制裁強化より、求められる戦略的思考の復活

【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

米トランプ政権は8月27日にインドに対して25%の追加関税を課した。既に発動済みの相互関税25%を加え、計50%という異常な高率関税がインドの対米輸出の約3分の2に対して掛かる。米ニューヨークタイムズ誌はこれを「経済的宣戦布告」とまで呼ぶ。

追加関税の理由は、インドのロシア産石油輸入だ。2022年後半以降、インドのロシア産原油輸入は激増し、昨年は日量200万バレル弱。総原油輸入に占める割合は21年の2%から23~24年は約35%に上った。このロシア産原油輸入、およびこれを精製した軽油などの輸出、いずれもロシアのウクライナ侵略への経済的支援に当たるとし、その阻止を企図する。

このような措置は、西側の石油戦略として根本的に誤っている。日量約800万バレルのロシア石油輸出は、ロシア外の世界の生産余力を超える。つまり世界はロシア産石油を必要とする。したがって西側自身の対露石油依存を最小限化する一方、非西側諸国へのロシア石油輸出は阻害すべきでない。不用意な阻害は世界石油供給のひっ迫につながり、非西側諸国の離反を招く。

その離反は、追加関税に激しく反発するインドのモディ首相が7年ぶりに訪中し、上海協力機構首脳会議で対露関係の緊密化、対中関係の改善に動いたことに鮮明に伺える。9月2日付の米ウォールストリートジャーナル紙も、中国の10月渡しウラル原油の大量購入、ロシアの積極的な価格割引とインドの購入意欲の保持を伝えている。

関税を振りかざす米国だけでなく、欧州も不要に「影の船団」への制裁を強め、ロシア産石油への「上限価格」に固執する。世界的な視野で石油を捉える、戦略的思考の復活が必要だ。

(小山正篤/国際石油市場アナリスト)

宿泊問題で揺れるCOP30 ホテル不足に各国が懸念表明

【ワールドワイド/環境】

11月にブラジルのベレンで地球温暖化防止国際会議・COP30が開催予定だが、宿舎問題が深刻なリスクとして浮上している。COP30では5万人近くの参加が見込まれる一方、開催地ベレンのホテルインフラは圧倒的に不足している。

この点について今年初めから各国政府が強い懸念を表明してきた。6月の準備会合ではブラジル政府によるロジの説明会が開催され、「早急に政府によるホテル予約サイトを立ち上げる。現在、ホテルの建設を進めており、クルーズ船を宿泊用に利用することも検討している」とのことであったが、公式ホテル予約サイトの立ち上げは8月までずれ込んだ。さらにベレンのホテルがこれまでのCOPと比較しても法外な価格を請求していることが各国の強い怒りを買っている。通常であれば7泊8日で6万円程度のホテルが期間中は100万円になっているのだ。各国政府はより宿泊施設の充実しているリオデジャネイロなどの大都市に移すことを求めているが、ブラジルは頑として応じていない。世界最大の熱帯雨林を有するアマゾン川の河口であるベレンの開催という象徴的意義にこだわっているのだろう。

8月22日のブラジル政府と気候変動枠組み条約事務局の打ち合わせの際、国連側は発展途上国の代表団に1日当たり100ドル、先進国の代表団に同50ドルの宿泊代補助を求めたが、ブラジル側は「ブラジル政府はすでにCOP30開催のために多大な費用を負担しており、ブラジルよりはるかに豊かな国々を含む他国の代表団を補助する余裕はない」との理由で拒否している。途上国の中には会議への参加を見合わせ、代表団規模の縮小を強いられる国も出てくるだろう。

開催地の宿泊事情、会場との交通、会場の設備などのロジ面で参加者に強い不満を感じさせるCOPが成功したためしはない。その典型的な事例は会場のキャパシティを大幅に超える人数を参加登録し、多くの人を雪のふりしきる戸外で行列させたコペンハーゲンのCOP15であり、会議運営の拙劣さもあり、「デンマークに二度と大きな会議の主催をやらせるな」とさえ言われるようになった。COP30の宿泊を巡るトラブルがこのまま続けば、会議の成否そのものも危うくなるだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

【ガス】熱中症&災害対策に 一石二鳥のLPガス

【業界スクランブル/ガス】

この夏、平均気温は3年連続で最も高く、歴代最高気温(8月5日に群馬県伊勢崎市で41.8℃)を観測。猛暑日や40℃以上の地点数の記録を更新した。その中で注目を集めているのが熱中症対策、そして避難所となる公立施設の体育館空調だ。

近年、平均気温の上昇により夏場の熱中症リスクが高まり、また災害発生時には体育館などが地域住民の避難所となるため、冷暖房設備がなければ被災者の健康被害や災害関連死につながる恐れがある。特に、電力や都市ガスなどのライフラインが停止した場合でも稼働できる空調設備が求められている。

内閣官房国土強靱化推進室が4月にまとめた「第一次国土強靭化実施中期計画」では、避難所になり得る公立小中学校の体育館などにおける空調設備の設置完了率を、2024年度の18・9%から35年度に100%とする目標を掲げている。この他、災害対応として燃料タンクを整備した避難所などの社会的重要インフラの割合を30年度に100%にするとしており、LPガスには追い風といえる。

LPガス仕様GHPとEHPとの設置費用比較では、設置費用はEHPが優位だ。しかし、停電など災害時対応のための非常用発電機・災害バルクなどの追加設置費用を含めるとGHPが優位と試算されている。さらに、GHPの学校体育館への導入は、系統電力の負荷軽減とCO2排出量の削減にもつながる。

