【特集2】関西と九州で25年上期に始動 電力取引の実績と知見を生かす


【大阪ガス】

エネルギー業界で系統用蓄電池事業への関心が高まる中、大阪ガスも同事業を加速させている。2030年度までに再生可能エネルギー普及貢献量を500万kWに拡大することが目標。一方で多くの再エネが導入されると、出力変動により電力の需給バランスに影響を与えることが懸念される。電力系統の安定化に資する系統用蓄電池事業を手掛け、再エネのさらなる導入拡大に貢献したい考えだ。

現在、蓄電所の開発と蓄電池の技術実証に取り組む。蓄電所の開発では、二つのプロジェクトが進行中だ。一つが、伊藤忠商事と東京センチュリーと合弁で「千里蓄電所」を設立し、大阪ガスネットワークが所有する千里供給所(大阪府吹田市)の空き地に蓄電池(定格出力1・1万kW、定格容量2・3万kW時)を設置する取り組み。さらに、みずほリースの100%子会社、JFEエンジニアリング、九州製鋼の3社と合弁で「武雄蓄電所」を設立し、九州製鋼の敷地(佐賀県武雄市)に蓄電池(同0・2万kW、同0・8万kW時)を設置する。両案件とも、25年度上期の運転開始を目指す。

大ガスは電力トレーディングの実績と知見を生かし、卸電力市場、需給調整市場、容量市場での取引を通じて、電力系統の安定化に貢献する方針だ。電力事業推進部電力ソリューションチームの福井浩二副課長は「同事業を手掛けることで市場取引や運用方法、制度、蓄電池の性能や安全性など、さまざまな課題に気づくことができる。早期に事業化を図るには実際に携わるのが近道」と説明する。

同事業で重視するのが安全面。安全性の高い蓄電池システムの選定と安全な運用に資する技術の活用が不可欠と考えている。国内外で発生する蓄電池の火災事故を踏まえ、安全規格に適合した蓄電池であることに加えて、安全上重要な蓄電池の性能やシステムの機能に関する情報を集めるなど、対策の強化に取り組んでいる。

長年蓄電池の受託研究を手掛ける子会社KRIとの連携も深めている。「KRIの知見を生かし、蓄電池の劣化診断などの技術開発や実証を行っている。これらの技術も活用し、蓄電池の安全な運用を実現したい」(岩崎慎太郎副課長)という。

千里蓄電所のイメージ

【特集2】九州エリアで相次ぎ本格運転へ 最適運用で利益獲得を目指す


【東京ガス】

東京ガスが系統用蓄電池の事業に本格参入する。大分と宮崎の両県で建設が進む蓄電事業に関わり、いずれも2026年度に商業運転を始める。ともにリチウムイオン型の蓄電池を活用することは共通しているが、事業スタイルは異なっている。

大分市に設ける「大分県角子原蓄電所」(2・5万kW/5万kW時)は、国の補助金を活用しながら、東ガスグループとして開発・保守を担い、東京ガス本体が日々の運用を手掛ける。

一方、宮崎では、蓄電所開発の世界的大手である英エク・エナジーの日本法人、日本蓄電と連携。同社が宮崎市で建設中の「広原蓄電所」(3万kW/12万kW時)の運用権を20年間にわたり買い取る「オフテイク」契約を結んでいる。これらにより、東ガスが関わる蓄電容量は5・5万kWとなる。

角子原蓄電所の完成イメージ
作成:千代田化工建設(Google Mapおよび国土地理院の地図データを使用)

【特集2】太陽光発電とリチウムイオン連携 オンサイトで電力無駄なく活用


【東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)】

東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は、ホンダの熊本製作所(熊本県大津町)に、国内の工場向けでは最大規模となるリチウムイオン蓄電池を導入し、すでに稼働済みの太陽光発電設備と連携運用を開始した。

TGESは、ホンダ熊本製作所内に、屋根置き型の太陽光発電3800kWを2021年に導入して以来、増設を行ってきた。現在の容量は、屋根置き型で5000kW、カーポート型のソーラーで2100kW。25年4月には、さらに2200kWのカーポートソーラーが稼働する予定で、合計9300kWに達する。

広大な敷地を生かして太陽光発電の整備が進む中、GSユアサ製のリチウムイオン蓄電池、容量2万kW時(2000kW時×10基)を設置した。

太陽光発電による発電量が需要を上回る休日などにリチウムイオン蓄電池の充電を行い、発電量が電力需要を下回る夜間などに同蓄電池から電力を供給する。こうした仕組みで、オンサイトの再生可能エネルギー電力を無駄なく使える自家消費を行うことが可能になる。

