【需要家】変わりゆく原風景を前に 再エネとの共生を想う

【業界スクランブル/需要家】

札幌の実家に毎年帰る度、変わる風景に驚かされている。石狩湾周辺にはこの10年で、LNG基地や風力発電が次々に建てられ、一大エネルギー拠点となった。休日に家族と港や浜辺に出向き、一面に広がる日本海をぼんやりと眺めながら過ごした私の原風景は変わりつつある。

火力発電所や原子力発電所など、これまでの発電所は心理学でNIMBY(Not In My Back Yard)と呼ばれる、誰もが必要性は認めるが自分の住む場所の近くには建ててほしくないという感情を生じがちな施設であった。FIT制度などを追い風に増加した太陽光発電所は近年より生活圏に近い場所で見られるようになったが、ビジネスの側面が強く、発電された電力もその地域で利用されないケースもあるなど、地域に受け入れられるためのコミュニケーションが足りていない印象がある。

今後、乱開発による自然破壊や気象災害などに伴う二次災害のリスクや廃棄の問題が強調されてしまうことで発電所の押し付け合いとなってしまうのか、それとも地域の新たな風景の一部として共生できるのか、効率や収益性だけではない再エネの受容性を高めるための視点や発想も普及拡大には重要であろう。

2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、宇宙太陽光発電や浮体式洋上風力発電といった新技術の開発にも触れられている。もしかしたら数十年後には今眺めている空の姿もがらりと変わるかもしれない。絵空事として選択肢から排除してしまうよりも、それらの技術を受け入れた地域の未来の風景と、そこに暮らす人の生活像を一度真剣に描いてみるのはどうだろうか。(K)

【再エネ】衝撃のFIP転換容認 拭えぬ唐突感

【業界スクランブル/再エネ】

3月10日に政府の第31回洋上風力ワーキンググループが開かれ、洋上風力業界に激震が走った。ラウンド1においてFITからFIPへの転換が認められたからだ。

世界的な情勢変化が起きている中、洋上風力発電の電源投資を確実に完遂させるためにさまざまな議論が行われ、事業実施の確実性を高める取り組みそのものは理解できないものではない。また、FITからFIPへの転換自体は、太陽光や陸上風力で推進されていることからも、否定されるものではない。しかしながら、本件に対して釈然としない業界関係者が多いのも事実である。

その理由は、大きく分けて二つ考えられる。まず一つは、ラウンド1はFITであり、FIP転が認められることはないとの理解が一般的であったこと。そしてもう一つは、FIP転によって、ラウンド2、ラウンド3の事業者だけでなく、再エネのPPA市場全体に悪影響を及ぼしかねないとの懸念である。

今回の問題点は、丁寧な議論を経ずに突如として事後的にFIP転が認められ(たように感じている人が多い)、その結果として、ラウンド1の事業者が救われ、その他の事業者が悪影響を受けかねない構図に見えてしまいがちであることだ。そのため、それぞれの立場によって、さまざまな意見が噴出してしまったことは大変残念な状況である。

これからも事業実施の確実性を高めるためにさまざまな取り組みが予想されるが、公募における透明性と公正性を担保しつつ、事業の予見性を確保することで、事業者が安心して洋上風力発電に取り組めるよう、国には丁寧な対応を期待したい。(M)

他業種の経験糧に若手社長が牽引 小売と需要家双方に寄り添い経営

【エネルギービジネスのリーダー達】高橋優人/日本電力調達ソリューション代表取締役社長

小売り電力会社と需要家をつなぐハブとして、電力会社切り替えサポート事業などを展開。

入社から半年で社長に就任した若き経営者は、双方のニーズに応える事業運営を重視する。

たかはし・ゆうと 福岡県広川町出身。高校卒業後、2012年に九州電力に入社。7年間勤務した後、電力切り替えプラットフォーム企業など複数社を経て、24年4月22日に日本電力調達ソリューションに入社。同年9月から現職。

スーパーやホームセンターなど高圧領域の需要家を対象に、電力調達コンサルティングなどを手掛ける日本電力調達ソリューション。指揮を執るのは、入社からわずか半年で社長に就任した31歳の若手経営者・高橋優人氏だ。「需要家側だけでなく、提携先の小売り電力会社側のニーズにも目を向けるよう心掛けている」と、需要家と電力会社をつなぐハブとしての強みを生かしながら、事業運営に注力している。


電力会社と緊密に連携 柔軟な対応が好評

同社が展開する事業は大きく三つ。①電力調達や再生可能エネルギー導入におけるコンサルティング・プロセス代行、②燃料費等調整額の予測データ提供および電気料金予算作成支援、③電力会社切り替えサポート―だ。このうち好調なのが、電力会社切り替えサポート事業。単に、電気料金を抑えるだけではなく、価格高騰へのリスクヘッジなどを重視する要望に応じ、提携先電力会社各社の多様なプランから最適な選択肢を提示している。加えて、複数の需要家を束ねて同社経由で一括切り替えすることで、料金単価の低減を実現する独自の戦略も展開している。利用料が無料であることも後押しし、事業を開始した昨年4月からたった11カ月で、契約口数は約120件、電力量は約2億kW時に達した。高橋氏は「提携先の電力会社と密接に連絡を取り合い、信頼関係を築いているからこそ、要望に合わせた柔軟な調整ができる」と、他社にはない強みを語る。

切り替え後、需要家には定期的なレポートなどを通じて情報提供を行い、契約継続を促している。「電力会社は顧客の獲得だけでなく顧客との長い付き合いを求めている。双方のニーズを満たすことが重要だ」と語る。

