GX強化を継続する概算要求 産業立地や水素支援は事項要求で

2026年度概算要求で、経済産業省のエネルギー関連は今年度当初予算から2400億円ほど増額となった。今回もGX(グリーントランスフォーメーション)の増額と事業の継続性が目立つ。洋上風力や水素などの不振を横目に、まだ政策を見直す段階ではないとの考えが伝わってくる。

エネルギー対策特別会計は1兆4551億円(25年度当初予算比20%増)で、特にGX推進対策費は7671億円(52%増)と増額幅が大きい。経産省全体では今回も2兆円の大台を超えた。別途事項要求として、GX産業立地の具体化、水素などの値差支援や拠点化の予算は年末ごろに示す予定だ。

浮体式洋上風力やペロブスカイトなど再エネへの重点投資方針は変わらず(提供:朝日新聞社)

GX分野では新規はさほどなく、引き続き水電解装置や浮体式洋上風力、ペロブスカイト、燃料電池などの関連部素材や製造設備への大規模投資、省エネやクリーンエネ拡大などに注力する。GX推進費は国庫債務負担行為を活用し複数年度にわたる事業があり、それらのフェーズが進み一層額が積み上がった。

例えば、GXサプライチェーン構築支援が792億円(30%増)、排出削減が困難な産業のエネ・製造プロセス転換支援が485億円(89%増)、省エネ投資促進・需要構造転換支援に1810億円(138%増)、系統用蓄電池など電力貯蔵システム導入支援に472億円(215%増)、次世代革新炉の技術開発・産業基盤強化支援に1273億円(43%増)などだ。

GX推進費を除いたエネ特関係では、省エネ投資促進支援が175億円(94%増)、中小企業等エネ利用最適化推進に40億円(556%増)、分散型エネリソース導入支援が85億円(673%増)、洋上風力の導入促進に向けた採算性分析のための基礎調査が120億円(32%増)、先進的CCS(CO2回収・貯留)支援が130億円(665%増)など。GXと似通った事業が散見されつつも予算規模が少ない印象だ。

他方、減額が目立つものでは、カーボンリサイクル・次世代火力の技術開発(71億円)、次世代燃料の生産・利用技術開発(34億円)、持続可能な航空燃料の製造・供給体制構築支援(100億円)などがある。


地域脱炭素を一層強化 新規でDCや人口光合成も

環境省は、エネ特とGXで3130億円、合計で7097億円(19%増)を計上した。同省肝いりの地域脱炭素推進交付金は701億円(82%増)。脱炭素先行地域の選定数が90弱となりさらに増額する裏では、9月中旬に長野県松本市が3例目の辞退を届け出た。各計画の完走に向けた一層の支援強化が欠かせない状況となっている。

他にモビリティや住宅・建築物の脱炭素化、ペロブスカイト関連などを手厚くした。新規としてはデータセンターの脱炭素化の開発・実証(18億円)、人口光合成などCCUS実装・基盤構築(29億円)などがある。

【九州電力 西山代表取締役社長執行役員】安定・低廉な電気で九州の魅力を高め 地域経済と共に発展する

さまざまな社会変化を背景に電力事業が転換点を迎える中、6月26日に九州電力社長に就任した。

再エネ、原子力による脱炭素化された低廉な電力で地域経済の発展に貢献するとともに、人材戦略を強化することで企業としての魅力を高める。

【インタビュー:西山 勝/九州電力代表取締役社長執行役員】

にしやま・まさる 1986年東京大学経済学部卒、九州電力入社。22年常務執行役員コーポレート戦略部門長、23年取締役常務執行役員エネルギーサービス事業統括本部長などを経て25年6月から現職。

井関 6月に社長に就任されました。これまでをどう振り返りますか。

西山 2000~03年に当時の鎌田迪貞社長の秘書を務め、社長としての振る舞いを見て大変な仕事だなという印象を持っていました。私自身が実際に就任してみて、やはり責任の重さを実感しています。スケジュール上の忙しさもありますが、さまざまな経営判断を最終的には自ら下さなければならない、そこに社員の生活がかかっているということの責任の大きさ、重さを日々感じながら、仕事に向き合っています。

井関 九州電力に入社して以降、最も印象に残っていることは何でしょうか。

西山 最初の赴任地である熊本でのことですが、当時は社員が各家庭を回って未収金を回収していたんですね。私も1カ月に400~500軒を回っていて、その中には、経済的な理由でどうしても払えないご家庭もありました。電気が止まれば生活が成り立ちません。そうした皆さんが、できるだけ安心して電気を使っていただけるようにしていかなければならないと強く感じたことが、私の原体験です。

もちろん、事業はサステナブブルでなければならず、収益を上げて社員や株主、地域の皆さまに還元していかなければなりません。九州エリアは、半導体工場の集積やデータセンターの建設などにより、今後、電力需要の増加が見込まれています。こうした動きは、当社が原子力の安全・安定運転、再生可能エネルギーの積極的な開発・導入などにより、業界トップレベルの非化石電源比率を誇っていることに加え、全国的に見て低廉な料金水準であることなどから、企業にとって九州での立地が魅力的であるためと考えています。  

これからも、電力の安定供給を堅持するとともに、環境価値の高い電気といった九州の強みを生かして企業の立地を促し、地域経済が潤いながら当社も利益を上げる―そのような循環を創り上げていきたいと考えています。

5月に公表した「九電グループ経営ビジョン2035」

陸上式のリスク要因を排除 過酷事故に対応可能な電源へ

【技術革新の扉】浮体式原発/アドバンスドフロート

原発活用への動きが活発になる中で、事故リスクへの対応も重要な視点となる。

津波による影響を受けにくい浮体式原発は、安全性の面から注目を集めている。

地震や津波による事故リスクを排除した原子力発電所を実現する─。そんな挑戦が改めて本格化している。原発は安価で安定的なベースロード電源として機能し、脱炭素化にも寄与するが、重大事故が起これば被害は甚大だ。実際、2011年の東日本大震災では想定を大きく超える津波が全交流電源を奪い、事故の直接原因となった。これを機に、原子力規制委員会による審査が厳格化され、安全性は格段に向上したわけだが、想定を超える巨大な地震や津波に再び見舞われないとも限らない。

沖合30km以遠に設置することで、周辺住人の避難は不要だ

こうしたリスクを回避するための新たな発想が、原子炉を陸地ではなく沖合の洋上に設置する「浮体式原発」だ。原子炉を搭載した浮体式構造物を沿岸から数十㎞離れた海域に係留することで、津波の直接的な影響を避け、被害を最小化できる。構想自体は近年始まったものではなく、日本では1992年に原子力船「むつ」による4回の試験航海が行われ、原子炉出力1

