【火力】「供給こそ本質」の制度 市場とのねじれ問う

【業界スクランブル/火力】

昨今、米価が上昇し、政府が備蓄米の放出に踏み切ってもなかなか価格が下がらない状況が続いた。こうした中、政府は従来の入札方式による備蓄米の売却から、特定の事業者と価格交渉を行う「随意契約」方式に転換した。政府が設定した安価な備蓄米も流通しているものの、価格が以前のように落ち着く時期は依然見通せない。今回の対応は、行政が「市場メカニズムに委ねるだけでは限界がある」と自ら認めたことを意味する。

一方、電力システム改革においては、供給力不足や市場価格の高騰、価格ボラティリティの拡大という課題が指摘され続けているにもかかわらず、「全面自由化によって競争が生まれ、価格が下がる」とする従前の考えに固執しており、この前提から離れることができないでいる。

そもそも価格とは需給関係の結果として形成されるものである。需要が供給を上回っていれば価格は上昇し、供給を増やさない限り、どのような制度上の工夫でも価格上昇を抑えることはできない。

電力の供給力確保には巨額の初期投資と長期的な回収見通しが必要であり、市場の不安定さが投資を妨げるという逆転現象も発生している。自由化制度に後付けで規制を加えるやり方では、むしろ問題の本質を見失いかねない。

米も電力も、場当たり的に「市場の仕組み」や「規制」を継ぎはぎするだけでは真の問題解決に近付かない。需要と供給という物理的・経済的な現実を見据え、より実効性のある制度とは何かを、いま一度問い直すべきではないか。

「安定した供給こそが本質」であるという視点に今こそ帰結すべきなのである。(N)

【原子力】今夏もKK再稼働ならず 安全協定の再考を

【業界スクランブル/原子力】

東京電力が今夏の柏崎刈羽7号機(K7)の再稼働を断念した。メディアは相変わらず「事業者の努力不足」と書くが、実態は異なる。昨年4月に燃料装荷が完了し、その後もさまざまな経緯があったが、県知事の怠惰な態度のために稼働できていないのが現実だ。改選まで1年を切った知事は判断を躊躇し、8月末までに公聴会を5回開き、県民の意識調査も実施するという。

BWRのK7は、女川2、島根2号機より先に設工認を得ていたが、特定重大事故対策の設置期限10月13日に間に合わず、その工事が終わる2029年8月までは再稼働できない。東電は目標をK6に切り替えたが、残念ながらこの夏には間に合わない。

同原発は、巨大津波で太平洋沿岸の原子力と火力が軒並み倒れた時に、首都圏を救った。東電と東北電力は互いに電気を融通し合っている。女川2号機の恩恵を受ける新潟県が、県内の原発から他都県への送電を許さないのは不公平である。

電力は経済産業と国民生活の存立基盤である。知事の振る舞いに翻弄され、電力会社が被るコスト増は全て電気料金に跳ね返る。原発が動かないために、今も莫大な火力燃料の購入費用が資源国へ流出し続けている。

電力会社が自治体の同意を必要とするのは安全協定のためで、それは国の経済発展を支える電源立地と環境規制において、自治体の意見を尊重するプロセスをとったために結ばれたものである。自治体の意見に真摯に耳を傾けることは重要だが、国家の存立基盤を左右する実質的権限を知事に委ねる安全協定の仕組みは変えるべきだ。(T)

GHG削減で存在感増すCCS 今後の実装加速に期待

【リレーコラム】高橋 功/INPEX執行役員イノベーション本部長

エネルギー業界としてGHG削減は短期的な風潮に惑わされず責任を持って取り組むべきアジェンダだ。省エネルギーや再生可能エネルギー導入に並び、未来の技術とみなされがちだったCCS(CO2回収・貯留)が、現実的でボリュームインパクトのあるGHG削減策として急速に存在感を増している。

CCSは近年では適用が広がり、ノルウェー、豪州、UAEなど各地で年間数百万tレベルの大規模CCS施設が稼働している。国内での先駆的な取り組みとして、INPEXが年内に新潟県柏崎市でブルー水素・アンモニア製造・利用一貫実証試験施設の運転を開始する。本施設では新潟産の天然ガスから水素を製造する際に、副次的に発生するCO2を回収し地下貯留することで、クリーンな水素・アンモニアの供給を実現する。本実証での操業を通じてCCSの技術的成熟度が向上するとともに、国内でのCCSの認知度と社会的受容度が高まると期待している。


