【エネルギービジネスのリーダー達】妹尾賢俊/TRENDE社長
ソーシャルレンディングの「maneo」を創業し、金融取引に革命を起こした立役者。P2Pの実現により、電力取引の常識を覆すとともに脱炭素社会実現への貢献を目指す。

「〝脱炭素社会〟というキーワードがエネルギー業界の流れを大きく変えた。金融業界に大変革をもたらしたFinTech(フィンテック)の勃興期と同じような雰囲気になってきた」と語るのは、東京電力ホールディングス(HD)傘下のTRENDE(トレンディ)の妹尾賢俊社長だ。
マネオを創業 お金の流れを可視化
お金を投資したい人と借りたい人をインターネットで結びつけるソーシャルレンディング事業の日本における先駆け「maneo」(マネオ)の創業者として名をはせ、フィンテックの雄とも言われた妹尾社長が、電力業界に飛び込んだのは2017年のこと。東電HDの新成長タスクフォース事務局勤務を経て、18年8月の同社発足と同時に社長に就任した。
以来、新電力として電力小売りサービスを手掛ける一方で、ブロックチェーン技術を活用したP2P(ピア・トゥ・ピア)により、電力の個人間取引を実現するべく技術開発や実証事業に取り組んでいる。
大学卒業後は、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)でコーポレートファイナンスなどを担当。10年間勤務した後に退職し、海外で既にビジネス化されていたソーシャルレンディングを手掛けるマネオを創業した。金融機関が間に入ることで、見えづらくなっているお金の貸し手と借り手の結びつきを可視化できないか―。そんな思いが、業界の常識を覆すサービスを生んだ。
その後も、金融業界ではサービスと情報技術を融合した革新的な商品を扱う企業が次々と誕生し、盤石だった大手都市銀行の存在を脅かすような改革のうねりとなった。マネオの創業はその大きな起点となったと言え、「お金の流れを民主化できた」と自負する。
電力業界への転身は、マネオの共同創業者で、一足早く東電HDの新成長タスクフォースに参画していたジェフリー・チャー氏(現TRENDE会長)からの誘いがきっかけだ。17年2月、オーストリアのウィーンで開催された、欧州のブロックチェーン・ベンチャーが主催するイベント「Event Horizon」に参加し、そこでブロックチェーンによる電力取引の実現に向け、世界が動き出していることを目の当たりにし、日本での事業化を決意した。
今のところ、TRENDEの主力事業は、低料金を訴求した「あしたでんき」、屋根置きの太陽光パネルとセットで環境性と低料金を両立させる「ほっとでんき」の2ブランドを展開する新電力ビジネスだが、会社設立の当初の目的であるP2P取引の社会実装に向けた布石も着々と打っている。
P2Pとは、電力網につながる住宅や事業所、電動車間での電力取引を自律的に可能とする次世代電力取引システム。電力会社を介さずに取引するプラットフォームを整備することで、電力の売買をより効率化できる仕組みとして期待されている。
昨年は、東京大学やトヨタ自動車などと共同で、トヨタの東富士研究所(静岡県裾野市)と、その周辺エリアに住むトヨタ従業員の住宅20軒の間で電力を取引する実証実験を実施した。
実証内容は、家庭や事業所の電力消費と太陽光パネルの発電量予測に応じて、電力取引所に買い注文と売り注文を出し、取引所に集約された買いと売りの注文を一定のアルゴリズムでマッチングさせ、個人間の電力売買を成立させるというもの。
「取引のアルゴリズムを精緻化し、その精緻化されたアルゴリズムを活用した取引により、再生可能エネルギーの効率的な利用と、電気料金の低減を達成できるかがポイント。P2Pを導入しない場合よりも、全家庭で電気料金が下がるという結果を得られた」
実証のための実証事業で終わらせるつもりはなく、次の目標はP2P取引の社会実装だ。具体的な規模やエリアは未定だが、24年度をターゲットに見据えている。そのためには、さまざまな関係者との協力は欠かせない。今回実証事業を共同で行ったトヨタや、蓄電池で高いシェアを持つ伊藤忠商事といったパートナーと、いかに足並みをそろえて取り組んでいけるかがますます重要になる。
再エネ自家消費率を高め 脱炭素社会実現に貢献
P2P取引が可能になれば、家庭に太陽光パネルと蓄電池を備えることで、再エネの自家消費率を高めるとともに余剰電力をほかの家庭に販売でき、CO2排出量削減の一助となる。それは、政府が掲げる「実質ゼロ」を後押しすることにほかならない。
「脱炭素化を軸に、エネルギーの世界にも金融業界に起きたのと同じようなビッグバン(大改革)が起きる条件がそろいつつある」と語る妹尾社長。従来の概念にとらわれない新しい形の電力取引が、業界を変革するとともに新たなビジネスチャンスを生むと確信している。

