【原子力】美浜の建て替え調査再開 迅速な許認可が必須

【業界スクランブル/原子力】

関西電力が美浜1号機の後継機設置に向け、現地調査の再開を公表した。火力は炭素を出し、再エネは天気任せ、蓄電池は高コストとなれば、原子力に頼るしかない。現在、稼働中で最初に炉寿命に達する高浜1、2号機と美浜3号機はいずれも60年運転の許可を得ているが、事業者にとって外的要因の停止期間を除外しても2047年には3基合計248万kWが消え、50年まで運転できない。

後継機の運転開始はいつになるのか。新規建設に要する標準的な年数は、地質調査と基本設計、環境審査と地元了解に5年、設置変更許可と設工認の審査に5年、建設工事に5年で合計15年、実態は20年以上かかる。最近の既設炉の再稼働では、工事が終了し使用前確認を終えても安全協定に基づく地元からの最終合意に追加の時間がかかるが、福井県知事は理解が深く、そう月日を要さないだろう。

問題は規制委の許認可に要する時間である。建設中の島根3号機と大間は変更申請から既に12年経つが、合格時期は見えない。両者の審査は他原発の審査終了を待たされ停滞したが、その審査範囲は新規制基準関係だけで、新増設のフルスコープではない。12年を参考とすれば5+12+5で22年、つまり47年運転開始となる。

後継機は120万kWの革新軽水炉と言われるが、喪失する248万kWの半分に満たない。となれば、着手済みの敦賀3、4号機も必要だろう。米国ではトランプ政権が規制委を改革して新規建設の許認可を1年半で終わらせるよう、大統領令を出した。日本のお手本となるような迅速な許認可プロセスの実現を望むところである。(T)

【石油】需給緩和の気配なし 低い需要見通しにバイアス

【業界スクランブル/石油】

昨秋から世界中の多くの石油研究機関は、今年の原油需給の緩和拡大、原油価格の低下を予想し続けてきた。トランプ大統領の就任で、米国のイラン核施設への攻撃、対露制裁強化など地政学リスクの高まりはあるものの、原油価格は予想外の堅調を保っている。特にOPECプラス有志8カ国の追加減産220万バレル(日量)分の緩和拡大・増産があっても、市場はこれを吸収している。

そのOPECは、8月月報で今年と来年の需要はそれぞれ前年比130万バレルを予想。過去の合意違反国の超過増産分の減産もあるので、需給均衡を失することはないとした。

他方、国際エネルギー機関(IEA)の8月月報は各70万バレル増、供給増加はOPECプラスの増産を前提に今年が210万バレル、来年は130万バレルと予想している。予想通りなら、そろそろ原油価格は暴落を始めていいが、その気配は見えない。

果たして、本当に石油需給は緩和しているのであろうか。IEAは低めの需要見通しの理由として、経済減速、EV増加、効率改善などを挙げているが、そこには脱炭素のバイアスがかかっているのではないか。そもそも、石油需要のピークについて、IEAは2027年としているが、OPECは40年代初めまで伸びるとした。

脱炭素の重要性は認めるが、途上国の経済成長を認めないわけにはいかない。本来、エネルギー安全保障を最優先すべきIEAが、脱炭素を優先することは間違っている。日本の経産省・エネ研を含め、圧倒的に影響力があるIEA月報の見通しがこのようなことでは困る。(H)

【シン・メディア放談】参院選経てカオスの自民党 現実に直面する暫定税率廃止議論

〈メディア人編〉大手A紙・大手B紙・大手C紙

自民党のパワーが衰える中、総裁選の行方、そしてエネルギー政策への影響やいかに―。

―参院選からはや1カ月以上。改めてそれぞれ感想は?

A紙 最終日、参政党の芝公園での演説にはびっくり。選挙の風景が変わったと感じた。他方、最後に自民が踏ん張り、国民民主も意外に伸びた。そして立憲民主は低迷が明らかだ。

B紙 今回も出口調査は当てにならず。午後8時の第一報は「与党過半数割れへ」だったのが、日付が変わるころには「微妙な情勢」となった。なんだかんだで自民は比例で1280万票と国民の1・7倍取っている。

C紙 参政は排外主義や反ワクチン、有機農業推進などウイングを広げて「政治的無知層」を掘り起こした。マスコミはオールド政党が見放された理由をしっかり分析しけなれば、オールドメディア離れもまた加速する。

A紙 兵庫県知事選の経験から、選挙期間中でも真偽不明の言動は臆せず攻めるという姿勢が毎日や東京新聞などで顕著だった。ただ、意外にも読者の中には参政支持者が一定数いるという。

