィスなど法人向けの代表的な物件では、大阪ガス京都工場跡地の京都リサーチパーク(京都市)がある。地域の大学・研究機関や産業界、行政機関、国内外のリサーチパークと連携した経営支援や新産業創出支援などを行う研究開発拠点で、15棟を賃貸物件として保有している。

このほか、物流分野など成長分野への参画や、海外事業への着手の検討なども行う。直近では資産効率向上に向けて私募REIT事業を開始した。こうした施策によりさらなる成長を目指している。

【特集3】エネルギー会社の不動産事業 資産・知見生かし国内外で活発化


環境に配慮した不動産事業を積極的に展開するエネルギー会社が増えている。エネルギー分野の知見を生かすとともに、顧客や地域のニーズに応える。

2019年から本格化したコロナ禍以降、不動産トレンドが目まぐるしく変化している。その要因はリモートワークの増加や環境に優しい住宅への需要の高まり、テクノロジーの進化などさまざまだ。

こうした流れを受け、エネルギー業界の中でも不動産事業を展開する企業が増えてきた。具体的にはグループの資産の活用やエネルギーに関する知見を生かした住宅事業、海外事業などだ。

ESGに基づいた開発 人と環境に優しい住まい

1963年に「緑とやすらぎのある住宅都市づくり」を目指して「森林都市株式会社」として発足した九電不動産。九州電力の子会社となった後は、グループ一体で不動産事業を強化してきた。

同社は住宅ブランドコンセプトとして「E-QUALITY(イークオリティ)」を掲げている。「これからの人と地球に、快適な住まいであること」を重視し、人や地球に優しい快適で経済的な暮らしであること(E-COLOGY)、信頼のエネルギーサービスによる安心を届けること(E-NERGY)、心を動かす安らぎや生活シーンを描くこと(E-MOTION)の3点を打ち出している。

同社が手掛ける分譲マンション「グランドオーク」シリーズは、高い環境性能を有し、カーボンニュートラル(CN)の実現に貢献する。オール電化や断熱構造はもちろん、Low-E複層ガラスや24時間換気システムなどを採用。一部の物件を除き、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)の認証を受けている。家計にも環境にも優しい住まいとして人気を博している。

中部電力が主要株主の日本エスコンは、総合不動産デベロッパーとして幅広い事業を手掛けている。具体的には、分譲マンション・戸建住宅、商業・物流施設、オフィス、ホテル、賃貸レジデンスなどの開発、プロパティーマネジメント、企画コンサルティング、マンション管理、リノベーション事業などだ。20年1月には、北海道日本ハムファイターズ新球場周辺街づくりである「ボールパーク構想」に参画。新球場のネーミングライツを取得している。

その経営戦力の一つに「ESG推進による社会課題への対応」を掲げている。環境に配慮したZEH-M(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス・マンション)や、地域の活性化を目指した地域密着型商業施設「トナリエ」の開発を進めている。また次世代型スマートハウスやコネクティッドホームなどの共同研究も行っており、暮らしの環境エネルギーやAIの活用による次世代の街づくりにも取り組んでいく。

IoT技術で省エネかつ経済的なエネマネを行う

会社ごとに特色ある事業展開 顧客や地域特性を深く理解

大阪ガスの子会社である大阪ガス都市開発は、大阪ガスビルディングをはじめとするグループ会社のビル管理業務だけでなく、一般顧客向けオフィスやマンションも手掛けている。

2000年代以降は、関西圏だけでなく首都圏にも進出し、賃貸マンション「アーバネックス」と分譲マンション「シーンズ」を展開してきた。SDGsやCNへの対応として、「シーンズ」ではZEHオリエンテッドを標準採用している。家庭用燃料電池のエネファームも採用しており、創エネも可能だ。

同社の不動産開発では、物件の快適性や高級感、サービスといった付加価値の提供を重視している。顧客に対して住まいに関するアンケートを実施し、その結果をもとに商品企画を行うことで、ニーズを取り込んでいる。とりわけ分譲マンションでは、入居後も個別に暮らしや快適性などについてヒアリングを行い、のちの開発に生かすことで物件の価値を高めてきたという。

成長分野である倉庫など物流にも参画する

賃貸と分譲にフィービジネスを加えた3本柱で事業を展開するのは、関電不動産開発だ。フィービジネスでは私募上場不動産投資信託(REIT)を扱う投資会社「関電不動産投資顧問」を設立。REITとは、投資者から集めた資金で不動産への投資を行い、そこから得られる賃貸料収入や不動産の売買の収益を投資者に配当するというものだ。

また同社では海外事業にも積極的に取り組んでいる。GDPの伸び率が日本よりも高い北米、豪州、タイの3カ国で展開。タイでは現地デベロッパーと組んで住宅を建設している。海外事業を展開する際には、カントリーリスクへの注意が不可欠だ。カントリーリスクとは、投資している国の経済や政治など不安定性に伴う市場の混乱・下落といった不確実性を意味する。こうしたリスクを踏まえた上で、投資を行う必要がある。

豪州での不動産開発を進めるのは、関電不動産開発だけではない。東京ガス不動産は、豪州での分譲マンション事業「Bloom(ブルーム)1」への参画を発表。今年2月に参画した「BANKSIA(バンクシア)」に続く豪州2件目の事業となる。

