【特集2】欧州事情に見る合成燃料の行方 投資を呼び込む仕組みが必要

2023年8月3日

脱炭素化に向けて議論をリードしてきた欧州のエネルギー施策が変わってきた。日本においてはこれらを検証し現実に即した方法を見極める必要がある。

橋﨑克雄/エネルギー総合工学研究所プロジェクト試験研究部 部長

2050年のカーボンニュートラル(CN)実現の議論を先導してきた欧州。エネルギー転換部門(発電)からの石炭撤廃、再生可能エネルギー電源の導入、水素主力のCO2フリー燃料の活用、EVの普及と、転換を進めてきた。ドイツが国家水素戦略を20年6月に発表して以来、欧州各所でグリーン水素へ燃料転換を進めようと液体水素などを利用した各種デモンストレーションも大々的に行われた。しかし、昨今のエネルギー転換策は、エネルギートランジション時期(移行期)に合致したより現実的な施策になってきた感がある。

これらのCO2削減対策の一つに21年7月に欧州委員会(EC)より乗用車や小型商用車の新車によるCO2排出量を35年までにゼロにする規制案の発表があった。欧州議会(EP)も22年10月に欧州自動車団体の猛反発にあいながらも26年に見直す旨を追記することでEU加盟国といったんは合意した。

内燃機関の販売継続 既存インフラとの融合政策

ところが今年2月に自動車を基幹産業とするドイツ、イタリアなどがCO2排出をゼロとみなせる合成燃料の一つ、e―フューエルの利用に限り販売を認めるべきだと主張し、35年の内燃機関車の新車販売を禁止する方針は事実上撤回された。

これには、ECが25年7月からの施行を目指している欧州での乗用車の次期自動車環境規制「Euro7」が、実質エンジン車を排除するような非常に厳しい法案であったことも少なからずとも影響したと思われる。

日本でも21年6月の「グリーン成長戦略」には、「35年までに新車販売でEV100%(ハイブリット車を含む)を実現する」旨が明記されているが、合成燃料はハイブリット車にも使えるため、その開発に対する意義は揺るぐものではないだろう。ハイブリット車の方が燃費の向上とともに、搭載燃料量が少なくなるため、高いといわれる合成燃料の受容性は高くなるとみられる。

同じような展開は、CO2排出削減の困難な船舶・航空分野にも見られる。昨今、船舶分野では農業残渣や都市ごみなどを原料としたバイオメタノール(グリーンメタノール)、航空分野でも同様の原料を用いて製造したSAF(再生航空燃料)が注目されている。いずれもCNな炭化水素系燃料で、現有インフラを活用可能であり、早期に社会実装が可能な燃料だ。

技術成熟度レベル(TRL)も高い。デンマークの海運大手マークスは、すでにCNなメタノール燃料を使う船を19隻発注し、40年には温室効果ガス排出量実質ゼロを目指している。航空分野でも多くの航空会社が、50年実質排出量ゼロを宣言しており、すでに国際認証機関であるATSMインターナショナルの規格「ASTMD7556」に適合したSAFをドロップイン(上限50%で混合した)した燃料で航空機の実飛行も行われている。

さらに、都市ガス代替ガスについてもe―メタンやバイオガス(バイオメタン)の導入が注目されており、現有インフラを活用できる点が社会実装する上で重要な判断要素になっていると思われる。

エネルギーセキュリティーの確保は、資源の無い日本にとって最も重要な生命線だ。このような移行期の場面で重要なのは、最終目標を目指した開発だけを行うのではなく、現在のインフラと目指すべきインフラとのギャップを埋め合わせる技術開発である。あわよくば、今ある技術、あるいはその延長線上の技術で、どこまで最終目標に近づけられるかを考えることこそが社会実装への近道ではないか。その意味で、前述した各種合成燃料製造に必要な技術は「古くて新しい技術」ばかりだ。

大量の再エネが必要 セキュリティー確保に向けて

合成燃料の製造方法フローを左の図に示す。発酵、ガス化、熱分解、水素化処理、メタネーション、FT(触媒反応)合成、メタノール合成、水電解などの技術は、多くの開発がすでに行われている。これら技術を社会実装する上での最大の課題は、代替エネルギーという観点から規模感(量)と経済性であろう。日本の一次エネルギー(化石燃料)消費量は約1万9000PJ(ペタジュール)である。CNな合成燃料にその一部を担わせるとしても、相当量の再エネとバイオ燃料源の確保が必要だ。その解決策の一つとして、日本では、都市ごみの積極的利用や安価な海外再エネの活用が望まれるところだ。

経済性を持たせるためには、既存エネルギーに対する環境価値をお金に換算し導入しやすくさせる施策、例えば、欧州で取り組みが進む炭素排出量取引(ETS)、炭素差額決済契約(CCfD)、さらには炭素国境調整メカニズム(CBAM)の導入、米国のインフレ削減法(IRCセクション45Q)による税制控除のような設備導入支援策が必要であろう。

その効果は多くのスタートアップ企業の出現や産業間連携プロジェクト数の増加に見ることができる。ESG投資も増えている。惜しむらくは、この類の海外投資家による国内投資はほぼ聞かれず、国内企業の海外投資ばかりだ。日本のエネルギーセキュリティー確保に向け、日本独自の移行期にマッチした必要技術を見極め、国内投資を促進するためにも欧米のような仕組み作りが早急に望まれる。

合成燃料の製造方法のフロー図

はしざき・かつお 九州大学大学院総合理工学府量子プロセス理工学博士課程修了(工学博士)。2021年三菱重工業からエネルギー総合工学研究所に移籍。専門は、火力発電、CCUS、水素・水電解、リチウム二次電池、化学プロセス。