C紙 参政が炎上すると、かえって「既存メディアは敵」と支持者の団結が強まっていったね。また、やはり神谷宗幣代表の話し方が分かりやすい点が受けた。石破茂首相とは対照的だ。

A紙 神谷氏は意識的に話を短くまとめる訓練をしている。

C紙 討論会はそうした違いが如実に表れていた。というか、テレビで各党党首を集めるのはもうやめた方がよい。

A紙 試しに月1000円で参政党員になった人の話を聞くと、日本の歴史だのトランプ政権だのに関するボイスメッセージが毎日届き、イベントも毎週のようにあり、工夫が感じられる。


石破降ろし吹くも次見えず どうなる総裁選

―8月中旬になっても総裁選の行方が不透明だ。

C紙 高市早苗氏や茂木敏充氏、小林鷹之氏、斎藤健氏などの名が挙がるが、誰になっても選挙は勝てない。3連敗は裏金問題のせいで、その震源地の旧安倍派が石破降ろしに騒ぎ、根本的にずれている。むしろ石破政権の支持率は上がってきている。

B紙 今回も自民に入れた1280万が岩盤保守層とすれば、高市総裁などは支持されないはず。それにしても、FIT法を人質に辞任を拒んだ菅直人氏がマシに思えるような宰相が現れるとは……。石破氏は選挙直後落ち込んでいたが、旧安倍派の動きでスイッチが入り戦闘状態に。こんなことなら石破氏は再度総裁選に出ればよい。

A紙 「石破やめるなデモ」が心の支えであるのは間違いない。今の自民には核となる政治家がおらず、このままでは総裁選がないかもしれない。

B紙 五分五分とまではいえないが、その可能性はあるね。

C紙 当選14回の勘で、石破氏がこの流れを読んでいたのならすごい。他方、野田佳彦・立民代表も追い詰められている。得票率は自民以上に落ち、今選挙をしたら自民よりもダメージが大きい。蓮舫氏を比例で擁立する辺り、センスがない。

A紙 立民では票が取れないからと、地方議員がぞくぞく離党している。共産か社民党のような道に入り始めている。

トランプ2.0と国際社会〈上〉 波乱含みのウクライナ停戦

【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

石油市場には、供給過剰と需給ひっ迫という相反する要素が共存する。原油(WTI)の1~7月平均は1バレル当たり68.2ドルで昨年通年(76.6ドル)より8ドル低く、IEA(国際エネルギー機関)の最新月次報告によれば、今年の石油供給は昨年比で日量210万バレル増加するものの、需要量は同70万バレル増にとどまり供給過剰が残る一方、地政学リスクが払拭できない。

こうした基調の中で、トランプ関税は今日の原油相場にさまざまな影響を与えている。今年の原油相場で大きく下げたのは、4月2日のトランプ関税発表後、およびイランとイスラエルの「12日間戦争」に米軍参戦後、イランに戦闘能力がないことが明らかになった6月下旬である。WTIでフォローすれば、4月2~4日に約10ドル下げ(72.1から62.4)、6月20~27日には9ドル(75.7から66.7)下げた。

トランプ関税交渉の進展過程では、景気後退懸念と実施先送りが相場を形成した。4月2日の相互関税の発表に対し、各国首脳から同決定は世界経済への大打撃であるとする批判が相次いだが、その後の展開は批判通りの展開となった。

その後、実施日の順延、関税率の下方修正、中国との合意観測予想などが原油相場を浮揚させたが、原油相場は4月2日以前に戻っていない。

関税交渉絡みで次に注目されたのはインドの扱いだった。トランプ大統領は、同国は安価なロシア原油を大量に輸入し転売して利益を得ていると批判し、7月31日付けで25%にすると主張していたが、実際は8月6日の大統領令により27日からインドからの輸入品には合計50%の関税を賦課するとした。

世界は8月、さらに振り回された。ウクライナ戦争に対する米露停戦交渉の進展報道で原油は2カ月ぶりの安値をつける中で、トランプ・プーチン両大統領は15日に対面会合を持つことで合意し、原油価格はさらに急落した。

トランプ大統領は、7月末時点では「8日までにプーチンが停戦に合意しなければ、ロシア原油輸入国に懲罰的追加関税100%を賦課する」と述べていたが、本措置の扱いは不詳である。報じられた「ほぼ現状での固定」では、ウクライナが了解するはずはなく、そのことは属国化を目指すプーチン大統領も同様である。

国際紙の報道ではウクライナ戦争の現状凍結がトランプ提案の骨子となる公算が大きいものの、どのような進展を見せるか予断を許さない。トランプ大統領は13日、「初日の協議での停戦合意は難しい」との見方を示すとともに、2回目がより重要だと話しており、ゼレンスキー大統領を含めた2回目の会談を開く可能性に言及した。