高橋氏がアフターフォローを含めた丁寧な事業運営を重視する姿勢は、同社入社以前に得た経験に根差している。

高校卒業後の2012年、九州電力に入社。約7年間、電力の法人営業やガスの個人営業などに従事した後、電力切り替えプラットフォーム企業に転職し、その直後の22年に、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う燃料価格の高騰に直面した。

「いくつかの新電力が撤退し、需要家との契約を一方的に打ち切る場面を目の当たりにした。一方で、何とか需要家を守ろうと事業継続に踏みとどまる新電力もいた。逆風にさらされながらも創意工夫する姿勢を応援したいという思いが、この時芽生えた」と振り返る。

この思いを形にすべく、自ら経営することを決意し、23年にグロービス経営大学院に入学した。学費を工面するため、当時所属していた電力切り替えプラットフォーム企業で働く傍ら、副業として飲食店のホールスタッフのアルバイトに励んだ。

「当時は30歳手前だった。無機質にサービスを提供するだけではなく、目の前のお客さんに真に喜んでもらえるよう向き合う大切さを改めて実感した。電力業界では、契約後のアフターフォローがやや手薄になりがちな印象がある。当社ではそこを補っていきたい」と力を込める。


行動力を武器に チームに道を示す

同社は22年12月に創業した。高橋氏は昨年4月に営業部に入社。優れた営業成績と経営への強い関心が評価され、半年で社長に抜擢された。以降、ボードメンバーに支えられながら経営のかじ取りを担っている。「経営メンバーには、大手電力会社で幹部を務めた経験を持つ人物もいる。その中で、最も若く経験の少ない私がチームを率いている以上、言葉だけでなく行動と結果で示す姿勢を意識している。持ち前の行動力を活かして自ら先頭に立ち、会社の進むべき道を示していきたい。能力や知識の面で不足を感じる部分もあるが、そこは他のメンバーと補完し合いながら、役職の垣根を越えて取り組んでいく」

今後は、人材強化に積極的に取り組む予定だ。創業時のメンバーがベテラン社員を中心に構成されていたこともあり、持続的な成長を支える次世代の戦力確保が課題となっている。

「自分は異色の経歴を持っている。それゆえに経歴だけで人を判断すべきではないと考えている。優れた能力がありながら埋もれている人材にも目を向けた採用に力を入れていく」

また、各事業の売上構成を適切に分散させたポートフォリオの実現を構想している。「現在、電力切り替えサポート事業が好調だが、他の事業についてもサービス拡充などを通じ成長を図っていく」と、収益拡大に意欲を見せる。再エネ導入に限ったコンサルティングだけではなく、蓄電池などの商材も取り入れることで、需要家が抱える課題への対応範囲を広げ、ハブとしての存在感を高めていく考えだ。

核開発の裏に潜む「闇市場」 濃縮分野で暗躍した人物とは

【原子力の世紀】晴山 望/国際政治ジャーナリスト

通貨下落に伴う物価上昇を背景に、イランの3月消費者物価指数は前年比37・1%増に。

厳しい経済制裁を米国から受けてまで、核開発を断念せずに続けるのはなぜなのか。

米国のトランプ政権が日本や欧州、中国などに相互関税をかけ、世界の金融市場が大混乱に陥っている。米国との貿易がないイランは、ロシア、北朝鮮などと同様に相互関税の対象にはなっていない。だが米国による「最大限の圧力」が続く中、通貨イラン・リヤルの暴落が止まず、3月末には、とうとう1ドル=100万リヤルを割り込み、紙切れ同然になりつつある。

そんな大打撃を受けているイランが核開発に乗り出したきっかけは、イラン・イスラム革命翌年から始まったイランイラク戦争だ。混乱が続くイランをたたくのは絶好の機会だとみたイラクのサダム・フセイン政権は1980年9月、イラン侵攻を始める。虚を突かれたイランだが、果敢に反撃し、戦争は長い小康状態に入った。

最前線では、現在のウクライナ戦線と同様、双方が塹壕を掘り巡らした。総攻撃を仕掛ける際は、敷き詰められた地雷を「踏み潰し道を開く」ため、年端のいかない少年兵を大量に投入、地雷を爆破した後に戦闘車両が進軍する悲惨な闘いが続いた。テヘラン市内を歩くと、地雷を踏み命を落とした少年兵の顔写真が多く飾られている。

イラクは友邦ソ連から調達したスカッド弾道ミサイルを使った。イランは北朝鮮から同様のミサイルを調達して応戦した。イラクは、化学兵器の使用にも踏み切る。イラン軍は対抗しようと開発を始めたが、最高指導者ホメイニ師は「多くの人を殺傷する化学兵器のような大量破壊兵器は、イスラムの教えに反する」と待ったをかけた。


カーン氏率いる闇商人 80年代から中東などへ

イラン軍は同時期、化学兵器より強力な殺傷力を持つ核兵器の開発も目指し始めた。当時、世界には核兵器開発に使う機器やノウハウを売りさばく複数の集団が居た。

ひとつは、欧州の英国・西ドイツ・オランダが共同で設立したウラン濃縮会社「ウレンコ」に、ウラン濃縮用の遠心分離機や、ベアリング、真空ポンプなどの関連機器を納入するメーカーだ。欧州のメーカーが中心だ。「ウレンコ」は欧州各国の原子力発電所用に濃縮度3~5%の濃縮ウランを製造している民間企業だ。だが、この技術を軍事転用すれば、核爆弾に使う濃縮度90%以上に達する濃縮ウランの製造ができる。