導入したコンテナ型リチウムイオン蓄電池

【特集2】都がカーボン半減へ施策推進 住宅向け対策のサポートに力


脱炭素支援の一環で蓄電池の導入を後押ししている。
電気代の節約や防災にもつながる都の支援策に迫った。

【インタビュー】東條 左絵子(東京都環境局気候変動対策部家庭エネルギー対策課長)

―都は2050年にCO2排出実質ゼロに貢献すると宣言し、「カーボンハーフ」という目標を掲げました。その一環で、家庭向けの施策を強化しています。

東條 カーボンハーフは、2030年までに温暖化ガス排出量を50%削減(2000年比)することを目指す取り組みです。その実現に向けて喫緊の課題となっているのが、都内全体のCO2排出量の約3割を占める家庭部門の排出量の削減です。産業部門や運輸部門のCO2排出量が減少傾向にあるのに対して、家庭部門では22年度の排出量が2000年度比で2割以上増加していました。こうした中、家庭における太陽光発電由来の電気の自家消費量の増大や非常時のエネルギー自立性の向上を目的として、家庭における蓄電池導入促進事業を実施しています。

―蓄電池導入促進事業の内容について教えてください。

東條 蓄電池設置に係る費用の4分の3を補助しています。以前の事業では費用の2分の1を補助する形でしたが、23年1月末から現行の補助率に引き上げました。国や区市町村の補助金との併用が可能で、DR(デマンドレスポンス)の実証に参加した場合には10万円の上乗せ補助を受け取ることができるため、さらなる自己負担の低減が見込めます。また、補助の申込みから蓄電池の設置までが複数年度にわたる場合でも、支援が可能となっています。補助の対象となるのは、「SII」(環境共創イニシアチブ)に登録された未使用の蓄電池を都内住宅に新規に設置する場合です。また、補助金の申込みから1年以内に機器設置に係る報告書を提出する必要があるほか、6年間の処分制限期間内に機器の取り外しや目的外使用などを行った場合は、補助金の返還が必要となります。

―住宅部門との連携も重視しています。

東條 既存住宅への機器設置に際して必要となる住宅診断や改装前の点検などは、住宅関連分野における政策管理を担う住宅政策本部の調査データを基に行います。ほかにも、承認機種の選定を共同で行うなど、住宅の脱炭素化に向けた連携体制も整えています。

―都民に対して、どのような啓発活動を進めていきたいと考えていますか。

東條 蓄電池設置によるメリットをより多くの都民に認識してもらえるよう、太陽光発電装置と併せて設置することで、日々の光熱費の削減につながることや災害時にも電気が使用できることなどを継続してPRしていきたいと考えています。

とうじょう・さえこ(東京都環境局気候変動対策部家庭エネルギー対策課長)

【特集2まとめ】 拡大する蓄電池ビジネス 再エネ有効利用の切り札へ


再生可能エネルギーの大量導入に必要不可欠な調整力―。
そんな役割を担う蓄電池を生かす舞台が家庭と産業分野で拡大中だ。
太陽光発電などの再エネ設備と連携し自家消費を促す展開が加速。
電力コスト削減やピーク時の電力消費を抑え込む効果に注目が集まる。
EVに蓄えた電力を暮らしや災害時に融通する技術も進歩する。
革新的電池ビジネスの育成を目指すエネ業界の最新動向に迫った。

【レポート】充放電用途が家庭から産業へ拡大 社会課題解決の切り札として有望視

【レポート】九州エリアで相次ぎ本格運転へ 最適運用で利益獲得を目指す

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【レポート】創業の地にマイクログリッド構築 有事の際もエネ安定供給を実現

【レポート】太陽光発電とリチウムイオン連携 オンサイトで電力無駄なく活用

【レポート】工場内で革新的エネ利用を促進 ガス関連子会社と強力タッグ

【レポート】新たな通勤スタイルを検証 CO2量削減にもつなげる

【インタビュー】都がカーボン半減へ施策推進 住宅向け対策のサポートに力

【トピックス】新商材で高付加価値ニーズに対応 顧客メリットの最大化を目指す

【特集2】創業の地にマイクログリッド構築 有事の際もエネ安定供給を実現


【鈴与商事】

静岡市は2022年4月、環境省の脱炭素先行地域に選定された。同市が手掛ける3カ所のカーボンニュートラル(CN)の取り組みのうち、日の出エリアを担当するのが鈴与商事だ。同エリアの現在の電力消費量は年間200万kW時、CO2排出量は同842tに上る。太陽光発電と蓄電池の導入などによって、30年にCNを達成するという目標を掲げている。