こうした点をこれまで業界を挙げて自治体などに訴求してきたが、きちんと浸透しているだろうか。熱中症と災害対策に一石二鳥といえるLPガスの果たす役割は大きいと、引き続き強調すべきだ。(F)

【新電力】電源種問わずkW時確保 懸念は先物との不整合

【業界スクランブル/新電力】

電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WGにおいて、「小売電気事業者の量的な供給力確保の在り方と中長期取引市場の整備に向けた検討について」が検討の俎上に上がっている。背景には、①市場連動価格で販売する事業者が増えたことによる電気料金の変動リスクの増大、②発電事業者の発電コストの予見性を高めることへのニーズの高まり―がある。

足元では、小規模事業者への確保義務量の緩和案が出るなど着々と実行に向けた議論が進む。監督官庁と意見交換する中で見えてきたのは、冒頭に挙げた二つの背景のうち、どちらかというと①のリスクを抑制することに目的がシフトしていることだ。②は、3~5年程度のコミットメントでは不十分であるからだ。

また、再生可能エネルギーを主力電源として扱っていく第7次エネルギー基本計画との齟齬がないよう、FIT/FIP電源を含め、電源種に差を付けずに確保したkW時をカウントする方針であるもようだ。

確保したkW時は、基本的には供給計画に記載されることになる。そこで気になるのが、供給計画で見ることができない先物調達との関係だ。先物は、料金変動リスクの増大を実効的に抑える役割を果たしているが、供給計画には載らない。このため、先物市場でヘッジをして安定的な電力料金を供給している事業者は、kW時を確保していることにはならない。これでは、制度趣旨と実態に齟齬が生じてしまいかねない。

新制度を巡る議論の取りまとめは来年になるとのこと。現行制度とも整合の取れた、良い形で着地することを祈るばかりだ。(K)

各国で洋上風力の不振が顕在化 収益安定化へ制度変更が急務

【ワールドワイド/市場】

三菱商事を中核とする企業連合は8月、秋田、千葉県沖の3海域で進めていた洋上風力発電事業からの撤退を表明し、電力業界に衝撃を与えた。欧州でも、大手発電事業者が大規模案件の中止や投資計画の縮小を発表するなど、洋上風力の不振が顕在化している。

至近の動きとしては、ドイツの連邦系統規制庁が北海の2海域で2・5GWの洋上風力発電所を建設する事業者を公募したが、応札した企業はなく入札は不成立に終わった。6月に行われた入札でも、応札企業は2社にとどまり、業界団体が事業環境の悪化による導入停滞を懸念していたところであった。

不振の原因は、地政学的緊張とサプライチェーンのひっ迫に伴うプロジェクト費用の上昇や、ネガティブプライスなどに起因する電力市場の予見性低下などが挙げられる。また、制度側の問題も指摘されている。ドイツの入札では、事業者が海域調査を行う方式で応札価格(FIPの基準価格)が1kW当たり0ユーロ・セントだった場合、最も高額な拠出金を提示した事業者が落札される。拠出金は、電気料金抑制のために使われ需要家に還元されるほか、一部は海洋環境の保護や漁業対策のために使われるが、ネガティブ・ビディングは、事業者の収益安定性を著しく悪化させると業界団体は批判している。

また、政府が掲げる野心的な導入目標もプラスに働くとは限らない。ドイツ政府は洋上風力の設備容量を2030年までに30‌GW、45年までに70‌GW以上に引き上げることを目指している。しかし、限られた海域に風車が密集すると、風車が互いに風を遮り合い設備利用率が低下する。ドイツの送電会社もこの問題を指摘しており、「コスト効率的な再生可能エネルギー導入」を訴えている。また、地政学的緊張の高まりも新たなリスクとなっている。ロシアの脅威が増大する中、洋上変電所などがサボタージュの標的となることを事業者は警戒している。

業界団体は制度改善策として、安定収益を担保する差額決済方式(CfD)の導入、電力売買契約(PPA)との両立などを求めている。CfDを導入している英国でも入札の不振により、入札価格上限の引き上げなどが行われているが、ドイツも第一歩として洋上浮力に係る事業者のリスクを軽減するような制度改変がなされなければ、洋上風力導入が頭打ちとなることが危惧される。

(佐藤 愛/海外電力調査会・調査第一部)

【電力】「稼ぐ力」の鍵どこに 迎えた再点検の時

【業界スクランブル/電力】

余計なお世話とは思うが、大手電力会社の営業部門はいつからこんなに組織が増えたのか。社員はさぞかし多いことだろう。こんなに組織を分けて横の連携は大丈夫かなど、いらぬ心配をしてしまう。小売り自由化が進むにつれ、商売に不慣れな経営者から「とにかく売れ」とげきが飛んだのかもしれない。

ところで、小売事業は利益の源泉なのだろうか。内外無差別が徹底された今となっては、電源構成の特徴を生かしたメニューの差別化の余地は小さくなったはずだ。昨今の営業は、ガス、再エネ、蓄電池、DRなどが絡み、仕入れは市場取引を伴うなど、業務は複雑化しているが、新規の分野には外部人材の採用など、質を充実する方法もあるはずだ。十分な付加価値をもたらせなければ、人の数は費用として重荷になるのみだ。

合理化の足かせの一つは、地域のお客さまとの関係かもしれない。これまで電力会社の信用で契約いただけたありがたいお客さまは、人手をかけても大切にしたい。ただし、この強みはいつまで続くのか。電気料金の体系は、複雑怪奇な通信料金に比べ、よほどシンプルだ。今やスマメのデータを基に、最適な契約先をネットで選べる時代だ。ネット世代の若い消費者や経営者の電力会社選びは、古い世代と同じであるはずはない。