バンクシアとブルーム1は「グレンサイド」プロジェクト内の一環だ。同プロジェクトは南豪州の州都アデレードからほど近い、好立地で希少な大規模再開発プロジェクト。広大な敷地内に数多く存在するヘリテージ(歴史的建造物)の保全・活用など、環境や社会との調和を重視した住宅開発を行う。ブルーム1は郊外の戸建てから居住面積を縮小して住み替えるシニア層をターゲットに、魅力的な暮らしを提案する。そのためには住む人や地域、社会が求めることを深く理解する必要がある。

例えば、豪州では地元住民同士のつながりが重視されるため、ラウンジなどの共用施設を充実させ、コミュニティー形成を後押しする。また太陽光パネルやEV充電器の設置、再生可能エネルギー由来の電力を各住戸で使用できるといった環境への配慮にも重点を置いた。こうしたコンセプトが好評で、完成を待たずして完売した。

国内外問わず活発化するエネルギー会社による不動産開発。その動向に関心が高まる。

【特集3】電力会社ならではの物件開発 関西デベロッパー最上位目指す


関西電力グループの中核を担う関電不動産開発は国内外に事業を拡大している。ESG投資に注目が集まる中、エネルギー会社の知見を生かした開発に注力する。

【インタビュー】藤野研一/関電不動産開発社長

ふじの・けんいち 1989年3月早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了、関西電力入社。お客さま本部副本部長、執行役員営業本部副本部長を経て、21年6月から現職。

―会社設立から現在までの事業状況についてお話頂けますか。

藤野 当社は2016年に旧関電不動産と旧MID都市開発を統合し設立されました。旧関電不動産は、関西電力の本支店ビルや社宅、社員寮などの保守維持管理をメインとする会社でした。統合によってMID都市開発の強みを生かして総合デベロッパーとなり、分譲事業と賃貸事業、フィービジネスの三本柱で展開しています。

 分譲マンションは「シエリア」ブランドで販売しており、近畿エリアでは昨年1141戸を販売し、2年連続販売戸数で第1位になりました。賃貸事業はオフィスビルをはじめ、ホテルや物流、商業施設などを手掛けています。

 フィービジネスでは私募REITの資産運用を行う「関電不動産投資顧問」を18年に設立しました。当社が所有する物件を私募REITに組み入れ、年1回増資するタイミングで資金を募り運用しています。資産規模は今年で500億円を超えました。

―国の50年カーボンニュートラル宣言以降、顧客の環境意識への高まりを感じますか。

藤野 お客さまからの環境や省エネに関する質問が増えています。当社はエネルギー会社の子会社であり、新築のマンションや戸建て、オフィスビルなどはZEH/ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス/ビル)対応を標準化しています。当社がJV幹事企業の物件は全て導入しています。また、テナントの賃貸物件では、主に外資系企業からゼロカーボン電気を買いたい、RE100に対応した電気を買いたい、との要望を受けます。住宅でもZEHオリエンテッドの建物と説明すると反応するお客さまが増えています。私募REITでも、投資家はESGに取り組んでいるかを判断材料にします。このため、さまざまな環境認証を積極的に取得しています。

【特集3】豪州2件目の分譲マンション事業 地域と住民のニーズを理解し進める


【東京ガス不動産】

ワインの産地として有名な南豪州の州都アデレード―。その中心部から2㎞ほどのエリアで、大規模再開発事業「グレンサイド」プロジェクトが進む。東京ガス不動産は、同プロジェクト内の分譲マンション事業「Bloom(ブルーム)1」に参画する。今年2月に参画した「BANKSIA(バンクシア)」に続く、豪州2件目の分譲マンション開発事業だ。

コミュニティー形成を促す 環境への配慮も重視

豪州の分譲マンション購入者には、郊外の戸建てから住み替えるシニア世代層がいる。居住面積を縮小し移り住むことからダウンサイザーと呼ばれる。ブルーム1は、ダウンサイザーをターゲットとしたマンションだ。その間取りは2~3LDKが中心で、価格帯は1億円を超えるものも多い。竣工は2025年4月の予定だが、すでに完売するほどの人気ぶりだ。

人気の理由は開発コンセプトにある。豪州では地元住民同士のつながりを大切にする。そのため新天地でのコミュニティー形成が促進されるよう、ラウンジ、庭園、BBQエリアなどを設置。住民向けイベントも開催する。また利便性の高い生活施設が徒歩圏にあり、幅広い年齢層が生活する大規模住宅エリア内にあることで、社会とのつながりを保った生活が可能だ。

ブルームは人生の花を再び咲かせてほしいと命名

エネルギー会社の不動産事業として環境配慮も重視する。複層ガラスの採用などによりエネルギー効率性を高め、快適な居住空間を提供。太陽光パネルやEV充電器の設置に加え、各住戸でも再生可能エネルギー由来の電力が利用可能だ。またデザインや高さなど、隣接するヘリテージ(歴史的建造物)との調和も図る。このコンセプトがアクティブ志向や高い環境意識を持つシニア層に好評だ。

東京ガス不動産オーストラリアの柴﨑裕之社長は「エネルギー会社としてエネルギー分野での環境配慮は重視していく。ESG型不動産開発を掲げているが、何を実現したいのかが重要。単に環境認証を満たすのではなく、生き生きと生活できる場を創出し、地域や社会と一体で価値が高まるような開発を行いたい。そのために住む人、地域、社会のニーズを理解し具現化していく」と抱負を語った。