ウクライナ停戦交渉の展開は、英仏独3国が13日、対イラン制裁復活を求めて国連に書簡を送ったこと、及びイランの同措置復活阻止に向けた中露との協力を示唆する対応と併せて、目が離せなくなった。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

露産原油巡るEUの印制裁は妥当か

【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

インドを代表する英字経済誌エコノミック・タイムズは、ウクライナ紛争が勃発して以降、EU(欧州連合)がロシア産のLNGの輸入量を急増させているにも関わらず、インドの石油会社に制裁を課したことについて、その偽善を批判した。

同誌はウォール・ストリート・ジャーナルに次いで世界で2番目に多く読まれている英字ビジネス紙と言われ、紙媒体がインド国内の主要14都市で発行されているのに加え、ウェブサイトはインド国内外から数千万のアクセスを集めるなど、絶大な影響力を誇る。

その8月7日付の記事によると、EUが昨年に輸入したロシア産LNGの量は、2021年に比べ9.6%増加し過去最高を記録。また、今年7月のガスプロムによる欧州向け天然ガス輸出量は前月比で37%増加したと指摘した。その一方で、EUは7月にインドのナヤラ・エナジー製油所(ロスネフチが49.13%の株式を保有)に対し制裁を発動した。その批判は一定理解できるところはあるが、全体像はより複雑だ。

EUは確かにロシア産LNG輸入を増やしたが、パイプライン経由を含めた天然ガス全体では6割以上減らしている。肥料など輸入量がほとんど変わらないものや、鉄鋼やニッケルなど継続して輸入しているものもあるが、全体の輸入額は22年初頭から今年第1四半期にかけて86%減少している。一方、インドのロシアからの輸入額は石油を中心に急拡大し、約8倍に膨れ上がった。

米国のトランプ大統領は、インドがロシアから石油などを輸入していることを問題視し、合計で50%となる関税を課す大統領令に署名。印米関係は危機的な状況に陥っている。インドのエネルギー戦略は今後難しいかじ取りを迫られそうだ。

(大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表)

【ガス】国民・参政が躍進 どうなる選挙後のエネ政策

【業界スクランブル/ガス】

今回の参院選は物価高対策を争点に始まったが、後半に入ると外国人問題が活発に取り上げられた。日本が抱える問題は、経済の成長戦略、少子化対策、対米・対中などの外交問題、原発を含むエネルギー政策、財政健全化など、多岐にわたるはずだ。目先の物価高対策を論じて消費税減税などを提起することはまだ理解できるが、欧米などに比べて移民が少ない日本において外国人問題が大きなイシューになったことは残念だと言わざるを得ない。

選挙を経て、次はガソリン暫定税率の廃止や消費税減税などが焦点となるだろう。私感だが、一度でも減らした税金を元通りに復活させることは極めて困難だ。決して賛成できる政策ではないが、減税などをせずに税収入を維持しながら給付金などを「バラまく」方がまだマシではないか、と考えてしまう。

一方、エネルギー会社にとって今後の政策で注目すべきは再エネの動向である。今回大躍進した参政党は公約において「再エネの推進中止・賦課金廃止」をうたっている。再エネ賦課金廃止は国民民主党も同様の意見だ。目先の国民負担を減らすべく再エネ賦課金をなくしても、その部分を他の財源で賄う必要があり、結局は何らか別の国民負担が増加する可能性もある。

第7次エネ基に明記されたが、DXやGXが進む中で電力需要増加が見込まれている。「再エネか原子力か」といった二項対立的議論ではなく、再エネと原子力を共に最大限活用していくことが重要だ。エネルギー政策は短期でコロコロと変えるものではなく、長期的視点に立つ必要があると肝に銘じて、冷静に議論を進めてほしいものだ。(Y)

供給力確保の義務化巡り 小売事業者に動揺

【業界スクランブル/新電力】

7月に開かれた制度設計ワーキンググループで提言された、小売事業者に供給力確保を促す仕組みが物議を醸している。当局による発電事業者に対する監督が功を奏し卸電力市場の価格高騰局面が激減したため、小売事業者が市場調達比率を高めた矢先の相対調達比率義務化の提言である。小売事業者に動揺が走るのも無理ならざるかな、である。

発電事業者からすれば、火力燃料の太宗を占める天然ガスは、ロシアのウクライナ侵攻以降高止まりであり、卸市場での販売では逆ザヤである。容量市場や長期脱炭素電源オークションなどの固定費回収スキームが整備されたとて、可変費回収スキームの確保は喫緊の課題である。当局の指示に従い供給力を提供し続けた結果、卸市場価格が下落し自身の経営基盤を脆弱化させる事態となるのは看過し難く、適正価格での売電先を保証してほしいといったところか?