ウラン濃縮用の遠心分離機「IR-1」
出所:筆者撮影

もうひとつは、「ウレンコ」の技術を盗み取り、本国パキスタンに持ち帰った人物、A・Q・カーン博士が率いる「核の闇市場」だった。博士はパキスタンの「原爆の父」と呼ばれるなど国民のヒーローだった。核兵器開発に一段落がつき、今度は、自らが培ったノウハウやネットワークを活用して巨万の富を築こうと「市場」に参入した。

闇商人たちは80年代に入り、中東諸国や北朝鮮、ブラジルなど核武装を目指す国々に相次いで接触、遠心分離機などの売り込みを図った。

カーン博士のグループが最初に標的に定めたのは、独裁者・カダフィー大佐が支配するリビアだった。84年1月、「パキスタンは核兵器開発に10年の歳月と3億ドルを費やした。これを1億5000万ドルでお分けする。開発期間も半分になる」とリビアを口説いた。だが、リビアは、現時点は十分な技術的基盤が足りないと断る。

次の標的はイランだった。メンバーであるスイス人が、87年3月にテヘランを訪問、遠心分離機のビデオを見せながら欧州製の濃縮機器の購入を強く勧めた。それから1カ月後、スイスのチューリヒ空港で落ち合い、レマン湖の見えるホテルで2度目の面会に臨む。闇市場側は、イランが核兵器を取得するまで、全ての面で面倒を見ると説明、手はじめに、分離機の設計図やサンプルを2000万㌦で売り渡すと持ちかける。

11月上旬にアラブ首長国連邦(UAE)であった3度目の会合で商談は成立するが、イラン側は、「この分離機は欧州製ではなく、パキスタン製だ」と読み切っていた。イランは隣国パキスタンを「最貧国」と見下しており、購入数は限定的だった。遠心分離機は天然ウランの中にわずか0・7%しかないウラン238を分離するための機械だ。音速を超す速度で回す制御技術が難しく、ウレンコでも日本でも、実験中に「発射台からミサイルのように飛び出してしまう」事故が相次いだ。イランも同様だった。


分離機のノウハウつかむ 鍵握るトランプ氏との関係

モスクワ・赤の広場であったナチス・ドイツ打倒を祝う戦勝50周年式典に参列した翌日、クリントン米大統領はエリツィン露大統領とクレムリンで向き合っていた。クリントン氏は「イランは核兵器開発を目指している。イラン向けの遠心分離機や原発の輸出はやめて欲しい」と要請する。ロシアは原発輸出こそ主張を曲げなかったが、分離機輸出は米国の要請に従うことを決めた。

イランは再び、カーン博士の「闇市場」と接触、分離機や、パキスタンが中国から入手したという核兵器の設計図などを次々に購入する。試行錯誤を重ねたイランだが、若手の技術者の活躍もあり、徐々に分離機のノウハウをつかんでいく。2003年には中部ナタンツに設置した濃縮施設で運転に成功、これを機に濃縮の規模拡大を図っていく。

それから約20年あまり。国際原子力機関(IAEA)によると、イランは、原爆(濃縮度90%以上)製造まであと一歩の段階にある濃縮度60%のウランを約275㎏保有。原爆6~7発分に相当し、90%濃縮までの期間はわずか数日から1週間だ。

昨年11月のトランプ氏当選を受け、イランは翌12月から濃縮作業を加速した。「最大限の圧力」を復活させるというトランプ氏を意識したものだ。とはいえ、イランの経済状況は苦しく、イスラエルとの実力差も際立ち始めた。生き残るには、何とか米国と妥協点を見いだすしかない。イランは4月に入り、トランプ大統領からの要請を受け入れ、米国との直接協議に応じる姿勢を見せた。今後、両国の駆け引きが本格化していく。

【火力】再エネ普及に寄与!? ワット・ビット連携の展望

【業界スクランブル/火力】

ワット・ビット連携官民懇談会が発足した。設立趣旨によれば、AIの普及に伴うデータセンター(DC)の電力需要増加に対応し、都市部に集中する電力・通信インフラを地方へ分散させることで、脱炭素と地方経済の活性化の両立を目指すという。

電気事業の視点では、需要と供給をバランスよく配置し、効率的な運用を図るのが基本的な考え方だ。しかし、電力自由化による発送電分離の影響で需給調整が十分に機能していない現実がある。ワット・ビット連携への取り組みは、この課題に切り込む点でも注目される。

ワット・ビット連携の大きな利点は、DCの稼働を電力供給と連携させることで、需給バランスを最適化できる点にある。例えば、電力が余る時間帯に処理を集中させ、ひっ迫時には他地域のDCへ処理をシフトすることで対応可能となる。このような柔軟な運用を実現することで、再生可能エネルギーの活用も一層促進される。

しかし、ワット・ビット連携によって一定程度の需要変動に対応できたとしても、自然変動電源のみでは限界がある。安定供給を確実なものとするためには、火力や原子力といった安定電源の活用について幅広な議論が必要だ。特に火力発電はCO2排出の観点から敬遠されがちだが、調整力としての役割をどのようにバランスさせるかが、今後の大きな課題となる。

DCの需要拡大が避けられない中、低廉で安定した電力供給をどう確保していくかは、日本のエネルギー政策の重要テーマである。その実現のためには、電源構成について、現実的かつ柔軟な議論を行うことが不可欠だ。(N)

【原子力】屋内退避の再検討終了 原発の安全性を証明

【業界スクランブル/原子力】

4月2日の原子力規制委員会で、原子力災害時の屋内退避の検討結果が承認された。報告書は屋内退避の解除、継続、避難への切り替えなどを定めるもので、その根拠となる周辺地域の被ばく線量が添付されている。