具体的には、一期目で従来のシリコン型太陽光パネルを施設の屋根に設置し、エリア内で再エネ電力を、年間100万kW時分を創出。エネルギーマネジメントシステム(EMS)を活用した需給管理により再エネの余剰電力を蓄電池に充電し、夜間や悪天候時に放電して電気の自家消費量を向上する。また、太陽光発電を設置できない施設にも電気を供給して再エネの電力消費量を向上していく。

2期目では、ペロブスカイトなど軽量の次世代太陽電池パネルを採用し、耐荷重や面積が不十分で搭載できなかった施設にも設置して再エネ電力導入量の拡大を図っていく方針だ。

さらに、鈴与商事と静岡県、静岡市、中部電力パワーグリッド、電源開発、鈴与電力は24年11月11日、「地域マイクログリッドの運用に係るコンソーシアム基本協定書」を締結した。

CN達成を目指す同エリアに地域マイクログリッドの構築・運用することで、災害などによる長期停電時にも電力供給を実施し、レジリエンスの向上を図ると同時に、同地区内で太陽光発電設備を活用することを目指す。

日の出エリアのイメージ図

【特集2】工場内で革新的エネ利用を促進 ガス関連子会社と強力タッグ


【伊藤忠エネクス】

産業用・医療用などのガス販売に加え、ガス容器の点検・検査業務を担う伊藤忠工業ガス。同社の埼玉・東松山の事業所では2024年9月から、親会社である伊藤忠エネクスと一体となって、EVのバッテリーを蓄電池として活用する実証をスタートしている。

目的は、2年前に工場の屋根に全量自家消費向けとして設置した180kWの太陽光発電(PV)の余剰電力を最大限に活用すること。

PVは工場全体の電力使用量の約20%を賄っているが、工場が停止する休日の余剰電力の活用に課題があった。蓄電池の新設にはコストがかさむことから、エネクスはEVの活用に目を付けた。

共同開発した充放電設備

【特集2】新たな通勤スタイルを検証 CO2量削減にもつなげる


【テス・エンジニアリング】

テス・エンジニアリングはコージェネレーションや天然ガスへの燃料転換の促進にとどまらず、再生可能エネルギー電源の導入からコスト対策の提案まで手掛ける総合的なソリューションを提供している。そんな同社が、培った技術や経験を土台に追求する分野が「EVの蓄電池化」だ。

そうした取り組みの一環で、椿本チエインと共同で「通勤用EVを活用したエネルギーマネジメントシステム(EMS)の実証実験」を開始。同社は埼玉工場(埼玉県飯能市)に自社製V2X(ビークル・ツー・エックス)対応の充放電装置「eLINK」を4台設置し、従業員の通勤用EVに充放電を行う試みに着手した。

テス・エンジニアリング電力需給本部電力需給グループEVプロジェクトチームの武智貴信チーム長は「EVが蓄電池として機能するようになれば、余剰電力の有効活用や出力制御率の低減を実現することができる」と強調。得意のEMS(エネルギーマネジメントシステム)を生かすことにも意欲を示した。

「eLINK」を用いて充電する

【特集2】新商材で高付加価値ニーズに対応 顧客メリットの最大化を目指す


ソリューションブランド「イグニチャー」で事業拡大を狙う。
蓄電池の枠を越えたサービスで家庭市場を深耕している。

「東京ガス」

東京ガスは脱炭素、エネルギー利用の最適化、レジリエンス―という観点から、一般家庭を対象に太陽光発電(PV)や蓄電池の普及を目指している。主な取り組みの一つが、PVを導入していない需要家向け事業。価格が下がったとはいえ、PVは高級商材。購入負担を抑えるために「イグニチャーソーラー」ブランドでPV導入を支援する。

用意している「フラットプラン」では、10年間などの長期利用を前提に、イニシャルコストがゼロ(または工事費のみ)で月間の定額料金のみで導入できる。24年11月からは住宅メーカーのタマホームとも連携し、全国の新築戸建ての注文住宅で採用し、30年までに累計2万棟への展開を目指す。