本件の根底には、限界費用が極めて安価であるが不安定な太陽光と、価格は割高だが安定電源である火力・原子力の両立という、電力システム改革の根源に係る課題がある。この課題解決には、小売事業者・発電事業者双方の努力が不可欠であろう。従って当局が小売事業者にのみに制約を課すのでは不十分である。

発電事業者には、卸販売における公平性・透明性の徹底ならびに、卸販売メニューの多様化(日中は太陽光活用を推進し、夜間帯のみの卸販売メニューの新設など)を求めたい。小売事業者にも、今回の提言を機に、蓄電池を活用した太陽光発電所とPPAを推進するなど、ピンチをチャンスに変えるような行動が求められよう。(S)

G7と対照的なBRICS会合 現実路線で首脳宣言採択

【ワールドワイド/環境】

7月6、7日にリオデジャネイロでBRICSサミットが開かれ、個別分野の共同声明採択に終わったG7サミットと異なり包括的な首脳声明を採択した。気候変動、エネルギー関連の主要メッセージは以下の通りだ。

①気候変動対策における一方的措置が、差別的あるいは貿易制限的な手段となることに懸念。CBAM(炭素国境調整措置)などは国際法に沿わない懲罰的・保護主義的措置として反対、②SDG7に沿った安価・信頼性あるエネルギーアクセスと公正な転換にコミット、③エネルギー安全保障、市場安定、供給の多様性、インフラ保護の必要性に言及。化石燃料の依然として重要な役割を認識、④公正で包摂的な移行に向けた資金アクセスと投資拡大の必要性を強調し、先進国に対し、譲許的資金の予測可能・低コストな供給を要求、⑤ゼロ・低排出エネルギー技術や供給網強靭化における重要鉱物の役割を認識。資源主権を尊重しつつ、信頼性・責任ある持続可能な鉱物サプライチェーンの促進を支持―。

気候変動面ではパリ協定、気候変動枠組み条約の目的追及への結束を再確認しつつも、2050年カーボンニュートラルや1・5℃目標へのコミットメントは全く見られない。むしろ、気候変動資金動員に向けた先進国の責任が強調されている。

エネルギー面では安価で信頼性のあるエネルギーアクセスがうたわれ、エネルギー転換途上における化石燃料の役割が明確に認知されている。化石燃料や石炭火力のフェーズアウトを掲げてきたG7と対照的だ。

重要鉱物については鉱物生産国としての立場を前面に出し、「鉱物資源に対する主権を完全に保持し、資源国の利益分配、付加価値、経済多様化を保証するための公正なサプライチェーン」と強調。サプライチェーンの多様化、環境や人権基準に基づく市場ルール設定を企図しているG7に対峙している。

世界のエネルギー・温暖化情勢の帰趨を左右するのはG7(エネルギー消費、CO2排出量の対世界比は30%、25%)よりもBRICS11か国(同49%、58%)であり、その差は開いていくのだから当然だ。1975年の第1回G7ランブイエサミット当時と異なりG7とBRICS、G20を併せて見なければ世界の帰趨は語れない。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

電源投資量は内生変数か 教科書的理想論の限界

【業界スクランブル/電力】

7月下旬開催の「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ(第3回)」の議事要旨を見ていて、おやっと思った委員発言があった。

いわく、「投資量は内生変数だということは忘れないでほしい。収益性は外生ではなく、需要が激増するのに投資が進まないとなれば当然、他の条件を一定にして収益性は上がる。それが投資を促すということだ」とのこと。

内生変数とは、モデル内で他の変数から影響を受ける変数のことで、この場合は、市場の需給関係から価格が決まり、価格から投資の予想される収益性が決まり、それが投資量を決める、といったメカニズムを指していると想像される。

こうした形で市場が機能するのは教科書的な理想であり、電力システム改革とは市場をこのように機能させることを目指すもので「かつては」あったのだろう。

他方、今取り組まれているのは「脱炭素電源の確保ができなかったために、(略)⽇本経済が成⻑機会を失うことは、決してあってはならない」と宣言した第7次エネ基の下、OCCTOが作成した電力需給シナリオを共有しつつ、全体として必要な投資量が外生的に与えられ、これを長期脱炭素電源オークションなどを通じて確保していく枠組みの設計―。すなわち、電源投資量を内生変数から外生変数に変えていく取り組みだ。