適用拡大へのイノベーション

一方、大きな投資が必要なCCSはそれ自体が経済的価値を生むプロセスにあらず、適用拡大には技術イノベーションによるコスト低減が大きな鍵となる。INPEXは2022年に研究部門「I―RHEX」を設立、今後必要な低炭素・新分野の技術開発を拡大しており、CCS技術革新の対象はCO2回収から輸送、地下貯留までバリューチェーン全体にわたる。その取り組みの一例が業際協業により開発中の船上CCSプロセスで、国際海事機関(IMO)のGHG削減ルールに従う今後の船舶の排出削減需要に応えるものだ。

本技術ではスペースや使用エネルギー上の制約が多い船上環境における排気ガスからのCO2回収および貯蔵のため、独自のアプローチとしてカルシウムを利用する。理科の実験で石灰水に息を吹き込むと白濁したように、水酸化カルシウムは排気ガス起源のCO2と容易に結びつき安定した固体炭酸カルシウムを生成する。ありふれた素材・カルシウムのこの特性を活用して省スペースで高効率のプロセスを目指しており、炭酸カルシウムはエネルギーの安価なCCS貯留地に運びCO2を分離し貯留する。これはほんの一例だが、オープンな協業と新たな視点によるイノベーションがCCS技術の競争力を向上させ適用範囲を拡張させると確信する。

Hard to Abate部門でのGHG削減策にもなり得るCCSは、将来のエネルギーシステムで重要な役割を担う必須項目であるため、長期的視野に立つ技術開発および実証を通じてCCSの実装拡大を加速させたい。

たかはし・いさお 1993年東京大修士。スタンフォード大博士。特殊法人の後、2003年にINPEX入社。マレーシア、アブダビ駐在で上流探鉱開発に従事後、現在は新分野の研究開発および事業創出を管掌。

※次回は、中東三井物産の山野総さんです。

【シン・メディア放談】参院選の争点はコメ、消費税、外国人…… 語られなかったエネルギー政策

〈エネルギー人編〉電力・石油・ガス

国内外で大きなニュースが続いたが、有権者や政治家の関心はエネルギーよりも「電気代」だった。

─トランプ減税の恒久化法案が成立した。インフレ抑制法(IRA)の予算を削る内容だが、業界への影響は。

石油 再エネ発電所を持つ商社や、水素やeメタンの製造計画がある大手エネルギー会社への影響はそれなりにある。

電気 ただトランプ政権でこうなることは分かっていた。金融で言うところの「織り込み済み」というやつだ。トランプ大統領は大統領令を連発しているが、その内容がすぐに全米で実現するわけではない。リベラルが強い州では効力差し止め訴訟が頻発している。

ガス アメリカで脱炭素政策のスピード感が落ちるだけで、世界の流れは変わらない。世界経済をけん引するGAFAMなどはクリーン路線だし、トランプ政権の間に新エネの研究開発の時間をもらえたと思って、頑張らないといけない。


国内エネ需要への影響は 関心薄れる東電問題

─トランプ関税の影響がそろそろ出てくるか。

ガス 自動車を中心に日本の製造業が空洞化して、エネルギー需要が縮まないか心配だ。日産自動車の問題もあるし、関西よりは関東の方が影響は大きいだろう。マツダの中国、そして九州も部品工場が多いと聞く。

電力 需要はデータセンターの大量稼働前に一度落ち込むかもしれない。ただ中長期的には、そこまでの影響はないだろう。10年後にデータセンターと半導体需要によって、kWベースで最大5%程度増えると言われているが、どちらも負荷率が非常に高い。kW時だと10%を超えてくる可能性がある。

石油 経済の不確実性が高まる中で、7月7、14日のガスエネルギー新聞に載った有馬純氏のインタビューは良かった。アメリカがパリ協定を離脱し、中国の存在感が高まってしまった。そうなると、日本はグリーン分野で中国と戦うことになる。カーボンプライシングの制度設計は、国内の製造業の事業環境を悪化させないさじ加減が重要だと。まっとうな意見だった。