00%で地球2周分に相当する航行を達成した。この経験は、洋上での原子炉運用の技術的基盤となっている。 その後しばらく開発の機運は落ち着いたが、福島第一原発事故を契機に、安全性をさらに高める手段として再び注目が集まった。2020年には産業競争力懇談会(COCN)の下に「浮体式原子力発電研究会」が発足。東京電力ホールディングス(HD)で30年以上原子力分野に携わり、福島第一原発事故後の原子力部門における責任者も務めた姉川尚史氏をリーダーに、事業者、メーカー、研究機関が参加した。研究会は3年間にわたり、陸上原発との比較を通じて技術的課題や優位性を精査。その成果を社会実装するため、24年にはスタートアップ「アドバンスドフロート」が設立され、姉川氏がCEO(最高経営責任者)を務めている。


懸念の崩壊熱処理にも有効 不測事態でも被害最小に

同社は現在、海洋エンジニアリング大手の三井海洋開発と協力し、浮体部分の構造設計を進めている。

これは円筒型の浮体に原子炉を搭載し、沖合30㎞以上に係留する設計で、最大の特長は①津波影響の大幅な緩和、②周囲の海水を動力なしで冷却水として利用できること、③UPZ(半径30㎞圏)内に定住者が存在せず事故時の避難が不要になること―だ。姉川氏は「原子炉事故のリスク対応は、核分裂反応停止後も残る『崩壊熱』をいかに冷やすかが鍵。浮体式なら、万一電源が途絶しても海水で冷却を継続できる」と説明する。続けて、津波などの災害は予測の不確実性が高く、過去データを超える規模の事態にも備える必要があるとし、「浮体式はそうした不測の事態でもクリフエッジ的な被害を受けにくい」と強調する。

経済性の面でも利点は大きい。陸上式では製造拠点と建設地が分かれるが、浮体式は工業地帯などの製造拠点で完成させたものを係留地に移送できるため、品質の均一化が可能になる。さらに、陸上式よりも建設費を抑えられ、工期も短縮できるとされる。大量建造によるスケールメリットや、建設遅延やコスト超過のリスク低減にもつながる。

海水と熱交換することで非常時にも炉心を冷却できる


法整備や資金確保が課題 設計の詳細詰め早期実現へ

ただし、実用化には課題が残る。設置許可や設計指針など現行の規制は陸上原発を前提としており、浮体式に適用するには法制度の整備が必要だ。また洋上での長期保守管理技術の確立、遮蔽物のない海域でのテロ対策強化も避けて通れない。同社は今年6月にみらい創造インベストメンツ(東京都港区)から1億円の出資を受けたが、実現のためには今後も継続的な資金確保が不可欠だ。姉川氏は「安全性と可能性を積極的にPRし、投資を呼び込みたい」と語る。

今後は浮体式での原子炉レイアウトを詰め、33年に建設を開始し、36年の発電開始を目指す。浮体式は地理条件に左右されず、審査や建設の効率化に必要な「型式認定制度」が一度適用されれば、許認可期間の短縮や量産化が可能になる。姉川氏は「日本の原発建設技術が風化する前に実用化を急ぎたい」と述べ、低コスト・低環境負荷かつ高い安全性を備えた電力供給の実現に向けて、着実に歩みを進める構えだ。

中長期のkW時確保義務付けで 制度化に向け整理すべき課題とは

【多事争論】話題:kW時の調達義務化

資源エネルギー庁は7月、小売事業者に量的な供給力確保義務を課す方向性を示した。

事業者の負担増や既存制度との整合性などが懸念される中、課題を整理する。

〈 義務化で拡大する相対契約 「上げDR」が合理化の鍵 〉

視点A:市村 健/エナジープールジャパン代表取締役社長兼CEO

そもそもの話で恐縮だが、電力自由化の目的とは、「安定供給の実現」と「低廉な電力コスト実現」であり、「そのための競争環境実現」であった。事実、小売事業者は770社以上を数える。消費者目線では選択肢は予想以上に広がった。これは思惑通りと言える。その一方、前2項目は厳しい状況にある。2020年度、21年度冬の電力需給ひっ迫と、それに伴う「電力難民」問題は記憶に新しい。電気料金に至っては言うまでもない。

資源エネルギー庁の方針は、小売事業者に中長期的視野でkW時の調達を義務付け、結果的に安定供給の実現を誘導するもので、その方向性は賛同したい。一般的に電力制度は、一般送配電事業者、発電事業者、小売事業者おのおのの立ち位置で検討すべきだが、本稿では小売事業者目線、特にアグリゲーターの果たすべき役割を例示しながら論を進める。

肝は、小売事業者に対し、実需給年度3年前に想定需要5割分の電力供給力(kW時)の確保、同様に1年前での7割確保を義務付けるもので、未達時の罰則規定も鋭意検討する内容となっている。小売事業者にとっては、容量拠出金負担に加えての措置となるわけで、新電力を中心に相応の合従連衡が進むことは想像に難くない。同時に、スポット市場での約定量は増加の一途をたどっているとはいえ、3~4割の間であることから、発電事業者との相対取引が加速することも間違いない。その場合、小売事業者目線での合理的な相対取引契約とはどのようなものであろうか。

1年間の電力需要を、縦軸に需要量(kW時)・横軸に8760時間(つまり1年間)をプロットしたものをデュレーションカーブと言う。小売事業者にとって、このカーブが描く積分領域を、極力長方形に近い形で調達することが合理的だと言われている。それは発電事業者目線でも同様だ。一定の時間軸で定格容量を発電する方が一層効率的で、結果的にウィンウィンの関係になる。 電力需要は、小売事業者の希望通りに動かない。そこでアグリゲーターの手腕が期待されるわけだが、需要サイドの現場の声は切実だ。以下は、今夏の容量市場・実効性テストの1コマである。ある鋳造業いわく「生産状況が好調で今は電力を下げる余地がない」。冷凍倉庫事業者は「北海道も外気温が高く、しかも今は収穫期。ある程度、前もって言ってもらわないと対応できない」など。実効性テストは当日の3時間前通告である。それでも、こうした逸脱事案も一定程度は織り込み済みで、事業者もビックデータを駆使してポートフォリオを構築しリスクヘッジしている。


