【コラム/5月3日】福島事故の真相探索 第4話

2024年5月3日

石川迪夫

第4話 ジルカロイ・水反応とは

原子炉への注水量は

第3話で事故時に関与したジルコニウム量は、推定ではあるが16~19トンであった。今回はその相手方、水量の計算だ。計算に当たっては、ジルコニウム量を16トンとして行うこととする。

東京電力の事故調査報告書(2022年6月)には、炉心スプレー管を通じて、80トンの原子炉注水を完了したと明記しているのだが、この水が全て原子炉に入ったのではない。配管には3カ所の分岐管があって、各分岐管から流れ出た水量が把握されていない。加えて、注水記録の記載も明確でなく、発表された各種の公式レポートの記載には乱れがあり、信用できないのだ。出所は不明だが、3月21日まで注水はなかったとのフェイク発表も広まっているので、原子炉への注水量は推定する以外に方法はない。

なお、フェイク発表を信じている人はけっこういるらしいが、その人たちは、12日に起きた水素爆発を起こした水素がどこからやって来たと思っているのであろうか。水がなければ、原子炉建屋を壊すほどの大量の水素は発生し得ない。21日まで注水がなかったと主張する人は、12日の1号機爆発を否定することになる。フェイク発表は、事実に合わない。

東京電力の注水記録によれば、1号機の炉心に水が注入されたのが12日午前5時ごろからで、消防車を使って、1回当たり約1トンの注水を6回行なっている。その後、午前9時15分より本格的な注水に移り、爆発直前の午後2時53分の注水停止までに2度の注水を行ない、その合計が74トンとある。

ただ、炉心への注水を急ぐために格納容器のベントを午後2時ごろに開いたと記録しながら、1時間後の午後2時53分には注水を停止している。目的に反する操作が行われていたわけで、注入量も定かでなければ、炉心注水の目的も定かではない。調査で確かめる術がないのだ。

注水記録の中でわれわれの目を引いたものがあった。消防車からの原子炉への送水量と原子炉圧力の関連を示した、消防ポンプの性能曲線図(参照)で、東京電力が使ったという。この図とてどれほど信頼できるかは分からないが、この関連図を使って、午前9時15分以降の本格的送水について計算したのが、われわれの作った炉心注水量だ。結果は21トンであったが、詳細が不確かなので、炉心注水量は20トンと仮定して以降の話を進める。

消防ポンプ性能曲線

では、この20トンの注水は、原子炉の中でどのように行動したであろうか。

1号機の原子炉圧力容器の水が全て蒸発したのが11日の深夜だ。圧力容器の底がクリープ破壊したのが12日午前2時半、この時、70気圧余あった原子炉圧力はこの破壊で低下し、7.5気圧に減っている。注水開始前の原子炉状況はこのような状態にあった。

炉心直上にある炉心スプレー系統の配管類が溶融・変形していたため、20トンの原子炉への注水は炉心には届かず、壊れた配管から圧力容器の壁などを伝わって流下し、ペデスタル床に溜まっていったと考えている。この溜まり水が、午後3時半に起きた水素爆発の元凶であり、ペデスタル壁の損傷の主役となったことは、既に述べた。

なお、ペデスタル床と格納容器の床は同一のレベルでつながっている。このため、ペデスタルに降りそそいだ20トンの水は、格納容器の床にも流れ出て溜まり、その水深は25cmほどとなる。この水量と水深は、後の謎解きにも出てくるので、記憶にとどめておいてほしい。

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