【火力】三菱商事撤退で考える 供給責任の在り方

【業界スクランブル/火力】

今回は供給責任について考えたい。洋上風力発電の第1回公募は、三菱商事連合が総取りしたものの、全事業撤退となった。筆者は本件を論評する知見はないが、「なるほど」と思ったことがある。それは200億円もの保証金を没収されるが、建設計画を放棄できる点だ。この撤退で30年度に176万kWの供給力が消えることになる。電力広域的運営推進機関が毎年度末に取りまとめている供給計画上にも、風力の特性を考慮した調整係数を乗じたkW分が確保されているが、この消え失せた分の責任を誰が負うのかは不明確だ。

かつての10電力体制では、このようなことは起きなかった。各社には厳格な「供給義務」が課され、甚大な天変地異でもない限り、その責任を逃れることは許されなかった。そのために地域独占と総括原価方式が認められていたが、料金改定には国の厳しい審査が必要であり、安定供給は確保されつつ料金がいたずらに高騰することもなかった。当時の電力会社は、経営リスクに対し全く別次元の意識を持っていたのである。

現在、発送電分離により供給力確保義務は小売りに課されており、見通しに甘さがあったとしても三菱商事チームが供給力確保の責任を負わされることはない。そうであるなら、今回の件がFITによる公募であったことも考慮すると、国が計画とん挫による供給責任についてもっと自覚すべきなのではないか。

理論上は全面自由化こそ最善の選択肢かもしれないが、供給責任の所在が明確で、審査もシンプルであった旧来のシステムの有効性について、今こそ率直に再評価すべき時であると言える。(N)

設立から10年を振り返る 知命の歳に誓う歩みの深化

【リレーコラム】大滝雅人/JERA LCFバリューチェーン統括部 LCF計画部長

「終戦から80年」「阪神・淡路大震災から30年」など歴史的な節目の今年が、あと数カ月で終わろうとしている。当社にとっても設立10周年という記念すべき一年であった。

振り返れば、この10年は予測不能の連続だった。JERAが設立された2015年、私は中部電力の社員として米国LNG輸出プロジェクトの立ち上げのため、ヒューストンに駐在していた。当時、石油価格は1年半で110ドル超から30ドル台まで急落し、オイルメジャーは大量レイオフ、本邦企業もシェール権益で巨額の特損を抱えた。駐在当初、「震災後のアジアプレミアムに苦しむLNG調達のゲームチェンジャー」と期待され、「社運を賭けた」とまで言われた担当案件は、やがて「最も高いLNG価格だから、商業開始が遅れた方が良い」とまで言われる状況に追い込まれた。

ゼロから挑んだ新燃料の事業開発一方で、15年にパリ協定が採択され、気候変動を現実の脅威と認識する社会的機運が高まり、脱炭素への移行が加速化していく。米国から帰国後、JERAメンバーとしてLNG調達や事業開発を担っていた私に課せられたのは、ゼロエミッション火力の実現に向け、水素・アンモニアという新燃料に挑み、ゼロからサプライチェーンを構築することだった。21年以降、この全く新しい領域で事業開発・提携・組織づくりにまい進し、今年4月には米国で世界最大規模のブルーアンモニア製造案件に参画し、最終投資決定に至るという大きな節目を迎えることができた。しかし直近では、地政学リスクや価格高騰を背景に、化石燃料回帰の動きも強まっている。

世界情勢を見ても、15年当時はグローバリゼーションの深化と国際協調への期待が高まっていた。しかし17年にはトランプ米政権が発足し、一国主義への転換が鮮明となった。22年にはロシアによるウクライナ侵攻が戦後秩序の根幹を揺るがし、今年には「またトラ」による貿易戦争で世界の分断がさらに深まっている。未来は予測できない。10年前に今の世界を想像できた人は誰一人いないだろう。しかし、不確実な時代だからこそ、自らの軸を見失わないことが重要だと強く感じている。 私自身、「不惑」であるはずの40代も、実際には外部環境に惑わされ、必死でもがきながら走り続けた10年だった。そして今年、「知命」の50歳を迎えた。これからは外部の変化に踊らされるのではなく、「社会にどう貢献できるのか」を己に問い続け、エネルギー安全保障を担う存在として、その歩みをさらに深化させていきたい。

