エネルギー産業を支える 気象庁の数値予報モデル

【気象データ活用術 Vol.3】加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表

前回のコラムでは、再生可能エネルギー発電予測開発における時間軸の概念を紹介した。太陽光や風力といった自然変動電源の発電予測をするためには、未来の時間軸―すなわち、未来の日射量や風の予測データが必要となる。そこで今回は、再エネ発電予測で使われる気象庁の数値予報データについて解説したい。

数値予報とは、地球大気や海洋・陸地の状態の変化を、数値シミュレーションによって予測計算する技術だ。地球を細かい格子に分割して、それぞれの格子である時刻の気圧や気温、風や水蒸気量などの気象要素を表現する(図参照)。格子を細かくすると膨大な計算量が必要となるため、気象庁は高速な計算処理を行えるスパコンを導入して数値予報を運用している。

地球大気を格子状に区切ったイメージ

数値予報を行うためには、まず大気の初期状態を表すデータ=初期値を作成する必要がある。気象庁は日本国内だけでなく世界各国の観測データを収集し、さらに衛星観測やレーダー観測なども活用して大気の初期状態を解析し、初期値を作成する。この初期値からスタートし、大気の物理法則に基づいて各気象要素の時間変化を計算していくことで、未来の大気の状態を予測することができるという仕組みだ。

なお、数値予報は現代の天気予報において欠かせない存在だが、それだけで天気予報ができるわけではない。数値予報は気圧や気温などの気象要素で未来の大気の状態を表すにとどまるため、われわれが普段目にする天気や最高・最低気温などの天気予報を作るためには、数値予報の計算結果を天気予報に翻訳するという作業が必要となる。この作業を行うのが気象庁予報官の重要な仕事だ。また統計学やAIの技術も活用されており、これについては別途解説する機会を持ちたい。

話を戻して数値予報データは天気予報だけでなく、さまざまなビジネスや社会課題の解決のために活用されている、もしくは活用するポテンシャルがあるデータだ。気象庁が国土交通省の外局であることは周知の事実だが、やはり航空機や船舶の運航など交通分野では以前から数値予報データが活用されている。比較的最近の活用事例としては、食品の需要予測や飲食店の来客予測などがあげられる。そして再エネ発電予測も、こうした数値予報データの活用実績の一つに数えられる。

数値予報の予測技術は発達を続けており、予測精度も年々上がってきているが、それでも予測の不確実性が存在する。主な理由は二つあり、数値予報モデル自体が完全ではないこと、そして初期値が完全ではないことだ。初期値に含まれる誤差は予報時間が先になるにつれ非線形に大きくなることが知られており、日単位の天気予報は2週間先が限界だろうと言われている。ただし、この弱点を逆手に取ったアンサンブル予報という手法も開発されており、これも別の機会に紹介したい。 気象予測技術は、スパコンの進化やAI技術の応用により進歩を続けている。エネルギー産業にとっても強力な武器であり続けるだろう。

かとう・よしき/ふみよ 気象データアナリスト。ウェザーニューズで気象予報業務や予測技術開発に従事。エナリスでの太陽光発電予測開発などの経験を生かし、2018年から「Weather Data Science」として活動。

・【気象データ活用術 Vol.1】気象予測を応用 電力消費や購買行動を先読み

【気象データ活用術 Vol.2】時をかける再エネ予測開発⁉ 三つの時間軸を俯瞰する

泊3号機がようやく合格へ 地震・津波で新規制基準が強く影響

かつて適合性審査の先頭集団を走っていた北海道電力の泊3号機が、ようやく事実上の合格を手にした。原子力規制委員会は4月30日、同サイトを「合格」とする審査書案を了承。今後はパブリックコメントの検討などを経て、夏ごろにも正式に合格する見込みだ。

審査申請から12年もの月日が流れた泊原発

審査申請から約12年─。同時期に申請した関西電力、九州電力のサイトと比べて、審査は長期間に及んだ。新規制基準の影響を最も強く受けたと言っても過言ではない。断層審査では、敷地造成時に火山灰層が消失していたことで活動性の否定に時間を要した。また北電は盛り土構造の防潮堤を自主的に建設していたが、規制委からの指摘を受け、岩着支持構造のより安全性の高い新たな防潮堤を立て直すことに。元規制庁関係者は「二度手間となったが、元の防潮堤も津波を防ぐという点では悪くなかった」と北電の努力を認める。新防潮堤は昨年3月に建設を開始し、3年程度の工期を見込む。

北海道では最先端半導体の国産化を進める国策企業ラピダスが、27年をめどに量産を目指している。半導体製造には安定的に大量の電力供給が必要で、「ラピダスの操業と再稼働はセット」(自民党経産族)というのが大半の見方だ。

北電は泊3号機を24年度の長期脱炭素電源オークションで落札し、今年度に新たに保証対象となった安全対策工事費を織り込んだ。同社は「27年のできるだけ早期」の再稼働を目指す。防潮堤建設や地元同意、運転差し止め訴訟などがスムーズに進むことを願うばかりだ。

業界にとって吉か凶か どうなるEV時代の自動車税制

【業界紙の目】村田浩子/日刊自動車新聞社記者

今年末に控える税制改正議論は、EV時代の自動車税制の在り方を示す重要な場となる。

中でも電動化で将来的な減収が見込まれる燃料課税をどう補うかが大きな焦点となりそうだ。

日本の税制度は、毎年末に政府・与党内で議論した結論を「税制改正大綱」や改正法案に反映し、それを翌年の通常国会で成立させ同年4月から実施する。自動車関連の税制は、租税特別措置(租特)である「エコカー減税」の見直しに合わせて議論されており、今年はその議論を行う〝表年〟に当たる。

長年、自動車業界は表年に向け減税と簡素化を強く訴えてきたが、今年は例年以上に重要な1年と位置付ける。前回の表年、2022年末の与党大綱において、電動化や「所有から利用へ」といったモビリティの広がりを踏まえた新しい税体系について「次のエコカー減税の期限到来時(25年)までに検討を進める」という一文が入ったためだ。