それによれば、重大事故対策を施した結果、たとえ炉心損傷が起きても周辺への放射性物質の放出量は極小で、UPZ(原発から5~30㎞圏内)全域で屋内退避が不要。PAZ(同5㎞圏内)の範囲でも、被ばく線量は格納容器ベントをする場合のみ、2㎞の範囲でIAEAの防護措置実施基準を超えるに過ぎず、そのような範囲の人口はわずかであろう。実際には、ベントせずとも格納容器を守る対策が施されており、PAZ全域では屋内退避すら不要だ。しかも規制委の解析条件は、重大事故対策が追加されているにもかかわらず、わずか1日で放射能放出が始まり、気象条件も厳しいものだった。

炉心損傷後に重大事故対策が不十分で、ベントを実施する可能性は極めて低い。つまり世界で最も厳しいとうたう新規制基準を定め、これに適合して再稼働を許可されたプラントは、実質的に避難計画が不要なほどの安全レベルにあるということだ。

もちろん、だからといって深層防護の第5層の防災体制の構築は求められる。ただUPZに居住する数万人の避難に必要な物資などをそろえておく必要はない。また複合災害を考えても、原子炉が一般施設よりはるかに強靭であることは能登半島地震で証明されている。行政が取り組むべきは家屋や道路などの一般災害対策であり、発生頻度から考えてもそれが最適な投資である。(T)

クリーンな調理が命を救う サブサハラの台所事情

【リレーコラム】松原文彦/丸紅エネルギー事業推進部

昨今、このコラムでも脱炭素の話題が活発だ。今後もこの潮流は止まらないだろう。そこで今春、4年間の南アフリカ駐在を終えるに当たり、調理ストーブ事情について脱炭素の観点から書いてみたい。調理ストーブとは、その名の通り、食べ物を煮炊きする調理器具のことだ。幼少期、秋刀魚を焼く時は都市ガスを使わず、庭に七輪とうちわを引っ張り出して焼いていたことを思い出す。似たような記憶を持つ方も多いのではないか。

サブサハラでの調理ストーブの主な燃料は、薪、木炭だ。一人当たりGDP(国内総生産)が上がると灯油や石炭を使うようになり、さらにClean Cooking Fuels(エタノール、メタノール、LPG、天然ガス、電気)を使うようになる。この現象はサブサハラに限ったことではなく「Energy Ladder理論」として知られている。サブサハラ各国の一人当たりGDPとClean Cooking Fuelsの利用率をプロットすると、強い相関性が確認できる。

調理中の煙が少なくなるような改良型調理ストーブの普及を目指す、Clean Cooking Alliance(在米国)によると、固形燃料の燃焼で発生する煙を吸い込むことにより、毎年約400万人が深刻な肺疾患となり、約100万人が命を落としている。このうち約50%が調理中、母親に背負われている5歳以下の幼児だ。身近なところに、これ程の大きな社会課題があることに慄然とせざるを得ない。


問題の認識が解決の糸口に

近年、多くの企業が調理ストーブからカーボンクレジットを発行するビジネスを行うようになった。カーボンクレジットとは、温暖化ガスを削減する事により貰えるご褒美のようなもので、紙の証書をやり取りする事で完了する。肺疾患の原因となる調理中の煙が少ない改良型調理ストーブを配布し、カーボンクレジット創出を狙う事業主が数多く現れている。このビジネスが大きな社会問題解決策に成り得る。

ただし、問題も多い。最近では米国の研究チームが、調理ストーブからのカーボンクレジットの発行量が実際の削減量の9倍以上に水増しされている、と指摘して耳目を集めた。この研究発表は、瞬く間にカーボンクレジット価格を下落させた。

調理ストーブからのカーボンクレジットは未成熟な業界かもしれないが、大きな社会課題解決のための一筋の光明であることは間違いない。問題解決に必要な最初の一歩は、問題があることの認識だ。このコラムが調理ストーブ問題の存在を知らしめ、どこかで何かのきっかけになれば、幸いだ。

まつばら・ふみひこ 1993年、丸紅株式会社入社、エネルギー・ビジネスが専門。米国10年、南アフリカ4年の海外経験を持つ。南アフリカでは、脱炭素ビジネスを担当。2020年、法政大学より博士号(経営学)を授与される。

※次回は丸紅米国会社の竹原優さんです。

【シン・メディア放談】青色吐息の石破政権 トランプ関税でさらなる窮地に

〈エネルギー人編〉大手A紙・大手B紙・大手C紙

発足から半年経つ石破政権。後半国会に突入する中、トランプ関税というさらなる難題が襲う。

―2025年度予算が辛くも成立したが、各紙社説では「熟議が足りない」などの論調が目立つ。石破政権のこれまでをどう評価する?

A紙 石破茂首相が意欲を見せてきた防災庁構想や防衛問題などについて、今国会では全く述べていない。石破番の多くが彼の人柄に魅力を感じるようだが、万博のミャクミャクと戯れる姿など見せられても、国民は違和感を持つだけ。長い党内野党時代、実際首相になったらどう動くのか、全く考えていなかった。

B紙 「原発ゼロ」発言や選択的夫婦別姓もトーンダウン。ただ、高額医療費引き上げを凍結し、引くべきところで引けた点は良かった。前半は予算で精いっぱいだったが、後半の行方に注目したい。「トランプ関税国会」にはなってほしくないな。

C紙 政権の姿勢が見えない中で、役所が好きに動いている印象だ。洋上風力のFIP(市場連動買い取り)転を決定した審議会で、大事ではないかのように資料を作っていた。逮捕された秋本真利前議員と似たようなことをしているのに……。