おおたき・まさと 1998年中部電力入社。主に燃料調達・LNG事業開発案件を担当。現在、JERAで水素・アンモニアなど新燃料バリューチェーン構築事業に取り組む。

※次回は、ボストン・コンサルティング・グループの平慎次さんです。

【原子力】原発活用への政策転換 新首相のけん引力に期待

【業界スクランブル/原子力】

新風を巻き起こす女性首相の下でも、わが国の前途は難問山積である。戦争や核兵器による脅しが続く国際情勢の中で安全保障の強化、経済産業の立て直しと貿易収支の改善、農業政策の改革と食料自給率のアップ、少子高齢化・労働力不足への対策と科学技術力の回復など枚挙にいとまがない。

だが、エネルギー自給率の向上とその価格抑制はいずれの分野にも貢献する。特に原子力の最大限活用が効果的だ。技術的課題は当局と産業界に任せればよいが、首相でなければできないことがある。以下の課題解決に向けたリーダーシップを期待する。

安全審査には10年を越える異常な時間がかかり、既設原発の再稼働は遅々とし、バックエンド、とりわけ再処理工場の完成に大きな障害になっている。さらに新設炉の運転開始は見通せず、電源開発計画に乗せようがない。トランプ米大統領は、米国規制委の人員を削減して新設の審査プロセスを1年半に、既設を1年以内とすることを要求し、規制委はこれに応えようとしている。一方、わが国では規制委が許可しても再稼働は立地県の知事が同意判断を逡巡し、首都圏の需要家に大きな経済負担を強いている。

新規建設の資金調達は困難で、融資が進む方策が必要だ。高レベル廃棄物の処分場立地プロセスの前進には抜本的対策が不可欠だ。国内の電力需要の3分の1を供給する東京電力が原子力を大規模に復活できないことは、将来への懸念であり、福島第一原発事故の賠償の清算と廃炉負担の解決も重要である。今後は一層原子力が大切なので、若い人が技術者を目指すような政策を実行してほしい。(T)

【シン・メディア放談】波乱の総裁選は序章に過ぎず 自公連立解消で歴史的局面に

〈メディア人編〉大手A紙・大手B紙・大手C紙

大半の予想を覆し自民党新総裁に高市早苗氏が就任。そして公明党離脱で怒涛の展開へ突入した。

―政局が大混乱となっている。まずはその序章となった自由民主党総裁選の感想からどうぞ。

A紙 今回は右寄りメディアの姿勢に物申したい。高市早苗氏支持の党員の離党について週刊文春が報じたが、産経は地元に確認を取らないまま載せていたようだ。これは党の管理の問題であり、小泉陣営のせいにするのは下品。高市氏の周辺はなんでもかみつきすぎだ。

B紙 ニュースが総裁選一色となる中、優勢とされた小泉進次郎氏が政策をあまり語らず、盛り上がりに欠け、政治部は苦労していた。そして投開票前日には小泉氏は厳しそうとの話がまわり、ふたをあければ高市氏の党員票が圧倒的だった。女性初の首相誕生はエポックメーキングだし、個人的には思い切って動けない少数与党なら高市首相でも良い。ただ、麻生太郎氏に好き勝手やらせすぎだ。

C紙 高市、小泉、林の三つ巴かと思ったが、高市氏が獲得した党員票は4割に上り、ドブ板選挙の結果だ。一方の小泉氏は語っても語らなくてもダメだとはっきりし、終了の感が漂う。ステマ報道などがタイミングよく出たのも、要は人気がないから。そして林芳正氏は宏池会が割れる中、党員票・議員票ともに善戦し、次の芽が出てきた。

A紙 高市氏は最後の演説のペーパーを茂木敏充氏、小林鷹之氏に渡すなどしっかり段取りし、読み間違えないよう目を落としていた。麻生氏の「国家老」たる福岡県議が暗躍したと聞く。結局は小泉氏の一人負けだった。

B紙 途中で外遊したのも文春砲から逃げるためだ。彼はよくも悪くもカラーがない。今国民が求めているのはカラーのある人だ。それなりに柱を持つ高市氏なら、投票した議員も言い訳できる。44歳の小泉氏の首相の道は遠のき、小林氏の方が先になるかもね。

C紙 陣営には小泉氏の利用価値で寄ってきた人が多く、彼らは早い時期から調子の乗り方が異常だった。挙句12人にカレーパンを食い逃げされた。


ガチだった公明 80年所感とバッティング

―ついに公明党が政権から離脱し、衝撃が走った。

B紙 発表前日の10月9日夕時点で離脱は決定的との情報が流れた。創価学会側の意向が強かったと聞く。一番印象的なのは、斉藤鉄夫代表のすっきりした表情だ。衆院選、都議選、参院選と良いところがなく、自民は相当な重荷だったのだろう。