需要喚起スキームは未整備 季節跨いだ需要シフトの検証を

今回検討されている措置は、中長期視点であることがポイントだ。3年前や1年前の時点で、より長方形に近い需要をつくることで一層合理的に電源調達を可能にするならば、季節ごとに異なる電力需要パターンを逆に活用する手法は考えられないであろうか。一般的に、端境期の春秋は夏冬と比較すると低需要であるから、夏冬の需要を春秋にシフトできれば年間で一定程度「長方形」に近い需要を「つくる」ことができる。これをseasonal flexibility(季節跨ぎのDR)と呼ぶが、今回の措置は、そのような事業モデルが具現化し得る可能性を秘めている。例えば、数カ月前に夏冬の需要をあらかじめ春秋にシフトする契約が締結できれば、発電・小売事業者双方にメリットがある。現行制度では、厳気象時の需要削減を目的とした発動指令電源があるが、逆に需要喚起を促すスキームはない。下げ調整力、つまり上げDRは民民契約の経済DRに委ねているのが現状だ。

中長期的視野でkW時調達を義務付ける場合、例えば上げDR年間公募の導入は、より長方形に近い需要をつくるための有効な手段となる。需給調整市場の場合は上げ調整力のみが取引対象であり、下げ調整力については、優先給電ルールを前提とするため募集されていない。従って、まずは国の実証レベルで、数週間から数カ月先の上げDR(下げ調整力)実施に対してkW価値を有償付与する事業モデルを検討すべきだ。結果として、中長期取引市場(仮称)導入の妥当性も可視化される。

中長期取引市場の導入に当たって、解決すべき課題は多い。例えば、先物取引を活性化させる動きがある中で別の市場を作る意味は、流動性の観点から妥当なのか。送配電事業目線では、連系線制約との関係で中長期取引になるほど市場分断のリスクは高まり、そのヘッジとしての間接送電権をどう扱うのか―。大切なのは、事業者の創意工夫や進取の気性を阻害することのない制度にすることだ。

いちむら・たけし 1987年慶応大学商学部卒、東京電力入社。米ジョージタウン大学院MBA修了。原子燃料部、総務部マネージャーなどを歴任。15年6月から現職。

【エネルギーのそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2025年9月号)

加速する核融合炉の開発競争/米国による二次関税

Q なぜ近年、世界各国で核融合発電の実証に向けた取り組みが加速しているのでしょうか。

A この背景には、地球規模のエネルギー問題と気候変動への対応、国際情勢に依存しないエネルギー安全保障の重要性の高まり、核融合を含む最新の技術進歩による期待値の高まりなど複数の要因が関係しています。

核融合発電は、太陽と同じように軽い原子核同士を融合させて莫大なエネルギーを得る技術です。燃料1gから石油8tに相当する大量のエネルギーを生み出し、CO2を排出せず、燃料は海水から得られるため無尽蔵な上に特定地域に依存しないなど、エネルギー問題と環境問題を同時に解決する究極のエネルギーです。

核融合発電に向けた最近の状況として、世界7極が協力してフランスに建設中のイーターでは、数々の課題を乗り越えて機器製作が進展し、人類初の核融合実験炉の組み立てが始まりました。また、日欧の協力で茨城県那珂市にて改修した試験装置JT-60SAは、世界中の期待を受けて2023年にプラズマ運転を開始しました。さらに、米国のレーザー核融合実験でも新たな成果が得られています。核融合のこれらの技術進歩に加えて、量子コンピュータ、AIなど将来の技術が実用化されつつある環境を機に、米英を中心に核融合を新たな産業と捉えたスタートアップが次々に立ち上がり、データセンターなど大規模電力のニーズも投資の呼び水となり、投資額の増加とともに新たな人材が集まり、活動を加速しています。

これらの状況を踏まえ、日本を含む各国政府は、核融合発電を早期に実証してエネルギー自立を目指すとともに自国の産業競争力を確保するため、国家戦略を策定して官民投資をさらに加速し、戦略的に取り組み始めています。

回答者:小島有志/量子科学技術研究開発機構先進プラズマ計画調整グループリーダー


Q 米トランプ政権が「二次関税」を実施した場合、日本に影響する可能性はありますか。

A トランプ大統領が対ロシア制裁の一環として導入を示唆する二次関税とは、「ロシア産エネルギーを直接・間接的に輸入する第三国に対し、米国領に輸出される『全ての製品』に追加関税を課す仕組み」です。

8月6日付米大統領令によって、ロシア産原油・石油製品を輸入するインドに対し25%の関税上乗せ(即日発効、21日後から適用)を発表しました。ロシアの原油・石油製品輸出額は天然ガス・LNG輸出額の約3倍あり、ロシアの経済・財政への一定のインパクトが期待できること、国際エネルギー市場への影響に対する配慮、パイプラインによる輸出量の捕捉の難しさなど、総合的に判断し、対象は原油・石油製品の海上輸送に絞り込まれたと言われています。米国の示唆を受けインドは非ロシア産原油の調達に動いたものの、かねてからのOPECプラスによる減産幅緩和措置もあり、原油価格は比較的安定的に推移しています。

ウクライナ戦争以降、インド・中国・トルコなどはロシア産原油・石油製品を割安に購入してきましたが、中国はレアアース禁輸など想定され得る米国への報復措置の影響が甚大なこと、トルコはロシア産石油の輸入量が小規模なことなどが考慮され二次関税適用は見送られたと考えられます。

なお、サハリン2 LNG副産物(原油)の海上輸送に関する全ての取引は日本による輸入を条件に、米国は期限付きで一般許可を定め、随時更新しています。これはわが国の企業が参画し、エネルギー安全保障上重要な役割を担ってきたサハリン2 LNGの生産・供給継続に必要な措置であり、インドなどによる割安での原油・石油製品の大量輸入とは意味合いが異なる点に留意が必要です。  

回答者:栗田抄苗/日本エネルギー経済研究所資源・燃料・エネルギー安全保障ユニット

【コラム/9月26日】地熱発電を考える~開発障碍克服の半世紀から未来に

飯倉 穣/エコノミスト

1、再脚光の動きも

主力の再生可能エネルギーで、期待の洋上風力は、政府執着の賃上げと物価の好循環で建設物価上昇に伴い暗雲が漂っている。その中で昔から開発に苦戦している地熱開発に再び光をあてる努力も継続している。新たな次世代型地熱領域でEGS(高温岩体)、クローズドループ、超臨界地熱等への挑戦も始まる。

報道もあった。「地熱発電立地選ばず 深層部まで掘削 三菱商事など AI需要に対応」(日経25年6月3日)、「新型地熱効果最大46兆円 経産省試算 温泉地以外でも発電」(同7月16日)
地球の中心部は、5,000~6,000度で、火山周辺のマグマだまりは多量の熱を放出し、その周辺に高温の地熱地帯を形成している。そのエネ利用である。日本(火山数111)は、世界火山数の7%に達する火山大国である。 推定地熱資源量は2340万kw(エネ庁資料:環境省推計150℃以上2400万kwに相当)と大型火力20基分である。その分布は、国立・国定公園内1840万kw(特別保護地区700万、特別地域1030万、普通地域110万で計78%)、公園外500万kwである。