─6月21日にアメリカがイランの核施設を攻撃して世界に衝撃を与えた。

石油 CNNやBBCは24時間、その話題で持ちきり。時差もあるが、日本の報道は全く付いていけなかった。ネットにしても、最新情報を伝えるのはロイターやブルームバーグなどの外信ばかり。BSで平日の夜に放送している討論番組も、同じ有識者が出ていて飽きてしまう。ウクライナ問題を解説していた専門家が、イラン問題も話していた。

電力 トランプ大統領が大きな発表をするのは現地の午後、つまり日本の明け方だ。だから朝刊を見ても、その情報が載っていない。

ガス 紙媒体が速報性をカバーできない現実をまざまざと見せつけられた。新聞社もネットに軸足を移してはいるが……。

石油 それにしては、新聞休刊日のデジタル版が弱すぎないか。ほとんど日曜日から更新されていなかったりする。

【石油】今年度末に廃止確定? 暫定税率巡り憶測

【業界スクランブル/石油】

自民党の森山裕幹事長が7月4日、ガソリン税の旧暫定税率について「25年度で止めることは約束している。12月にしっかり決める」と発言した。確かに廃止自体は昨年12月、「25年度税制改正」での検討で自公国3党幹事長が合意しているが、廃止時期は決まっていなかった。 それが、年度末の廃止で固まったのか、言葉足らずの発言だったのか、選挙向けのPRだったのかは分からないが、さまざまな憶測を呼んでいる。参院選の結果はどうあれ、暫定税率の正式な廃止時期は年末の税制改正議論で決まるのだろう。

一方、暫定税率廃止の実施までは、定額10円の燃料油補助金が続く。選挙向けの制度改正で複雑化しているが、少なくとも8月末までは定額補助に加えて、毎週の補助金額を調整してガソリン全国平均価格を175円に抑える「予防的な激変緩和措置」が行われる。

この期間内に原油価格が下落、円高に振れれば、定額補助だけが残り、国内の石油製品価格は下がる。ただ、仮に暫定税率廃止となっても、暫定税率部分全額(25・1円)が減るわけではない。補助金10円も同時に廃止されるから、ガソリン15・1円、軽油7・1円安くなるだけだ。

この補助金は経済合理性に欠く不適切な制度と言わざるを得ないが、地方では自動車に生活を依存せざるを得ず、また農林水産業者にとっても大きな恩恵だ。その意味では都市住民から地方住民への「所得移転」であり、同時に輸入物価高騰に対する「国家補償」ではある。地方に多い参院選の1人区での投票にどのような影響を与えたのだろうか。(H)

【ガス】ホルムズ封鎖が招く危機 同じ轍踏まない対策を

【業界スクランブル/ガス】

イランとイスラエルは一時的な停戦に入った。しかしこの戦争には、国家理念・宗教・地政学的利害などが複雑に絡み合った構造的対立が背景にあり、再発リスクは常に存在すると見る方が現実的だろう。そしてイランにとって、ホルムズ海峡封鎖は「欧米と湾岸諸国に打撃を与える象徴的手段」として選択肢にあると見ていい。もしホルムズが封鎖されるとLNGはどんな影響を受けるのか。

ホルムズ海峡内にあるのはカタールプロジェクト(世界シェア約2割)。現在、日本のカタール産LNG輸入量は年約300万t(シェア4%)とわずかで、ホルムズ閉鎖の直接的影響は大きくない。一方、中国のカタール輸入量は約1800万t(同24%)と日本の6倍になる。また韓国は約500万t(同10%)、台湾は約400万t(同18%)と日本よりも多い。よってホルムズ封鎖時には中国、韓国、台湾がスポットを買いあさる可能性がある。

2020年末に発生したJKM高騰は、主に中国、韓国による冬場のスポット買いあさりに起因しており、ホルムズ封鎖でも同様の状況が起こり得る。さらに欧州では天然ガス不足が常態化しており、ロシア産ガス代替として購入しているLNGの約1割がカタール産だ。カタール産がストップすると、TTFが急騰してJKM高騰の火に油を注ぐ可能性がある。