【特集3】環境認証で高付加価値化 物件の新規賃料上げに寄与


不動産業界においてもESGへの関心が高まっている。新規、既存問わず物件の環境認証の取得が活発に行われている。

さまざまな分野でESGへの関心が高まる中、不動産投資においても、環境への配慮を物件評価に折り込むことが一般的になってきた。特にE(環境)に関して、エネルギー会社は多くの知見を有しているため、その強みを不動産事業で発揮している。例えば、新規に開発する住宅、マンション、ビル物件をZEH/ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス/ビル)に対応したり、既存物件の省エネ性能の向上を計ったり、太陽光発電、エコキュート、エネファーム、蓄電池といったエネルギー設備を導入する動きが活発だ。既存のオフィスビルや賃貸住宅では共用部の照明のLED化、空調設備などの更新、外壁や開口部の断熱強化など、エネルギー消費性能を向上する取り組みが行われている。

30年に向けてZEH物件が増えている

省エネ性能が高ければ、中長期的な視点で見て、光熱費などが削減され不動産価値向上につながり、物件オーナーは顧客の確保に有利になると考えられている。

その中から生まれた仕組みがグリーンリースだ。ビルオーナーとテナントが協力して、不動産の省エネなどの環境負荷低減や改善について、契約や覚書などで自主的に内容を取り決め、実践するもの。 例えば、省エネになる改修工事を行い、電気料金削減分の一部をビルオーナーにグリーンリース料として支払うことで、双方にメリットが生まれる。

建物性能の見える化 評価制度取得が活発に

デベロッパーでは、環境性能に関する評価制度などの取得・表示による建物性能の見える化の取り組みが盛んだ。「取得できる認証はなるべく取得する。それが不動産価値につながる」(デベロッパー幹部)

「CASBEE(建築環境総合性能評価システム)」「DBJGB(日本政策投資銀行グリーンビルディング」などは代表的な制度だ。

CASBEEは、2001年に国土交通省が主導し、建築環境・省エネルギー機構内の委員会によって開発された建築物の環境性能評価システムだ。日本国内の新築・既存建築物を評価対象とし、地球環境・周辺環境にいかに配慮しているか、ランニングコストに無駄がないか、利用者にとって快適か、などの性能を客観的に評価・表示するために利用する。省エネなどに限定された従来の環境性能よりも広い意味での環境性能を評価できるのが特長で、イギリスやカナダ、アメリカなどを参考に開発してつくられた。

DBJGBは2011年に創設された認証制度。不動産のサステナビリティーをESGに基づく五つの視点から評価し、主に既存物件の環境性能改善、建築・設計の技術的専門家に限らず不動産に携わる幅広い層のステークホルダーに利用されている。

こうした環境認証を取得したオフィスビルは未取得のオフィスビルより新規賃料が高くなる傾向にある。環境認証は不動産価値向上に大きくつながるため、さらに関心が高くなっていくとみられる。

【特集2】岐路に立つ都市ガス産業 CN実現への転換期に挑む


2050年のカーボンニュートラル(CN)達成に向け、都市ガス産業は変革を求められている。地域に根差した低炭素化の取り組みや、各社の脱炭素戦略について総力取材を行った。

都市ガス業界は、2050年の脱炭素社会実現に向けた転換期にある。まずは30年のNDC(国別目標)の達成が求められている。そのために有効とされるのは、ほかの化石燃料から天然ガスへの移行、分散型コージェネや燃料電池の普及によるガスの高度利用、クレジットでカーボンオフセットしたカーボンニュートラル(CN)LNGの導入などだ。

地域に密着した脱炭素化 自治体と連携協定を締結

地方の都市ガス事業者は、地域に密着した脱炭素化の取り組みを進めている。その一つに、連携協定の締結によるCN都市ガスの供給がある。西部ガス長崎は長崎市と協定を締結。そのきっかけは、同市新庁舎へのCN都市ガス導入の提案だったという。自治体にCN都市ガスを供給するのは、西部ガスグループ初の取り組みとなる。また、秦野ガスは秦野市、東京ガスと協定を結び、東京ガスから卸供給を受け、本社事務所での自家消費に加え、秦野市役所へ供給を行っている。

佐賀ガスは、都市ガスをCN化するJクレジットにもこだわりを見せる。県有林由来のクレジットの使用や、2024年のクレジット化を目指し市有林でのモニタリングなどを進めている。

CN都市ガスとは別の手法でCO2削減に取り組むのは、広島ガスだ。同社は森林保全活動を通じて、地域活性化に貢献する。森林にはCO2吸収のほか、生物多様性の保全や土壌に水を貯えることによる防災といった多くの利点がある。顧客を招いたイベントの実施や森林組合との連携などにより、地域活性化にもつながっている。

森林保全活動により植樹されたヒノキ

また、北海道ガスはガスエンジン12基を有する「北ガス石狩発電所」を活用し、再生可能エネルギーの需給調整に挑戦する。市場連動価格買い取り(FIP)制度を利用し、町営の風力発電所を持つ苫前町の電力を購入。同町の公共施設や事業者に供給することで、地域の脱炭素化を促進する。

地域に根差した取り組みが進む一方、メタネーションやCCS(CO2回収・貯留)・CCUS(CO2回収・利用・貯留)といった技術開発も加速中だ。国内資源開発大手のINPEXは、新潟県長岡市でe-メタン製造に向けた実証プラントの建設を進めている。長岡市周辺のガス田は埋蔵量、生産量とも国内最大規模だ。天然ガスを産出する際、e-メタン製造に必要なCO2が大量に調達可能。実証プラントができあがれば、世界最大級となる。