小売り全面自由化から10年、垂直統合組織である大手電力の「稼ぐ力」の鍵がどの部門にあるのか、再点検の時ではないか。新電力が大手と同規模になっても、これほどの人を抱えるであろうか。気がつけば、大手電力の営業部門には、莫大な販管費と手間のかかるお客さまだけが残るかもしれない。(H)

対イラン国連制裁再開へ 中国への原油輸出に影響か

【ワールドワイド/資源】

イランを取り巻く地域情勢が激しさを増している。1月には第2次トランプ政権が成立し、翌月にはイランへの「最大限の圧力」政策の復活を宣言した。「棍棒外交」ともいえる核協議が進む中、6月に生じたイスラエルのイラン核施設への攻撃とその後の応酬は、「第5次中東戦争」さながら地域に大きな衝撃を与えた。その余波が収まる間もなく、英仏独は8月28日、2015年に成立したイラン核合意の下で解除された国連制裁の再開、いわゆる「スナップバック」手続きを開始した。

そのような経済的・外交的圧力とは裏腹に、イランの原油輸出は好調を維持している模様である。船舶データ分析会社ケプラーによると、8月までのイランの今年の原油輸出量は日量150万バレル以上と、18年の米国の核合意離脱以降で最高水準を維持している。

原油輸出拡大の背景には、中国との間に構築した制裁回避ネットワークがある。イランは18年に米国制裁が再開されて以来、自動船舶識別装置(AIS)信号の偽装や東南アジア沖を中心とした船舶間の積み替え(STS)を活用し、イラン産と分からない形で中国へ供給してきた。

イランは原油供給ルートを意図的に複雑化させ、柔軟に変更していくことで、米国の制裁を上手く回避しようと試みている。加えて中国側でも、イランから供給された原油の産地を偽ることで制裁回避を試みている。さらに、イラン産原油を受け取るのは「ティーポット」と呼ばれる小型製油所であり、主に地元での取引のみに従事していることから、米ドル取引の停止などの制裁の効果が限られている。このネットワークを通じて、イランは原油輸出を維持することができ、中国は制裁リスクからディスカウントされた安い原油を購入できるのだ。

国連制裁の「スナップバック」は今後イランの輸出に影響を及ぼすのだろうか。既に多くの関係者が米国の「特別指定国民(SDN)」に指定されているイランにとって、国連制裁の実質的な効果は限られている。しかし、イラン産原油の9割近くを受け取る中国にとって、米国制裁はあくまで1国の国内法の域外適用に過ぎないが、国連制裁には国連加盟国として従う義務が発生する。イランの経済的・外交的パートナーである中国が国連制裁に素直に従うとは考え難いが、いずれにせよ制裁回避ネットワーク存続の鍵は依然として中国が握っている。

(豊田耕平/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【コラム/10月17日】エネルギー転換実現のための課題

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

パリ協定の気候目標を達成するためには、今後四半世紀の間に化石燃料によるエネルギー供給を再生可能エネルギーなどへと大きく切り替えていくことが求められる。こうした転換を実現するには、どのような課題に取り組むべきかが問われている。本コラムでは、将来のエネルギー供給システムのあり方(集中的・分散的要素)を考察した、ドイツ国立科学アカデミー・レオポルディーナなどによる論文(2020)に基づき、この問題を考察してみたい。

同論文において、エネルギー転換実現のために対応すべき主要な事項として指摘されているのは、次の通りである。

・より分散化されたシナリオでも、ネットワークの拡張は避けられない。
・分散型システムの調整には、デジタル化が必須要件。
・規制を合理化し、CO2価格を誘導手段(guiding instrument)とすることが効率的なエネル
ギー転換達成の鍵。
・ネットワークの安定性に貢献する再生可能エネルギー発電の拡大・運用が求められる。
・エネルギー転換の実現のためには、住民の主体的な関与が重要。

以下、個別に詳しく考察したい。


より分散化されたシナリオでも、ネットワークの拡張は避けられない

エネルギー転換実現のためには、再生可能エネルギー電源を大幅に拡大する必要がある。分散型エネルギーシステムの支持者の中には、同電源の拡大により分散化が進展し送配電網の拡大が不要になると主張する者もいるが、様々な研究によると、エネルギー転換を成功させるためには、送電網と配電網の両方を大幅に拡大することが避けられない。送電網は、再生可能エネルギー電源の大量導入によって必要となるフレキシビリティを全国レベルで(また、ドイツでは輸入により)確保する観点から重要な役割を担う(2025年6月13日掲載のコラムを参照のこと)。

また、現在のエネルギー転換に関する議論では、送電網が中心となっており、配電網はあまり注目されていない。しかし、配電網は系統の大部分を占めており、過去10年間で配電網の運用者に求められる役割は大きく増加しており、今後もさらに拡大していくことが予想される。これは、再生可能エネルギー電源の大幅な拡大に伴い、配電網における需給調整の重要性が高まっていくことに加え、セクターカップリングにより、需要が大きく増大していくためである。配電網の新たな課題に対応するための技術的アプローチは、配電網の拡張のほか消費者が所有するフレキシビリティ(電気自動車やヒートポンプなど)の制御などである。


分散型システムの調整には、デジタル化が必須要件

再生可能エネルギー電源の大量導入により、需給調整の重要性は増す。従来は、発電設備から提供されていたフレキシビリティは、分散化が進展していく中で、蓄熱設備、蓄電設備、電気自動車、充電設備などによっても提供され、これら設備間の調整が課題となる。より集中化したシステムでも、より分散化したシステムでも、システムの構成要素の調整は、大きな技術的課題の一つだが、集中型のシステムよりも分散型のシステムの方が、より多様かつ多数の機器およびアクターの調整が求められ、より複雑な作業となるだろう。

