【論説室の窓】水上嘉久/読売新聞 論説委員
「危機管理投資」を掲げる高市政権の成長戦略が本格始動した。
エネルギー政策の中核も、技術戦略と経済安全保障に再定義されようとしている。
「成長戦略の肝は、『危機管理投資』です。リスクや社会課題に対して先手を打って供給力を抜本的に強化するために、官民連携の戦略的投資を促進します」
高市早苗首相は11月4日、経済政策の司令塔となる「日本成長戦略本部」の初会合で、強い経済の実現に向けて政府が投資を主導する姿勢を強調した。
会合では17の戦略分野が示され、AI・半導体や造船などのほか、エネルギー分野では「フュージョンエネルギー(核融合)」と「資源・エネルギー安全保障・GX(グリーントランスフォーメーション)」を掲げた。エネルギー政策の主軸も国内供給力の強化にあることを明確に打ち出したと言えよう。

エネルギー自給率向上へ 核融合発電の推進を表明
首相就任後の所信表明演説では「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指すと述べている。AI開発のボトルネックは今後、半導体チップから電力供給に移っていくとも言われており、電力需要の増加にどう対応していくかが現実的な課題となりそうだ。
高市政権のエネルギー政策を読み解く上で鍵となるのが、「エネルギー自給率」だろう。
自民党総裁選に出馬表明した9月の記者会見では、「化石燃料に頼って国富を流出させ、資源国に頭を下げる外交を終わらせたい」と語っている。
日本のエネルギー自給率は東日本大震災前の2010年度には約20%だったが、原子力発電所の停止などで低下した。再生可能エネルギーの導入で少しずつ上昇しているが、23年度は約15%に過ぎない。
高市氏は「何としても日本のエネルギー自給率を引き上げていきたい。できれば100%を目指していきたい」と主張する。夢物語のようにも聞こえるが、その根拠としているのが、成長戦略の重点分野の一つに挙げた「核融合」である。
核融合発電は、原子核同士を融合させて膨大なエネルギーが生じる反応を使い、発電する技術だ。「地上に太陽をつくる」技術とも言われる。発電時には二酸化炭素を出さず、高レベル放射性廃棄物も発生しない。主たる燃料である重水素は海水に含まれており、資源枯渇の心配もないとされている。
高市氏は科学技術政策担当相だった23年4月に日本初の「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定するなど、核融合技術に対する思い入れが強い。著書『日本を守る 強く豊かに』の中でも「核融合エネルギーの実現によって、経済の覇権は『資源保有国』から『技術保有国』に移ると思います」と述べている。
もっとも核融合発電の実用化には、まだまだ時間を要する。政府は核融合の発電実証を30年代に前倒しする方針を示したが、本格的な導入がいつになるのかは不透明だ。米国や英国などとの技術覇権競争も激化しており、27年にも実験炉の稼働を予定する中国も猛追している。
主要部品の製造技術などでリードしている日本が、実用化で他国に後れを取ることは避けなければならない。法整備や民間企業によるサプライチェーンの構築など、官民の取り組みを急ぐ必要があるだろう。
エネルギー自給率を高めていく上で、むしろ当面の試金石となるのが既存の原子力発電所の再稼働だ。高市氏は「まずは安全確保を前提とした原子力発電所の稼働」としており、原発を「最大限活用する」と政策転換した岸田文雄政権や、それを引き継いだ石破茂政権と方向性は変わらないとみられる。地元同意の形成が遅れて再稼働が停滞する現状に、どのようにリーダーシップを発揮していくかが問われよう。
原発の新増設も焦点になる。電気事業連合会は10月、40年代に発電容量550万kW分の原発の建て替えが必要になるとの見通しを示した。革新軽水炉で4~5基分に相当する。建設期間を考慮すると「待ったなしの状態」(電気事業連合会の林欣吾会長)にあり、電力会社の投資判断を後押しする支援制度を求める声も高まっている。



