低炭素化による地方創生と脱炭素化を目指す技術開発の両輪で走る、都市ガス業界の取り組みに注目したい。

【特集2】森林保全活動で地域活性化 CO2吸収以外の利点も


【広島ガス】

広島ガスの2050年カーボンニュートラル(CN)達成に向けた取り組みの一つに、森林保全活動がある。CO2の吸収に加え、雇用の創出や防災、生物多様性の保全など地域活性化と環境保全に貢献する取り組みだ。同社の森林保全活動は①地域貢献型、②分収造林型、③土地購入型―の三つのパターンで展開される。

広島ガスが森林保全活動を開始したのは、19年11月のことだ。広島県緑化センター内に「このまち思い 広島ガスの森」を開設。これが①に当たる。地域住民の憩いの場となるようベンチの設置や、木の生育を妨げる余分な樹木の除伐体験、新入社員による植樹などを行っている。顧客向けの除伐体験は今年で5回目を迎え、希望者は定員の4~5倍の人気ぶりだ。

除伐体験は親子連れを中心に好評だ

②は林野庁と分収造林契約を締結。分収造林とは、国以外の造林者が国有林に木を植え育成し、成木を販売した収益を国と分け合う制度だ。広島ガスはこの制度を用い、20年11月に神石高原町の星居山を開設。今年11月には同町の石屋山に「このまち思い 広島ガス神石高原の森」を開設する。

このほか、森林地を購入する形で、昨年1月に広島県竹原市に「このまち思い 広島ガス竹原の森」、今年2月に北海道日高郡に「このまち思い 広島ガス日高の森」を開設。これが③だ。竹原の森の未利用木材は、同社と中国電力が共同で運営する海田発電所でバイオマス発電に使用している。

「森林保全を手掛けるガス会社は他にもありますが、三つの型で幅広く展開しているのが当社の特徴」と、環境・社会貢献部環境グループの藤永展章氏は語る。

星居山の除幕式

地元の森林組合と連携 地域産業の下支えも担う

「われわれに森林保全の知見やノウハウはないので、地域の森林組合の協力を仰ぎながら進めている。SDGsにはパートナーシップの項目もあるが、本当によきパートナーに恵まれた」と話すのは、同部の永田征人マネジャーだ。植樹や除伐はもちろん、雑草の除去、鹿などによる食害対策、急斜面での作業など、森林保全には専門的な技術が求められる。こうした場面において森林組合との連携によって産業を下支えし、地域活性化につながるという。また、森林には土壌に水を貯える水源涵養の機能があり、土砂崩れなどを防ぐ役割も担っている。

将来的には森林保全活動を拡大しつつ、環境価値の使い道についても調査・検討を進めたいという。多くの利点を持つ森林保全活動を通じたCNに期待が高まる。

【特集2】町営風力をFIPへ切り替え 非化石価値を地元に還元


【北海道ガス】

北海道北部の日本海沿岸に位置する小さな町――苫前町は豊かな資源に恵まれている。タコやエビ、ホタテなどの海産物、大きく甘い「とままえメロン」などの農産物、そして強く吹きすさぶ「風」だ。

風車の建設には、年平均風速が6m以上でないと事業性がないと言われているため、山の上などに建てるケースが多い。ところが、苫前町は街中でも平均風速7m弱を観測する「風のまち」だ。

同町は町営の風力発電所「苫前夕陽ヶ丘風力発電所」を有し、20年以上前から再生可能エネルギーの活用に取り組んできた。昨年1月にはゼロカーボンシティ宣言を表明。第一歩として、今年6月に北海道ガスと連携協定を結び、市場連動価格買い取り(FIP)制度を利用した環境価値の地域内活用モデルの構築を目指す。

豊かな緑に囲まれた風車の年間総発電量は約600万kW時だ

知見を生かしたスキーム 今後は他地域への展開も

苫前町では、現行の固定価格買い取り(FIT)制度で再エネ由来電力を販売すると、非化石価値の活用が容易でないという課題を抱えていた。そこで、北海道ガスが提案したのはFITからFIPへの切り替えだ。北海道ガスが苫前町の電力を調達し、非化石価値を持つ電力として同町内の公共施設や事業者などに供給。地域の脱炭素化に貢献する。

このスキームでは、同社が発電計画・予測やバランシングの管理を行うため、町側にはインバランスなどのリスクはない。電力の売り先についても、北海道ガスが買うことで町側の不安を解消した。現在は切り替え手続きの申請中で、実際の電力供給は来年度以降を予定している。

こうした地域の電力を買い地域に供給する取り組みに、過去の知見が役立ったと話すのは、経営企画部経営企画グループの宮澤智裕氏だ。17年に連携協定を結んだ上士幌町では、地域電力会社を設立しエネルギーの地産地消を促進。今回は電力会社を地域につくるのではなく、その役割を北海道ガスが担うという新たなパターンとなった。「地域電力を立ち上げるのは簡単ではないが、苫前町のスキームなら地域に十分なエネルギーがあれば横展開が可能」と展望を語る。

宮澤氏は、「FIPへの切り替えはチャレンジングな試みとなる。インバランスが発生しないよう、当社が保有する12基のガスエンジンで構成される『北ガス石狩発電所』を活用して需給調整を行う。再エネが普及する中で、ガスエンジンの価値を高める取り組みの一つにしていきたい」と意気込みを見せた。