地球環境・エネ供給面でみて、地熱は、再生可能エネルギー、安定的な発電特性、クリーンエネルギー、純国産エネルギーで、また実績もあり、ほぼ非の打ちどころがない。
ところが、我が国の地熱発電規模は、米国370万kwに対し、未だ50万KWにとどまっている。今後の地熱発電の展開を考える。


2、オイルショック後とFIT創設後に開発拡大

国内地熱発電開発は、1966年松川発電所2.2万kw(日本重化学工業)を嚆矢とし、翌年大岳発電所(九州電力)が続いた。72年環境庁の意向で国立・国定公園内6カ所(大沼、松川、鬼首、八丁原、大岳、滝の上)に開発制限の協定締結となった。その地点も含めてオイルショック後、八丁原、葛根田、森等13か所の開発・運開があり、48.7万kw(96年)となった。

95年以降は、バブル崩壊・経済情勢・経済環境の変化で、開発主体も、企業合理化に追われ、国のエネ政策も自由化一辺倒だった。地球環境問題もありながら、地熱への関心は、資源の賦存が自然公園内、事業リスク等もあり低下した。冬の時代と呼ばれる。ただNEDO地熱開発促進調査(80~09年)は、地道に継続した(67カ所実施)。

2009年政権交代、再エネ重視(FIT導入公約)で、2011年東日本大震災時にFIT制度創設があった。同制度は、地熱発電で1.5万kw未満40円/kwh、1.5万kw以上26円/kwhの固定買取を設定した(12年)。地熱発電開発も、新たな時代となった。

この効果もあり15年間で15地点13.4万kw(千kw以上)の開発があった。松尾八幡平、山葵沢、安比地熱発電等である。現在千kw以上の地熱発電は、25カ所49.5万kw(24年4月)である。このほか千kw未満開発は、69カ所0.84万kw(22年現在)だった。大分県49カ所、熊本県6カ所、岐阜県4カ所等である。69カ所の小規模発電地点が、より大きな発電所建設が可能であったか定かでない。NEDO地熱開発促進調査の寄与があった。

今後の開発はどうか。大型で、はこだて恵山、木地山、松川地熱更新、かたつむり山等6.8万kwが開発中で、他に掘削調査中18地点、地表調査中15地点がある。その開発時期と規模は、鮮明でない。


3、開発目標と今後の開発~資源量は豊富だが

第7次エネルギー基本計画は、地熱で40年度発電電力量見込み(1.1~1.2兆Kwh)の1~2%を供給目標としている(22年度実績1兆Kwhの0.3%)。電源規模は、150~300万kw(現在50万kw)となる。目標実現は、前述のプロジェクトや今後の調査如何である。
このため経産省・JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)は、従来の地熱資源ポテンシャル調査支援に加えて、新規開発地域でJOGMECが自ら探査・掘削(噴気試験含む。)し、情報提供する体制を整えた。

さらに地熱の開発可能資源量拡大も打ち出した。従来型地熱資源(浅部熱水系地下数100~2000m地熱貯留槽)に加えて、高温岩体(地下6000m内350℃程度の資源量66百万KWと超臨界地熱発電400~600℃で11百万kw)の利用技術開発を目指す。次世代型地熱推進官民協議会は、技術開発のロードマップの作成を議論している(エネ庁25年7月15日)。EGS(水圧入・人工造成蒸気発電)、クローズドループ(高温地熱層の流体循環発電)、超臨界地熱(マグマ上部超臨界水利用発電)等の実現(2040年)を目指す。 

高温岩体利用は、サンシャイン計画以降、半世紀に及ぶ試行錯誤を継続している。「九重山2100年噴火予測と噴火回避」(江原幸雄著)は、DCHE(坑井内同軸熱交換)方式のマグマ冷却の未来を描く。人類の夢であり、地下資源の理解の難しさの克服が課題である。

【森 洋介 国民民主党 衆議院議員】「社会保険料を下げたい」

もり・ようすけ 1994年大阪府茨木市生まれ。上智大学経済学部経済学科卒業、一橋大学国際・公共政策大学院修了。環境省、ローランド・ベルガーなどを経て、農機具買取・販売会社を創業。昨年10月の衆議院議員選挙で初当選(東京13区)。

環境省からコンサルを経て独立し、昨年10月の衆院選で初当選を果たした。

経営者としての経験から、現役世代の手取り増と現実路線のエネルギー政策を訴える。

大阪府茨木市出身。3人兄弟の末っ子、従兄弟の中でも一番下、年上から可愛がられて育った。洛星中学・高校時代は、クラスの端っこにいる目立たない存在だったと振り返る。高校卒業後は東京に憧れて上京。上智大学経済学部に進学した。サークル活動に夢中で、遊びっぱなしの大学生活だった。就職も考えたが、もう少し勉強しようと思い、一橋大学国際・公共政策大学院に進んだ。

卒業後は環境省に入省した。「ビジネスの世界で活躍したいと思っていたが、まずは官公庁に入り、経済全体を俯瞰した仕事をしたかった」。数ある官公庁の中で同省を選んだのは、テスラの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏の影響があった。同氏は21世紀に成功するビジネス分野として、①気候変動、②IT、③宇宙─の三つを挙げている。「この中で、どれか一つの専門性を身につけたかった。当時の日本は気候変動への社会的関心が今以上に低かったので、ブルーオーシャンだと思って飛び込んだ」

地球環境局の地球温暖化対策課市場メカニズム室などで、カーボンプライシングを扱った。その一環で、電力分野の温暖化対策の進捗をフォローする「電気事業レビュー」を担当したが、「市場がいろいろあって事業環境を理解するのに苦労した」と述懐する。

官僚として働く中で痛感したのが、役人と政治家の違いだった。印象的だったのは、2020年の50年カーボンニュートラル(CN)宣言だ。「それまでは『今世紀後半のできるだけ早期にCNを実現する』と歯切れの悪い答弁を書いていたが、宣言で物事が一気に動いた。政治のダイナミズムを感じた」

役人としての限界を感じたことで、環境省は3年半で退省した。ただ、辞めたのは政治家になるためではなく、もともとの目的の通り、マスク氏のようにビジネスの世界に進むためだった。