20年末のJKM高騰は、制御不能のJEPX高騰を招いた。ホルムズが封鎖されると、結果として同様の状況を招く可能性がある。政府も民間も今後の動向を注視するとともに、今からさまざまなリスクヘッジ策を講じることが急務だろう。(G)

米テック大手が原発に注目 AI事業拡大へ長期契約加速

【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

チャットGPTなど生成AIの普及は各産業分野で不可逆な存在となるが、グーグルなど一般的なインターネット検索が1件当たり0.3W時のであるのに対し、生成AIは約10倍の2.9W時とされ、電力消費量が激増している。

2023年、米国としては35年ぶりの新設原発となるジョージア州ボーグル3号機が稼働したが、一方、AIの膨大な電力需要に対応するため、GAFAMなどは、既存の電力供給に頼るのではなく、安定した独自電源、特に昼夜を問わず出力が安定し、CO2を排出しない原発に注目している。

特にマイクロソフト社は30年までに「カーボンネガティブ」を目指しており、昨年コンステレーション・エナジー社と相場の2倍近い1MW時当たり最低100ドル以上の固定価格で20年契約し、経済的理由で停止されたスリーマイル島1号機を27年に再稼働させ、発電所の名称変更も行う予定だ。1979年に部分炉心溶融事故を起こした2号機とは違い、1号機は事故と無縁で安全運転を続けた実績を持つが、退役した原発の再稼働という前例のない挑戦となる。4年の期間と最低16億ドルの費用、そして数千人の作業員が必要になる。さらにアマゾン社は2030年までに全ての購入電力をカーボンフリーにする予定で、ペンシルベニア州サスケハナ原発の広大な隣接地を取得し、直接電力供給を受ける形で最大960MW級のクラウド用データセンター(DC)を建設中である。一方、メタ社はイリノイ州クリントン原発から20年間の供給契約を締結した。

こうした流れはAI事業の拡大に必要な電力の確保に独自に動く本気度と、その需要に応じようとする米国電力会社の取り組みが読み取れる。

わが国でもDCの国内立地は欠かせない。GAFAMはおおむね日本国内でのDC拠点の増設を公表している。生成AIによる電力需要が急増すれば、電力不足は避けられない。DC整備に加え、安定稼働のための電力供給体制も重要だ。

現状の電力会社からの電力調達ではなく、独自電源の確保に動く場合、再稼働審査が進む泊や稼動中の玄海などの原発は、広い敷地や海水による冷却、高圧送電線といった条件を備えており、DCの立地として相性が良いとも言える。生成AIはあらゆる産業に波及し、各国の国際競争力の維持・強化のためにも欠かせない。しかし、生成AIの発展は電力不足を招来しエネルギー政策を破綻させる規模になり得るリスクも内包する。国家のエネルギー戦略の新たな視座が加わった。今後は、AIデジタル競争力とエネルギー安全保障を一体として考える政策が重要となる。

脱原発方針を決定し既に実行したドイツや台湾、一方、原発を推進する中国と米国。韓国は国内の政治の混乱とは裏腹に原発比率を高めつつ今年6月にはチェコへの原発輸出に成功した。各国のAIデジタル政策の今後を一つのエネルギー戦略の視座として注目したい。

(平田竹男/早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授・早稲田大学資源戦略研究所所長)

ブルームバーグが伝える中国EV産業の実態

【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

欧米では、高い車両価格が障壁となって、このところEVの導入計画が後退気味である。こうした中、中国においては順調に価格が下がり、販売台数も伸びている。いまや世界のEV導入の模範として賞賛する報道も多い。

その中国のEV産業について、米国ブルームバーグ誌が継続的に報道している。そこでは、弱い需要と過剰な生産能力に焦点が当てられる。生産設備の平均的な稼働率は50%程度にとどまり、販売促進のための値下げが繰り返される。余剰在庫対策として、新車をいったん登録して中古車として販売することも行われる。