C紙 自民は「公明は政権のうまみからは離れられない。騒いでいるだけで結局収まるだろう」とタカをくくっていた。でも連立の相手は自民でなくても良く、公明はガチだった。

A紙 ただ、高市氏に帰責するような議論は筋違い。公明支持者が「政治とカネ」の尻ぬぐいをさせられ、それに何の手も打たなかったのは岸田文雄・石破茂両氏だ。「還流」首謀者をあぶり出せない清和会も同罪といえる。

一方、「中国駐日大使の入れ知恵」といった高市支持者とみられる公明バッシングもいただけない。逆に高市政権成立後の政策実現可能性を損ねている。無能な味方は本当に恐ろしい。

C紙 こうなる前に、両党は安倍政権の安全保障関連法でもめた時に距離を取っておけばよかった。そうしていれば、公明は小さくても今も存在感を発揮できたはずだ。結局、その時決断できなかったことでお互い不幸になった。

A紙 斉藤氏自らの「政治とカネ」問題も蒸し返された。相続分の不記載と、パー券収入の不記載は同一ではないが、果たして全く違うと言い切れるのか。また、報道に作られた「政治とカネ」の幻影に囚われてはいないか、とも思う。

B紙 それにしても、公明離脱が石破首相の「戦後80年」所感の発表と重なったことは不運としか言いようがない。内容は悪くはないが新しい点はなく、2カ月引っ張った意味はない。毎日はこの所感を1面で扱わず、公明離脱だけで1面を作っていた。日本政治史の節目の報道としては適切な判断だったと思う。


早期解散の公算高まる 幸いエネ政策は「凪」か

A紙 四半世紀ぶりの大政局で「数合わせ」が焦点となるのはやむを得ないが、エネ政策などの不一致を覆い隠す連合の容喙、立憲のなりふり構わぬ姿勢は大いに批判されるべきだ。

C紙 埋没を避けるため「玉木雄一郎首相」なんて言い出した立憲民主党は本当に終わりそう。他方、高市氏は意外と柔軟性がありオポチュニストの面も。平時はタカ派だが支持率が下がってきたら変容するかも。そうした面がばれないうちは、うまくやっていきそうな気がする。

A紙 解散総選挙の可能性が高まっている。タイミングは補正予算など通過後の常会冒頭か?そんな中、エネルギー政策への影響はフラットと思われるシナリオの可能性が高いことは、不幸中の幸いといえる。

C紙 ただ、円安とインフレが止まらない中、ガソリン暫定税率廃止まで断行して本当に大丈夫か。財政規律重視の日経の静観も良くない。

B紙 いずれにせよ、国会を開かないまま3カ月経ち、国民生活に目を向けた議論がされていない。石破首相は左派にも演説を評価されたが、結局それだけの政権だった。この1年は国民にとって実に不幸だったと思う。

―そしてにわかに自民・維新連立の可能性が高まった。大きく動きだした日本政治の向かう先は―。

(座談会は10月中旬に開催)

【コラム/11月21日】“食欲の秋”ならぬ“制度設計の旺盛な秋”

加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

この夏のエネルギーや環境に関する審議会の開催数は比較的少なかった。一服感があったと感じられたのも束の間、秋に入ってからドライブがかかり、一気に開催件数、そして審議される内容が件数・濃度ともに増加している。これから年末、そして年度末にかけて、これまで議論してきたことの取りまとめや来年度施行の制度設計、あるいは通常国会に提出する法案の準備等、慌ただしくなることが予想される。

また、政治の世界では石破内閣から高市内閣へと交代した。新内閣は経済安全保障や物価高騰への対応を引き続き行いつつ、これまである意味、影を潜めていた成長戦略といった“攻めの政策”にも着手しており、今後の舵取りが期待されるところもある。

こうした政治の動きも踏まえ、日本のエネルギー政策や制度設計が現在どのように動いているのか、9月から11月上旬までの審議会での議論を振り返りたい。


GX政策は日本経済発展の起爆剤となるか

GX関連の審議会は、GX実行会議を筆頭に、関連するワーキンググループが配置されている。ここ数カ月で最も議論が進展しているのが、GX産業立地である。GXについては、16の重点分野について方向性を定め、GX経済移行債等を活用した必要な先行投資や規制・制度的措置、市場環境整備、ロードマップの策定が行われ、順次取り組みが進められているが、こうした新たな産業を創出、維持・発展させるためには、それら産業が集積し、活動する場が必要となる。