こうした動きが起こっている背景には、教科書的理想論の限界、すなわち、それでは電源投資不足が起こり、それが制約となって日本経済の成長機会を奪いかねないという危機感があることも忘れてはならないだろう。(V)

大量倒産を経た英小売市場 規制強化で立て直し狙う当局

【ワールドワイド/市場】

英国の電気・ガス小売市場では、2021年後半以降のエネルギー価格の高騰により、約30の小売事業者が経営破綻した。契約獲得のため割安な料金プランを提供しながらも、エネルギーの事前調達によるヘッジを怠っていた事業者の多くが撤退を余儀なくされた。

これを教訓に英国のエネルギー規制機関は、小売市場の安定化に向け事業者の財務健全化を促す各種規制を導入している。中心となる規制は、事業者資本に対する下限値および目標値の設定だ。家庭用小売事業者を対象とするこの規制は、一契約当たり調整後純資産0ポンドの下限値、さらに、市場の動揺時にバッファーとなる資本の合理的な水準として、一契約当たり57・5ポンド(電気・ガス両方契約の場合は115ポンド)の目標値を設定している。下限値を満たさない事業者は小売ライセンスの規約違反となり、規制機関による強制措置の対象となる。下限値を満たすものの目標値を下回る場合、事業者は資本増強計画を作成し規制機関に提出する必要があり、計画が承認されるまで新規営業や資金の移動などが制限される。なお、目標値はヘッジを適切に行っている事業者を参考に設定された。

この規制の導入により、小売市場全体の調整後純資産は、経営破綻が相次いでいた頃のマイナス17億ポンドから今年3月末にはプラス75億ポンドまで改善した。この規制に加え、事業者に十分な流動資産を確保させる財務管理義務の要件強化や、資産状況の監視強化、事業者固有リスク(グループ会社に起因するリスクエクスポージャーなどを含む)のリスト化とその報告義務、新規契約者のみを対象とした専用料金プランの提供の禁止措置も導入されている。

また、再生可能エネルギー購入義務制度用の資金や需要家の前払い・過払いにより発生した預り金が、経営破綻時に多く喪失したことから、これらを保護するリングフェンス制度も導入された。リングフェンス内で発生した資金を用いて、他で発生した損失を相殺することが認められなくなった。ただし、預り金のリングフェンスは、前述の資本目標値を下回った場合、または事業者の流動資産が預り金総額の20%を下回った場合のみ発動される。英国の小売市場における規制はこのように強化されたが、体力のある大手に有利な状況と見ることもできる。これら規制が新規参入や競争にどう影響するかが注目される。

(宮岡秀知/海外電力調査会・調査第一部)

欧州に流れる米国産LNG カナダ産はアジア向けが主体か

【ワールドワイド/資源】

今年6月、カナダが新たなLNG輸出国に加わった。年産1400万t規模のプロジェクト「LNGカナダ」が稼働を始め年内にフル生産に至る見通しである。

米国では、トランプ政権が今年1月に誕生、バイデン政権下でサスペンドされたLNG輸出認可が公約通り再開され、複数のLNG計画が急速に進展し始めた。今年に入ってルイジアナLNGプロジェクト、CP2・LNGプロジェクト、そしてコーパスクリスティ拡張プロジェクトが最終投資決定(FID)に至った。既存分と合わせると建設段階の合計年産能力は8300万tに達し、2030年までに順次生産開始される見通しである。

米国では、昨年末から今年初めにかけて年産3000万t相当の輸出能力が上乗せされ、総年産能力1・2億tに増強された。カタール(同7700万t)、豪州(同7850万t)を大きく引き離している。

米国産LNGは、今年は7月までに約6000万tが出荷され、昨年より大幅に早いペースで伸びている。他方、そのうち7割以上、約4200万tが欧州市場に輸出されており、アジア需要家が期待していたような、成長著しいアジア市場への供給にはつながっていない。

背景として、EU(欧州連合)はトランプ大統領との間で、今後3年間で米国産エネルギーについて7500億ドルの購入を約束し、米国産の輸入が増えることが予想される。加えてEUは27年末に向けてロシア産ガスから脱却することを宣言しており、代わりに米国産に代替される可能性が高い。短期面でも今年初頭に低水準だったガス貯蔵量を来冬に向けて着実に増強することが課題であり、その調達先は米国産LNGとなるだろう。

そのほかにも、米国とアジア市場をつなぐパナマ運河もLNG船の通航制限が緩和されたとはいえ、依然として喜望峰周りを選択するケースがほとんどである。世界第2位の生産量を誇るカタール産LNGは、フーシ派からの攻撃を恐れてスエズ運河の通航を避け、9割近くがアジア市場に流入している。