協定を締結し脱炭素化を促進

【特集2】自家消費率の最大化を目指した実証 日本企業の蓄電池やHP技術を活用


【NEDO】

環境先進国であるドイツで、再エネの自家消費率を高める実証が行われた。再エネ導入を促進し、新たなビジネスモデルの可能性を探る試みだ。

太陽光パネルと蓄電池を、給湯暖房のエア・トゥ・ウォーター(ATW)式のヒートポンプ(HP)と組み合わせ、住宅での再生可能エネルギーの自家消費率最大化を図る実証が、2015~17年度にドイツで行われた。これは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「スマートコミュニティ海外実証プロジェクト」の一つで、日本企業も参加している。

戸建てと集合住宅で検証 新ビジネスの可能性を示す

実証の舞台は古都シュパイヤー市だ。同市のエネルギー公社Stadtwerke Speyer(SWS)社と住宅公社GEWO社の協力の下、NTTドコモ、NTTファシリティーズ、旧日立化成、日立情報通信エンジニアリングからなるコンソーシアム主体で行われた。

実施に当たり、ドイツ側が実証サイトの選定や住民への対応、太陽光パネルの設置など、日本側がシステム運用・開発、設備導入、効果分析などを担当。スマートコミュニティ・エネルギーシステム部の櫻井愛子統括主幹は「住民がいる住宅で行ったため、シミュレーションとは異なり、実際の使用環境で検証できた」と話す。

戸建てを想定した世帯単位のモデルをタイプA、集合住宅を想定した棟単位のモデルをタイプBとした。再エネ機器をエネルギーマネジメントシステム(EMS)で制御することは、当時のドイツでは新しい技術だったという。

上がタイプA、下がタイプBのモデルイメージ図

実証の狙いは住宅への再エネ導入を促し、SWS社やGEWO社に新たなビジネスモデルを示すことにあった。結果としてタイプAでは約40%、タイプBでは約34%改善し、CO2の削減にもつながった。ビジネスモデルとしては両タイプとも、SWS社が設備を所有し需要家宅へ設置することを想定。利益確保と投資費用の回収が見込まれるとの結論に至った。

5年以上経った今でも、再エネの地産地消には拡大の余地がある。そのカギとなるのは、太陽光発電とHPの組み合わせかもしれない。

【特集2】大災害の教訓を対策に反映 業界を越え協同で備える


近年、地震や台風をはじめとする災害が激甚化している。関東大震災から100年を数える今、エネルギー業界の災害対策を追った。

防災の日の由来となった関東大震災から100年の節目を迎えた今、エネルギー業界ではさまざまな災害対策が進められている。東京ガスは7月、関東大震災と同様の台風と地震、地震による火災と津波を想定した「複合災害」の訓練を行った。同社が複合災害の訓練を行うのは今回が初めてだ。グループ全体と協力企業を含め約2万人が参加。さらに東京ガスネットワークと協定を結んでいる警視庁との連携も確認した。

東京ガスの訓練の様子

関東大震災の死者約10万5000人のうち、火災の死者は約9万2000人に上る。こうした犠牲者を減らすべく、新コスモス電機は一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO (プラシオ)」の普及拡大を目指す。兵庫県三木市に「PLUSCO Lab.(プラシオラボ)」を開設し、火災と一酸化炭素の危険性、火災警報器の重要性の周知に努める。

業界の垣根を越えた連携にも注目だ。関西電力送配電は、自衛隊とは被災地へ駆けつける訓練、NTTグループとはNTTの電柱に電線をはり電力を復旧する応急送電訓練を行うほか、阪神高速道路とは災害時の停電・交通情報の共有やサービスエリアを復旧拠点として利用する協定を結んでいる。自治体とも協定を締結しており、今後は拡大していきたい考えだ。

自治体との協力が奏功 BCP対策機器の導入も

エネルギー事業者と自治体による街づくりが防災に奏功した事例がある。北海道ガスが手掛けた複合施設「さっぽろ創世スクエア」内のエネルギーセンターと、札幌都心部の熱供給ネットワークだ。2018年9月に発生した胆振東部地震によるブラックアウトでは、停電を免れ、エネルギー供給を継続できた。また、石油業界と「ランニングストック」と呼ばれる対策を進めているのは、東京都だ。都内150以上のガソリンスタンドと連携し、一定量のガソリンや軽油を確保している。都が平時からこれらの燃料の消費を担保し、有事に品不足を回避。そして、非常時には緊急車両などに優先的に供給を行う仕組みだ。

激甚災害が頻発する中で、BCP(事業継続計画)対策機器への関心も高まっている。ガソリン計量機メーカーのタツノでは、緊急用バッテリー可搬式計量機や給油所向けの緊急用発電機などを提供。災害で停電が発生したり、地下タンクへの配管などに被害が出たりしても、営業の継続が可能だ。

こうしてエネルギー事業者や自治体、メーカーなどが持てる技術や知見を集結させ、来る激甚災害に備えている。

【特集2】熱供給ネットワーク整備が奏功 ブラックアウトで効力発揮


【北海道ガス】

日頃から確かな提案力で、大災害に備えてきた北海道ガスと北海道熱供給公社。2018年9月に発生した胆振東部地震によるブラックアウトでは、複合施設「さっぽろ創世スクエア」内のエネルギーセンターや、札幌市のまちづくり計画に合わせて整備を進めてきた札幌都心部の熱供給ネットワークの整備が功を奏し、エネルギー供給を継続した。