そのため、一層のデジタル化や自動化が不可欠な条件となる。人工知能や自律・自己学習型の技術は、非常に複雑なシステムを技術的に制御する上で大きな可能性を秘めている。しかし、デジタル化されたエネルギーシステムにはリスクもある。設備がネットワーク化されればされるほど、サイバー犯罪者による潜在的な攻撃対象となる可能性は高くなる。とくに、設備がインターネットに接続されている場合はなおさらである。そのため、デジタル化されたエネルギーシステムは、外部からの攻撃に対しても耐性を持ち、被害の拡大を防ぐ構造となるよう設計される必要がある。

ペロブスカイト開発の現在地㊦ 国内産業の最適な育成へ 適材適所の海外技術活用を

【識者の視点】薛婧/イーソリューションズ執行役員副社長

国内産業創出や脱炭素化への期待がかかるペロブスカイト。

シリコン太陽光での失敗を乗り越え、軌道に乗せることができるか。

これまで2回にわたって、6月に中国で開催された「SNEC」で発表された中国のペロブスカイト技術開発の現状と、サプライチェーン構築の動向を解説した。本稿では、世界のペロブスカイト技術との組み合わせを念頭に、日本国内の関連産業の最適な育成の在り方と海外製品の活用方法について考察する。


都市部の脱炭素化 分散型電源活用の鍵に

海外情勢やインフレの影響で、水素や洋上風力などの脱炭素プロジェクトから日本企業が撤退する事例が相次いでいる。このままでは第7次エネルギー基本計画の再生可能エネルギー導入目標の達成が難しくなる。今後は地熱や水力など多様な再エネ活用が求められるが、都市部では電源立地や系統の空き容量が限られるため、分散型電源の活用が鍵となる。データセンター自体の分散立地や電力インフラと最適に組み合わせる「ワット・ビット連携」が注目を集めており、その文脈でも理論効率が高く、日射量が少ない地域でも発電可能なペロブスカイトの活用が期待される。

ペロブスカイト技術の適材適所な活用イメージ

例えば、耐重性が低く形状が不規則な軽量屋根などには、軽量で柔軟性が高い「樹脂フィルム型」ペロブスカイトを適用できる。ただし、これを活用するにはいくつかの課題がある。

まず、「寿命」や「発電効率」などの性能を評価する基準の整備が必要である。ペロブスカイトはシリコン太陽光と発電挙動が異なるため、シリコン太陽光の国際基準をそのまま適用することは難しい。7月に開催されたNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の成果報告会では、メーカー各社で「寿命」の測定項目や条件、判定基準がバラバラであった。そのため、国がリードして業界基準を作る必要があるだろう。

次に、「安全性」の確保も重要だ。ペロブスカイトは極めて電圧が高いため、それに対応する保安基準と対策が必要である。さらに、シリコン太陽光で求められる「不燃性」や「難燃性」を、樹脂フィルム型ペロブスカイトでどのようにクリアするかも課題となる。加えて、ごくわずかだが、ペロブスカイトには水溶性鉛が含まれており、モジュールが破損した際の鉛の流出リスクと対症も検証が必要だ。

このように、性能と安全性などを測る国際的な基準がまだない中で、日本が先んじてその基準を作ることで主導権を握り、日本のメーカーが優位に立つ可能性が期待できる。

一方で、コスト面の課題は無視できない。流通・設置を含めたペロブスカイトのトータルコストを1W当たり150円以下に抑えられれば、経済産業省の2030年に1kW時当たり14円の発電コスト目標達成は可能とされる。しかし、仮に「樹脂フィルム」の寿命が10年の場合、発電コストは倍近くなる可能性があり、国民や企業の負担増は不可避だ。さらに都市部では、屋根面積が限られているほか、北海道などの雪国では積雪すると屋根では発電できない。このため、高層ビルの窓や壁面の活用も検討すべきだ。国内の大手建材メーカーの試算では、ペロブスカイトを全国の既存ビルのカーテンウォールに設置すると、約5・2GW(1GW=100万kW)の発電ポテンシャルがあるとしている。これは国が掲げる40年度までのペロブスカイト導入目標の約4分の1に相当する。

マレーシア・サラワクにて 富める者の悩み

【オピニオン】廣瀬直己/日本動力協会会長

マレーシアのサラワクに来ている。ボルネオ島の北3分の1はマレーシア領で、その西側の大半がサラワク州である。Sustainable and Renewable Energy Forum(SAREF)と題した国際会議が開催中(9月3、4日)で、お招きいただき話をさせていただいている。

今回にわか勉強したところだが、サラワクという地は興味深い。まずエネルギー資源に恵まれ、発電設備の6割以上が水力で、大きなガス田もある。日本はマレーシアのペトロナスからLNGを輸入しているが、ガスはサラワク沖産でLNGにして日本に輸出されている。太陽光もバイオマスもポテンシャルは大きい。

電気事業体制も特別である。クアラルンプールのあるマレー半島側はわれわれにも馴染み深いTENAGA Nasionalが垂直統合で電力供給を担う。政府が約70%を保有する準国営企業である。サラワクの東側にあるサバ州にも垂直統合の電力会社があり、同社が8割を保有する。ところがサラワク州で垂直統合の電気事業を営むSARAWAK Energyは同州政府が100%出資しており、電気料金の認可権も連邦政府ではなく、州政府が持っている。