カナダは数年内に合計年産能力2000万t規模に達する見通しであり、そのほとんどがアジア市場に吸収されるだろう。増大する米国産LNGではあるが、地政学ならびに地経的リスクに影響を受けてアジア市場ではなく、欧州市場に流れやすい地合いが形成されている。

(高木路子/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

ペロブスカイト開発の現在地㊥ 実用化への技術的課題は山積 日本が競争力を発揮するには

【識者の視点】薛婧/イーソリューションズ執行役員副社長

中国では、関連サプライチェーンをほぼ自国で完結できる体制が構築されつつある。

日本が競争力を発揮するには、柔軟な戦略の転換が必要ではないか。

前回は6月に中国・上海で開催された「SNEC」で調査した、中国のペロブスカイト開発の最新の状況について解説した。今回は、中国におけるサプライチェーン整備に向けた動きについて紹介したい。


サプライチェーンの国産化 競争しつつ「共創」で実現

ペロブスカイトの生産工程における基板の洗浄・製膜・封止などでは、多くの精密装置が必要となるが、中国ではこれらの装置の国産化が進んでいる。徳滬塗膜・晟成ソーラー・捷佳偉創などは、製造に必要な装置をパッケージで提供し、ただちに稼働可能な状態で納品するという「ターンキーソリューション」を提供している。その歩留まりは95%以上という。

さらに開発を加速するため、自動化やAIの活用も進められている。従来のペロブスカイト電池の製造工程は人が担っていたため、生産効率の低下とモジュールの品質のばらつきが問題となっていた。中国メーカーは溶液調製から封止、初期性能測定までの全工程を自動化し、24時間連続稼働で300枚/日のセルを製作可能にした。変換効率のばらつきも0・75%以内(1000枚中8枚以下)に抑えた。また、全プロセスに高性能センサーを設置。得られたデータはAIで即時分析し、プロセスやレシピ(配合)の最適化案をフィードバックし、その適化案を再び製作プロセスで検証する。このサイクルを繰り返すことで、研究期間の90%短縮を期待している。

GCLのAI実験システム

開発・製造装置だけでなく、2・5m以上の大型サンプルにも対応可能な、評価装置の開発と国産化も進んでいる。

国家太陽光質量検査センター(CPVT)やTÜVなど、複数の評価機関も展示会に出展していた。これらの評価機関は多くのペロブスカイトメーカーと連携し、サンプルの認証や屋外実証を実施。一部の発電結果を定期的に公開している。ペロブスカイト専用の評価ガイドラインはまだ整備されていない。そのため、シリコン太陽電池の基準であるIEC6121やIEC61730などを参考に、ペロブスカイトの効率や耐久性を評価するノウハウを蓄積している。

また、結果の再現性が低いという課題の解決に向け、中国では効率測定に関する国家標準「ペロブスカイト太陽電池モジュールのⅠ―V特性測定方法」の策定が進められている。SNECでも標準化を議題に、多くの講演が行われた。

中国のさまざまな気候での実証プロジェクトも多数報告されており、MW級以上の実証も複数あった。メガソーラー用途だけでなく、フェンス・カーテンウォール・屋根・ソーラーカーポートなど、建物にペロブスカイトを設置する実証も実施されており、用途開発と実用性の検証が進められている。

SNECで驚いたのは、装置メーカーや評価機関らが、展示会の訪問者に対し、技術やノウハウをオープンにし、実証データの一部もリアルタイムで公開していたことである。先ほど紹介したAI実験システムも、オープンプラットフォームとして世界各地の研究チームに開放されている。

さらに、UtmolightやRenshineなどのペロブスカイトメーカーは、新規参入企業に対して、製造ラインの設計、装置の選定、建設プロセス管理、人材育成、プロセス改善など、あらゆるサポートを行っている。中国では「競争」しながら「共創」を図る構図が見えてきた。

その他、発電ガラスや電極材、封止材などの材料や、端子ボックス、パワコンなどの周辺機器のブースも、SNECで多数見られた。自国でサプライチェーンをほぼ完結できている状況がうかがえた。

水とエネルギーのジレンマ 両者の関係性捉えた政策を

【オピニオン】橋本淳司/水ジャーナリスト

人間の水使用量は20世紀を通じて大きく増加した。20世紀前半には年間約1000㎦と推計されていた世界の水使用量は、2000年には約4000~4600㎦に達した。経済協力開発機構(OECD)は50年までに水使用量が00年比で55%増加すると予測している。00年の世界の水使用内訳を見ると、約3分の2が農業用だ。OECDの見通しによれば、00年から50年の間に製造業における工業用水は5倍、発電用水は2.4倍に増加すると予測されている。

