【丸の内熱供給】
熱需要のカーボンニュートラル(CN)化に向けて、製造業、小売業など需要家の間でCN―LNGを基にしたCN都市ガスの活用が進み始めている。東京・丸の内で地冷プラントを運用する丸の内熱供給は導入をスタートした事業者の一つだ。
これまでも、同社はプラントの低炭素化に向けて、高効率機器の導入や導管連携による効率的な運転など環境対策に積極的に取り組んできた。
同社取締役の岡本敏常務は、CN都市ガス導入の経緯について「当社では『Beyond DHC! 脱炭素社会へリードする新しい丸熱へ』をキーワードとした中長期ビジョンの中で強靭化、省エネルギー、環境価値、エリアへの貢献、共創の五つの提供価値を目指している。石油やLPガスと比べてクリーンとはいえCO2を排出する都市ガスを使ったエネルギー事業者として、脱炭素社会構築に貢献するために導入を決断した」と説明する。
利用開始は2020年3月。丸の内ビルで同社が管理・運用する固体酸化物形燃料電池を利用した複合発電システムと、大手町パークビルの地冷プラント内にあるガスエンジン・コージェネレーションシステムで利用している。
21年3月には東京ガスを中心とした14社とともに、供給者・需要家が一丸となってCN―LNGの普及拡大とその利用価値向上を目指す「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」を結成するなど、さまざまな取り組みにも参加している。しかしながら、まだまだCN都市ガス認知度は途上にある。
同社開発営業部の田中良治部長は「当社では自社の環境面での取り組みをまとめたレポートを作成している。20年のレポートにはCN都市ガス導入をトピックとして掲載したのでお客さまに紹介して回ったが、認知向上への活動がまだまだ必要と感じた」と話した。
だが昨年9月に菅義偉前首相が50年CNを宣言したことで潮目は変わり始めた。今後、海外との取引が多い企業からの関心は高まっていく可能性があるという。
熱の脱炭素化の可能性 オフィス・ホテルで導入も
背景にあるのが、大企業を中心に進んでいる「RE100」などの環境に配慮した経営を目指す世界的な取り組みだ。
岡本常務は「お客さまの中には、(ホテルなどの)施設で使用する熱のカーボンフリーについて海外から問い合わせもあると聞く。国際的に活躍するビジネスパーソンが出張などで宿泊するホテルにもCN化が求められる時代が到来するのではないかと考えている。
そうなれば再エネ電力と同様の話が熱需要に広がる可能性がある。当社はレジリエンスの観点から電気だけではなくガスも重要と考えており、今後もお客さまの期待に応えることを第一に時代の変化に対応することを目指す」と話す。
リモート会議やテレワークの普及で出張や会食が激減しているとはいえ、対面での国際会議や大規模展示会がなくなることはない。これからも事業を継続し、既存設備を最大限活用しながら脱炭素化に向けた経営をすることを考えれば、オフィスやホテルでもCN都市ガスを使った熱供給の脱炭素化は、SDGs(持続可能な開発目標)や環境経営を目指す上で重要になる。
そのためには、CN都市ガスの立ち位置が温対法などの環境法制で確立される必要もあると岡本常務は話している。「今後、CN都市ガスが脱炭素に資する制度として認められれば、熱のCN化に向けた取り組みはますます加速する。
国際的な公約でもあるCN実現に向けて官民一体となって取り組んでいきたい」 国内外でサプライチェーンの脱炭素化がより厳密に求められるようになれば、周辺の産業でも電気と熱のCNを推進する事業者は増加する。CN都市ガスの導入は事業者・需要家双方にとって価値あるものとなっていく。