戦後から50年以上大きく形を変えることなく維持されてきた現在の税体系を大きく切り替え、新たな道筋を付ける年になる。議論の行方次第では、自動車業界にとって、チャンスにもピンチにもなり得る局面にある。

減税を求める自動車ユーザーの声


税収減にどう対応するか 財務当局とのつばぜり合い

議論の中で最も重視しなければいけないのはEVの普及だ。日本の新車販売におけるEVの比率は数%に満たないものの、政府目標である「50年カーボンニュートラル達成」に向け、自動車メーカーはEVの新型車投入を積極化している。ガソリンが不要なEVの保有台数が増えていけば、自然と燃料課税は減収していくことが予想される。

自動車関連の税収は年間約9兆円(24年度当初、消費税含む)で、国の税収の約1割。内訳は車体と燃料でほぼ半々だ。業界や課税対象は違うものの、車体と燃料は「自動車関係諸税」とくくられることが多く、財政当局は燃料税収の目減り分を車体課税で補うことを狙っている。

実際、22年末の与党大綱には「自動車関係諸税全体として」との記載をはじめ、電動車シフトによる燃料税収の目減り分を車体課税で埋めようとする財政当局の周到な地ならしも随所に見られた。自動車業界としては、減収分を車体課税に付け替えられることだけは避けたい考えで、年末に向け激しいつばぜり合いが繰り広げられそうだ。

また、現在の車体課税は内燃機関車を前提に、エンジンの排気量で課税基準を定めており、ガソリンを必要としないEVでは新たな基準が必要だ。そこで自動車メーカー団体の日本自動車工業会(片山正則会長、自工会)は、新しい課税基準として、①取得(購入)時にかかる「環境性能割」を廃止し「消費税」に一本化、②保有課税である「自動車税」「自動車重量税」を一本化し、課税基準を「重量と環境性能」に切り替える―という二つの案を打ち出した。①では税の簡素化を求め、②では具体的には、パワートレインを問わず一律で車重をベースに課税額を決め、これにCO2排出量などの環境性能に応じた係数を掛け合わせ、税額を増減させる考えだ。

電気ガス代補助再開の愚策 求められる省エネ支援への転換

「政府による電気・ガス代の補助は、いい加減やめるべきだ。価格が高騰していない中で、補助金の再開は選挙対策以外の何ものでもない」

政府・与党が物価高対策の一環として7~9月の3カ月間、電気・ガス代の補助を再開することを巡り、大手電力会社の幹部はこう批判をぶちまけた。

省エネ型エアコンは高額。買い替え補助への期待は大きい

これまで政府は、この3年間で3回にわたって電気・ガス代の補助を行ってきた。最初は2023年1月~24年5月に「電気・ガス価格激変緩和対策事業」として、家庭向け低圧料金で1kW時当たり7円、企業向け高圧料金で同3・5円、ガス料金で1㎥当たり30円の補助からスタート。この時は3兆数千億円の予算が計上された。

その後、補助額は段階的に引き下げられながらも、24年8月~10月に「酷暑乗り切り緊急支援」で約2124億円。25年1月~3月には「電気・ガス料金負担軽減支援」で約2000億円規模の予算が使われた。総額では4兆円に達すると見る向きも。そして今夏の復活だ。

「1家庭で1000~2000円程度の電気代を補助したところで、多額の国費投入に見合った効果が得られるのか大いに疑問。特にガスは、夏場にはただでさえ使用量が少なくなるため、数百円程度の支援にしかならない。それなら数千億円の予算で、高効率エアコンや高効率給湯器などへの買い替えを支援したほうが、よほど経済効果が期待できる」(前出幹部)

5月22日から始まったガソリン1ℓ当たり10円の補助を巡っても、同様の問題があるのは言うまでもない。

価格下落時になぜ増産? サウジが石油政策を軌道修正

【マーケットの潮流】橋爪吉博/石油情報センター事務局長

テーマ:原油価格

原油価格に下落圧力がかかる中、OPECプラスの有志国は増産継続を決定した。

主導するサウジは、価格が下がってでも世界シェアの確保を目指す方針だ。

5月3日、石油輸出国機構(OPEC)プラスの有志8カ国(サウジアラビア、ロシア、イラク、アラブ首長国連邦、クウェート、カザフスタン、アルジェリア、オマーン)は、ウェブ会議を実施し、5月に続き6月についても、原油生産量の追加自主減産の緩和、すなわち日量41・1万バレルの増産を合意した。

8カ国は、2023年4月にOPECプラス全体としての減産合意とは別に、自主的・追加的な日量220万バレルの減産を実施してきたが、今年4月から来年9月末まで、18カ月をかけてこの減産を解消する予定であった。ところが、4月3日、5月分の減産緩和(増産)量を予定の日量14万バレルから、3カ月分に相当する日量41・1万バレルに拡大、今回これを6月分についても、継続することにした。

OPECを含め、国際エネルギー機関や大手金融機関などが、こぞって今年の世界経済の低迷、非OPECプラス産油国の増産に伴う需給緩和拡大による価格軟化を予想していた。その後、米トランプ政権の関税政策に伴う世界経済の後退観測がこうした予測に拍車をかけた。そんな中、予定の3カ月分に相当する増産を2カ月連続で決めたことで、WTI先物価格は4月初めの70ドル台前半から、5月に入ると60ドルを切るなど、原油価格は軟化を続けている。

