【特集3】自律飛行可能な国産機 エネルギーインフラを自動点検


【ASCL】

世界のドローン市場を中国勢が席巻する中、近年は国内メーカーの躍進も続いている。ACSL(自律制御システム研究所から今年6月に社名変更)もその一社だ。

同社は2013年に創業したドローン機体の設計・製造を行うベンチャー企業。最大の特長は、自機周辺の障害物をカメラでセンシングすることで飛行位置を推定する「Visual-SLAM」技術による自律制御システムを搭載する点だ。

ドローンは通常、自機がどこを飛んでいるのかを判別するのにGPSを用いるケースが多い。GPSから自機の位置を推定して決められたルートを飛行する定期点検サービスは出始めているものの、橋の陰や建物内などGPSが届きにくい場所は点検できない、もしくは手動でしか点検を行えないという欠点がある。

こうしたデメリットを克服するのが、同社が製造する完全自律飛行型のドローンだ。自機の位置をカメラ画像から推定することで、閉所でも自律飛行が可能。既に関西電力とは火力発電所の排気塔を自動点検するソリューションを、アクセンチュアとはプラント配管の腐食や石油タンクの漏油をAIで自動検知するソリューションを共同で開発するなど、エネルギー業界での採用事例は多い。

排気塔点検ソリューションは、関西電力とグループ会社のKANSOテクノス、ACSLの3社が共同開発している。点検ではドローンが排気塔の中央位置を維持し、一定の範囲を撮影しながらゆっくりと上昇。撮影後は底部に下降して別の範囲を撮影する一連の動作を繰り返すことで、排気塔内部を一枚の画像にし、異常状態があるのかを診断する。

アクセンチュアと共同で開発したソリューションは、事前に指定したルートに沿ってACSLのドローンが飛行・撮影し、アクセンチュアが開発した画像解析AIがディープラーニングで設備の異常箇所を抽出。点検の手間を大幅に低減する。得られたデータは配管などの設計図面(スプール図)ともひもづけた表示も行えるほか、コメントをつけて共有できるなど、各種機能が搭載されている。

最大の特長である「Visual-SLAM」カメラ

サブスクサービスを開始 長距離・長時間に挑戦

さらに今年5月からは、点検用にカスタマイズしたドローンをサブスクリプション(月額)方式で提供するサービスを開始した。

本サービスは、同社が開発する産業用ドローン「ACSL-PF2」をベースに、①1億画素カメラを搭載、②6100万画素のカメラを搭載、③煙突点検用カスタマイズ―のいずれかが施された機体をレンタルするサービス。

故障時に代替機の貸し出し、対人・対物の施設賠償保険が施されているほか、バッテリーの交換サービスや定期メンテナンス、オンラインおよび現地サポートといったオプションも用意されている。導入のハードルが高かったドローンをサブスクリプションサービスに落とし込むことで、会社としてドローンの社会実装を推し進める構えだ。

同社の六門直哉事業開発本部長は「サブスクリプションは現時点では3種類に限られているが、今後は太陽光パネルの点検などニーズが高そうな分野にも対応したい」と話している。 高度経済成長期に建設された産業用プラントでは、配管が複雑に入り組んで敷設されていることもあって閉所が多い。さらに屋外のエネルギー設備に限らず、大規模工場や倉庫の点検や警備など、GPSが届きにくい場所を巡視するニーズもある。

こうしたさまざまな制約がある環境下でも飛行できる、国産の完全自律型ドローンは大いに活躍しそうだ。

煙突点検向けに改良したACSL-PF2