利幅縮小の中、最大手BYDの純負債は約6.5兆円に上ると、香港の会計コンサル会社GMTが試算。負債膨張の要因の一つは下請けへの買掛金の増加だ。BYDの平均支払いサイトは275日(2023年)で、他国の自動車メーカーの45~60日よりも相当長い。下請けは製品納入後、一種の電子手形で支払いを受けるが、手形の満期までの間、これを担保にした借り入れや、割引での現金化も行えるとのこと。要は下請けの資金繰りは、負債が膨らむメーカーの信用が頼みなのだ。

中国政府は、こうしたメーカーおよび下請けの財務状況に懸念を募らせ、5月にBYDが34%もの値下げを公表したのを契機に、メーカー各社を呼んで、熾烈な値下げ競争に警告を発した。

近年、中国製のEVの性能の向上は目覚ましいものがある。これまでの価格の低下には、車載の蓄電池をはじめとする技術革新が貢献してきたことは疑いない。一方、一連の記事が明らかにしたのは、設備余剰を背景にした「利益の叩き合い」である。このビジネスモデルの「持続可能性」は、今後とも注意深く見守る必要がありそうだ。

(水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表)

温暖化に傾斜したG7にツケ 重要鉱物行動計画は有効か

【ワールドワイド/環境】

6月16~17日、カナダのカナナスキスではイスラエル・イラン戦争、重要鉱物、AIなど、七つの個別テーマに関する首脳声明が出された。第2期トランプ米政権は安全保障、貿易(関税)で友好国に対して容赦ない対応を取っており、G7でのコンセンサス形成は第1期トランプ政権時以上に難しい。議長国カナダは国際協調やマルチの枠組みに関心の低いトランプ政権と他のG6との間で共同歩調をとれる分野に絞ることを選んだ。

今回、採択された「重要鉱物行動計画」の第一の柱は重要鉱物の採掘・精錬・取引段階で労働基準、汚職防止、環境保護を順守することで生ずるコストが適切に市場で反映されるよう、基準に基づく市場促進のロードマップを策定するというものだ。名指しは避けているが、基準を満たしていない中国への依存低下を狙っている。第二の柱はG7および世界中で責任ある重要鉱物プロジェクトに対する投資拡大のため、新興鉱業国、途上国のパートナーと連携し、国際開発金融機関や民間機関による資本動員を図るというものだ。第三の柱は重要鉱物の加工、代替素材開発、リサイクルなどの分野での研究開発の推進である。

行動計画の最大の課題はベースメタル(銅、アルミ)と異なり、採掘、生産、取引量が小さい重要鉱物において労働基準、汚職防止、環境保全の確保に関する基準を確立し、サプライチェーンを通じての順守をトレースすることが可能か、可能であるとしても費用対効果的か、G7以外の新興国、途上国の同調を得られるかという点である。

より根源的な問題は脱炭素(クリーンエネルギー転換の推進)、安全保障(対中依存の低下)、経済安定(インフレ防止、財政安定など)の同時追求が事実上、不可能という点だ。対中依存の低下と経済安定を追及すれば、脱炭素の遅延を許容する必要があり、米政権は志向している。同時追及は欧州の路線であるが、大規模な政策支援が必要で、最終的に国民、企業の負担増大につながる可能性が高い。

G7の関心が温暖化防止に大きく傾斜した結果、クリーンエネルギー技術や重要鉱物の対中依存が増大し、新たな経済安全保障上の脅威をもたらしていることは皮肉である。今回の重要鉱物行動計画が有効な一打となるのか、楽観は許されない。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

【新電力】社会的にも不利益 自主的取り組みの厄介さ

【業界スクランブル/新電力】

大手電力会社の自主的取り組みとして始まったグロス・ビディング(GB)の廃止が決まった。市場流動性向上、価格変動抑制、透明性向上効果を狙った電力・ガス取引監視等委員会の施策で、2023年の休止を経ての措置だ。

絶対買い、絶対売りを許容する本制度では、売買両札が約定価格近辺に集まらないので適正相場周知効果は乏しく、21年の需給ひっ迫時には絶対買いによる買い上り、価格暴騰の一因となるなど弊害もある。本稿で触れたいのは、行政指導と事業者の間合い。GBの「休止、廃止」の主語は監視委だが、制度上は「自主的取り組み」なのだ。