中国南西部、特に長江とその支流には、数多くのカスケード型ダムと巨大な水力発電所が建設されてきた。チベット高原から流れ下る豊富な水資源を活用していたが、20年以降深刻な干ばつが続き、降水量は平年の半分以下にまで落ち込んだ。長江流域では河川流量が大幅に減少し、水力発電所の出力が著しく低下した。中国国家エネルギー局のデータによれば、水力発電の設備容量は19年末の3億5800万kWから23年末には4億2200万kWへと約18%増加したが、同期間の発電量は減少し、23年は1兆1410億kW時と、4年前の水準を下回った。

不足分を補うため、中国は再び石炭火力発電への依存を強めた。中国は世界最大の石炭消費国であり、発電に占める石炭の比率は依然として高い水準にある。その結果、温室効果ガスの排出量が増加し、地球温暖化をさらに加速させる。まさに気候変動が水資源を不安定化させ、エネルギーの安定供給をおびやかし、その対応策がさらに温暖化を悪化させるという負のスパイラルである。

発電が流域での水の分配に影響を与えるケースもある。22年、エチオピアではアフリカ最大級のダムであるグランド・エチオピア・ルネッサンス・ダムが稼働した。貯水量は740億㎥、最大出力は600万kW。アビー首相は「国民の6割に光をもたらす」と述べ、ダムがエチオピアの電力不足を解消するとし、将来的には周辺国への電力供給も視野に入れる。しかし、上流国のエネルギー戦略は下流国にとって水の安全保障への脅威となっている。とりわけエジプトとスーダンは、ダム貯水によってナイル川の流量が減少するとの懸念を抱く。エジプトでは、生活用水や農業用水、工業用水のほぼ全てをナイルに依存している。ダム稼働の前年、エジプトのシシ大統領は「エジプトの水には手をつけるな。あらゆる選択肢が考えられる」と警告した。

水は発電を支える基盤であり、同時に下流域の生活や農業を支える不可欠な資源でもある。とりわけ水力発電への依存度が高まる中で、流域の上流と下流がそれぞれの発展と生存を水に託している構図は、エネルギーと水の複雑な相互依存を浮き彫りにしている。

はしもと・じゅんじ 1967年群馬県生まれ。水ジャーナリストとして国内外の水問題を調査し、その解決策を多岐にわたるメディアで発信している。アクアスフィア・水教育研究所代表、武蔵野大学客員教授。

EVバッテリーの国内生産能力 年150GW時の目標に黄信号

【脱炭素時代の経済評論 Vol.18】関口博之 /経済ジャーナリスト

横浜市に本社を置く大手バッテリーメーカーがAESCだ。社名はそのままエー・イー・エス・シーと読む。日産自動車が軽以外で世界初となる量産EV・リーフのバッテリー生産のため2007年にNECとの共同出資で設立した。その後、中国の再エネ企業・エンビジョンに事業譲渡されたが、今も日産が一部、株を持つ。販売したEV用バッテリーは累計100万台超、創業17年で製品も工場でも発火などの重大事故を一度も起こしていない。日本のものづくり技術に根ざした強みだろう。

AESCの茨城工場
提供:AESC

同社はここ数年、積極的な投資を続けている。国内では茨城工場を新設し去年稼働開始。最新鋭バッテリーを生産するマザー工場となり、将来は年20‌GW時の生産能力を持つ予定で、ホンダや日産が顧客になる。海外でも米英仏、スペイン、中国で工場を稼働または建設中。新設の米国2工場とフランス工場の生産能力は年40~50‌GW時になる。「地産地消」を掲げ、納入先完成車メーカーの工場に隣接して拠点を構える。

もう一つの特徴は「フルライン」の製品群。現在主流のNMC(ニッケル・マンガン・コバルトの3元系)バッテリーと、近年中国勢が伸ばしてきているLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーの両方を手掛ける。NMCはエネルギー密度が高く、航続距離が長い。一方、LFPはエネルギー密度こそ劣るが安全性・耐久性に優れ、希少金属を使わないので低コスト。技術的改良も進み、従来のコンパクトEVからミディアムゾーンの車種にも広がりつつある。将来は大容量が求められる高級車やスポーツ車にはNMC、大型でも搭載できるトラックや定置型蓄電池にはLFPといったすみ分けも考えられるという。こうしたシナリオでAESCは現在、世界で年20~30‌GW時の生産能力を今後1、2年で10倍にする野心的な計画を立てる。