【需要家】スマメ導入の効果 データ利活用の可能性探る

【業界スクランブル/需要家】

2014年から進められてきた低圧部門のスマートメーターの導入が昨年度末に完了し、この春から全ての旧一般電気事業者で紙の検針票の無料送付が原則廃止となった。

今では新電力を含めウェブ上で電気代や使用量を確認することは当たり前になりつつある。日別や時間帯別使用量、類似世帯との比較、関連サービスの情報、ポイントの交換など情報が充実した一方で、能動的に情報を受け取りに行く必要があることや、スマートフォンの他の利用目的と画面や時間の取り合いになること、アカウントを持つ家族しか情報を確認できないといった側面もある。このような変化により生活者がエネルギーを意識する時間や、エネルギーに対する向き合い方にどのような影響を及ぼすのか注視していく必要があるだろう。

スマートメーターによるデータの中で特に注目しているのは不在時のエネルギー消費状況である。すでに高齢者の見守りサービス開発や再配達削減のための在室把握の研究が進んでいるが、生活者視点で見た時に「そこにいなくてもエネルギーを使い続けている」という気付きは、エネルギーに向き合うきっかけとして効果的であろう。また、家電の機能の変化や新たな機器の登場により、待機電力などの「見えないエネルギー消費」は増加している可能性がある。それらの把握という点でも研究的価値があると思われる。

データの利用ハードルはまだ高いが、例えば過剰な待機電力消費に対する製品側からの省エネの検討やエネルギー貧困世帯の推定など、電力需要データを用いた自由な発想が生まれる環境が整備されることを期待したい。(K)

日本の成長軌道定着を目指す 電力制約で阻害されてはならず

【巻頭インタビュー】畠山 陽二郎/経済産業省 経済産業政策局長兼首席GX推進戦略統括調整官

今夏の人事で経済産業政策局長に、資源エネルギー庁次長だった畠山陽二郎氏が就任した。

産業政策全般、そしてGXのキーマンとしての考えを、経産省ペンクラブ主催の会見で語った。

はたけやま・ようじろう 1992年東京大学法学部卒、通商産業省入省。商務・サービス審議官、産業技術環境局長、資源エネルギー庁次長などを経て2025年7月から現職。

―経済産業政策局長に就任しての抱負は。

畠山 ウクライナや中東を巡る不確実な国際情勢下、さらに足元では米国の関税問題もある中で、日本をどう成長させ、成長軌道を定着させるのか。そして国内投資を拡大し、物価上昇を上回る賃金上昇をどう確保していくのか。これらが経済産業省全体で数年前から取り組む政策です。このたび分野ごとの取り組みをまとめ上げるポジションとなり身の引き締まる思いです。

―米国との関税交渉が合意に至りました。

畠山 交渉当事者なので評価は委ねたいと思いますが、元々言われていたラインより低い水準で早期に合意できたことは、予見性を確保する観点でプラスになるかと思います。足元で関税の影響を受ける部分については機動的に対応していきます。

物価高に負けない賃上げと国内投資拡大に向けて良い流れができており、腰折れさせない環境整備が重要になります。引き続きGX、DX、経済安全保障といった戦略分野に対する大胆な投資促進策、さらに中堅・中小企業が持続的な賃上げと投資へ取り組めるような環境整備に向けた支援策が必要です。


電源から系統、熱需要まで 投資促進の政策措置が必須

―「経済産業政策の新機軸」と銘打った政策は継続しますか。

畠山 継続こそ大事です。米国・欧州・中国が産業政策を強化する中、政策で負けているから企業は勝ちようがない、となってはなりません。新機軸で示したように、分野を特定した上で大胆な投資を促し、研究開発からビジネスで勝つまでの取り組みを強力に進めていきます。

―電力需要の増大見通しに関し、電力広域的運営推進機関のシナリオでは2040、50年に供給力が相当不足するとしましたが、そこまで需要が増えるのかと懐疑的な声もあります。

畠山 国内では過去20年間電力需要は一様に減ってきましたが、反転する状況に入りました。議論として間違えてはならないのが、増えない可能性があるからといって備えなければそこが上限となります。電力さえあれば本来もっと成長できるところをみすみす逃す、つまり国民経済を犠牲にすることになります。電気は需要と供給が一致し結果的には常に足りますが、電力供給の制約が日本経済全体の足かせになることは、エネルギー政策として絶対にやってはならない。バランスを見ながら、増大するという需要を満たせる供給体制を作ることが肝要です。

他方、供給側から見た経済合理的な行動は過小投資になります。その犠牲になるのは日本国民全体ですから、そうならないような仕組みを考える必要があります。

【コラム/9月24日】“夏は一休み”とは言えない制度設計の進展

加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

猛暑続きの夏も、ようやく落ち着きを見せ始め、仕事からの帰路では、セミの声が秋の虫の声に変わりつつある。電力需給は、7月以降、計7回の需給改善指示のための融通、計1回の作業停止計画調整の要請があるなど、対応が講じられる場面もあった。

電気事業をはじめとする国の審議会は、エネルギー基本計画などの大きな政策の議論が進んでいた昨年度と比べて開催件数は少なく、例年通りであったが、各分野の議論は粛々と進められている。今回は、この夏に動きを見せた制度設計について簡単に振り返りたい。


GX2040ビジョンの具体化は排出量取引制度と産業立地から

今年2月に閣議決定された「GX2040ビジョン 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂」では、不確実性が高まる中で、目指すべき産業構造や成長のためにエネルギー政策と一体となり、エネルギー安定供給確保・経済成長・脱炭素の同時実現を目指すとして、①産業構造の転換、②新たな産業立地の選定、③現実的なトランジションの重要性と世界の脱炭素化への貢献、④GXを加速させるための個別分野の取組、⑤成長志向型カーボンプライシング構想、⑥公正な移行、⑦GXに関する政策の実行状況の進捗と見直し――、という7つの施策の方向性が示された。

これを受け、今年5月には改正GX推進法が可決されたが、その中でメインとなる施策が来年度から本格運用する排出量取引制度である。CO2の直接排出量が直近3年度平均で10万t以上の企業を対象に排出枠の無償割当を行うもので、成長志向型カーボンプライシング構想のトップバッターを切って始まる施策である。この後、28年度からの化石燃料賦課金、33年度を目途に予定している発電事業者への有償オークションへとつながっていくことから、その制度設計は産業への影響や過度な負担を強いない範囲で低・脱炭素化を円滑に促す仕組みにしなければならない。