一方、萩生田光一氏は「暫定予算とし、年度内に成立しなくても良かった」などと語っている。越年は国民が選択した過半数割れの結果であり、下手に維新などと妥協すれば支持者が離れるというのだ。

A紙 萩生田氏は某ネット番組で「(前衆院選では)九死に一生を得た。これからは自分が前に出ていく」とも語っていた。

B紙 そんなことを言っている場合か。6月下旬の都議会選でも自民は厳しいのに、萩生田氏の求心力が高まるとは思えない。

都議選では、国民民主に一番注目している。玉木雄一郎代表が今の勢いをどこまで維持できるのか。一定の成果を残せば、参院選でも議席をかなり伸ばす可能性が出てくる。また、中身のなさが売りである石丸伸二氏率いる「再生の道」の実力はいかほどか。自民が落とした分の受け皿はこの2党となる。

―その他、ポスト石破の動きはどうだろう。

A紙 小泉進次郎氏は政治とカネの問題を一手に引き受けていると悦に入り、昨年より表情は引き締まっているものの、中身は変わらない。その他の面々も静観だが、林芳正氏を除き、自分が見えていない人ばかりだ。

また、野党が不信任案提出に向けて、自民と維新・国民間のシングルイシューごとの団結をほぐせるのか。ただ、立憲民主の野田佳彦代表は引き続き石破氏との戦いを望んでいる。

C紙 最後までだれも手を上げないダチョウ倶楽部状態だ。


米との交渉担当は適任か 「ウルトラC」はなし

―4月2日、首相の商品券問題を吹き飛ばす、衝撃のトランプ関税が発表された。

A紙 石破氏はかつて安倍晋三氏の外交スタンスに対して「友情と国益は違う」と語ったが、それがブーメランとなっている。今の日米首脳は全く関係性が構築できておらず、7日の電話会談もただしゃべっただけだ。

B紙 トランプ氏は1期目と明らかに違う。安倍氏が存命でも、影響は避けられなかっただろう。

―赤沢亮正経済再生担当相が交渉担当となった。

A紙 本来の担当は武藤容司経済産業相のはずで、赤沢氏がしゃしゃり出た感がある。一時期は隙間風が吹いていたが、赤沢氏は石破氏の側近だ。

C紙 あり得ない展開だが、世耕弘成氏、西村康稔氏らパージ組の他、TPP(環太平洋経済連携協定)を担当した甘利明前議員の知恵を借りても良い。赤沢氏ではオールジャパン体制とは程遠い。

―早速赤沢氏の手腕を疑問視する記事も出ている。

A紙 「タフネゴシエーター」の茂木敏充氏も適任だが、そうできないのは人間関係を構築できない石破氏の人見知り故だ。

B紙 信用できる人が少ないんだね。

A紙 だから1年生にも商品券を渡してしまう。


まだやめられない補助金 電力・ガスも復活?

―燃料油補助金は案の定春以降も継続。電力・ガス補助金の復活も検討されている。

A紙 政府が昨夏電力・ガス補助金を復活させた際は猛暑対策と説明し、野党がばらまきだと批判。今年はさらに早い段階で復活の話が浮上した。

B紙 選挙を控え、また繰り返すのだろうと懸念している。別の景気対策が望ましいが、既にスキームがあるからね。また、脱炭素に逆風が吹く中、補助金が脱炭素に反するという批判のトーンも下がっている。

C紙 どうせ金を使うなら有意義な電源確保などにしてほしい。また、アラスカ産LNGをパイプラインで南部に運び輸出するのではなく、北極海航路で砕氷船を使った方が良いといった声が出ている。当然後者のリスクも大きいが、砕氷船に国費を投じれば米国の貿易赤字も減り、一石二鳥の絵が描ける。

―3月号で取り上げたフジテレビ問題のその後だが、第三者委員会の報告書が公表され、予想以上のひどさにドン引きした。

C紙 流れ弾をくらった反町理氏は、関係者に切腹最中を配り歩いているらしい。

A紙 ただ、当該女性記者だけでなく、男性記者でも叱責されることはよくあると聞く。

C紙 中居正広氏とフジ社員の悪行ばかり報じられているが、代理店やスポンサーの問題に触れるメディアは皆無。やはりパンドラの箱は開けられない。

―「オールドメディア叩き」は収束しそうにない。

【石油】ガソリン価格低下 「関税戦争」で実現か

【業界スクランブル/石油】

民主主義は怖い。選挙で選ばれたら、あるいは選挙のためには、政府は何をしても良いらしい。

トランプ米大統領は、パリ協定を離脱したが、今度は関税政策で各国にけんかを売り始めた。原油価格も、年末から予想外の堅調で推移していたが、3月後半辺りから、関税政策による世界不況懸念で軟化した。特に4月初めには「相互関税」発表による米国経済先行き不安に、OPECプラスの自主減産緩和拡大が加わり、NY原油先物価格は2日間で70ドル初めから60ドル初めに10ドル急落した。

これまでの「懸念」は、不況発生に伴う「実需減少」に変わる。世界不況発生による石油需給緩和の拡大で、原油価格はさらに低下するであろう。トランプ大統領は、原油増産によるガソリン価格低下を主張してきたが、それは、不景気を代償とした需要減少で実現される。

わが国では、4月4日に自公国の3党合意で、「6月から、補助金拡充を含め、ガソリン価格の引き下げ」の方針が決まった。しかし、「関税戦争」の勃発で原油価格は低下。補助金はガソリン小売価格(全国平均)が政府基準価格である1ℓ当たり185円を割れば自然消滅し、原油価格に連動して低下を始める。政府は放置しておいた方が良かった。