そこでGX戦略地域制度を創設し、①コンビナート等再生型、②データセンター集積型、③脱炭素電源活用型(GX産業団地等)の3類型を設定し、そこに関わる自治体や企業等からの提案募集を行っている。全部で199件の提案が出たとのことで、その中でも最も多かったのがデータセンター集積型で90件となっており、この分野に関心の高い、あるいは活路を見出そうとする自治体や企業が多いことが分かる。意見については、予算支援関連、規制・制度改革関連、その他に分けられて集計されたものが出されたが、多く見られたのが、電力・通信、土地、水などのインフラ整備に係る支援や制度的措置、脱炭素電源等の導入支援や利用に関する制度的措置であり、事業の予見性を高めるための支援が重要と考えているようである。

11月に行われた第5回ワット・ビット連携官民懇談会ワーキンググループでは、こうした意見も踏まえ、これまで整理した選定要件の見直し、今後の公募の進め方が提示された。その中では、「新たな集積地点として真にふさわしい地域を選定」「計画内容が勝ち筋に繋がることを審査」といった言葉が並べられている。このことからも分かるとおり、生半可な気持ちや流行りで集積地をつくり事業を行うといったことではなく、データセンターを軸とした産業創出・発展を真剣に考えている地域・企業を育てたいという意志が見て取れる。そのため、選定も2段階で行い、事業計画も洗練した上で審査を行うといった方法をとることになる。

【ガス】LNG調達柔軟化へ 気になるアラスカの行方

【業界スクランブル/ガス】

9月にロシアと中国で天然ガスパイプライン「シベリアの力2」建設に向けた覚書が締結された。2030年に供給開始予定だ。「シベリアの力1」はすでに稼働中であり、中国向け供給量は2の完成後にウクライナ戦争前の欧州向け総量の3分の2に達する。

2の価格はいまだ未合意だが、交渉は買い手である中国に有利な状況にある。欧州市場を失ったロシアにとって、中国は最大の潜在的買主。一方、中国は総需要量の6割を国内生産で賄い、輸入もLNGと中央アジアパイプラインガスを併用することで、代替オプションを複数持っている。こうした状況下でも交渉を進めざるを得ないロシアは、相当に危機的状況といえよう。

日本はどうか。売主に足元を見られて安価なLNGを購入することは難しいと言われてきたが、今後は価格・条件面で売主と戦える局面を迎える。30年頃までに米・カタール中心に供給能力が増強され、総生産量は現状の1・5倍に増加。満期プロジェクトを多く抱える日本買主はタイムリーに需要を創出できる。ベース玉はより低コストの長期契約を選択し、市場調整はスポット・短期で機動的にという柔軟なポートフォリオ設計を実現する好機なのだ。

米国が上流投資を迫ってくるアラスカLNGは、高コストによる高価格玉の引取義務や遅延などのリスクを負う可能性がある。しかし市場高騰時の自然ヘッジや確実な融通枠確保、柔軟な契約条件実現などのメリットがあるため、政府系金融の負担共有や小さく生んで確実に育てる段階投資などでリスクヘッジを行いつつ、メリットを最大限享受する努力をすべきだ。(G)

【石油】熟慮なき暫定税率廃止 政治に翻ろうされた3年

【業界スクランブル/石油】

高市早苗氏が首相に就任した。読者が本誌を手に取っている時には、もしかすると「ガソリン税の暫定税率廃止」が実現しているかもしれない。自民党にとって、国会対策の最優先課題だ。軽油引取税と合わせれば年間約1・5兆円の減税となる。従来の自民党は財源問題を盾に廃止に抵抗してきたが、厳しい政権運営の中、政治的必要性は全てに優先する。有権者は自民党を否定し、物価高対策を求めたのだから、民主主義の出発点でもある税制の改正は当然である。著しく合理性を欠く燃料油補助金も、政治的必要性の下、度重なる延長で3年半続け、約8兆円も投じてしまった。予備費の支出ということで、国会審議すらなかった。

補助金と同様、今回の暫定税率廃止には、有識者から温暖化対策とエネルギー安全保障に逆行するから反対だとする見解も出ている。確かに政策の方向性は逆ではあるが、減税されるから、あるいは補助金支給があるから石油消費が伸びる、下支えされたなどと考えている業界人はほとんどいない。ガソリン消費に対する価格弾力性は限りなくゼロに近いからである。最近の消費減少は構造的要因によるものだと受け入れられている。

ただ今回の廃止議論は、将来の脱炭素時代、あるいは新しい国土創成のための税制の在り方、燃料課税の在り方の検討の第一歩になり得たと思わずにいられない。道路特定財源・暫定税率の創設は田中角栄の「知恵」と「夢」であり、高度成長期の国土建設に果たしたガソリン税の役割・意味を踏まえて、脱炭素時代の税制を考えたかった。そもそも、炭素税だって、脱炭素時代には無意味だ。(H)