増産合意で原油安は続きそうだ


トランプ関税で一転 シェア・生産量を重視

確かに年明けから3月まで、予想外に原油価格は堅調で、先進国の商業在庫も平均を下回っていた。対ロシア、対イランの経済制裁強化や原油輸入相手先であるメキシコ、カナダへの追加関税が原油の供給懸念を生み、価格上昇要因として作用していた。さらに有志8カ国は、増産分はOPECプラスにおける合意違反となる「超過生産国の減産分」の相殺範囲内であるとする。しかし、一時停止されたものの、4月2日に発表された米国による主要貿易相手国への相互関税は世界経済の景気停滞観測を招き、需要減速見通しを加速させたことは間違いない。原油価格軟化も当然である。

こうした環境下にもかかわらず増産を決定した背景には、サウジの政策転換があると言われる。8カ国会議直前にサウジは友好国に対し、原油安には長期間対応可能であるとして増産を通告していたとの報道があり、OPECプラス参加国の違反増産が続く中、サウジは従来の需要に応じて生産する調整役(スイングプロデューサー)を止め、自国優先のシェア重視・生産量重視に転換したとの見方が有力である。まさにその通りだろう。

一部にサウジは増産によって石油収入の増加を図ろうとしているとの説明も見られるが、話はそう簡単ではない。石油収入は原油価格と生産量の積で決まる。したがって、10%増産しても、10%以上の価格低下があれば、石油収入は減少する。今回の場合、明らかに価格低下幅の方が大きい。とすれば、なぜサウジは確信犯的に、原油価格が下がっても増産・シェア確保を目指したのか。

一つには、OPECプラスにおけるリーダーシップ強化の意図があろう。カルテル組織において生産協定違反の増産は許されない。リーダーとして、違反国に懲罰を与えなければ、組織の結束・協定の順守は図れない。そこで、増産により価格を意図的に下落させ、結束の回復を図った。産油国にはカルテルに参加しない選択肢もあるが、主要産油国が参加・需給調整しないと原油価格は安定しない。プライステイカーに止まるか、プライスメーカーの一員になり得るかの違いである。

また、サウジの石油収入を考える場合、さらに時間軸を考える必要があろう。サウジは、石油収入を原油価格・生産量・時間軸の3次元で考えているものと思われる。石油収入の長期的極大である。

ユーザー自らガス検知器を点検 現場作業の効率化をサポート

【理研計器】

ガスインフラの維持に欠かせないガス検知器。現場に出向くときには欠かさず携帯するものであり、作業時に手元にないと困る機器だ。そんなガス検知器の利便性が大幅に向上する設備として、理研計器はガス調整器「SDM―230」の販売を開始した。同製品は、同社のポータブル型ガスリーク検知器「SP―230」シリーズの定期点検やバンプテスト(使用前点検)をユーザー自らが短時間で行えるもので、短時間で点検してすぐに利用できるのが特長だ。

点検時間とコストを大幅に削減

従来、定期点検時には理研計器宛てに検知器を送り、点検後に送り返してもらっていたため、2週間程度の時間を要していた。これがSDM―230を利用すると、定期点検は約5~10分程度、バンプテストは約2~4分と短時間で済ませることができるため、すぐに利用可能だ。

部品交換などを伴うオーバーホール点検も自前で可能。センサーやポンプなどの必要な部品を注文、現場で部品交換、SDM―230で定期点検を実施すれば完了する。

点検は、最大5台まで連結して実施することが可能で、効率的に作業できるのも魅力だ。


デジタル管理が可能 メーカー無償修理を保証

点検結果のデータ管理など、ソフト面においても大きな進歩を遂げた。付属のPCソフトと連携すれば点検履歴の確認や「点検成績表」、「機器管理表」を発行できる。点検成績表で不具合が示された場合には、同社が販売するガスボンベの登録番号が記載されていることなどいくつかの保証条件に適合すれば、定期点検日から3カ月以内なら、必要な修理を無償で行うメーカー保証がついている。

また、エクセルで出力可能な機器管理表には、最終バンプテスト日、最終定期点検日、次回点検日の情報などを取り込むことができ、ガス検知器の管理における一連の工程を確認できる。

このように、SDM―230は点検時間の削減、機器管理の向上だけでなく、点検コストや作業の削減にも寄与する。一定期間預けておく必要がなくなったため、代替機も不要となり、送付作業や料金の負担なども軽減できる。

労働人口の減少による人手不足の拡大が懸念される中、効率的な作業の促進は急務だ。そうした取り組みを支援する同製品は今後ますます需要が高まっていくだろう。

減益目立つ24年度エネ決算 不確実性対応で明暗分かれる

電力、ガスなど主要エネルギー各社の2024年度通期連結決算(25年3月期)が出そろった。売上高は業種や地域によってばらつきが見られた一方、経常利益は総じて減益が目立った。燃料価格の下落に伴う販売価格の低下に加え、物価高によるコスト増が収益を圧迫した格好だ。こうした傾向は来期も続くとみられ、26年3月期の業績見通しでは、多くの企業が減収・減益を予想している。

苦境が続く東京電力HDの小早川社長

まず、大手電力10社については、記録的猛暑や厳冬を背景に冷暖房需要が増加し、電力販売が伸びた地域が見られた。これらの影響を受けた、北陸、関西、四国、九州、沖縄の5社の売上高は過去最高となった。

一方で、経常利益を見ると、前述の燃料価格の下落に伴う燃料費調整額に減少により、四国と沖縄を除く8社で前年を下回る結果となった。販売量の伸びでは補いきれず、採算が悪化した形だ。中でも減益幅が際立ったのが東京で、経常利益は40%減の2544億円に落ち込んだ。柏崎刈羽原発の再稼働が進まないなど先行きが見通せず、大手電力の中で唯一、26年3月期の業績予想の公表を見送った。


都市ガス各社で減収傾向 変動要因への対応が鍵

都市ガス各社は、LNG販売量が低下したことで減収傾向が顕著に。経常利益に関しても、主要6社のうち西部を除く5社が減益となった。中でも東京は、前期に豪州のLNG子会社売却による特別利益を計上した反動や、北米シェール事業の収益停滞が響き、経常利益が49%の大幅減となった。唯一増益となった西部は、売上高こそ減少したものの、ひびきLNG基地の減価償却費の減少などが寄与し、経常は2・3%増となった。