「コージェネを核としたエネルギーセンターを整備し、熱供給ネットワークを通じてエネルギーを供給するというスキームが結実した」と話すのは、北海道熱供給公社営業部営業グループの末廣隆志氏。胆振東部地震では、創世エネルギーセンターを円滑に稼働でき、そのレジリエンスの高さを示す実績となった。

さっぽろ創世スクエア内のコージェネ

また胆振東部地震では、両社から防災に関する提案を受け設備を設置していたユーザーからうれしい反響も。停電時でも空調の自立運転が可能で、一部の電気が使える電源自立型ガスヒートポンプエアコン(GHP)を導入していたユーザーからは、空調を復帰させることができ、真冬の被災でも安心だとの声が寄せられたのだ。

道内の防災意識依然高い 自立型GHP導入進む

大規模地震の被災経験から、道内では防災に対する関心が高まっている。自治体による具体的な事例の一つに、札幌駅前の地下歩行空間への非常用発電機導入がある。胆振東部地震の際に、地下歩行空間を帰宅難民などの避難施設として使用した。一時的な停電に見舞われたものの、早期に復旧。この反省を踏まえ、強靭性向上のため、札幌市や北海道開発局などが非常用発電機を導入。同様の事態に備え、設備を整えている。

「胆振東部地震による被災から5年が経ち、ブラックアウトを経験したみなさんのレジリエンスへの意識は、当時よりは薄れてきているが、依然として高い」と、北海道ガス第一営業部都市エネルギーグループの伊藤智徳マネージャーは話す。

被災直後は電源自立型GHPや都市ガス仕様のコージェネ・発電機の引き合いが増加。通常のGHPから設計変更したホテルもあった。ほかにも、道内チェーン店舗を展開する企業では、本社社屋に自立型GHPと都市ガス仕様の発電機、札幌市内の旗艦店には自立型GHPを導入した。社員と地域住民のレジリエンスに貢献したい考えだという。

近年の環境性への関心の高まりから、法令で設置が義務付けられている主に重油・軽油仕様の非常用発電機に加えて、都市ガス仕様の発電機の導入を検討する需要家もいる。またガスシステムの導入で、省エネ性・強じん性・環境性を並立できるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)をアピールしており、導入事例が増えている。

「防災設備は災害が起きなければ必要ないものになり得る。被災から時間が経った後にどう訴求していくかが重要。料金メニューやサービスを組み合わせて提案を行っている。最近は脱炭素が注目されているが、レジリエンスも国や自治体に理解していただけるよう、啓蒙していく」と、伊藤氏は意気込みを語った。

【特集2】メタネーションの要となる技術 排ガス・大気中からCO2を回収


【東邦ガス】

水素とCO2からメタンを合成するメタネーションのキーテクノロジーとして、東邦ガスが研究開発に注力するのは、原料となるCO2の分離回収技術だ。早期社会実装を目指し、技術の確立やコスト低減といった課題に立ち向かう。

一般的に、CO2の分離回収技術には三つの方式がある。液体に溶け込ませて別の場所で放出させる化学吸収式、多孔体の表面に付着させて回収する物理吸着式、ガスのうちCO2を優先的に通す膜を用いる膜分離式だ。同社は分離回収対象を①需要家先、②LNG基地近傍の発電所など、③大気中―の三つに分類し、特徴に合わせた技術開発を行っている。

①では、工場などの排ガスからCO2を分離回収する。回収量が比較的少ないことや、設備の設置スペースの制限などが課題となる。こうした中小規模の場合、低濃度のCO2に対してもコンパクトに設備導入が可能な物理吸着式や膜分離式が適すると考えている。

物理吸着式や膜分離式でのコスト低減には、吸着剤や分離膜の性能向上が必須となる。東邦ガスは大学やメーカーと協力し、さまざまな素材を模索中だ。実験とシミュレーションで、物理吸着と膜分離の最適な組み合わせや順序なども探究。機器によって量やCO2の濃度が異なる排ガスに、オーダーメイドで対応できるよう、試行錯誤を重ねている。2030年までの社会実装を目指し、22年度から模擬排ガス・実排ガスでの評価を行い、20年代半ばからは需要家先での実証を予定している。

②では、化学吸収式とLNGの未利用冷熱を組み合わせた「Cryo-Capture(クライオキャプチャー)」を開発中だ。同技術はグリーンイノベーション基金(GI基金)事業に採択され、CO2回収コストの抜本的な低減(1t当たり2000円台)を目標としている。

クライオキャプチャーは、吸収塔、再生塔、昇華槽で構成される。まず吸収塔下部から排ガスを送入し、上部から散布する吸収液でCO2を分離。CO2が溶け込んだ吸収液は再生塔に送られる。吸収液からCO2を放出させることを「再生」といい、LNG冷熱を活用した減圧により再生する。

再生塔とつながる昇華槽をLNG冷熱で冷やすと、CO2のドライアイス化(昇華)が起こる。昇華により体積が小さくなる原理を利用し、ポンプを使わずに減圧することが可能だ。この減圧再生で、吸収液からCO2が放出されていく。こうして生成されたドライアイスは、復温で高圧ガスや液化炭酸として取り出すこともできる。