そもそもサラワクは、かつて多くの部族の群雄割拠であったところ、19世紀半ばに英国人冒険家James Brookeが白人王としてサラワク王国を建国し一世紀に渡り統治し、その後英国の植民地となり、1963年にマレーシア連邦に帰属した。民族構成も宗教の割合も半島側とは異なる。サラワク産ガスはほぼ輸出され、同州での消費は5~6%にとどまる。またガスや石油資源の権益は全てペトロナスに帰属し、同州はロイヤルティを5%受け取るに過ぎない。こうした背景も相まって、サラワクは半島側のマレーシアとは異なる独自色を打ち出しているように見える。

サラワクの最大の課題は、豊富な再生可能エネルギー資源に比して需要が小さいという何ともうらやましい課題である。当然電力輸出を目指すが、半島側への送電線(海底ケーブル)建設は容易ではない。距離は約700km、最大水深が数百mあるという。97年にASEAN(東南アジア諸国連合)パワーグリッド構想が掲げられ、域内の電力融通拡大を目指すが、サラワクからの送電線建設は南へ地続きのインドネシア向けが完成しているだけである。ご多分に漏れず水素にしての輸出なども検討されているがこれも容易ではない。

昨日(3日)の全体会議では、いっそのことデータセンターを誘致し、光ファイバーを半島に向けて建設し、データをシンガポールやクアラルンプールに送ったらどうかと提案してみたら、翌日地元メディアに大きく報じられた。本日は原子力のセッションに登壇し、福島事故後の状況を話す予定である。

ひろせ・なおみ 1976年一橋大学社会学部卒後、東京電力入社。イエール大学経営大学院MBA。2012年同社代表執行役社長就任。福島第一原子力発電所の廃炉や損害賠償、福島復興などを主導し21年同社退任。同年から現職。

どうなる洋上風力 鍵は「オフテイカーの確保」

【脱炭素時代の経済評論 Vol.19】関口博之 /経済ジャーナリスト

出ばなをくじかれるとはこのことだろう。三菱商事などの企業連合は、洋上風力発電を巡る国の公募制度の第1ラウンド(R1)で落札した秋田県沖と千葉県沖の3海域の事業から撤退すると表明した。2021年、入札で3海域を総取りしたものの、その後のインフレ、円安、資材高騰で採算が見込めなくなったとされる。三菱商事は欧州での洋上風力参加の経験から建設コストが低減する見通しを立てていたが、実際は逆になった。メーカーの寡占で風車の価格も高騰。想定を超えるコスト上昇が撤退要因なのは確かだが、挫折の理由はそれだけだろうか。

記者会見する三菱商事の中西勝也社長

入札時に三菱商事が示した供給価格は3海域で1kW時当たり11・99~16・49円。次点より5円以上安い「価格破壊」だった。当時はFIT(固定価格買い取り)制度を前提にしていたが、この価格で大丈夫なのかといぶかる声も少なくなかった。ただ入札では価格点の評価が5割を占め、この最高点をとった事業者を他の項目で逆転するのは事実上困難だった。R2、3でも価格点の重みが5割なのは変わっていない。価格抑制は国民負担を抑えるために重要だが、計画自体がとん挫してしまっては意味がなく、再設計が必要だ。

三菱商事は無理な安値を付けたという指摘も多いが、実は全てをFITで売るつもりではなく一部はオフテイカー(特定の大口需要家)に相対取引で買ってもらうPPA(電力購入契約)を想定していたという説もある。それならPPAで高く売ることで採算を取ることも可能。

ところが、その後のコスト上昇でオフテイカーが降りてしまったのではないかとの見立てだ。世界的に脱炭素の機運が退潮する中で需要側のウィリングネス・ツー・ペイ(支払意思額)も同時に低下しているのかもしれない。

PPAは洋上風力のR2、3で利用されている。この公募ではFITに代わり、FIP(市場連動価格買い取り)が採用され、発電事業者は市場価格に上乗せするプレミアムを入札する。一方、PPAを通じて自分でオフテイカーを自由に探してくる。実際はR2、3の7海域のうち6海域が「ゼロプレミアム」で落札された。つまり売買価格でオフテイカーと〝握れた〟ので国の支援は要らない、としたわけだ。ただし、これもすんなりいくかはまだ分からない。

当面の焦点は三菱商事が撤退した第1ラウンド3海域の再公募。国は地元の要望も受け、早期にとしているが難題も多い。入札評価の方式を見直すのかどうか、工事に必要な基地港湾の使用スケジュールで他の海域との調整はできるのか。最大の懸念はすでに進行中のR2、3のプロジェクトとオフテイカーを奪い合わないかだ。ましてや需要側がここまでなら出せるとする値付け額は低下気味だ。高い電力は国際競争力も削ぐ。 発電事業者から政策要望では、現在30年の海域使用期間の延長や計画決定後のインフレに対応する価格調整スキームなどが挙がるが、オフテイカーへの支援という声も強い。まずは「買い手を増やす策を」というわけだ。黎明期の日本の洋上風力は全てがまだ手探りだ。

金融畑から核融合の最前線へ 経験を武器に商用化に奔走

【エネルギービジネスのリーダー達】田口昂哉/ヘリカルフュージョン代表取締役CEO

安定的かつ連続運転に適したヘリカル方式の核融合発電で、2030年代の実用発電を目指す。

金融畑出身のノウハウを生かし、世界初の商用化に挑戦している。

たぐち・たかや 京都大学大学院文学研究科(倫理学)修了後、みずほ銀行に入行。その後、国際協力銀行、PwCアドバイザリー、第一生命、金融スタートアップCOOなどを経て、2021年10月にヘリカルフュージョンを共同創業。

「現在の技術力で実用化に至る唯一の道はヘリカル方式だ」

核融合スタートアップのヘリカルフュージョン創業者で、代表取締役CEO(最高経営責任者)の田口昂哉氏はこう意気込む。2021年10月に設立された同社は次世代エネルギーとして期待される核融合発電のヘリカル方式で30年代の実用発電を目標に掲げており、日本から世界初の商用化を狙っている。