LPガス関連ではニチガスとTOKAIが増収増益。ニチガスはガス販売量こそ減少したものの、電気事業とプラットフォーム事業が大きく伸び、最終利益は115億円と過去最高益となった。TOKAIもグループ顧客の増加や情報通信事業の拡大、不動産部門で好調が追い風となり、売上高と経常、最終利益のいずれも過去最高を更新した。また、岩谷産業は工業用LPガスの販売増と高値で推移した輸入価格が下支えとなり、売上高は4・1%増、経常は1・3%減となった。

石油元売り大手3社は、アメリカの関税措置などを背景に原油価格が下落したことで各社とも保有在庫の評価損を計上。ENEOSではこれらに加え、M&Aに伴う「のれん」の減損処理が大幅減益の要因となった。 一方、アブダビなどの油田権益を有するコスモエネルギーHDは、円安の恩恵を受け石油開発部門で141億円の増益。これが全体の利益を押し上げた。

26年3月期も、燃料価格の不透明さや物価高が事業環境を大きく左右するとみられる。各社にはこうした不確実性に柔軟に対応しながら、収益基盤の強化を図る姿勢が求められる。

「蓄電池祭り」の様相呈す入札2回目 将来の脱炭素電源の確保に黄信号

4月28日、電力広域的運営推進機関は第2回長期脱炭素電源オークションの約定結果を公表した。

初回よりも蓄電池の競争率がさらに激化し、大規模電源は応札そのものが低調。制度の意義が改めて問われている。

この制度により、将来の供給力を脱炭素電源で安定的に確保するという目的を、本当に達成することができるのか――。

2回目の長期脱炭素電源オークションの約定結果を巡り、エネルギー業界からはこのような危惧の声が吹き上がっている。

同オークションは、電源をリプレース、新設する上で課題となる長期的な投資予見性を高め脱炭素電源投資を促進しようと、2023年度にスタートしたもの。容量市場のメインオークションが単年度の供給力に対する支払いであるのに対し、原則20年にわたり固定費相当の収入が保証される。

他市場収益の9割を還付することが条件だが、マーケットからの収入が不透明である以上、事業者にとって利益が確約される利点は大きい。大手電力関係者は、「決して万全な制度ではないが、老朽火力のリプレースなど電源の新陳代謝を促せる」と、一定の期待を寄せる。

2024年度の約定結果 (出典:電力広域的運営推進機関)


脱炭素改修は低調 蓄電池は権利転売の動き

では、憂慮される点はどこにあるのか。

同オークションでは、電源種を大きく「脱炭素電源」と「LNG専焼火力」に分けて募集する。今回の結果を受け、特に業界関係者が問題視しているのは、脱炭素電源のうち「既設火力の水素・アンモニア混焼への改修」が四国電力の西条発電所1号機1件(9・5万kW)にとどまり、前回の6件(82・6万kW)に続き低調に終わったことだ。片や蓄電池が大量に約定し、それによる弊害が懸念される。

というのも、第2回入札では「蓄電池・揚水」が運転継続時間によって「3時間以上6時間未満」と「6時間以上」に分けて募集された。初回の約定結果を踏まえ、新規に開発することが難しい揚水の温存をサポートするのが狙いだ。ところが、実際に落札できた揚水は関西電力の奥吉野発電所1、2号機(計36万kW)のみという結果に。

その要因は「6時間以上」の枠でさえ、揚水の価格水準では太刀打ちできない低価格で蓄電池による応札があったことだ。

当落水準は3時間枠で1kW当たり1万円台前半、6時間枠でも2万円台前半ほどと推定されており、いずれも「極端なことをしない限り無理だ」と言われた前回の2万4000~2万5000円を下回る水準。これには前出の大手電力関係者も、「落札した中には、稼働させる意思がない事業者がいる。われわれには思いもよらないことをする人たちに、市場を荒らされている」と不信感を募らせる。

それだけではない。既に初回で落札された蓄電池では、権利の転売ビジネスが始まっているとの情報もある。確かにオークションの約款では、電力広域的運営推進機関の承諾を得た上で、契約を他社へ承継することが認められている。だが、アグリゲーター事業者の一人は、「20年間という契約期間中に、事業者が廃業したり、事業から撤退したりといったケースに備えるのが本来の趣旨。運用開始以前からの転売ビジネスを想定したものではなかったはずだ」と言い、予期しなかった事態だと強調する。価格の妥当性や事業者の参加資格の精査を含め、早急に手を打つことが求められる。

【静岡ガス 松本社長】積極投資で事業を拡大 収益増と変革を両立し包括的施策で公益担う

都市ガスに加え、再エネや住宅再生、海外展開など事業の多角化を進めている。

包括的なサービスで地域のニーズに応えながら、人材育成や株主還元にも取り組み、持続的な企業価値の向上を図る。

【インタビュー:松本尚武/静岡ガス社長】

まつもと・よしたけ 1993年大阪大学理学部卒、静岡ガス入社。2020年静岡ガス&パワー社長、22年南富士パイプライン社長、23年静岡ガス常務執行役員経営戦略本部長などを経て24年1月から現職。

井関 まずは、2024年12月期決算のポイントと評価についてお聞かせください。

松本 24年度は、前年度と比べ大幅な減益という結果になりました。ただこれは、23年度が燃料費調整の期ずれ差益による増益効果が大きかったことの裏返しで、これを補正すると経常利益が23年度は108億円、24年度は116億円と、実質増益となります。それぞれに一過性の増益要因があったことを考慮しても、着実に成長できていると捉えています。