また、PVの利用状況に応じて料金を支払う「PPAプラン」も用意している。自家消費分の電力は固定単価で東ガスに支払い、余剰電力は東ガスが利用する。

家庭向けイグニチャー蓄電池

分散型のリソースを駆使 DRに組み込み高度に運用

二つ目が、PV導入済みユーザー向け蓄電池販売と制御サービスだ。単純な蓄電池販売ではなく、分散型リソースである蓄電池を東ガスが遠隔制御してデマンドレスポンス(DR)を行う。電力の需給バランスを確認しながら、電力が余りそうな場合に蓄電池に充電。逆にひっ迫時には放電することで、電力系統全体の運用に貢献する。一連の運用で得た利益は、事業者と需要家がシェアするイメージだ。PVを家庭用で自家消費できないケースでは、蓄電池に充電し、家庭用の脱炭素や電気代の削減を支える。こうした制御で、蓄電池導入のメリットを最大化していく。

運用面で課題もある。「分散型リソースを電力系統網と逆潮するための準備期間や需要家のDRに対する認知度の低さ、さらにはDRが電力市場で経済的にしっかりと運用できるような制度設計などが課題だ。ただ、一部の自治体によるPV設置の義務化や国が主導するZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)化の動きを考えると、家庭用の蓄電池導入のポテンシャルは大きい」と本橋裕之・BTMソリューションプロジェクト部長は話す。今回の新たなビジネスモデルは、エネルギー事業者からも注目を集めそうだ。

【特集2】日本の事情を踏まえた製品を拡販 海外市場の開拓も見据えて挑む


創業4年目を機に蓄電池事業に弾みをつけている。
輸送のしやすさやコストの優位性が大きな武器だ。

【パワーX】

「自然エネルギーの爆発的普及を実現する」をミッションに掲げるパワーエックス(パワーX)は、創業4年目を迎えた。2023年10月に産業用蓄電池の量産を開始し、第1号製品をセンコーグループの物流倉庫(宮崎県都城市)に設置してから1年が過ぎた。

25年に販売を始めるのが「メガパワーJP」だ。「JP」は日本のことで、国内の系統用特高蓄電所がターゲット。系統用蓄電池はグローバル製品が大半で、広い道路を通って広大なスペースに設置する前提で製造していることが多い。そうした製品を道が狭く入り組み、用地が限られた日本に設置することは難しい。そこで、多くの日本企業からの相談を踏まえて開発した同製品は、10フィートコンテナで重量も25tと軽量だ。水冷モジュールを搭載し、従来品の1.8倍のエネルギー密度を実現した。

利用者目線で小型・軽量化 設置場所の選択肢が増える

メリットは、第1にコンテナを置く面積が従来品の最大40%にまで削減でき、より小さな土地で蓄電所を運開できること。その結果、設置可能な場所の選択肢が増える。第2が、蓄電池を小型・軽量化して輸送できるエリアを大幅に拡大したことだ。従来品は大型のため、けん引には長い三軸トレーラーを使う必要があり、カーブを曲がりきれないなどの問題があった。また重量の関係で、坂道を登れない、あるいは渡れない橋もあった。また、そのような特別車両の通行には道路管理者の通行許可が必要であり、手配に1カ月以上かかるため、すぐには蓄電池を設置できないというデメリットもあった。メガパワーJPであれば、日本の地方に多い幅6mの道路のカーブや交差点、高速道路も通行可能で、通行申請が必要な場合でも従来より短期間で許可が下りるなど、輸送スピードやコストの面で大幅に改良された。

事業企画推進部の春日章治シニアマネージャーは「今年はいよいよ飛躍の年。国外初出荷も実現させ、当社の蓄電池で、最近元気がないと言われる日本の製造業を元気にするきっかけにしたい」と意気込む。日本での展開の先には海外進出を見据えている。今後も同社の動向から目が離せない。

直流電圧に対応する「メガパワーJP」
提供:パワーX

【特集2】充放電用途が家庭から産業へ拡大 社会課題解決の切り札として有望視


電力を必要なタイミングで充放電する蓄電池の役割が増している。
用途別に最新の活用状況を整理し、普及拡大の可能性を探った。

【レポート】竹内大助(PwCコンサルティング合同会社エネルギー・素材事業部ディレクター)

蓄電池の普及拡大が本格化している。その背景にあるのが再生可能エネルギーの大量導入に伴う課題で、「季節や天候による出力の自然変動を原因とする系統接続の制限」「電圧や周波数の不安定化」「出力と電力需要のアンバランス」といった問題が指摘されている。これらの解決で重要な役割を担うのが必要なタイミングで電力を充放電する蓄電池で、用途別に導入状況や運用方法を整理した。