研究者との出会い転機に ヘリカルの優位性に着目

ヘリカル方式の核融合発電は、らせん状の磁場でプラズマを閉じ込める仕組み。安定かつ連続運転に適しているのが強みだ。このほかトカマクやレーザーなど多様な方式があり、商用化に向けた動きが各国で加速している。これまで世界的に主流と目されてきたトカマク方式は磁場と電流を併用しプラズマを閉じ込める仕組みで、一部パラメータで好成績をあげてきたが、急激なプラズマ崩壊(ディスラプション)のリスクを抱えている。田口氏は「定常運転、正味発電、保守性という商用炉に不可欠な三要件を満たしつつ、経済性を確保できる」と、ヘリカル方式に目を付けた理由を明かす。

同氏は京都大学大学院文学研究科を卒業後、みずほ銀行や国際協力銀行、PwCアドバイザリー、金融系スタートアップにCOO(最高執行責任者)として参画するなど核融合とは接点のない領域でキャリアを積んでいた。では、なぜ核融合分野に足を踏み入れたのか。それは、研究者の宮澤順一氏と後藤拓也氏から起業相談を受けたことがきっかけだ。二人は核融合科学研究所などで長年ヘリカル方式を含む核融合炉の研究に取り組み、20年ごろにはヘリカル型核融合炉の基礎研究が完了したと判断。アカデミアを離れ、商用化に向け起業する道を探っていた。しかし、起業のノウハウを持ち合わせておらず、共通の知人を通じて田口氏に声がかかった。太陽と同じ原理でエネルギーを生み出す核融合の革新性に魅力を感じた田口氏は、「歴史の転換点に立ち会ったと実感した。当然、核融合の業務経験はなかったし、自分以上に適任はいるかとも考えたが、ここで誰も動かず頓挫するのは惜しい」と考え、共同創業を決断した。

創業当初から手掛ける技術はヘリカル方式と決まっていた。宮澤氏と後藤氏は長年の研究成果から商用炉に最も適していると判断していたが、その考えを田口氏に押し付けることはなく、科学的根拠に基づいて各方式の特性を説明したという。田口氏にとって核融合の知識を習得するには大きな労力を要したが、理解が深まるにつれ、自らもヘリカル方式の優位性を確信した。

創業後は、金融業界やスタートアップで培った経験が武器となった。資金調達のノウハウや培った人脈が、初期の立ち上げを後押しした。田口氏は「会社経営の土地勘があった分、最初の動き出しに役立った。ファイナンスからコンサルまで、これまでの経験がすべて生きた」と振り返る。こうした強みを背景に、創業から約4年でSBIインベストメントなどから融資を含め約23億円を新規調達。累計調達額は、文部科学省の補助金を含め52億円に達した。

7月には従来の基幹計画を更新し、核融合の実用発電を30年代に実現するための新計画「Helix Program」を策定した。商用発電炉「Helix KANATA」を30年代に稼働させることを目標に掲げ、着工までの間に統合実証装置「Helix HARUKA」で各種試験を進める方針だ。

同社はすでに核融合研で確立されたプラズマ物理と炉設計のノウハウを受け継いでおり、実用発電に向けた課題は残り二つ。一つは核融合で生じるエネルギーを熱として取り出す「ブランケット」の開発。もう一つは、従来の低温超伝導コイルより強力な磁場を発生できる「高温超伝導コイル」の開発だ。これにより、コンパクトで高性能な発電炉を実現する。いずれも大規模な投資となるため、投資家の存在や、パートナー企業との連携は不可欠だ。「従来の基幹計画は第三者には伝わりづらい内容だったが、戦略名を掲げ、開発状況を明確にすることで理解されやすい形にした」と、新計画には協業体制の拡大を狙う意図も込められていることを語る。


発電炉は全て自社設計 新たな産業創出狙う

同社の強みは次世代技術を扱うという先進性だけではない。発電炉の設計を全て自社で行っている点にもある。「部品や要素技術にとどまらず、最終的に発電炉そのものを日本でしか作れない状態にしなければならない」と田口氏は強調する。産業の果実を得るにはサプライチェーンの上流を抑えることが不可欠という考えからだ。新たな産業の創出で日本を活気づけたいという強い思いが挑戦を支えている。

三菱商事の撤退から何を学ぶか 洋上風力推進へ問われる政策哲学

【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

8月27日、三菱商事が秋田・千葉の3海域での洋上風力発電事業からの撤退を表明した。応札した他社と比べ破格の安値による落札で三菱商事の事業見通しが甘かったという批判や、再エネ海域利用法に基づく入札制度の不備などの意見が出されている。政府は、この間FIT制度に基づく固定価格からFIP制度によって価格上乗せを可能とするよう制度改正を検討していた。一方、三菱商事の中西社長は「投資を回収できない、制度が追いついていない」などと記者会見で語っているが、政策上の本質的な問題はそこではないと考える。

本年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、「再生可能エネルギーの主力電源化を徹底」するとして、中でも洋上風力発電は「我が国の再生可能エネルギーの主力電源化に向けた『切り札』」と位置付けられた。

私は、この記述を読んで、1997年に京都議定書が採択された後のエネルギー政策を思い起こした。同議定書での6%の温室効果ガスの削減目標の達成のためには、省エネの徹底や新エネの導入などだけでは間に合わず、約16~20基の原発を増設することが地球温暖化対策推進本部で決定された。当時エネ庁で電源特会と原子力立地を担当していた私は、その目標を達成するための政策立案に大わらわであった。自由化によるコスト低減も同時に要請されていた当時、3E(安定供給・効率性・環境)を同時に満たす電源として、机上の計算で帳尻を合わせるために原子力は便利な電源であり、この時の無理な原子力増設計画のひずみがその後の原子力政策の混乱と停滞を招いた一因でもあると反省している。


原子力の失敗と同じ轍 国の責任と役割は?