井関 一過性の要因とは。

松本 為替変動や市場の不安定さなどです。例えば、当社が出資している愛知県田原市のバイオマス発電事業では、原料を長期で為替予約して調達しています。ドル建てのため、近年の円安傾向により評価益を計上しました。また昨年、需給調整市場で全商品区分の取引が開始となり、当社グループも参加しています。所有する電源を活用し落札することができましたが、市場は創設されたばかりであり、継続的に落札できることを見通し難いため、これらを抜きにした実力をいかに底上げしていくかが重要です。

井関 そうした要因がなくても、経常利益は増加しています。

松本 都市ガスの大口分野の販売拡大が増益につながりました。第7次エネルギー基本計画では、天然ガスは化石燃料の中で温室効果ガスの排出が最も少なく、カーボンニュートラル実現後も重要なエネルギー源と位置付けられました。産業界において、天然ガス転換へのニーズが高まっていることは追い風です。実際、当社にも、設備更新のタイミングで燃転を要望する声が多く寄せられています。

井関 今後、家庭用や卸売りの販売量はどう推移していくでしょうか。

松本 家庭用に関しては横ばい、もしくは漸減していくと予想しています。人口減少や核家族化に加えて、給湯器や住宅の断熱の性能が飛躍的に向上していることを考えると、家庭部門における販売量の微減傾向は致し方ない部分もあります。卸先への販売量も減少傾向です。都市ガス小売りの全面自由化で、大手電力会社などの新規参入が進んだことによる影響を受けており、今後もこの傾向は続くと予想しています。この点は中期経営計画にも織り込み済みです。

過去には大規模停電が発生 文明社会を揺るがす「宇宙天気」

【今そこにある危機】久保勇樹/情報通信研究機構[NICT]電磁波研究所電磁波伝搬研究センター 宇宙環境研究室 副室長

太陽フレアは通信や電力に深刻な影響を与える可能性がある。

宇宙での現象が地上の暮らしを脅かすメカニズムとは─。

太陽フレアは太陽の黒点周辺で発生する突発的なエネルギー解放現象だ。黒点とは、太陽表面に現れる黒い斑点のことで、周囲よりも温度が低く、強い磁場が集中している。黒点周辺に蓄積された磁場のエネルギーが、何らかのきっかけで不安定になり、磁力線のつなぎ換えによって爆発的に解放されるのだ。フレアが発生すると、大量の電磁波(X線、紫外線、電波など)や水素原子核などの高エネルギー粒子(太陽放射線、太陽エネルギー粒子、プロトンなどと呼ばれる)、コロナガス(太陽の一番外側の大気を構成するガス)が放出される。

NICTで観測した太陽フレア
提供:情報通信研究機構

太陽フレアをはじめとする太陽活動は、われわれの生活にどんな影響を与えるのか。地球の上空は、航空機の航路が高度10㎞ほどで、高度約60㎞から1000㎞にかけては、紫外線やX線によって大気分子が電離した「電離圏」が存在する。電離圏は電気を帯びた粒子(イオンや電子)が多く存在するため、電波の伝搬に影響を与えている。さらにその先には「磁気圏」と呼ばれる磁力が支配する領域が広がっている。方位磁石が南北を指すように、地球は磁力を持っている(地磁気)からだ。

太陽フレアで発生した電磁波や高エネルギー粒子、コロナガスは、電離圏や磁気圏に影響を及ぼす。電波や衛星などに大きく依存している現代社会で電離圏や磁気圏が乱れると、人工衛星の障害、誘導電流による送電網の異常、通信障害、全地球測位システム(GPS)の誤差などを引き起こすことがあり、警戒が必要だ。

そのメカニズムと実例を具体的に見てみよう。


航路の迂回措置も 送電線に誘導電流

太陽フレアが発生し、8分20秒ほどで地球に到達するのが電磁波だ。X線や紫外線は電離圏に吸収され、電離層の状態は急激に変化する。これにより、短波通信の障害(電波吸収によるブラックアウト)や、GPSなどの誤差が生じる可能性がある。一方、太陽から放射される強力な電波も、GPSに悪影響を与える。地球の電波観測機器にノイズとして混入し、観測を妨害、GPS信号に干渉し、測位精度を低下させかねない。

次に、フレア発生から数十分~数時間で高エネルギー粒子が到達する。もし高エネルギー粒子が人工衛星に衝突すると、電子回路の誤作動や故障、太陽電池パネルの劣化などを引き起こし、衛星の運用に支障をきたしかねない。

高エネルギー粒子は地球の極域に降り注ぎやすく、北極や南極上空を飛行する航空機では、直接の健康影響はないものの、乗務員や乗客の被ばく線量がわずかに増加する可能性がある。このため、大規模な太陽フレア発生時には、航空会社が極航路をう回する措置を取ることがある。極域の電離圏をかく乱し、無線通信に障害を引き起こすこともある。

【コラム/5月28日】洋上風力発電を考える~画餅の国策なのか

飯倉 穣/エコノミスト

1、無資源国の洋上風力期待

カーボンニュートラル(CN)実現に再エネ導入拡大で、この国は太陽光と風力期待である。風力は、陸上適地少なく、海域利用に国運を賭けている。第7次エネルギー基本計画(25年2月)は、洋上風力発電を30年度10百万kW、40年度30~45百万kWを掲げた。そして再エネ海域利用法で公募選定を21年以降3回実施し4.6百万kW(含む他案件5.1百万kW)を確保した。まさにビジョンを掲げ、洋上風力開発競争市場を創設し、意欲的に企業を誘導する手法が功を奏した感があった。

そこに物価高騰の風が吹いた。「国内洋上風力発電事業に係る事業性再評価についてのお知らせ」(三菱商事2月3日)だった。報道もあった。「洋上風力日本も試練 三菱商事損失522億円4-12月 調達建設コスト上昇 米欧で撤退相次ぐ」(日経2月7日)、「三菱商事洋上風力で減損522億円撤退可能性言及避ける」(朝日同)。