ところが、国内バッテリー産業全体の未来図はさえない。国は3年前、「蓄電池産業戦略」で30年までに国内の製造基盤を年150GW時、グローバルには年600GW時の生産能力という目標を策定。経済安全保障推進法に基づきバッテリーや部材メーカーに助成も行い、国内で1

20GW時まで増強の見通しとしていた。しかし今年5月、日産が北九州市で計画していたEV用電池工場の建設を断念したことでこれが暗転、30年目標には黄信号が灯っている。

足元では世界のEV市場は伸びが鈍化している。それでも中国勢のバッテリー増産は進み、既に供給力が国内需要を大きく上回る状態にある。今後、ほかの市場に輸出攻勢をかけてくる可能性は高い。

競争力確保のために今こそ国の政策支援が欠かせない。国内メーカーには生産能力拡大と同時にコストの低減を促す必要がある。原料の資源確保も不可欠。技術のブレイクスルーでは全固体電池の開発が鍵になる。30年ごろの本格実用化を掲げるが、コストや量産技術の確立など課題克服の道筋はまだ見えない。

目先のEV市場の動向に惑わされず、国にはスピード感を持って環境整備を進めてもらいたい。日の丸バッテリーが世界で存在感を持てるか、瀬戸際だ。

大手系と地方系の良いとこ取り 山梨の発展支える提案に注力

【事業者探訪】東京ガス山梨

中圧導管延伸で一級河川超え工事を実施した東京ガス山梨の取り組みが注目されている。

グループのノウハウも生かし販路を拡大。地域の発展に向けた提案を重ねている。

山梨県はLPガス普及率が76%と沖縄県に次ぐ全国2番目の高さだ。この地で都市ガス供給を担ってきた東京ガス甲府支社は、業績拡大のためにLPガス事業者の買収などを経て2009年に「東京ガス山梨」へと生まれ変わった。都市ガスは甲府市や中央市、甲斐市、昭和町、南アルプス市に、LPガスは県内全域に供給。電気も東京ガスの取次店として販売する。

宮田社長とマスコットの「さすまる」

20年に策定した30年ビジョンでは「山梨創生のトップランナー」として「選ばれ続ける総合エネルギー企業」を目標に据えた。①都市ガス供給量は4500万㎥から1億㎥に倍増、②LPガスは現状の販売量5500tを維持、③高付加価値ガス設備や水回り、電気設備などの生活ソリューションを拡充―することが柱だ。昨春社長に就任した宮田雅夫氏は「東京ガスグループと地方ガス、両者の特性を有する会社。その良さを生かし、行政とお客さまの課題に寄り添い、地域振興に資するエネルギー種に拘らないソリューションサービスを展開していく」と意気込む。


川越えの大規模工事を決断 都市ガス販売量が増大

都市ガスの供給拡大は20年以上かけて徐々に進めてきた。元々は供給エリアが二つの川に挟まれた三角地帯である上、サテライト基地でガスを受け入れていた関係で需要拡大を制限していた。転機となったのは02年頃、医療機器工場の燃料転換を機にINPEXの導管で受け入れる方式に変更。さらに14年2月の大雪の経験からBCP(事業継続計画)への意識が高まり、南アルプス市の半導体工場に導管供給を求められたことだ。

ただ、そのためには一級河川の釜無川を超えて中圧導管を敷設する必要があった。河川を横断する場合、川底にトンネルを掘る工法が選択肢となるが高コスト化が問題だ。そこで折衝の結果、県が既存の橋に導管を添架する工事を許可。コストを数分の1に圧縮し、22年に約7㎞導管を延伸した。これで需要家が納得できる価格となり、近隣需要家のガス化も進んでいる。

地域に根差す企業として信玄公祭りにも参加

そして笛吹川を超えた先、甲府市と中央市にまたがる食品工業団地の大規模工場からコージェネレーション導入のために導管供給の要望があり、今年、同様の添架工事を実施して約3㎞延伸した。ここでも周辺の需要家に働きかけ、醤油などの製造会社への供給を予定している。

足元の販売量は9000万㎥に近づき、30年目標まであと一歩となった。宮田社長は、「トランプ関税などの要因で事業環境が見通しにくく、一般的に大規模投資には慎重になりがち。ただ、山梨の発展のためには3~4年のスパンで高い収益率を求めると同時に、リニア中央新幹線の開通もあることから、10~20年先を見据えた投資決断が必要だ」と強調する。

残り1000万㎥の獲得に向けては、有望な大口需要家への働きかけを強めている。足元で建築・工事費が高騰する中、イニシャルコストがかからないエネルギーサービスのニーズが高まっており、全国各地で多数の実績を持つ東京ガスグループのノウハウを訴求している。