GBに限らず限界費用玉出し、内外無差別などの自主的取り組みには、「法的根拠が電事法総則以外にないが監視委がよいと考える施策」を「副作用の評価が不十分なまま」「大手電力が制度側との摩擦を嫌って我慢」「自主対応の外観維持」の構図がある。

弊害が生じた時に誰が責めを負うのか不明な措置が、行政機関の振舞として妥当なのか、このような措置を甘受する大手電力の対応が株主価値をき損しないのか、各専門家に聞いてみたいものだ。

この構図はエネ庁施策にも見られる。電力自由化が額面通りであれば、安全・保安系と消費者保護規制順守を前提に、各社が自発的に事業判断すべきだ。だが、事後規制が法的根拠なく導入され、商行為や発電所運用で不利を被るのに各社は空気を読み抗わない。他業界でもほぼ見かけない行政の恣意と業界の事なかれ主義が、業界全体の体力、将来への展望、安定的かつ経済的な電力供給をき損し社会厚生を下げている。(S)

メタが大手電力と長期契約 既存原発の長期活用モデル確立

【ワールドワイド/市場】

電力大手コンステレーション・エナジー(CEG)社およびIT大手メタ社は6月3日、CEG社がイリノイ州に保有するクリントン原子力発電所(BWR)で発電された電力112・1万kWを20年間にわたり供給する電力購入契約(PPA)を締結した。イリノイ州が原発を支援するために確立したゼロエミッションクレジット(ZEC)制度の終了後、2027年6月に開始する。CEG社は同契約に基づきライセンス更新に伴う投資を行うことができるとし、ZECの後継モデルとなる民間企業主導の支援策として注目されている。

ZEC制度が導入された背景には、安価な天然ガス火力の増加と再生可能エネルギー拡大に伴う卸電力価格の長期低迷で、州内の原子力発電所の経済性が悪化していたことがある。16 年にエクセロン社(当時)が保有するクリントン原子力発電所などの早期閉鎖を表明したことで、地域経済・雇用・税収への影響と、温室効果ガスを排出しない電源としての価値が改めて注目された。結果、「将来のエネルギー雇用法(FEJA)、2016年」が成立してZECが導入され、同発電所の運転継続が実現した。

CEG社はPPA締結を受け、発電所の出力を約3万kW増強する計画を示し、将来的に敷地内に小型モジュール炉(SMR)などを増設する構想も検討している。クリントン原子力発電所の運転ライセンスは現在、47年までの60年運転を目指して原子力規制委員会(NRC)が審査中で、PPA締結は、そのライセンス更新と運転継続の正当性を支える根拠としても注目されている。ドミンゲスCEO(最高経営責任者)は米国全土で展開するために協議を進めていることに触れ、発電所のライセンス更新と長期運転に必要な投資を支える経済的後ろ盾を得られることを望んでいると語った。

IT大手はデータセンター需要に備え、長期的かつ安定的な電源確保を急いでいる。短期的には天然ガス火力に依存しつつも、原子力との長期契約によって脱炭素目標の達成を図る姿勢だ。調査会社によると、昨年以降発表された米国における新規の商業用原子力案件の8割近くにIT大手が参画している。AI時代の新たな電力需要と脱炭素の要請が交差する中、PPAによる既存原子力の長期活用モデルは、今後の原子力活用における重要な戦略的選択肢の一つとなり得る。

(長江 翼/海外電力調査会・調査第一部)

【電力】需給試算を公表 長期的視点からの支援を

【業界スクランブル/電力】

電力広域的運営推進機関は6月25日、2040年および50年の電力需給試算を発表した。複数の機関が需要、供給について複数の前提に基づいて、いくつかのモデルケースを設定している。

需要においては、どのケースにおいても、人口減少や省エネの進展により家庭部門の電力需要は減少するが、データセンターなどのDX需要、EV普及や自家発廃止などのGX需要増の見込みが異なり、50年で9500億~1兆2500億kW時と想定されている。また、デマンドレスポンス(DR)や蓄電池の導入状況によるロードカーブの変化も織り込まれている。

供給においては、再エネと原子力の供給量で複数シナリオが想定されたほか、火力発電所の主に経年リプレースが進むかどうかでケースごとの差異が大きくなっている。

結論として、需要は低い想定でも足元より増加するがその量にはかなり幅がある。供給は、火力の経年リプレースが行われなければ大幅に不足するため、火力電源の継続的活用と新設・リプレースが必要との示唆が得られる。