暫くすると、「洋上風力 より高値で売電 指針見直し 三菱商事落札の3海域」(日経3月14日)となった。事後的なルール変更に首を傾げる開発事業者もいた。他の分野の専門家から洋上風力導入計画の妥当性に対し疑問提起もあった(IEEI掲載提言4月21日)。洋上風力開発の意義と今後の推進策を改めて考える。


2、洋上風力の可能性

日本の風力発電は、24年12月末累積導入量2720基、584万kW(日本風力発電協会)である。国内発電電力量の約1%を占める(エネ庁集計発電量23年度9,215百万kWh)。これまで陸上風力主体に開発が進んだ。陸上風力159百万kW可能の風呂敷流試算もあるが、立地絡みで先行き限界の指摘もある。

そこで日本列島を囲む海洋に注目が集まる。洋上風力の可能性は、着床式128百万kW、浮体式424百万kW(日本風力発電協会)という見方である。同協会は、2050年風力発電140百万kW(陸上風力発電40百万kW、着床式洋上風力発電40百万kW、浮体式洋上風力発電60百万kW)を開発し、全発電電力量の1/3を風力発電で賄うことを目指している(陸上700億kWh/年、洋上2628億kWh/年、計3328億kWh/年)。

このような見方の後押しを受けてか、第7次エネ基本計画は、再エネで、洋上風力発電の位置を強化した。再エネ期待は、電力供給で、3,800~5,800億kWh(全発電量10,800~12、000億kWh)で、シェア35~50%程度を目論んだ。内訳は、太陽光23~29%、風力4~8%(440~960億kWh)である。因みに原子力は、重要性の認識違いで20%程度(2,100~2,400億kWh)と過小だった。

先行き、再エネでは、太陽光が邁進中ながら、やや開発難になりつつある。地熱発電は、開発者が寡少である。陸上風力は、生態系への影響等で建設難が見える。そこで基本計画は、白地(シロジ)の洋上風力に傾斜である。案件形成に躍起である。その裏付けとなる発電単価試算は、技術革新ケースで、低位、陸上風力12~25円/kWh程度、洋上風力18~38円/kWh程度、高位、陸上風力11~23円/kWh程度、洋上風力12~26円/kWh程度だった。

捕らぬ狸の皮算用ながら、40年のエネ需給見通し(複数シナリオ)は出来上がった。その先のCN実現の姿を考えると、経済水準維持に必要な電力量1兆kWh超確保のためには、国土条件から見て、原子力4000億kWh、太陽光3000億kWh、出来るなら風力発電2000億kWhというイメージがある。つまり風力発電は、現状の20倍の発電量願望となる。

脱リチウムで発火リスク低減 次世代電池の導入にも意欲

【技術革新の扉】ナトリウムイオン型バッテリー/エレコム

世界で初めて、モバイルバッテリーにナトリウムイオン電池を採用した。

従来型の課題を克服し、「高い安全性」と「低環境負荷」を実現している。

外出時の必需品になりつつあるモバイルバッテリーだが、近年発火事故が相次いでいる。こうした状況に危機感を強め、「発火しづらいモバイルバッテリー」の実用化に成功したのが、同分野で国内トップシェアを誇る電子機器メーカーのエレコムだ。1986年の創業以来、ファブレスメーカーとしてPC・スマートフォン関連の製品開発から調達、販売を手掛けてきた同社は、EVや蓄電池用途の電池開発で最先端を走る中国の協力ベンダーからナトリウムイオン電池を調達。熱暴走リスクの低い同電池をモバイルバッテリーに用いることで、安全性の高い製品を生み出した。そして3月29日、この世界初のナトリウムイオン電池採用のモバイルバッテリーの販売を開始した。

各イオン電池の特性


リン酸鉄での経験が鍵に 安全性求め導入を決意

現在、市場に出回る製品のほとんどはリチウムイオン電池を搭載し、発火リスク以外にも、原料となるリチウム自体が希少で長期的な安定供給に不安があることや、その採掘によって土壌や生態系に悪影響を及ぼすなどの問題を抱えている。 

これに対し、同社は発火リスクの低いリン酸鉄リチウムイオン電池を採用した製品を2022年に発売するなど、モバイルバッテリーの安全性向上に努めてきた。商品開発部スーパーバイザーの田邉明寛氏は、「従来モデルの倍の価格ということもあり、発売当初は全く売れなかった。だが、徐々に認知度が高まり、安全性を評価する消費者の方々に手に取ってもらえるようになった」と振り返る。続けて、「リン酸鉄が学校などで採用されるなど、軌道に乗ったことが大きい。これにより、ナトリウムイオン型の製品化を進めることができた」と、これまでの経緯を振り返る。

イオン電池は正極、負極の間をイオンが行き来することにより充放電する仕組みだが、ナトリウムイオン電池の特徴は正極材の性質に由来する。リチウムやコバルトといったレアメタルの代わりに、高い熱安定性を持ち、かつ反応性が低いナトリウム系の酸化物を正極材に用いることで、熱暴走のリスクを抑えることができる。レアメタル使用量を抑え、「低コストかつ低環境負荷」と「高い安全性」といった特徴を兼ね備えるナトリウムイオン電池は、EVや蓄電池などにも適していることから、世界的にも開発の機運が高まっている状況だ。

世界初のナトリウムイオン導入バッテリー

それでも、これまでに同電池を採用したモバイルバッテリーの製品化が実現することはなかった。原子半径が大きく、エネルギー密度がリチウイオンの半分程度であるため、製品が重くなるといった欠点があるためだ。また、注目されてから日が浅く、特に負極材の検討が進んでいないことも、その要因だった。 課題が山積する中でモバイルバッテリーへのナトリウムイオン電池採用にこだわった理由について田邉氏は、「EVや蓄電池用途ではあるが、ナトリウムイオン電池の開発には複数の大手メーカーが乗り出している。こうした流れの中で密度や重量面での問題はクリアになっていくはず。高い安全性を誇る同電池がモバイルバッテリーの主要な選択肢になり得ると考えた」と説明。その上で、「耐久性が高く、温度範囲も50℃~マイナス35℃と広いため、寒冷地や工事現場など厳しい環境下で利用していただける点は強み」と同製品の特長を強調する。