ただ参院選を前に、与党は物価対策を打たざるを得ない。あるいは、旧暫定税率廃止時期の明示を避けたかったのかもしれない。そもそも、脱炭素が実現するなら、ガソリン税などの税収はなくなり、税自体が無意味になる。暫定税率廃止も、将来的には可能だが、今は無理だということなのだろうか。(H)

【コラム/5月20日】2025年度のGX・DX政策を解説

加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

2025年度が始まり、既に2カ月が経とうとしている。前回のコラムでは24年度の政策や制度設計について振り返り、25年度に着目する制度の話をしたが、今回は、この2カ月間の動きを見た中で、GX・DX政策について解説したい。

年度当初ということもあり、まだ審議会の開催件数は低調だが、今後、6月以降、活発化することも予想されることから、引き続き注視していくことが求められる。


産業立地政策からスタート 産業創出の好循環を目指す

2月に閣議決定された「GX2040ビジョン」において挙げられた論点のうち、GX産業立地政策の具体化に向けた検討が着手された(GX産業構造実現のためのGX産業立地ワーキンググループの設置)。ビジョンで記載した産業立地と投資促進を深掘りし、参加する委員から政策形成の助言を求め、さらに実施すべき詳細な施策の在り方と制度設計を議論していくとしており、今後、夏頃を目途に取りまとめが行われる予定となっている。

目指すGX産業の姿は、AI、ロボット、ペロブスカイト太陽電池、革新蓄電池、グリーンスチール、半導体といった革新技術を生かした新たな産業創出と、脱炭素エネルギー利用・DX促進によるサプライチェーンの高度化とし、そのためには、①競争力強化に資する企業への支援(設備投資へのインセンティブ、制度改善など)、②立地を促すインフラ設備(産業用地確保、電力・通信インフラ整備など)、③脱炭素電源・データセンター整備(ワット・ビット連携など)を同時・連関的に実行していくことが重要としている。いわば、大きな成長を見込むことができる分野とそれを野心的に進める企業などに集中的に支援を行い、そのために必要な立地確保やインフラ整備、さらには投資を促す支援や税制優遇、規制緩和などを措置し、「世界で勝てる産業」「新たな日本の十八番」を創出していくことを図る構想であると想像される。

戦後に日本の高度成長期はコンビナートや工業団地、港湾に支えられてきた経緯があるが、今後検討される立地施策で生み出される新たな「場」が、次の時代を支える産業をリードしていくことが期待される。そして、そこで製造された製品やそれらを使ったサービスが新たな価値として提供されるという好循環につながることで初めて、GXの成果が出たと言えるだろう。


データセンター立地 順調に進むのか

そうした中、着目されるのがDXの推進となっている。生成AIの発展が目覚ましいこと、デジタル赤字が年間で約7兆円(24年)という状況、データセキュリティ確保が必要なこと、そして低遅延性といった観点から、国内に計算資源を整備する必要があるとして、データセンターの整備の重要性が叫ばれている。

一方で、データセンターは膨大な電力を消費することから、そのために必要十分な供給力と系統の双方を確保しなければならない。供給力については脱炭素電源が志向されているが、現状、東京圏と大阪圏にデータセンターの多くが集中する中で、原子力発電や太陽光発電・風力発電といった再エネの適地が偏在していることから、単純に考えれば、長距離送電を介して電力を送らなければならなくなる。生真面目に1つずつデータセンターの系統接続申し込みに対して規則通りに対応した場合、おそらく、その設備投資額は兆円単位、工事完了も数年はかかってしまうだろう。脱炭素電源も一朝一夕に完成して稼働することは難しく、より現実を見据えた上での対応が必要となる。

こうした課題を解決するために今年3月には「ワット・ビット連携官民懇談会」が設置され、4月には専門的な検討を行う場として「ワット・ビット連携官民懇談会ワーキンググループ」が設置された。電気事業者・通信事業者・データセンター事業者の三者が参加し、インフラ整備の現況や今後の計画の情報共有、立地に必要な条件・課題の整理、効率的な整備に向けた有効な方策の検討を行う。6月までに毎月1回、計3回開催し、取りまとめを行い、結果を懇談会に報告する予定となっている。かなり重要な産業施策であるため慎重な議論が必要な一方で、AI開発が世界で活発化していることや一般送配電事業者へのデータセンターの接続申込が急増しており、あまり悠長に議論している時間もないことから、わずか3カ月というスピードで、まずは方向性をまとめるといったことが推測される。ただし、方向性が決まっても、具体的に実行に移すことが遅れれば本末転倒になってしまうため、取りまとめ後のアクションが重要となるだろう。

【ガス】調達多様化進むLPガス エネ基で再評価

【業界スクランブル/ガス】

第7次エネルギー基本計画では、LPガスについては、5章5節「化石燃料/供給体制」の基本的考え方の中で、「災害の多い我が国では、エネルギーの強靱性の観点から、可搬かつ貯蔵可能な石油製品やLPガスの安定調達と供給体制確保は重要である」と述べた。石油製品と離して初めて項目立てて有用性に言及した。災害時には、病院などの電源や避難所などの生活環境向上に資する「最後の砦」と、従来の位置付けを維持。「災害時に備え、病院・福祉施設や小中学校体育館等の避難所等における備蓄強化、発電機やGHP等の併設による生活環境向上を促進する」とした。

エネルギー安全保障が注目を集める中、LPガス元売り各社が調達の多様化を進めた結果、中東からの輸入シェアは1割を下回る。地政学的リスクの低い地域からの調達が評価され、LPガスが重要な存在になったといえるだろう。