それと同じ轍を、洋上風力は踏もうとしているように思える。原子力政策の失敗は、国策で16~20基も増設すると決めながら相も変らぬ国策民営で、国の責任や役割はあいまいなまま、結局民間が全てのリスクを背負わなければならないことに致命的な問題があることが、福島第一原発の事故で明らかとなった。洋上風力の政策的な問題の根幹も、そこにある。私は、洋上風力には原子力のような国が取らなければ解決できないリスクはほとんどないと考える。いかに民間の資金で、事業者が自らリスクを取りながら、他の再エネ電源とも競争しながら利益を上げていくのか、その適切な事業環境を整えることこそが政策目的でなければならない。原子力とは異なり、洋上風力にはいくらでも代替の電源はある。

今必要なことは、洋上風力を進めるためにどこまで国が責任や役割を負うのか、というそもそもの政策哲学だ。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年10月号)

NEWS 01:台湾で「原発ゼロ」当面継続へ 世界的な活用の潮流に乗れず

台湾で当面、「原子力ゼロ」の状態が続く見通しとなった。8月23日に実施された第三原子力発電所(PWR、95万1000kW×2基)の再稼働の是非を問う全有権者投票が不成立となったためだ。

台湾の原発を巡っては、1978年以降、第一~三原発の原子炉各2基が順次稼働したが、2011年の東京電力福島第一原発事故を契機に脱原発の機運が高まった。40年の運転期間に達した原発を段階的に停止し、今年5月に唯一稼働していた第三原発2号機を停止。台湾で稼働する原発はなくなった。

投票率の低迷が不成立につながった

ただ、原子力利用継続を求める世論は根強く、5月に最大野党・国民党が主体となり40年超運転を可能にする法改正を実施。その後、第2野党の民衆党が第三原発の再稼働を問う今回の有権者投票を提案していた。

可決要件は「賛成票が反対票を上回る」とともに、「賛成票が有権者の4分の1を超える」こと。だが、賛成票が反対票を大幅に上回っていたにもかかわらず、後者の要件を満たすことができなった。要因は投票率の低さだ。この結果は法的拘束力を持ち、今後2年は同じ議題を扱うことができない。

頼清徳現政権は、小型モジュール炉(SMR)など次世代原発導入の議論は排除しない方針だ。ただ、具体的な議論は進んでおらず、原発活用に動く世界の潮流に乗り切れない状況にあることは間違いない。


NEWS 02:苫小牧沖で初の試掘許可 官民一体でCCS推進へ

官民が一体となり、2030年までのCCS(CO2回収・貯留)事業開始に向けた動きが加速している。経済産業省は2月に、出光興産、北海道電力、JAPEXの3社が参画する北海道苫小牧沖を「特定区域」に指定。9月17日には、JAPEXに対し試掘を許可したと発表した。特定区域の指定と試掘許可はいずれも国内初だ。

JAPEXはCO2の貯留ポテンシャルを正確に見極めるため、区域内の2カ所で井戸を掘削し、砂岩などから成る「貯留層」とその上部で封じこめの役割を担う「遮蔽層」から試料を採取し、成分分析を行う。掘削リグは海岸近くに設置し、深度1540ⅿまで掘り進める。期間は1本目の試験が11月から来年5月まで、2本目は来年6月から27年1月までを予定。得られたデータを基に、26年度内に最終投資判断を下す見通しだ。

苫小牧沖では、出光興産の北海道製油所(苫小牧市)と北海道電力の苫東厚真発電所(厚真町)から排出されるCO2をそれぞれ回収し、パイプラインを通じて地下深部に圧入する計画が進む。JAPEXはパイプラインの建設のほか、貯留作業やモニタリングに必要な設備設計を担う。

懸念材料であった地元合意も整っている。CCSは環境団体の批判や地震時の風評被害など、社会受容性の低さが課題だったが、道側が提出した意見書にも「反対」の声はなかった。

経産省は、千葉県九十九里沖の一部地域を2カ所目の特定区域に指定した。こちらは東京湾沿岸の工業地帯から排出されるCO2を貯留する構想で、「首都圏CCS」として検討が進んでいる。

苫小牧と九十九里の両案件は、国内CCS事業の成否を占う試金石となるか。


NEWS 03:オランダで大規模な系統制約 EU諸国は教訓を生かせるか

オランダで深刻な系統制約が生じている。家庭や産業分野の急速な電化の進展に対し、送電網の整備が追いついていないためだ。同国の送電網事業者協会ネットベヘール・ネーデルラントによると、7月時点で1万1900を超える企業に加え、病院や消防署といった公共施設までもが新たな電化設備の系統への接続が待機状態にある。半導体大手ASMLなどが拠点を置き、先端技術産業の集積地として知られる南部アイントホーフェンのブレインポート地域でも、系統への投資が進まず今後の産業活動に影響を及ぼしかねない。

同国は2023年、欧州最大規模の北部フローニンゲン・ガス田の生産停止を決定し、電化を推進してきた。ロシアによるウクライナ侵攻を契機としたエネルギー価格の高騰が背景にあり、電化を促すことでガス依存からの脱却を図ることが狙いだ。