全固体電池の導入も視野 次世代製品の開発リード

およそ半世紀にわたって技術開発が進められてきたリチウムイオン電池の性能は既に理論的な限界値に近く、大幅な改良は見込めない。加えてその価格はEV市場の動向に左右されやすく、安定性に欠ける。実際に、今年4月時点の価格はEV需要が急増した22年の7分の1程度の低水準となっている。近年のナトリウムイオン電池をはじめとした次世代電池の台頭には、こうした問題意識の高まりが背景にある。

田邉氏は今後に関して、「現時点ではナトリウムイオンを採用したが、将来的には、劣化や発火の原因となる電解液を用いない『全固体電池』の導入も考えている」とし、製品の安全性と利便性を追求していく考え。次世代のモバイルバッテリー開発をリードしていく。

【伊澤史朗 双葉町長】「除染土は首都圏での理解も重要」

いざわ・しろう 1958年福島県双葉町生まれ。80年現在の麻布大学獣医学部卒業後、実家の家畜医院に勤務し、89年イザワ動物病院を開業。2003年双葉町議会議員選挙で初当選。13年双葉町長選で初当選。現在4期目。19~21年には双葉地方町村会長を務めた。

福島第一原発事故により、いまだに大部分が帰環困難区域となっている福島県双葉町。

除染土の再生利用を巡って、県内でも受け入れの必要性を表明して話題となった。

福島県双葉町生まれ。双葉高校時代に兄が理系から文系に進路変更したことで、実家の家畜医院を継ぐと決意した。大学は神奈川県の麻布大学獣医学部へ進み、23歳で父の跡を継いだ。

父と祖父は町議を務めたが、政治の世界には関心がなかった。足を踏み入れるきっかけになったのは、産業廃棄物処分場の建設問題だった。計画の詳細を調べると、化学物質を含む廃棄物が地下水や河川を汚染する可能性があった。河川が汚染されれば、下流域の農地が壊滅的な被害を受けるかもしれない。しかし、行政は期待した対応をとらず、政治の重要性を痛感したという。結果的に、建設予定地の土地を反対住民らが取得することで、建設を阻止できた。

2003年、45歳で町議会議員に初当選した。11年3月11日は、2期目の任期の最終盤だった。福島第一原発(1F)事故を受け、翌日には町内全域に避難指示が出された。役場機能は北西約50㎞の川俣町へ移動したが、19日にはさいたまスーパーアリーナ、30日には埼玉県内加須市の廃校へと再び移動し、2年3カ月を過ごした。その間に行われた13年の町長選で初当選を果たした。

震災後、町長選への出馬どころか、町議を辞めようとさえ考えていた。避難生活が続く中、町議や役場職員には町民の怒りが直接ぶつけられ、続ける意味を見失いかけていた。そんな伊澤氏を奮い立たせたのは、「町民が大変な時に辞めるのはおかしい」という妻の言葉だった。

大幅に変わった再エネ支援策 事業に与える影響はいかに

【多事争論】話題:FIP・FIT制度の変更

資源エネルギー庁の調達価格等算定委員会が2月、再エネ支援制度の変更案を公表した。

これが、今後の各電源の導入にどのような影響を及ぼすのか。

〈新スキームには一定の期待感 懸念は需要家の行動変容か〉

視点A:加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

今回は、資源エネルギー庁調達価格等算定委員会が2月に公表した再生可能エネルギーFIT(固定価格買い取り)・FIP(市場連動買い取り)制度の議論の整理の意義と、それがもたらす影響について電源ごとに解説していく。

まず太陽光発電は、近年ではピーク時と比べ新規認定・導入量が停滞しているとはいえ、累積ベースの導入量では中国、米国に次いで世界第3位。2012年からのFITの成果が一定程度、効果を発揮したことが分かる。RPS制度(再エネ利用義務制度)から切り替わったことで事業の予見性が向上し、参入意欲を後押ししたことは間違いない。

加えて、当初、高く設定された買取価格による国民負担軽減のために、入札制度の導入や中長期のコスト目標が設定されたことが機能しコストの低減はある程度順調に進んでいる。大規模なメガソーラーの新設に適した立地があまり残されていないことを踏まえると、今後の新規の認定・導入量の拡大は屋根置き型や建材一体型、ペロブスカイトなどで対応していくことになるだろう。

そうした中で今回導入された「初期投資支援スキーム」は、屋根置き型の設置を促進する効果的な策となることを期待したい。住宅用は初期の4年が1kW時当たり24円、その後10年目までが8・3円、事業用は初期の5年が19円、その後20年目までが8・3円に設定されており、いずれも4~5年で投資回収できる価格設定、残りの期間は卸電力取引市場価格水準での設定となっている。その妥当性に関しては事業者がシミュレーションし判断するものであるが、屋根置き型のネックである投資回収期間の長さにアプローチした今回のスキームは評価すべきだろう。

気がかりなのは、屋根置き所有者である家庭や企業、自治体などが今回のスキームとオンサイトPPA(購入契約)に代表される自家消費のどちらを選択するかによってその有効性が揺らぎ得るということだ。脱炭素化を志向する企業にとって自家消費を選択すれば売電収入はないが、自社施設のCO2排出量低減や再エネ比率向上を享受できる上に、自家消費分には再エネ賦課金がかからない。

一方で今回のスキームを採用すれば、(証書などを購入する場合を除けば)施設自体のCO2排出量低減にはつながらないが、売電収入を見込める。双方に一長一短があり、所有者がどう行動するか予測が難しい。また、事業用については後期の8・3円で実際に運営費用をカバーできるかは不透明で、不十分だと感じた事業者が5年で売電を停止し自家消費に移行するケースも考えられる。とはいえ、10‌kW以上の設備を持つ事業者には11年目から廃棄費用を積み立てる必要があるため、何かしらの規律がかかるものと想定される。