再エネ併設型蓄電池は、FIP(市場連動価格買い取り)を用いる太陽光発電(PV)に併設する形で導入が始まっている。この蓄電池は天候が良く日射量が多い時間帯に充電し、夕方など市場価格が高いタイミングで売電することで、再エネ売電の収益性を向上。需給調整市場に参加することで、さらなる収益性アップも期待される。

将来は、メガソーラーの卒FIT(固定価格買い取り)電源に蓄電池が併設されることも想定され、再エネ併設型蓄電池が拡大すると考えられる。
系統用蓄電池は長期脱炭素電源オークションや資源エネルギー庁などの補助金により導入が加速。卸電力取引市場などに参加して収益を上げることが基本だ。事業計画の策定時には、需給調整市場ガイドラインの価格規律に従い合理的な価格設定で入札することが求められる。

エネルギーリソースが市場統合した電力流通システム

【特集1まとめ】アウトルック2025 「乙巳」が示す復活と再生


元日の能登半島地震の衝撃で幕を開けた2024年。
気候的には各地で記録的な猛暑となり、エネルギー需要は急増。
ただ供給力面で大問題は起こらず、需給・価格はおおむね安定した。
BWR・東日本初となる東北電力女川2号機の再稼働も特筆される。
2025年最大の目玉は、第7次エネルギー基本計画の策定だ。
原子力推進にかじを切った岸田文雄政権から石破茂政権に代わり、
国民民主党が大きく躍進した影響がどう現れてくるのか、注目される。
温暖化否定派の米トランプ政権復活による国際動向からも目が離せない。
干支の乙巳は「再生や変化を繰り返し柔軟に発展していく」という。
果たして、25年はエネルギー業界にとってどんな年となるのか。

【特集1/新春特別座談会】政界のキーマンと徹底議論 「原子力新時代」を創ろう!

【特集1/座談会】気鋭のベンチャー経営者が語り合う 2030年の近未来像

【特集1】注目は「タマゴ」と「お化け」 未来のエネルギーを万博で

【特集1】エネルギー初夢NEWS5選

【特集1/座談会】気鋭のベンチャー経営者が語り合う 2030年の近未来像


エネルギー業界の課題を先読みし、日本でも多くのベンチャーが活躍している。
異なるフィールドの経営者が集まり、2030年に向けたビジョンを語り合った。

【司会】江田健二(RAUL代表取締役)

【出席者】濱本真平(Blossom Energy CEO)、野澤 遼(enechain社長)、塩出晴海(Nature創業者)

左から、塩出氏、野澤氏、濱本氏、江田氏

江田 塩出さんは家庭のエネルギーマネジメント、野澤さんはマーケット運営、濱本さんは高温ガス炉開発や熱の脱炭素化と、全く異なるフィールドで活躍されています。それぞれどんなミッションを掲げているのか、簡単に説明していただけますか。

濱本 元は原子力の研究開発機関の研究者でしたが、福島で原子力発電所事故が起き、このままでは国主導での研究開発が停滞すると思い、2022年に起業しました。1年目は技術のポートフォリづくりに集中し、2年目から投資家と対話する中、原子力だけでなく技術を横展開し、再生可能な電気を熱に変え貯蔵するボイラーを開発しました。まだ製品は出していませんが、さまざまな分野で共同研究の話が進んでいます。

野澤 私も起業のきっかけは東日本大震災です。当時は関西電力におり、全国の原子力発電所の停止に伴いLNGの調達が急務でした。この経験で資源のない日本のもろさを痛感したのがターニングポイントです。今は300社弱が参加する電力の卸、先渡しなどの市場を運営。23年は年間1兆円の取引高が約定し、24年はさらに伸びる見込みです。今、電力システム改革はフェーズ2に入った印象で、常時バックアップやBL(ベースロード市場)などの補助輪を外せる段階になってきたと感じています。

塩出 われわれは「自然との共生をドライブする」をミッションに掲げ、コンシューマー向けにIoTの製品を展開しています。一つはスマートリモコン。今使っているエアコンやテレビなどをスマートフォンから操作したり、スマートスピーカーと連携して声で操作したりするデバイスです。もう一つは、HEMS(家庭のエネルギー管理システム)デバイス。エネルギー消費量や太陽光の発電量のモニタリング、エコキュート・蓄電池などを制御できるデバイスを販売しています。また、これらの製品を使った機器制御型のDR(デマンドレスポンス)も手掛けています。ハードウェアを軸にサービスを展開するのが当社のビジネスのポイントです。