岐路に立つドイツの洋上風力 北海沖の公募で応札ゼロ

【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

ドイツ政府が8月1日に実施した北海沖の洋上風力発電プロジェクトの入札において、応札事業者が1社も現れなかった。期限内に応募がなかったことを、連邦系統規制機関が6日に発表。同機関は新たな入札期日を来年6月に設定し、再公募の方針を示している。

今回のプロジェクトは、ドイツ領海内における合計250万kW規模の2地点を対象としたもので、応募ゼロは初の事例となる。ドイツ洋上風力事業者連合のティム事務局長は、「ドイツの洋上風力市場は、投資家にとって関心を引くものではない」との声明を発表した。

背景には、洋上風力開発におけるリスクとコストの急増がある。原材料価格の高騰により建設費が膨らむ一方、電力価格は低水準で推移しており、投資採算性が確保できない状況が続いている。投資家は新規設備への投資を控えている。

洋上風力業界は、双方向差額決済契約(CfD)の導入を求めている。政府が電力の最低価格を保証することで、投資家は安定的な収益を見込める。融資機関も資金調達に必要な条件を満たしやすくなる。ティム事務局長は「このような制度改革がなければ、今後の公募も失敗に終わる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。独エネルギー水道事業者連盟(BDEW)も、今回公募された北海沖のフィールドについて、経済性の低さを問題視しており、CfDの導入を支持している。

洋上風力の拡充が停滞すれば、ドイツが掲げる脱化石燃料へのエネルギー転換に支障をきたす。現在、北海およびバルト海のドイツ領海には、合計1639基(920万kW)の風車が稼働している。洋上風力事業者連合の発表によれば、さらに約100万kW分の設備が完成しているものの、送電線が大陸側と接続されておらず、電力供給には至っていない。政府は2030年までに、国内総電力消費の少なくとも8割を再生可能エネルギーで賄うことを目標に掲げており、洋上風力発電容量は3000万kWを目指している。しかし、業界側はこの目標の達成は困難であり、実現は31年にずれ込むとの見方を示している。

さらに、政治的なリスクも高い。今年5月に発足したメルツ政権が、洋上風力の拡充目標にどこまでコミットするかは不透明である。

洋上風力業界は以前から、予測困難なリスクを伴うオークション設計に警告を発してきた。法制度の枠組みを早急に見直さなければ、ドイツは価値創造、雇用、そして電力供給の安定性という重要な機会を失うことになりかねない。原材料費の高騰、サプライチェーンの不安定化、電力価格の不確実性、そして国際情勢の緊張など、複合的な要因が投資環境を揺るがしている。

イギリスでも過去に、入札者が現れない洋上風力オークションが発生しており、ドイツも同様の課題に直面している。洋上風力の潜在力を失わせないためには、制度面・経済面の両側からのてこ入れが急務である。

(弘山雅夫/エネルギー政策ウォッチャー)

あぜんとするIEAのエネルギー情勢予想分析

【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

かねてからビロル事務局長の存在意義が問われているIEA(国際エネルギー機関)のエネルギー情勢予想分析のブレは消費国にとって有害である。IEAは9月16日、「これからの石油・ガス情勢の動向予想」を公表した。ロイター通信などが詳細に報じ、ここ数年で上流投資が抑制された上、産油国も含めて石油、ガスの生産が低迷しており、数年後には供給不足が現出すると伝えた。

一方、翌日の英紙フィナンシャル・タイムズは、この原因を2021年にIEA自ら公表した「2025年排出ネットゼロ工程表」にあると指摘した。工程表では30年までに石油需要がピークに達するという予測を打ち出しており、石油・ガス開発の上流投資は不要で、投資すると全て「座礁資産」になると警告していたからだ。上流投資を抑制していくべきとあおっていたのを忘れてしまったがごとく、上流部門への投資不足による原油・ガスの供給量不足を訴えるのは、消費国のためのエネルギー安全保障と安定供給をうたったIEAとしての存在意義が問われると言っても過言ではない。

ここ数年IEAは、活動の軸足を「エネルギー安全保障」から「50年排出ネットゼロ」実現のための「クリーンエネルギー移行」に移している。トランプ2.0政権になり、ビロル事務局長の解任を噂する報道もある。1973年のオイルショックの反省から翌年に設立したIEAは昨年に設立50周年を迎えたが、従来の報告書に全く反省しない形で新たな論考報告を平然と出す姿勢に対して、今般はOPECも批判の眼を向けている。OPEC自身は従来から石油・ガスの上流部門への継続的投資を訴えてきたとしている。予想の論旨が変わったならば、その論拠を明確に示さなければ、ますますIEAの信頼と信用が失われていくだろう。