対象外の判断は致し方なしか 今後の議論の進展に注目

次にバイオマスについては、チップやペレットなどを含む一般木材を用いる1万kW以上の案件とパーム油など液体燃料を用いる全規模の案件をFIT・FIP支援の対象外とするなど、大きな変化が見られた。22年以降入札がない現状では、この判断は致し方ないという印象。再エネで唯一燃料を必要とし、そのコストの変動リスクが大きいことが入札低調の要因と考えられるが、今後、短期での自立が難しいバイオマスに対する他の制度的措置や支援を含めた検討が求められる。

最後に地熱に関してだが、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)が地下資源量の調査を積極的に行う方針が示された意義は大きい。不確実性の高い地熱資源の調査にかかるコストの大きさが、導入が進まない要因の一つであるからだ。また、来年度から設備容量に応じて調達価格が逓減する「フォーミュラ方式」が採用される。これは、1kW時当たり40円であった1・5kWまでの買取価格が高すぎるという委員会の見解を反映したもの。開発リスクやコストが高い現状を踏まえたIRR(内部収益率)の設定を今後検討することになるが、配管にスケール(鉱物)が付着しやすいなど、維持管理にかかる費用を加味した丁寧な議論に期待したい。

一方で一番の問題は案件形成と稼働実績が少ないことにある。国が積極的に事業者を後ろ支えし、導入量がある程度増加しないことには、発電規模ごとの買取価格の設定や必要な収益率を推定する基となるデータが集まらない。この点は、引き続き、制度的措置や支援を講じていくことと並行して、エネ庁が4月14日に設置した「次世代型地熱推進官民協議会」で普及に向け検討を進める次世代型地熱発電の導入が鍵を握ることになるだろう。

かとう・しんいち 1999年東京電力入社。2012年から丸紅にてメガソーラー開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を手掛ける。2015年からはソフトバンクで小売電気事業に係る電源調達・卸売や制度調査を行い、2019年1月より現職。

【エネルギーのそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2025年5月号)

浮体式洋上風力のEEZ展開/アンモニアに係る高圧ガスの規制

Q 排他的経済水域(EEZ)に浮体式洋上風力を展開する際の課題は何でしょうか。

A EEZへの浮体式洋上風力の導入が期待されていますが、「沖合」、「浮体式」という二つの特質からくる課題は少なくありません。

まず、EEZは国連海洋法条約で沿岸国の経済的主権が認められていますが、公海の一部のため、設備を設置する際は条約上の他国の権利(航行、海底送電線・通信線の敷設の自由など)との整合や設置場所の通報、安全水域の確保、海洋環境の保全などの配慮が必要となります。漁業の面でもEEZ内での漁業は「沖合漁業」となり、沿岸の漁業権漁業とは漁法も規模も異なる上に、利害関係が複雑であることから関係者の理解醸成と共生をどう図るかが課題です。

浮体式洋上風力は、「設置海域が沖合遠い」「浮く=動く」「過酷な環境」「設備が大きい」という特徴を持っています。このため、環境に適し安定性と耐久性、信頼性を持った浮体構造物をはじめ係留、風車、送電の各システムの技術開発が必要ですし、厳しい環境下での施工・保守技術の開発と低コスト化も大きな課題です。また、これらを支える人材育成も重要な課題です。

大型で耐久性が求められる設備を大量かつ高速に製造する技術の確立と関連サプライチェーンの構築、船舶や港湾などのインフラの充実も必要になります。調査面でも沖合の風況観測や環境影響の調査手法の開発も必要です。

EEZにおける浮体式洋上風力の導入は、再生可能エネルギーの拡大に重要な取り組みであることから、利害調整機能を含む法制度の充実をはじめ浮体システム全体の技術開発と関連産業の育成、技術面・認証面における国際連携が進むことを期待しています。

回答者:寺崎正勝/浮体式洋上風力技術研究組合 理事長


Q アンモニアを利用する際に適用される高圧ガス保安法の規制には何がありますか。

A 高圧ガス保安法(以下「法」)は、高圧ガスによる災害を防止し、公共の安全を確保することを目的に、高圧ガスの製造、貯蔵、販売、移動、消費などの取り扱いを規制しています。

高圧ガスは法の定義によりますが、液体状態のアンモニアについては高圧ガスに該当します。一方、気体状態のアンモニアについては、取り扱われる際の温度、圧力の状態から高圧ガスに該当するかどうか判断されます。また、アンモニアは、可燃性・毒性ガスとなります。

前述の通り、高圧ガスの取り扱いは法の規制を受けます。この取り扱いの中で注意すべきものとして高圧ガスの製造があります。例えば、窒素と水素からアンモニアを合成するような場合に加え、法で定義する高圧ガスの圧力を変化(加圧または減圧)させること、気体を高圧の液化ガスにすること、液化ガスを気化させ高圧ガスにすることなど法に定義する高圧ガスの状態を人為的に生成することを広く高圧ガスの製造としています。

高圧ガスの取り扱いに係る規制の主な事項については、①都道府県知事(指定都市の長)の許可を受け、または届け出る、②技術基準の遵守、③法定資格者の選任、④検査(完成検査、保安検査、定期自主検査など)―となります。これら規制の詳細は、高圧ガスの取り扱いの種類、取扱量(処理量、貯蔵量など)、可燃性、毒性などの性質に応じて変わりますが、高圧ガスの製造に関する規制が最も厳しく、他の取り扱いに係る規制の基本になっていると言えます。なお、高圧ガスを利用する際には、高圧ガスに関する規制について理解するとともに、その運用について都道府県知事(指定都市の長)と相談することが重要です。

回答者:高圧ガス保安協会 保安技術部門