しかし、急速な電化に対し、送電インフラの整備は明らかに遅れている。発電側においても送電線に空きがなく、系統接続ができない事態が発生しており、風力や太陽光といった再生可能エネルギーの導入拡大の妨げとなっている。国営送電会社テネットは7月13日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、オランダがガス資源に長年依存してきたことが送電網の近代化を遅らせたと説明した。

このような事象は、十分なインフラを整えずに電化や電源の脱炭素化を急速に進めるリスクを浮き彫りにした。脱炭素化を野心的に進めるEU(欧州連合)諸国は、これを他山の石とするべきだ。

オランダ政府は下院総選挙を10月29日に実施する方針で、電力の系統問題は争点の一つになると見られている。エネルギー政策の転換点となるのか―。有権者の判断が注目される。


NEWS 04:上関中間貯蔵は建設可能 関電は「35年末」の新目標

中国電力は8月29日、山口県上関町で関西電力とともに建設を検討している使用済み燃料の中間貯蔵施設について、技術的に建設可能との調査結果を西哲夫町長に報告した。調査は2023年8月に開始していた。

瀬戸内海に面する上関町

同日、関電は懸案となっている使用済み燃料の県外搬出を巡り、今年2月に見直した搬出計画の実行状況などを福井県に報告。各サイトの敷地内に乾式貯蔵施設の建設を決め、28~30年頃に搬入開始を予定する。今回、新たに乾式施設から中間貯蔵施設への搬入期限を「35年末」に定めた。青森県むつ市の中間貯蔵施設の場合、現地調査の開始から貯蔵建屋(1棟目)の完成まで8年近くを要した。上関も同等に見積もれば31年頃の完成が見込まれ、35年末は余裕を持った目標と言える。

ただ、六ヶ所再処理工場や東通、大間原発が立地する青森県と異なり、山口県には原発関連施設がない。今年3月に近隣町議会が建設反対を決議するなど、今後は県や周辺自治体の理解が鍵を握る。

中間貯蔵施設は、再処理工場への搬出までの「つなぎ」の役割に過ぎない。周辺自治体が気を揉むのは、施設が最終処分地になる不安があるからだ。こうした懸念を払しょくするには、やはり再処理工場のしゅん工しかない。日本原燃が目指す26年度中のしゅん工まで、残された時間は1年半だ。

岐路に立つ石油業界 戦後80年に問う存在意義

【論説室の窓】神子田 章博/〈NHK〉記者

終戦直後の混乱期には石油会社の存続を懸けて奮闘した経営者がいた。

需要減と脱炭素への対応が迫られる現代、業界はどんな価値を社会に示すのか。

今年は戦後80年ということもあり、8月から9月にかけて太平洋戦争に関係する映画を何本か見た。先の大戦では、石油資源の確保が、日本が戦争に突き進む理由となり、戦況の悪化で石油が確保できなくなったことが戦争の継続を困難にさせた。石油という燃料がなければ、戦艦を動かすこともできないのである。資源の乏しい日本にとって、石油が重要な戦略資源であることを改めて意識させられた。

その石油といえば、実在の人物をモデルに、異色の経営者が戦後の混乱期を生き抜く様子を描いた『海賊とよばれた男』(百田尚樹氏原作)という映画では、次の逸話に石油業界の今昔について考えさせられた。終戦直後、海外からの石油の輸入が途絶え、国内にわずかに残る民需用の石油の配給を国策会社に要請するも断られてしまう。主人公は、会社の存続のためには何でもする覚悟を固め、畑違いのラジオの修理事業を請け負う決断をするくだりだ。

石油販売会社が、売り物の石油を調達できなくなって大変困ったという話だが、今日でも、中東で大規模な戦争が起きた場合にホルムズ海峡を通過するタンカーによる供給が途絶える懸念は残る。ただ、先のアメリカによるイランへのミサイル攻撃の際もそうだったが、産油国自らが、自国の収入源である石油の輸出を停止する可能性は低いという指摘もある。万が一、そうなった場合でも、国家・民間備蓄を合わせると200日分を超える石油備蓄がある。一方で、今日懸念されるのは、将来に向けて販売先をどう確保していくか、ということかもしれない。

ガソリンスタンドの数は激減している


次世代燃料は課題山積 過渡期をどう乗り越えるか

石油からつくられる輸送用の燃料の販売量は、減少傾向が続いている。ガソリンがピーク時の2004年度に比べて71%に減少。背景には自動車メーカーによる燃費向上の取り組み、そしてガソリンエンジンだけでなく電気モーターを動力源とするハイブリッド車の普及がある。さらに最近ではEVも販売を増やしている。脱炭素が叫ばれ、化石燃料の利用をできるだけ抑えようという時代の流れに加え、そもそも少子化で人口減少が進む中で、ガソリンをはじめとする石油製品の需要減少は避けられないのかもしれない。こうした需要の減少は今に始まったことではなく、全国のガソリンスタンドの数はこの20年の間に、半分以下に減少している。一方でセルフスタンドの比率は4割程度にまで増え、コストダウンの取り組みも進んでいるようだが、収益源としての伸びは期待できない状況だ。

こうした中、脱炭素への対応という文脈で考えると、消費者の理解がより得られやすい商品、具体的には二酸化炭素の排出を抑えた環境に優しい燃料の開発が求められ、実際にその取り組みが進んでいる。航空機については、天ぷらなどを揚げた廃食油を原料とした持続可能な航空燃料(SAF)が、実際に燃料の一部として利用が始まっているが、自動車を巡っても、水素と窒素を合成してつくるアンモニアを燃料とした試作車がつくられているほか、水素と炭素を合成して作る合成燃料の開発が進んでいる。大阪・関西万博では会場と大阪駅を結ぶシャトルバスにこの合成燃料が使用されるなど、実用化の段階にいたっている。