26年4月の法施行まで残された時間も多くないことから、早速、7月から小委員会を設置し、制度運用に必要な項目の検討が始まっている。特に、エネルギー多消費でCO2排出量が多い鉄鋼や化学、セメント、紙パルプなどの製造業、火力発電を有する発電事業、日々の移動や物流に欠かせない運輸については、排出枠の割当量の設定が難しいことから、それぞれワーキンググループを設置し、業界団体や事業者の声を聞きながら具体的な割当をする際のベンチマーク水準や割当量の算定式の検討が着手されている。

産業や電気事業に影響を与え得る施策の割には、かなりタイトなスケジュールで検討事項を決定していなかければならず、拙速な議論とならないよう、また実務から離れた学術的な議論に陥り過ぎないような留意が必要だろう。特に電気事業という点では、発電事業者にどの程度の負荷がかかるかは着目する点だろう。割当量を超えれば排出枠を購入する必要があり、そのコストは、容量拠出金やその他卸電力取引(相対取引含む)に転嫁される可能性は十分にあり得る。逆に割当量を下回って排出枠を売却できれば、その分、卸単価への反映ができることから、小売電気事業者にとっては、このカーボンプライシングを踏まえた調達戦略を考えていく必要がある。

もう一つ、検討が進んでいるGX施策は、GX産業立地である。戦後の日本の経済成長を支えてきたのは、各地にできたコンビナート群や工業団地に、電力・通信・水道・道路・鉄道・港湾といった産業インフラを整備し、内需・外需を獲得してきたことにある。こうした場で生まれた産業の中には、アジアをはじめとした海外諸国への移転や、事業自体が衰退したものもあり、元気があるとは言い難い。そこで新たな産業を呼び込むとして、GX産業立地構想が出てきた。GX実行会議の下に、専門のワーキンググループを設置し、4月以降、計4回の議論を経て、戦略の全体像と具体的な立地の選定要件が整理された。

事業譲渡の先に何を見据えるのか 将来ビジョンを持った検討を

【論点】LPガス業界のM&A〈後編〉/中原駿男・スピカコンサルティング代表取締役

M&Aという言葉は日常的に使われるが、全ての経営者にとって身近なわけではない。

成功するには手順を守ることはもちろん、在りたい未来の姿を描くことも大切だ。

今でこそ、M&Aという言葉が少しずつ浸透してきた。しかし、具体的なM&Aの進め方を把握している経営者はいまだ多くない。そこで今回は、M&Aの進め方について具体的なステップを解説する。

M&Aの7つのステップ


成功への7つのステップ その目的と注意点とは

①現状把握とビジョンの確認
まずは、譲渡を検討している企業の現状を把握することから始める。創業から現在に至るまでの経緯や成功体験、現在の課題、将来のビジョンとその実現可能性などを詳しくヒアリングし、M&Aが本当に必要かどうかを見極めるのだ。また、この時点で自社の株式価値を知りたい経営者も多いため、簡易的な株価評価を実施することもある。この時、決算書に表れないLPガス事業者ならではの価値を見落とさず評価することが重要だ。

②アドバイザリー契約締結
M&Aを進めると決断した場合、次のステップはアドバイザリー契約の締結だ。業界的には専任契約が一般的だが、委任先の選定は慎重に行うべきである。LPガス業界にノウハウのない支援仲介に委任してしまうと、いつまでたっても良い企業と巡り合えないまま、時間だけが過ぎてしまう。実績やノウハウを確認し、信頼できる委任先を見極めてもらいたい。

③企業概要書・評価書の作成
企業概要書とは、自社の強みや成長の可能性を正しく伝えるための重要な資料だ。決算書の数字だけでなく、事業の特徴や市場での立ち位置など幅広い情報を含めていく。同時に、M&Aを進めた場合のリスクの洗い出しを行う。M&Aのゴールは、成約後の安定した成長だ。だからこそ、税理士、公認会計士、弁護士など専門家と連携し、あらゆる論点から見落としているリスクがないかをこの時点で確認する。そして、M&Aの基準となる株価を算出。評価方法は業界によって異なり、LPガス業界は、収益還元法が一般的である。そして、営業権を顧客件数で割り戻して1件当たりの投資額を明示する。またM&Aで算出される評価額は、相続税評価額とは異なることも覚えておいてもらいたい。

④候補先の選定とトップ面談
企業概要書と企業評価書が完成したら、次は譲渡企業に適した候補先の選定だ。候補先企業には、秘密保持契約の締結後、まずは「ノンネーム」と呼ばれる企業名を伏せた情報を提供する。興味を示した企業にのみ、詳細な企業概要書を開示。質疑応答を経て条件提示を行う。前向きに検討を進める企業が決まれば、次はトップ面談だ。トップ面談は、譲渡企業と譲受企業の経営者が初めて顔を合わせる場である。細かい数字条件の話をすることはなく、企業の文化や理念の相性を確認する時間となる。

⑤基本合意契約締結
基本合意契約は、譲渡企業と譲受企業が初めて交わす契約だ。この時点で、最終契約書に盛り込む内容はできるだけ明記することをお勧めする。「話し合いができていないから、基本合意後に決めましょう」などと先送りしてしまうと、後々のトラブルになりかねない。また、このステップの後、企業の経営状況や財務状況を確認する買収監査を行うが、基本的にはこの時点で公表している情報や取り決めた事項について、理由なく条件変更することはルール違反となるので注意が必要だ。

⑥買収監査(デューデリジェンス)
最終契約を締結する前に、譲受企業がこれまで共有された情報に間違いがないかを最終確認する。M&A成立後にスムーズな引継ぎが行えるよう、譲受企業が全容を把握するために設けられている。譲受企業によっては財務担当や担当税理士、会計士に委託する場合や、全く別の機関に委託するなどさまざまだ。基本的には数十項目~数百項目の質問のやりとりと、その証明となる原本資料の確認、資産の現物確認がメインとなる。

⑦最終契約書の締結・決済・成約式
一般的には、最終契約書の締結と決済を同じ日に行うことが多い。M&A成約式を行い、社員や取引先には計画を立て慎重に開示していくことが求められる。特に、幹部社員や重要な取引先に関しては、不安を抱かせないように丁寧に説明するべきだ。それぞれの思いや考えがあり、デリケートな部分なので慎重に進めることが肝心となる。 以上のように、M&Aにはさまざまなステップがある。小さな認識のずれが、大きなトラブルに発展しかねない。どの工程もおろそかにすることのないよう、一つひとつの手順を守って、大切な会社のM&Aを成功させてほしい。


より良い社会の実現へ 資産の循環を後押し

そして最後に、M&Aを通じて得た資産は、金額の大小に関係なく「より良い社会の実現」に向けた使い道を検討してもらいたい。当社ではM&Aが個人や企業の枠を超え、社会全体に良い影響を与えていくための活動に注力している。例えば、優良企業の譲渡で生み出された資産を、地域社会や文化、次世代企業の発展と関連付けていく活動だ。こうした活動に対して資産を循環させていくことで、世界はより良い社会になると信じている。