クライオキャプチャーのCO2分離回収の仕組み

LNG冷熱を有効活用 少量のエネで分離回収

クライオキャプチャーの特長は、少ないエネルギー投入でCO2回収を実現する点だ。吸収液を再生するとき、通常のボイラーによる加熱再生とは異なり、未利用だったLNG冷熱を有効活用し、燃料は不要。減圧する際にポンプも使用しないため、電力消費もない。

28~30年度のパイロット実証フェーズでは、LNG基地にパイロット機を実際に設置する予定。回収したCO2と水電解で製造した水素を用いたメタネーションなど、一連のカーボンリサイクル実証を行う計画だ。

LNG基地実装イメージ。カーボンリサイクルの実証を行う予定だ

③では、日本発の破壊的イノベーション創出を目指す「ムーンショット型研究開発事業」において、大気中のCO2直接回収の研究開発を行っている。排ガス中のCO2濃度が約10%であるのに対し、空気中の濃度は400ppm(0・04%)と、排ガスの100分の1以下でとても希薄だ。ゆえに、空気中から直接CO2を回収するDAC(Direct Air Capture)の技術的難易度は、非常に高い。

DAC技術には、主に化学吸収式や固体吸収式が用いられる。吸収液や吸収材からCO2を放出させるためには高温の熱源が必要であり、エネルギーを大量に投入することになる。東邦ガスが手掛ける「Cryo-DAC(クライオダック)」は、クライオキャプチャーと同じ仕組みのため、少量のエネルギーでCO2を分離回収できる。

ムーンショット型研究開発事業の研究開発期間は、最長10年間。そのうち、22~24年度でベンチスケールの装置を開発し、25~29年度でパイロット機を開発する計画だという。クライオダックはその研究成果を評価され、第一ステージである20~22年度の審査を見事に通過。23~24年度の研究開発継続が決まった。

「CO2の分離回収技術は、脱炭素の要となる技術。回収したCO2を再利用したe―メタンは、CO2排出が実質ゼロとなることに加えて、そのe―メタン利用時に発生するCO2を回収し、固定化や地中に埋めるなどすれば、カーボンネガティブが実現できる可能性もある。e―メタンをはじめとしたカーボンリサイクルの取り組みを進めていきたい」と、技術研究所環境・新エネルギー技術グループの薮下雅崇チーフは語る。

国内外での検討が進行中 地産地消の取り組みも

こうした革新的なCO2分離回収技術の開発と同時に、メタネーション技術の実証や国内外での実案件の事業性検討も着々と進めている。国外では、30年にはe―メタン1%以上の導入を目指して、三菱商事と東邦ガスを含む大手都市ガス3社による北米での事業性検討などに取り組んでいる。国内では、地域のCO2を活用する知多市との実証、アイシン、デンソーとの中部地区におけるCO2地域循環モデル検討などが進む。

知多市との実証では、下水処理場から出るバイオガス由来のCO2を利用する。毎時5㎥ほどの小規模な実証だが、①バイオガス由来のCO2の利用、②都市ガスの原料として利用するのは国内初、③実証段階から水電解による水素にこだわる―というのが特長だ。

アイシン、デンソーとはCO2の地産地消による循環モデルの事業性検討も行う。工業地帯の中部地区では、ものづくりにおけるCO2排出は大きな課題だ。東邦ガスは地域の課題を地域で解決することを探索し、CO2の循環をソリューションとして捉えている。

メタネーションをはじめカーボンリサイクルの要となるCO2の分離回収技術に可能性を見出した東邦ガスの挑戦に、今後も注目だ。

【特集2】革新技術で高効率・低コスト化 自社実証・海外検討と並行


【東京ガス】

ガスのカーボンニュートラル(CN)化技術であるメタネーションの開発が加速している。東京ガスは①国内小規模実証、②国内地産地消、③海外大規模製造・サプライチェーン構築―の取り組みにより、2030年のe-メタン1%導入を目指す。

①では横浜テクノステーションなどでの自社実証が進行中だ。22年3月にスタートした実証は順調。製造能力は12・5N㎥/時で、純度97%以上のe-メタンを製造する。現在は、再生可能エネルギーの変動を考慮した負荷変動特性評価などの試験が行われている。今年度中を目途にITM社製の水電解装置の導入を予定しているほか、近隣施設で排出されるCO2を有効活用する準備も進められている。

②では横浜市の清掃工場や下水処理場の排ガスやバイオガス、再生水などを活用する地域実証モデル構築や、富士フイルムとその工場が位置する南足柄市とのものづくりにおけるCNモデルの確立などを検討している。

横浜テクノステーションの実証は順調に進む

進む海外での事業性検討 適切なルールの確立も

③では海外サプライチェーンの構築も進む。メタネーションは、液化・出荷基地やLNG船、受け入れ基地など既存の都市ガスインフラを利用できるというメリットを持つ。設備の新設が必要な液化水素やアンモニアと比べて、コスト面において優位といった試算もある。ゆえに、水電解に使用する再エネ由来の電力が安価な海外でe-メタンを製造し、日本へ輸送する方法が検討されている。

候補地としては北米や豪州、マレーシアなどが挙げられ、グローバル企業や総合商社と事業性検討を行っている。中でも、先行しているのは、三菱商事と東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの4社で取り組む米国でのプロジェクトだ。具体的には、テキサス州・ルイジアナ州でのe-メタン製造、キャメロンLNG基地などの既存サプライチェーンを活用した液化・輸送などに取り組む。このプロジェクトでは、都市ガス3社合計で年間1億8000万N㎥、そのうち東京ガスは年間8000万N㎥のe-メタンを調達する予定となっている。