(花井和夫/エネルギーコラムニスト)

環境対策の先導役を名乗る中国 新たなNDCに批判相次ぐ

【ワールドワイド/環境】

9月24日、国連気候サミットで中国の習近平国家主席がビデオメッセージを行い、2035年に向けた新たなNDC(国別目標)として「経済全体の温室効果ガス排出量を35年時点で、ピーク時点比7~10%削減する」「エネルギー消費に占める非化石燃料比率を30%超に引き上げ、風力、太陽光発電容量を20年比で6倍超にする」などと発表した。

今回、初めて全温室効果ガスを対象とし、経済全体の総量削減目標を打ち出したものであるが、予想されたように「不十分」との批判が起こった。各国のNDCを評価するクライメート・アクション・トラッカーは6月、1・5℃目標と整合的な中国のNDCは23年比で30年マイナス54%、35年マイナス66%であるべき(LULUCFを除く)との分析を発表した。

このため、「新たなNDCは既に実施中の政策で達成される見込みであり、排出量のさらなる削減を促す可能性は低い」「絶対目標値ではなく、森林・土地利用を含むネット排出量であるため、透明性が低い」(クライメート・アクション・トラッカー)、「この野心レベルは中国が達成可能かつわれわれが必要と考える水準を大きく下回っている。中国の膨大な影響を考慮すると、世界の気候変動対策目標の達成は著しく困難になる」(欧州委員会フックストラ気候変動対策担当委員)などの批判が寄せられた。

23年の地球温暖化防止国際会議・COP28のグローバルストックテークでは、「次回のNDCにおいて、異なる国情を考慮し、最新の科学に基づき全ての温室効果ガス、セクター、カテゴリーを対象とし、地球温暖化を1・5℃に制限することに沿った、野心的で経済全体の排出削減目標を提示するよう促す」との文言が盛り込まれた。中国、インドなどを念頭に置いたものであるが、結局、最大の排出国である中国には効き目はなかった。しかし、中国はパリ協定を離脱した米国を暗に批判し、「われこそは気候変動対応のリーダー」と自認している。

前日にトランプ米大統領が国連で行った演説は「気候変動問題は世界に対して行われた史上最大の詐欺だ」という激烈なものであった。野心レベルが不十分であるとしても、曲がりなりにも目標を提出している中国がまともに見えるのは皮肉なことだ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

生産性向上や脱炭素化へ 電化の導入事例をウェブ配信

【日本エレクトロヒートセンター】

日本エレクトロヒートセンター(JEHC、内山洋司会長)が10月20日から、最新の電気加熱技術を伝える「エレクトロヒートシンポジウム」を同センターのウェブサイト上で開催している。

20回目となる今回のテーマは「熱利用の切り札〝ヒートポンプ・電気加熱〟~2050年カーボンニュートラルに向けたイノベーション」だ。視聴は無料で、開催期間は11月30日までを予定している。

冷温水を同時供給するヒートポンプ
提供:前川製作所

経済産業省資源エネルギー庁の福永佳史・省エネルギー課長が、第7次エネルギー基本計画を踏まえた今後の省エネルギー政策について基調講演しているほか、日本電鍍工業の代表であり、ものづくりなでしこの副代表理事を務める伊藤麻美氏が「未来を見据えたものづくり戦略」をテーマにした特別講演を行っている。

その他、「〝電化への道筋〟アメリカ・産業分野の脱炭素化に向けた重要な柱」といった海外事例や、配信期間を限定した「省エネを地域で支える!パートナーシップ制度の〝橋渡し役〟が拓くエレクトロヒートの可能性」(静岡県、三島信用金庫)、「工場が変わる、持続可能なモノづくりを支える」(宮城県、神奈川県ほか)、「電化専門家による脱炭素経営支援」(ほっとコンサルティング)といったコンテンツも用意している。


導入事例の紹介を充実 効率化のアイデア満載

「従来は電化の技術そのものを紹介することが多かったが、今回は電化技術がさまざまな現場で利用されている現状を伝えるために、実際にヒートポンプや誘導加熱、赤外線加熱などの電化技術の導入事例や導入された背景を紹介している。生産性の向上や脱炭素に資する電化の事例を知ってもらいたい」(JEHC関係者)