M&Aは終わりではなく、新たな日々の始まりだ。だからこそ、M&Aを検討し始めた時から「その先に何をしたいのか」を、具体的に想像していく必要がある。輝く未来のため、経営の選択肢としてのM&Aの正しい知識を身に付け、その可能性を排除することなく、考え続けてもらいたい。

なかはら・としお 慶應義塾大学経済学部卒。2010年みずほ銀行に入行。14年から日本M&Aセンターで事業承継問題に取り組む。中堅M&A仲介企業の取締役を経て22年8月にスピカコンサルティング設立。23年7月にGA technologiesと資本提携。


【再エネ】太陽光のケーブル盗難 業界全体でリスク分担を

【業界スクランブル/再エネ】

ここ数年、銅価格の高騰を受け、太陽光発電施設の銅線ケーブル盗難が相次いでいる。盗難に伴い長期間の運転停止や復旧への経済的負担が増加し、太陽光発電事業の運営面に対する不確実性が高まっている。

6月、「盗難特定金属製物品の処分防止等に関する法律」が国会で成立した。これまでは自治体ごとに条例を制定していたが不十分との声が上がり、新法を制定した。くず買い受け業者の届出や買い取り時の本人確認、取引記録の保管の他、指定犯行用具の隠匿携帯の禁止や金属盗に関する情報周知が義務付けられた。警察や各省庁とわれわれ事業者との横断的で地道な活動が実を結び、おかげで直近のケーブル盗難は大幅な減少傾向になりつつある。改めて関係者に対して敬意を表したい。

一方、タイミング遅れで問題が顕在化しているのは、ケーブル盗難急増の影響により、発電事業者だけでなく損害保険会社にも深刻な損害が発生したことで、これら盗難に関する保険は原則不担保に見直されている点だ。太陽光発電事業の新規開発のみならず既設案件の事業継続も脅かされており、保険引き受けの適正化は太陽光発電事業者にとって喫緊の課題だ。当然、発電事業者などからも保険会社へ働きかけを継続しているが、まだ道半ばである。

今後は、発電事業者の一定のリスク負担により、有効な盗難対策を一層強化し、被害に遭いにくい施設作りを進めるべきだ。同時に、損害保険会社もそうした施設へは盗難を含む保険引き受けを再開するなど、業界全体でリスクを分担していくことが太陽光発電の長期安定電源化には重要と考える。(F)

原発由来だけではない〝核のごみ〟 余剰プル処分を巡る米国の迷走

【原子力の世紀】晴山 望/国際政治ジャーナリスト

核保有国は核兵器や原子力潜水艦など軍事用の核ごみ処分に手を焼く。

米国では処分先が決まらない核ごみを軍用施設に仮置きしている。

93基の原子力発電所が稼働する世界一の原発大国アメリカ。しかし、その米国でも核のごみ処分を巡っては、日本と同様に最終処分場の建設にめどが立たない状態が続く。 米国は、西部ネバダ州ユッカマウンテンの山中に処分場建設を決め、1978年に調査を始めた。だが地元の根強い反対があり、2008年の米大統領選で激戦区であるネバダ州を制したい民主党のオバマ候補(後の大統領)が、計画撤回を公約した。新たな処分場は設定されないままの状態にあり、7万t以上に達した核のごみは、原発敷地内などに設けたドライキャスクに保管されている。

原潜から取り除かれた原子炉(2024年9月)
提供:米国防総省


軍事専門の核ごみ処分場 MOX燃料への加工断念

米国はロシアと並ぶ核兵器大国でもある。核兵器に使うプルトニウムを製造するため核燃料を再処理、これにより生じた大量の核のごみがある。ただ、処分場は民生用とは切り離し、メキシコ国境に近いニューメキシコ州の核廃棄物隔離試験施設(WIPP)に設けた。

1999年春に操業を始めたWIPPは、フィンランドのオンカロなどと同様に地下地層処分場だ。地下655mの岩塩層が処分場所となる。過去に何度も事故があり、最大だった2014年の事故では放射性物質が施設を汚染する事態にまで至り、3年近く作業中止に追い込まれた。現在の計画では70年まで廃棄物を受け入れ、その後、1万年管理する。

WIPPは、核燃料再処理で発生した半減期が20年よりも長い超ウラン(TRU)廃棄物の処分を想定していた。しかし、時代を経るにつれ、受け入れる核物質の範囲を拡大、最近は核軍縮で余剰になった軍事用プルトニウムも運び込まれている。

米露両国は00年、核兵器削減により余剰となった軍事用プルトニウムについて、核兵器1万7000発分に相当する34tずつを双方が削減することに合意した。核兵器用の高濃縮ウランを希釈して核燃料に使ったのと同様に、軍用プルトニウムも混合酸化物(MOX)燃料にして使うことが決まる。当初は軽水炉での使用を想定していたが、紆余曲折を経て、ロシアはMOXを高速炉の燃料に使うことになった。

米国は南部サウスカロライナ州サバンナリバーにMOX燃料工場の建設を始めた。だが、工期の大幅な遅れや建設費の高騰で計画がつまずく。16年にオバマ政権が建設を止め、翌17年にトランプ政権が計画中止を決めた。代替案として、処分費用が最も安く済むWIPPへの直接処分案が浮上した。 ところが、課題が浮上する。処分場や輸送中に敵国やテロリストなどにプルトニウムが強奪され、核爆弾が製造される事態を阻止する必要がある。そのための手法の検討が進んだ。


プルトニウムを「魔改造」 原潜や空母の処理も課題

米国はプルトニウムに「混ぜ物」をする手法で解決を図ることにした。ただ、この混ぜ物が何であるかは極秘で、詳細は公表されていない。

ロシアは「混ぜ物をしても、核兵器に使えるプルトニウムである点に変わりがない」と批判、米国がプルトニウム削減合意を守っていないとしている。米国が「廃棄」の名を掲げながら、プルトニウムを隠し持とうとしているとの主張だ。

プルトニウムに「混ぜ物」をする作業は、サバンナリバーのMOX工場予定地を再利用した。グローブボックス内で、プルトニウムを10%未満に希釈するため混ぜ物をして小さな缶に詰める。それをドラム缶に梱包し、輸送用のコンテナに詰める。大型トレーラーに載せ、数千㎞も西にあるニューメキシコ州のWIPPに陸上輸送する。