また、省エネ分野では業務・家庭分野において、「ハイブリッド給湯器、家庭用燃料電池といった高効率給湯器の導入や、設置スペース等の都合から高効率給湯器の導入が難しい賃貸集合住宅向けには、潜熱回収型給湯器の導入を支援する」と政策的に導入拡大することが示されている。

さらに、グリーンLPガスの大量生産技術の確立が重要と位置付け、2030年代の社会実装を目指し後押しするなど、これまでになくLPガスへの期待は大きい。

一方で、商慣行是正について新たな規律を設けたと触れているが、LPガス販売事業者からは、市場の状況は前より悪くなったとの声も聞かれる。業界内で内輪もめをしている場合ではない。(F)

世界の分断と大国の思惑〈上〉 トランプ2.0と二つの停戦交渉

【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

1月20日、米国第2期トランプ政権が始動し、4月2日の相互関税措置の発動が世界経済を大きく揺さぶる中で、外交的には二つの停戦交渉が進められている。そのうち、ウクライナ戦争に関しては、2月28日の米ウクライナ首脳会談での両大統領の口論の結果、軍事援助が一時停止される一幕があったものの、両国政府は3月11日、「米国が提案した30日間の即時停戦提案にウクライナが同意した」と発表した。これに対し、ロシア側は18日、これを拒否した。

トランプ大統領のロシアへの対応は一様でない。大統領は3月30日、前述のプーチン大統領の対応に腹を立てていると述べ、戦争終結に向けた自身の取り組みをロシアが妨害していると感じれば、ロシア産原油の買い手に25~50%の関税を課すと警告した。

国際社会の対応としては、ロシアの侵略から3周年となる2月24日、国連総会の特別会合が開催された。同会合では、ウクライナとEUが提出した戦闘の停止とロシア軍の撤退を求める決議案を93カ国の賛成多数で採択したが、米露など18カ国が反対票を投じ、65カ国が棄権した。2022年3月の決議(賛成141、反対5、棄権35)に比べると、48カ国が賛成から逸脱した。

同日開かれた国連安全保障理事会では、米国が提出した「紛争の終結」を求める決議案を10カ国の賛成多数で採択した。この決議にはロシア非難は含まれておらず、米国の主要同盟国の英仏など5カ国は棄権した。米国はこの採決で、ロシア側につく姿勢を示し、これを受けて、EUとウクライナは英仏主導で有志連合の創設に動き出した。

もう一つの停戦に関しても展望は失われた。イスラエルの圧倒的優位の中で、イスラエル・ハマスとの停戦が1月20日に実現したが、3月18日、イスラエル軍の攻撃再開で停戦交渉は行き詰った。これを機に米国がハマスに停戦交渉案を提示する展開が見られるものの、こちらの停戦も実現には時間がかかりそうである。

中東情勢の展開には、2月18日のリヤドおよび3月11日のジッダにおけるウクライナ戦争停戦会議の設定によって存在感を増す、サウジアラビアの対応がカギを握ると見られる中で、ホワイトハウスは4月1日、「トランプ大統領が5月にサウジアラビアを訪問する」と発表した。初めての外遊先に1期目と同様、2期目も同国が選ばれた。主な目的は1兆ドル以上の対米投資の合意獲得にあると報じられるが、サウジの財政支出の規模の流動性は油価の動向次第であり、限られた歳入の最適配分がどうなるかは予断を許さない。

改めて足元の原油価格を見ると、低落基調が続き、本年産油国の財政事情が悪化することは必至である。OPECプラスは、4月3日、5月から減産幅を縮小(=増産)すると発表した。市場環境の好転を増産の理由とするが、OPEC諸国内の増産要請を抑え切れなかったためか、トランプ政権の圧力への対応なのか、評価が分かれる。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

温暖化めぐりペルー農民がRWE提訴

【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

ドイツの大手エネルギー会社RWEは、気候変動への加担の責任を問われ、ペルーの農民、サウル・ルシアノ・リュヤ氏から訴えられている。3月14日付のロイターは、ドイツの裁判所で控訴審の法廷審問が始まったことを伝えた。

リュヤ氏は、ドイツの活動家グループ「ジャーマン・ウォッチ」の支援を受け、2015年にRWE本社のあるエッセンの地方裁判所に訴えた。地球温暖化により、地元の氷河湖が決壊して洪水が発生する危険が高まったと主張。褐炭焚きの発電所を多数運用するRWEに対し、世界の人為的な温室効果ガスの0.5%を排出してきたとして、応分の洪水対策費用(約340万円)の負担を求めた。

一審は、CO2の排出者は無数に存在するため、RWEのみに責任を問うことはできないとして、訴えを棄却。ところが、控訴審では、気候変動と洪水発生の因果関係が認められれば、温室効果ガスの大規模排出者には、部分的であっても責任を問えるということで審理が続いている。

RWEへの請求は少額だが、この裁判の意義は、気候変動がもたらす被害に対して、一企業でも単独で応分の責任を問われる先例となり得ることだ。実際、こうした報道が世界に配信された時点で、原告側の目的は半ば達成されたとも言える。

そもそも化石燃料の利用は、エネルギー会社の意思のみで続いているわけではない。社会全体として、その大きな恩恵を直ちに捨て切れないから、悩みが深いのである。従って、気候変動による被害への補償は、「ロス&ダメージ基金」のように、国際社会がCOPの場で議論するのが筋ではないか。象徴的に一企業を吊し上げるような手法で、社会の「深い悩み」に迫る議論につながるとは思えないのだがどうだろうか。

(水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表)