例えばヒートポンプ使用のケースでは、猛暑で工場内の作業効率が低下している現場に対して、前川製作所が「冷温水を同時に供給するヒートポンプで電気代実質ゼロ円の暑熱対策」として事例を紹介。また、三浦工業が、製油・繊維・食品の3工場で効率的に廃熱を回収した成功事例を発表している。

その他、「赤外線加熱」の事例も。電気加熱器具を手掛けるメトロ電気工業が、開放的な空間で効率的に暖房する技術と導入事例を紹介しているほか、中部電力ミライズが、自動車製造の塗装工程でCO2削減と品質向上を両立する塗装ヒーターを開発した取り組みと複数の工場へ展開した事例を取り上げている。

「シンポジウムは回を追うごとに視聴者数が伸びている。前回は5600人だったが、今回は6000人以上に見てもらいたい」(同)としている。

【新電力】小売りも対岸の火事ではない GX―ETSの懸念

【業界スクランブル/新電力】

短期志向の多い小売り事業関係者たちの視界には、排出量取引制度(GX―ETS)が入っていない。影響を受けるのは発電事業者、対岸の火事との認識なのだろうか。来年度開始とはいえ無償枠の割当でしかなく、実影響が大きい特定事業者(相当数が火力発電事業者)を対象とする負担金徴収は2033年度からで、当面関係なしと軽視しているのだろうか。

本制度で懸念されるのが、火力発電原価の上昇とJEPX/相対取引水準上昇は不可避であるということだ。構想されている中長期市場における約定難度も上がる。上昇分は小売り経由で電力消費者に転嫁されるのが筋だが、事前に負担金水準を予測できないので、販売料金提案が難しい。「政策的に低く設定された経過措置料金による小売り競争阻害構造」は悪化しかねず、自動反映できるよう措置するべきだ。

GX移行債の返済原資の大半は特定事業者負担金と予測するが、これによる火力電源の稼働率低下、退出も懸念される。移行債が支援するプロジェクト群には実験的なものが多く、退出火力電源と近似したkW時量の提供はできまい。安定供給がぜい弱化すれば、スパイクリスクは高まり、小売りの経営にも影響する。

制度の骨格は決まっているので何を言っても無駄かもしれないが、発電事業者以外の業界がGX移行債償還財源の負担を免れている点は公正ではなく、その偏りを甘受してしまう電力業界の発想にも疑問を覚える。システム改革以降繰り返された『国が良かれと思って作る制度が、業界と安定供給を損なうパターンの再現』になるのではないかと心配している。(S)

補助制度主導の政策にメス 独新政権はより現実志向型に

【ワールドワイド/市場】

ドイツでは昨年の総電力消費に占める再生可能エネルギー比率が暫定値で54・4%に達した。再エネ拡大に伴うシステムコスト上昇は、電気料金を押し上げ、家計や企業の負担を増大し、重要な課題となっている。

今年5月に発足したメルツ新政権は、エネルギー転換の進ちょく把握と政策指針策定のため、電力需要や供給安定性、系統拡張、再エネ拡大、デジタル化、水素の普及を検証する調査を外部委託し、その結果を9月に発表した。報告書では、産業縮小やヒートポンプ・EVの普及遅延により、2030年の電力需要想定が従来の7500億kW時から6000億~7000億kW時に下方修正された。

政府は30年に総電力消費の80%を再エネで賄う目標を堅持する方針だが、電力需要の低下に伴い再エネの導入ペースが緩やかになったとしても達成可能だという。ただ、現行法は従来想定に基づく導入目標と補助金制度を前提としており、需要の見直しは支援制度や拡大戦略に影響を及ぼす可能性がある。

ライヒェ経済・エネルギー大臣は調査報告の公表に合わせ、エネルギー政策における10の主要措置を発表。洋上風力の導入量や系統連系・HVDCの規模を現実的な需要に即して調整する必要性を示した。ライヒェ大臣は洋上風力の拡張を「最適化」することで系統接続送電線を節約し、最大400億ユーロのコスト削減が可能としている。

また、再エネ支援制度の改革を打ち出し、電力システムとの整合と市場に即した仕組みへの移行を掲げた。固定価格買い取り制度を段階的に廃止し、ネガティブ価格発生時の買い取りを全面廃止する方針だ。代替制度として双方向差額決済契約(CfD)などが提案された。報告書公表の1カ月前、ライヒェ大臣は小規模な屋根設置型太陽光への固定価格買い取りを廃止し、事業者による直接販売方式に切り替える案を提起していた。住宅の屋根設置型太陽光が導入の中心であることを踏まえると、補助金廃止による影響は大きい。