しかし、需要の見通しには不確実性があり、環境政策や技術進展が不透明な中で、事業者が十分な火力電源への投資を行うにはリスクが高い。再び電力不足を起こさないようにするためにも、長期的視点から投資促進策、環境技術開発、燃料確保の支援などの施策が必須だ。 この想定自体、需要と供給が別々に推定されており、電源の費用が需要に反映されないといった問題が指摘されている。また、3~5年ごとに見直されることになっており、政策もそれに応じて見直される必要があるだろう。(K)

メタネーション設備の実証運転開始 地産地消モデルを確立しコスト低減

【西部ガス】

西部ガスが6月、メタネーション設備の実証運転を始めた。地域原料を活用した九州独自の「地産地消モデル」として、業界内でも注目されている。

2023年に環境省の補助事業「地域共創・セクター横断型CN技術開発・実証事業」の採択を受け、同社のひびきLNG基地で設備の建設工事を進めてきた。中核となるメタネーション装置(IHI製)に加え、PEM(固体高分子膜)型水電解装置、CO2分離回収装置、圧縮水素トレーラーや液化CO2ボンベの受け入れ設備などで構成されている。

中核となるメタネーション設備

一連の設備運用の知見を得ることに加え、①地域原料を組み合わせることによるコスト削減効果の見極め、②eメタン製造コスト最適化システムの運用と評価、③CO2回収装置の運用と評価、④クリーンガス証書発行におけるCO2トレーサビリティプラットフォーム(PF)の運用と評価―の計4点の検証を進めていく。

メタネーション反応に活用する水素は、水電解装置による水素や近隣工場からの副生水素を活用。CO2は、ひびき基地の都市ガス製造の熱量調整で発生したものを回収して活用するほか、福岡市の下水処理センターからも調達する計画だ。


運用の最適化でコスト減 再エネ余剰の課題解決

運用する上でのポイントは、自動化による最適制御だ。「九州では再生可能エネルギーの余剰が課題だ。余剰時における低価格帯の電力市場価格を見極めながら、コストミニマムな運用を目指す。一連の運用は『最適化システム』によって自動的に制御する。地域資源の最適な組み合わせでコスト低減を実現する『ひびきモデル』を確立していきたい」(西部ガス関係者)

実証現場のひびきLNG基地

今回の実証では、多様な事業者や組織が連携している。最適化システムやCO2トレーサビリティPFを開発するIHI、このPFを活用したCO2削減を評価する日本ガス協会、CO2分離回収装置を開発するJCCLや九州大学、ひびきモデルを参考に各地で地産地消を検討する北海道ガスや広島ガス、日本ガスなどが参画している。まさに業界を挙げたメタネーションの取り組みが各地で広まりつつある。

ペトロナスが若手育成に注力 脱炭素実現へ多国間の連携重視

【ワールドワイド/資源】

6月中旬、マレーシア国営石油会社ペトロナスが主催するEnergy Asia 2025、および若手人材向けの脱炭素をテーマとした相互交流型のサイドイベントFuture Energy Leaders(FEL)が実施され、筆者も参加する機会を得た。両イベントへの参加を通じて得られた二つの気づきについて述べる。

第一に、東南アジア諸国で若年層がいかに重視されているかという点だ。東南アジアは若年層の人口比率が高い。労働人口に対する若年依存度はG7諸国の平均が30%前後であるのに対し、ASEAN地域では49%だ。今後脱炭素という困難な課題に、民主主義制度の中で立ち向かう上で、若年層の理解・支持・参画が不可欠との認識が繰り返し強調されていた。

また、会場となった「PETRONAS Leadership Centre」の設置にも、未来人材への投資を重視する姿勢が表れている。同施設は2023年に開設された非技術系向けの研修施設で、FELのような相互交流型のプログラムの実施も念頭に、約100名全員を収容できる大規模な宿泊施設と一体で作られている。

敷地面積も東京ドーム約2・8個分と巨大で、自然との調和を意識した吹き抜け構造を備え、大学のキャンパスのような印象があった。これほどの規模と環境を構築することは、人的資本への投資を真剣に捉えている証左と言えるだろう。