トレーラーは2人乗り。過去にも横転事故など20件もの事故を起こしている。保安対策のため全地球測位システム(GPS)を装着、絶えず衛星が動向を監視しているが、警備車両も付けずに時速約100㎞で単独走行している。米国は長年の間、核物質をこうしたトレーラーでの輸送を続けてきた歴史がある。日本人にとっては意外に映るが、核専門家からは「輸送面で大きな問題が起きたことはない」との評価が定着している。

前代未聞のプルトニウム廃棄輸送は、22年12月に始まった。

だが、トランプ米政権は今年5月になって、突然、方針の変更を打ち出す。同政権は50年までに原子力発電所の容量を4倍増とする新たな原子力政策を発表し、その中で、プルトニウムを重視する政策への変更も打ち出した。余剰プルトニウムの廃棄計画を中止するほか、1976年にフォード政権が核拡散防止のため国内での実施を禁止した民生用の核燃料再処理も再開する考えを示した。ただ、過去にも81年にレーガン政権が再処理モラトリアムを停止した例がある。当時は「採算が合わない」ことを理由に、再処理に乗り出す企業は出なかった。今回は、どうなるのだろうか。

米国など核保有国は、原子力潜水艦や原子力空母の処理・処分にもてこずっている。

原潜は退役が決まると造船所に回航される。まず、原子炉内にある使用済み核燃料を引き抜く。次いで、船体を解体して原子炉を切り取る。米国では太平洋に面する西部ワシントン州の造船所が「原子力海軍の墓場」の役割を務める。取り出した原子炉は前後を密閉した上でバージ(はしけ)に載せ、約1200㎞もコロンビア川をさかのぼり、ハンフォードに運ぶ。86年以後、160基以上の原潜の使用済み原子炉が運び込まれ、野積みされている。

英国では、昨年まで海軍基地2カ所に、初代の原潜を含めて23隻全ての退役原潜が係留されていた。このうち11隻は、使用済み核燃料を抜き出しイングランド北部にあるセラフィールド原子力複合施設に移送した。だが、残りの12隻には現在も核燃料や原子炉も据え付けたままの状態にある。ようやく今年6月に1隻目の解体作業が始まった。

核のごみとの戦いは、民生にとどまらず軍事面でも難航している。

夏場のガス火力低下 議論スルーを直前で回避

【業界スクランブル/火力】

OCCTOが約1年半にわたって議論を重ねた「将来の電力需給シナリオに関する検討会」の報告書が7月に公表された。それによれば、2050年には2300万~8900万kWもの供給力が不足する可能性があるという。25年先の話とはいえ、すでに足元では需給ひっ迫の兆しがあり、大規模な電源開発には着手から10年以上を要することを考えると、残された時間は決して多くない。

しかし、国の対応は鈍い。この検討会の設立趣意書には「ここで策定されるシナリオはエネ基等正式な計画との整合を前提としない」と明言しており、当初から責任回避の余地を残していた。報告書の中でOCCTOは、見直しの時期について3~5年後などと悠長なことを書いている。

さらに、世間ではあまり話題となっていないが、報告書発表の直前になって検討シナリオの信頼性を大きく揺るがす事実が明らかとなった。

原動機にガスタービンを利用するLNG火力は、気温が高くなる影響で夏季に出力が低下する特性を持つが、これまでそのことを考慮していなかったというのだ。修正量は500万~1300万kWに及ぶという。 将来の電力需要や脱炭素技術の進展など不確定要素が多く、とても難しいシナリオ検討であるのは理解できる。だからこそ現時点で分かっている諸元は、なるべく正確にインプットすべきではないのか。報告書に間に合ったので、事なきを得たかに見えるが、火力関係者ならすぐに気が付くような基本的な事項に気が回らなかった事実は重い。メンバー構成の在り方を含め、国やOCCTOには根っこからの見直しを期待したい。(N)

経済多角化に注力するUAE 関係深化へ問われる日本の姿勢

【リレーコラム】山野 総/中東三井物産アブダビ事務所長

三井物産がUAEの首都アブダビに事務所を設けている一番の理由は、1970年代に操業開始したアブダビ国営石油会社(ADNOC)とのLNG事業に参画したことだ。それから50年以上、アブダビでADNOCと協働してきた。長年、パートナーとして真剣に対峙してきた実績も含めた総合評価から、最近では同社が力を入れる脱炭素社会を見据えたクリーンアンモニア製造事業とE―Drive設計を採用した低炭素LNGの生産・販売事業への参画を果たすことができた。

いずれもアブダビから陸路で約2時間半要するルワイス地域での事業となる。ともに昨年最終投資決定がされ、現在建設フェーズだ。強風時の砂嵐に伴う視界不良により工事の中断が発生するなど中東ならではの事象もあるが、ADNOCとわれわれ外国株主がスクラムを組み、そして建設業者と連携しながら計画に則った事業の立ち上げに向けて日々取り組んでいる。数年後の生産開始が待ち遠しい。


エネルギー以外の連携に期待高まる

現在、日本の原油輸入量の半分以上はUAEから供給されている。三井物産はアブダビで原油生産には携わっていないが、アブダビ石油、INPEX、合同石油開発の操業会社のブンドクが当地で長年根を張り原油供給の一翼を担っている。そしてアブダビは長い間、原油を日本に安定的に供給してきたことを誇りにしている。エネルギー供給が原点となって発展した日本・UAEの現在の良好な関係を将来にわたり継続させたいと考えた時、現在の在り方がUAEからの一方通行になってしまっているのではないかと感じる。

UAEは、責任のあるエネルギー供給者として脱炭素事業にも注力しつつ、同時に経済多角化に向け、インフラや農業・食品、ヘルスケア、デジタル分野への投資などに国を挙げて取り組んでおり、多くの米中欧といった各国企業が積極的にアプローチしている。日本企業の進出も聞こえてくるが、まだまだ少ない。特にこの数年、日本企業とこれらの分野での協働を期待する姿勢の強まりを感じている。5月には大規模な経済ミッションを東京に派遣するなど、本気でエネルギー以外のビジネスでのパートナーリングを目指している。

日本がエネルギー供給の観点からアブダビとの関係を重んじ、それに彼らは応えてくれた。今後もこの関係が継続することを信じているが、そのためにも今度は日本がアブダビの期待に応えるべく新たな分野で協力していくことを真剣に考えなければならないし、それを現地で働くわれわれの使命の一つとしなければならないと考えている。

やまの・そう 1998年慶応義塾大学卒、三井物産入社。LNG、排出権、石炭事業に従事し、2009年ブリスベン、20年からアブダビ駐在。

※次回は、国際協力銀行の豊田康平さんです。