海外で製造したe-メタンを日本で使用する場合、いくつかの課題がある。その一つが「CNの価値」を誰が有するのかという点だ。e-メタンはCO2を回収してつくられるため、トータルではCO2排出実質ゼロとなる。国境を越える場合には、e-メタン燃焼時の排出をカウントしないなどの二国間のルールづくりが必要だ。また、流通などの過程でe-メタンの環境価値を適切に管理できる証書制度や価値取引の仕組みなども求められる。加えて、現状e-メタンはLNGよりも高価なため、社会実装には水素・アンモニアと同等の価格差に対する支援も必要となる。

「いずれも当社だけでは解決できない課題なので、国や業界を巻き込んで仕組みや制度を確立できるよう働きかけている」と、水素・カーボンマネジメント技術戦略部革新的メタネーション技術開発グループの小笠原慶マネージャーは話す。

革新的技術で効率向上 既存技術の課題をクリア

三つの取り組みと並行して、革新技術のハイブリッドサバティエとPEM(固体高分子膜)CO2還元の技術も開発中だ。既存技術のサバティエ方式は古くから知られているが、装置コストの低減や合成効率の向上、大規模化に向けたシステムの大型化、熱マネジメントといった課題もある。こうした課題をクリアするのが、二つの革新的メタネーション技術だ。

ハイブリッドサバティエのデバイス
PEMCO2還元のセル

ハイブリッドサバティエは宇宙航空研究開発機構(JAXA)、PEMCO2還元は大阪大学と連携して開発を進めている。ハイブリッドサバティエは、もともとJAXAが宇宙船の中で空気を再生するために開発を始めた技術だという。これを地上でのメタン製造に応用。低温でのサバティエ反応と、そこで発生する熱を水電解へ利用する。既存技術のサバティエ方式では約500℃の大きな発熱を伴うのに対し、ハイブリッドサバティエでは水電解で80℃、サバティエ反応で220℃ほど。熱の活用により、電気分解に必要な電力の削減を実現する。

また、排熱の水電解への利用によって50%程度だった効率を、将来的には80%以上に引き上げることを目指す。さらに、ハイブリッドサバティエは既存技術の組み合わせで構成されるため、早期の実用化も期待されている。

一方、PEMCO2還元の特長は、一つのデバイスでメタネーションが完結することだ。水電解と類似したセルスタックを開発。一つのセルで水だけでなくCO2も還元する。そのため、シンプルかつコンパクトなシステムとなる上、コスト低減にもつながる。また、電極の条件などを変えることでメタン以外の副生成物の合成が可能。eフューエルなどへの展開も視野に入れ、30年以降の実用化を目指している。

東京ガスが手掛ける革新的メタネーション技術―。その社会実装に期待が高まる。

【特集2】方針の公表で連携を強化 移行期間も低・脱炭素に貢献


【ジクシス】

ジクシスは4月、2050年脱炭素社会の実現に向けた挑戦として「カーボンニュートラル(CN)取組方針」を公表。①直接削減、②LPガスの低炭素化、③LPガスを利用した燃料転換(削減貢献)、④LPガスの脱炭素化、⑤アンモニアによる脱炭素化貢献(削減貢献)―の五つの行動指針とロードマップが示されている。

同社はLPガスの安定供給を前提とした上で、脱炭素社会の実現だけでなく、その前段階であるトランジション期間においても、LPガスの特性やインフラを生かして貢献していく構えだ。

社会実装と事業化が命題 経営資源を生かして挑む

50年の温室効果ガス排出量のネットゼロ達成を見据え、まずは30年に20年度比で90%のCO2直接排出(スコープ1、2)の削減を目指している。具体的には、主に基地で使用する電力の非化石化などに取り組んでいる。加えて、LPガスを用いた低・脱炭素化の取り組みとして、ボランタリーカーボンクレジットによるオフセットや、産業用ボイラーの燃料を重油からLPガスへ切り替える燃料転換、外航船のLPガスと重油の2種類を使用可能なデュアルフューエル船への切り替えなどを進めている。

長期的な取り組みとして、生産から消費までの過程でCNに貢献するグリーンLPガスの技術開発と社会実装、さらには燃料アンモニアの事業化にも挑む。グリーンLPガスについては、21年秋にジクシスを含むLPガス元売り5社で結成された日本グリーンLPガス推進協議会で製造技術の研究が進行中だ。また22年6月には経済産業省、ジクシスなどのLPガス関連企業、大学が社会実装に向けて協議を行うグリーンLPガス推進官民検討会も設立された。

燃料アンモニアは燃焼時にCO2を排出しないことから、脱炭素社会実現に資するとして注目されている。石炭火力への混焼や船舶の燃料としての利用に向けた動きがある中で、アンモニアはLPガスと特性が似ていることから、LPガス事業者は貯蔵や輸送などの担い手としての可能性を持っている。

2050年に向けた五つの取り組み

「グリーンLPガスの社会実装は大きな命題。燃料アンモニアの事業化の検討も進めていきたい。どちらも難易度が高いチャレンジになるが、今あるLPガスビジネスのインフラや経営資源を活用するとともに、他社や株主とのアライアンスの機会も模索していく」と、田中保経営企画部次長兼グリーン戦略室長は話す。

LPガス業界において、脱炭素への方向性をいち早く示したジクシスの今後に期待が高まる。