第二に、ペトロナスの脱炭素への積極的な姿勢と、その根底にある「連携・協調」の精神だ。

脱炭素がテーマのFELもしかり、Energy Asia本体においても脱炭素が前面に出されていた点が印象的だった。近年世界的には地球温暖化防止国際会議・COP26で見られた脱炭素ブームとは一線を画し、安全保障に重きを置く動きが見られる中、ことさら脱炭素が強調されていた点は印象的であった。

筆者がこの姿勢の根底にあると感じたのは、マレーシアが「連携」や「協調」といった価値観を重視している点だ。FELや本会においても、脱炭素以外の文脈でもこれらの言葉が繰り返されていた。彼らは、自国の限界を正しく認識した上で、先進諸国と積極的に連携し、それを補完していくという考え方が強い。この多国間の連携や協調を重視する価値観と、人類共通の問題である脱炭素の実現は親和性が高く、これこそが、ペトロナスが脱炭素へのコミットを強く示し続ける背景にあるのではないかと感じた。

(若佐大夢/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

ペロブスカイト開発の現在地㊤ 中国の大規模展示会で見えた商品化競争の最前線

【識者の視点】薛婧/イーソリューションズ執行役員副社長

日本の「国産独自技術」として期待がかかるペロブスカイト太陽電池。

国内ではあまり報じられない、中国の開発競争の現状をレポートする。

2024年に世界で導入された太陽光発電の総容量456GW(1GW=100万kW)のうち、51%を占めるのが中国だ。結晶シリコン(Si)太陽電池サプライチェーンの8割以上を中国が担っている。

多様な最新技術が披露された

その中国で6月11~13日に、太陽光発電関連の展示会「SNEC」が開催された。会場はアジア最大規模の「上海国家会展中心」で、東京ビッグサイトの4倍の広さを誇る。太陽光発電に関連する3000社以上が出展し、国内外の産学が参加するカンファレンスも同時に行われ、参加者数は50万人以上と報告されている。特に注目を集めたのが、日本でも次世代型太陽電池として期待されている「ペロブスカイト」。本稿ではまず、SNECでのペロブスカイトに関する展示内容や、各企業の最新動向を報告する。


新興企業や異業種が参入 多様な製品が一堂に会す

SNECでは、10数社以上のペロブスカイトメーカーが出展した。専業メーカーであるUt-molightやRenshineのほか、製品ラインの拡充を図りペロブスカイト事業に参入した結晶Si太陽光パネルメーカーのGCLやTrinasolar、さらに、ペロブスカイト産業の創出を目的に設立された、中国国有企業の中核光電も参加した。BOEのように、ディスプレイ事業のノウハウを生かし異業種から参入した企業や、西安天交のように、大学から独立したベンチャーも多数登場した。

SNECで展示されていたペロブスカイト製品の種類は多岐にわたる。ガラス型単層ペロブスカイト、結晶Siやペロブスカイトを重ねたタンデム型、窓・壁・屋根など建物への導入を意識し透明化やデザイン性の高い建材一体型(BIPV)のほか、日本が注力する折り曲げ可能なフレキシブル・ペロブスカイトも複数の企業が展示していた。フレキシブル・ペロブスカイトには、一般的に認識されている、樹脂フィルムを基板にした「フィルム型」と、薄板ガラスを基盤にした「薄板ガラス型」の2種類があるが、見た目には区別がつかない。

モジュールの大型化も目立った。日本の多くの企業は0・09㎡モジュールを中心に開発しているが、中国はフレキシブル・ペロブスカイトを含め、実用可能な0・72㎡以上のサイズが標準となっており、最大2.88㎡の製品も展示されていた。

発電効率の高さも注目だ。ガラス型単層の0・09㎡前後のモジュールの効率が22・5%、0・72㎡以上のモジュールでは15・0~19・8%が一般的である。GCLの1・7㎡のSiタンデムモジュールは26・3%、Renshine製の0・72㎡のオールタンデムモジュールは22・2%と、いずれも結晶Si太陽光モジュールと同等以上の効率を実現したと自称している。