【コラム/5月19日】IPCC排出シナリオ 「物語に基づいた科学」に過ぎず

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

Evidence-based Policy(証拠に基づいた政策)とか、Science-based Policy(科学に基づいた政策)ということはよく言われるけれども、そんな綺麗ごとよりも、実際に頻発しているのはNarrative-based Evidence-making(物語に基づいた証拠づくり)である、という指摘を読んだ。

https://wattsupwiththat.com/2025/05/04/narrative-based-evidence-making/

https://thebreakthrough.org/issues/energy/the-worst-thing-about-the-climate-crisis-is-what-it-does-to-your-brain

これらの記事は「気候危機説」という物語に沿うような形で自然災害や環境影響評価についての研究成果が量産されることを指して批判していたのだが、実は排出シナリオ研究も同じことなのだ。

このことを、世界規模の温室効果ガス排出量シナリオの中核的役割を担っていたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書の変遷をたどることで示そう。


徐々に増加 2℃、1.5℃シナリオ

IPCCも、かつてはまじめにエネルギーシステム分析をしていた。だから、2007年の第四次評価報告書(AR4)の時には、2℃目標を達成できるというシナリオなどわずか6本しかなかった。当時の研究者たちは、この6本のシナリオに対して、極めて冷ややかだった。そんなものは実現不可能であり、まじめにエネルギー経済のシステムモデル分析をすれば、答えは「実施不可能(インフィージル)」というのが業界での当然の常識だったからだ。

ところがこの2℃シナリオ、この後の第5次、第6次(AR5、 AR6)で急増することになる(表1)

IPCC 世代公表年総シナリオ数≤ 2 °C シナリオ数割合判定根拠の温度/濃度クラス
AR4200717763 %同上カテゴリ I(445–490 ppm)
AR5201496336538 %Table 6.2 430–480 ppm+480–530 ppm(カテゴリ 1+2)
AR620221 20270058 %Table 3.1 C1–C4(< 2 °C を保つ4クラス)
表1 「産業革命前(1850–1900平均)比 +2 ℃を超えない経路」が各世代の IPCC WG III シナリオ全体に占める割合(“≤ 2 ℃シナリオ”=各報告書が採用した温度/濃度分類で 2 ℃を 上回らない と判定された経路。母数はいずれも当該報告書で数量化できた世界シナリオの総数)

それどころか、1.5℃目標さえ達成できるというシナリオまで増殖した(表2)。これは07年にはゼロだったのに、最新の22年の報告書では139本ものシナリオが1.5℃目標を達成できるとしている。

なお1.5℃特別報告書(SR1.5、18年)は提出された414本のすべてが1.5℃または2 ℃未満をターゲットとしており、比率は 100 % だが、定期評価報告ではないため表中には含めていない。

報告書公表年シナリオ総数*1.5 °C ΔT ≤ 1.5 °C に収まるシナリオ数割合補足(判定基準)
AR4200717700 %445-490 ppm(カテゴリ I)は中央値 ≈ 1.7-1.8 °Cで 1.5 °C未達
AR52014963≲ 5≈ 0.5 %当時 “1.5 °C 研究は極めて少数” と SR1.5 第 2章が指摘(IPCC)
AR620223 1311394.4 %C1(1.5 °C 無〜小幅OS)97 本+C2 のうち 2100 年 1.5 °C 収束 42 本(IPCC, IPCC, IPCC)
表2 IPCC WG III シナリオ比較における「産業革命前(1850-1900 平均)からの気温上昇を 1.5 ℃ 以内に抑える経路」の比率の変遷

首を絞めかねないトランプ関税 国内ガス生産拡大には逆効果か

【ワールドワイド/環境】

トランプ米大統領は1月20日に就任するや、国内面では各種規制の見直しなどを通じた石油、ガス、鉱物資源の国内生産の拡大を図り、インフレ抑制法(IRA)に基づくクリーンエネルギー支援を停止・縮小し、対外面では米国産エネルギーの輸出拡大によるエネルギードミナンスの確立、パリ協定からの離脱などの方針を打ち出した。

中でも注目されるのが、ゼルティンEPA長官が打ち出した危険性認定の見直しの帰趨だ。

危険性認定は大気浄化法の下、温室効果ガス排出が公衆に危険をもたらすと政府が認定するもので、これを根拠に自動車や火力発電所への規制が実施されてきた。撤廃されれば、さまざまな環境規制の根拠がなくなるため、訴訟が提起され、最終的には保守派が6、リベラル派が3の最高裁で争われる。

最高裁は昨年、「法律の曖昧な部分の解釈は規制当局に認め、現場の複雑な事情については行政の専門知識と判断を優先する」という「シェブロン法理」を覆し、「議会が与えたと合理的に理解できる範囲を超えた非常に大きな影響力を持つ権限を行政機関が持つことはできない」という「重要問題法理」を打ち出した。「最高裁まで上がれば、危険性認定の撤廃が認められ、民主党政権が復活しても温室効果ガス規制を復活できない」というのがトランプ政権の目論見だが、予断は許されない。

世界を震撼させているトランプ関税はトランプ政権のエネルギー政策の目的を阻害するかもしれない。トランプ関税は相手国の負担になる上に、米国の消費者の負担になる。貿易戦争の激化により世界経済が減速すれば、エネルギー需要の減退につながり、トランプ政権が目指す国内石油ガス生産増大にならない。それどころか世界同時不況により、2020年以来の全球CO2排出減になるかもしれない。トランプ政権は米国のLNG輸出を拡大し、エネルギードミナンスを確立しようとしているが、そのためには米国が安定的な供給ソースとしての信頼されるパートナーであることが不可欠だ。同盟国であろうとお構いなしに発動されるトランプ関税はそうしたイメージを大きく損なう。トランプ政権に近いヘリテージ財団はエネルギー政策には満点を与えているが、トランプ関税にはF判定だ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)