新政権のエネルギー政策は、補助制度主導から市場主導へと転換し、再エネ導入量の抑制を伴う現実志向型への移行を示している。前ショルツ政権が再エネ拡大を強く推し進めてきたのに対し、新政権はエネルギーコストや安定供給を重視する姿勢だ。しかし、気候中立という最終目標に変更はないため、この移行期の決断がエネルギー転換の成否を左右するとみられる。

(藤原 茉里加/海外電力調査会・調査第一部)

【電力】AIが労働を代替 社員はやりがい維持できるか

【業界スクランブル/電力】

電力会社の若手社員の話を聞く機会があった。いわく「在宅可能で勤務はフレックス、休暇も取りやすい。それでいて仕事もやりがいがある」―と、満足度の高い職場だと熱弁していた。忙しい部署であれば残業を余儀なくされ、休暇を取りにくい時期もあるだろうが、かなりホワイトな職場であることがうかがえる。

電力会社は元々組合がしっかりしていて、休暇が取れないことや過度な残業に厳しかった。とはいえ、それも組織・職場によりけりで、特に本店組織では「不夜城」と呼ばれるような職場があったイメージがある。

往時よりも従業員数が減ったのに一人当たりの労働時間が減ったのだとすると、よほど無駄があったのか。機械化・自動化が進み、さらに全ての職場で業務効率化が推進されているということか。人口減少に加え、業界への人材流入が減少する中で、今後もこの流れは変わらず、DXやAI活用によるさらなる省力化が求められることは間違いない。

別のインフラ産業では、近いうちに本社の管理系の仕事はほぼ人が介在しなくてもよくなり、現場の設備管理・修繕などのみに人が必要になると考えているとのこと。現場でも巡視・点検はセンサーやドローンが導入され効率化が進んでいるが、工事や作業ができるようなロボットの導入はもう少し先になりそうだ。

AIがモノを考え、人は作業、さらにロボットがその作業すらも代替できるようになれば、AIとロボットエンジニア以外は不要になってしまうのか。そうなった時にも、インフラ産業の人材は「やりがい」を持って仕事できるのだろうか。(K)

中央アジアで脚光浴びるC5 ウクライナ侵攻契機に中露接近

【ワールドワイド/資源】

ユーラシア大陸のまさに中央にあり、外海から隔てられ、注目されることが少ない中央アジアにウクライナ問題を契機として近年関心が高まっている。ここでいう中央アジアは、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンの5カ国で、「C5」と呼ばれることもある。

ロシアによるクリミア併合後の2015年にも当時の安倍晋三首相が日本の首相として5カ国を初めて訪問。米国もその後、初めてC5プラス1の枠組みを創設した。日本を含む「西側」は東西の狭間にあり、エネルギー、鉱物資源分野でも期待される中央アジアを中露から引き留める狙い。中でもEU(欧州連合)は、重要な貿易相手だったロシアを代替する役割も想定し中央アジアに接近している。

ロシアは、ウクライナ侵攻以降に急減した欧州向けエネルギー輸出の代替として中央アジアに注目し、域内で最大の人口を抱えるウズベキスタンにガス輸出を拡大。さらにカザフスタン、ウズベキスタンで中央アジア初の原子力発電導入に積極的に関与し伝統的な経済・政治・文化的つながりの強化を目指す。中国にとって中央アジアは一帯一路構想において中国に直結し、大陸の東西をつなぐ不可欠なエリアだ。トルクメニスタンは主要なガス輸入源で、ロシア産とのバランスを取る上でも重要だ。

また、中東からも再生可能エネルギー分野で中央アジアへの投資が急増する。UAE(アラブ首長国連邦)、サウジアラビアの国営企業などがカザフスタン、ウズベキスタンで次々と大規模な風力、太陽光、蓄電案件を立ち上げている。中露でも欧米でもない大規模投資家は珍しい。背景には、まだ競合相手がいない中央アジアの優れた再エネポテンシャルを、中東の潤沢な化石燃料マネーを元手に開拓し、影響力を行使できる新たな市場を作り出す目的や、周辺のイランやトルコに対するけん制の意味合いもあるかもしれない。

5カ国の中でも結びつきを強化しようという動きがある。独立以降もソ連時代からの宗主的立場を取るロシアが軸となり、域内の関係は希薄だったが、近年は毎年、5カ国合同首脳会議が開催され、幅広い分野での多面的な地域間協力に関する議論が行われている。「中央アジア」でくくっても各国に個性があるが、こうした内外の動きは今まで目立たなかった中央アジア側にとって好機であり、地域の発展に生かさない手はない。

(四津 啓/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)