甲斐田武延/電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門 主任研究員
産業分野の脱炭素化に向けて、欧州で製品開発の動きが活発化している。 IEAのHP技術協力プログラムの委員を務める甲斐田氏に動向を聞いた。
―産業用HP開発の現状は。
甲斐田 日本はこれまで産業用の開発をリードしてきました。しかし、東日本大震災が発生してから電力需給がタイトになった影響などで、電化に向けた取り組みが尻すぼみとなりました。一方で欧州では脱炭素化に向けた取り組みを進める中で産業用HPに着目し、技術もだいぶ進歩しています。
―欧州の取り組みは。
甲斐田 例えば暖房の場合、デンマークなどでは地域熱供給が主流で、その熱源の多くは石炭など化石燃料ベースの火力発電所の排熱を利用しています。特に、石炭火力発電所は2020年代で廃止する方向で、発電所由来の熱源は減っていきます。実際、デンマークでは閉鎖される石炭火力由来の熱源の代替に、5万kWの大容量HPが熱源になる計画もあります。
技術開発については、フランスではフランス電力(EDF)が主体となって、10年に研究チームを設立し、100℃、120℃、140℃の産業用HPを開発しました。オーストリアも14年から130℃、160℃の産業用HPを開発し、製品化されました。まさにこの10年間で欧州の技術は日本と同じぐらいのレベルに追い付こうとしています。
HPの主戦場はアジアへ 大型プロジェクト進める欧州
―日本のメーカーにとっては海外勢の足音が聞こえてきた、というところでしょうか。
㆙斐田 産業用HPは、民生用の空調・給湯HPとは異なり、日本メーカーの販売先はほとんど国内工場向けで、欧州メーカーも欧州域内が主戦場ですので、今のところ市場で競合はしていません。
ただ、欧州では工場が減り、多くの業種で中国や東南アジア、インドへの移転が進んでいます。こうした工場に対して開発した製品を売るべく、まずは欧州で製品を開発して実証しています。
―日欧メーカーがアジアで戦うことになりそうですね。
甲斐田 今後はアジア市場で欧州勢と勝負になるかもしれません。日本の技術力は依然として高いですが、EUも「Horizon 2020」というイノベーション推進プログラムの枠組みで、産業用HPの開発と実証に対して10億円以上の投資を行いました。21年からは後継の「Horizon Europe」がスタートします。20年には本プログラムに向けてノルウェー、デンマーク、オランダ、オーストリアなど欧州の研究機関が連名で脱炭素化実現に向けて産業用HPの開発や実証、普及の強化を呼び掛けるレポートを公表しています。
日本でも産業用HPが重要技術だと啓発することが求められます。
―日欧ともに、優れた技術を現場に導入することが今後重要になります。どう考えますか。
甲斐田 産業用HPはポンと置いて使える技術ではありません。どのように生産工程に組み込むかを事前に分析する必要があり、その担い手が必要になります。
デンマークには産業用HP導入に特化したコンサルティング会社が登場し、工場データの分析からヒートポンプの選定、導入プロジェクト全体の管理・監督を担っています。フランスではEDFとその子会社のDalkiaがコンサルティングとエンジニアリングを行っています。
日本でも小売り電気事業者やエネルギーサービス・ソリューション会社などが工場とメーカーの間に入って、それらの役割を担っていくことが期待されます。