【特集1】注目は「タマゴ」と「お化け」 未来のエネルギーを万博で


4月13日に開幕する大阪・関西万博。現在、パビリオンの準備が急ピッチで進められている。
電力館とガス館は、どちらも楽しみながら学べるのが特徴だ。一足先にのぞいてみよう。

大阪メトロの新駅・夢洲駅に直結する東ゲートを抜けると、目の前にタマゴ型のパビリオンが目に入る。異彩を放つこの建物こそ、「電力館 可能性のタマゴたち」だ。外殻の膜の色がシルバーで、天候や時間帯によって見え方が変わり、さまざまな雰囲気を醸し出す。

異彩を放つタマゴ型の電力館 提供:電気事業連合会

「タマゴ」を首から下げて 地面にはPVの廃棄ガラス

テーマは「エネルギーの可能性で未来を切り開き、いのち輝く社会の実現へ」。電気事業連合会は1985年のつくば万博や2005年の愛・地球博などで、乗り物に乗りながら館内を見て回る「ライド型」の展示形態を採用してきた。しかし、大阪・関西万博ではエンタメ性をより追求。鍵となるのは来館者が首から下げる「タマゴ型デバイス」だ。展示内容や来館者の体験に連動してさまざまな色に光り、振動する。
「エネルギーの可能性の探索」と銘打ったメインショーでは、エネルギーの特徴や面白さにフォーカス。例えば「核融合」の体験ゾーンでは、来館者が卓上に投影された原子核に見立てた光る球をデバイスにくっつける(融合)。するとデバイスが光り始め、反発し合う二つの原子核から膨大なエネルギーが生まれる原理を体感できる。
パビリオン周辺の地面にも注目だ。構内舗装に使用したのは、北陸電力が開発したインターロッキングブロック(コンクリートブロックの一種)。発電所で石炭を燃やした後に生まれる微粉末の灰「フライアッシュ」と太陽光パネルの廃棄ガラスを混合して作られた。
電事連大阪・関西万博推進室の石橋すおみ副室長は「電力館ではエネルギーに真正面から向き合う機会を提供する。子供たちを中心に、普段意識しない電気を自分事として考えてほしい」と期待を寄せる。会場に足を踏み入れたら、まずはタマゴを探してみよう!

【特集1/新春特別座談会】政界のキーマンと徹底議論 「原子力新時代」を創ろう!


政治が不安定化する中で、日本のエネルギー政策はどうあるべきか。
気脈を通じる玉木氏と福島氏からは、あっと驚く提案も……。

〈司会〉
竹内純子(国際環境経済研究所理事)

福島伸享

玉木 雄一郎(衆議院議員)

左から、玉木氏、福島氏、竹内氏

竹内 お二人は当選同期のエネルギー政策通です。ズバリ、エネ政策最大の課題は何ですか。

玉木 「再生可能エネルギーか原発か」という二項対立から抜け出せないことです。二度のオイルショックの後、中東依存脱却を目指して原子力を推進したにもかかわらず、電力の7割近くを火力発電に頼り、原油はほぼ全て中東に依存している。国際情勢が混とんとしているにもかかわらず、「再エネか原発か」というイデオロギー対立でいがみ合っている。政治のリーダーシップがないし、国民全体で危機感を共有できていません。

福島 そういう現実を踏まえない議論をしていること自体が危機ですよ。再エネが増えたとはいえ、当面は化石燃料に一定程度頼らざるを得ない。小資源国の日本にとって、供給途絶が起きれば日本は窮地に追い込まれます。かつてはそれを補う産業や技術があったけれど、衰えてしまった。経済力も低下した。バーゲニングパワー(交渉能力)が何もない状況で国際環境の変化に対応しなければならない深刻な状況にあります。

竹内 エネルギーは国民の生命に関わります。化石燃料を持たず、さらに島国なのに、エネルギー教育はほぼない。自分たちの命を守る政策を真剣に考えられているのでしょうか。

玉木 外交・安全保障と同じで、エネルギー政策が政権によってコロコロ変わってはいけません。ただ先の衆院選では、自民党は公約に新増設やリプレースを書かなかったし、公明党は「原子力に依存しない社会」を掲げた。自公政権が原子力政策を転換するのではと、危惧している関係者も多いんじゃないですか。

竹内 コスト面に目を移すと、再エネ賦課金が年間約2・7兆円となり、2030年過ぎまで増加傾向が続くとの見通しもあります。電気という生活必需品に掛かる消費税のようなものですから、国民民主党が掲げる「手取りを増やす」上で極めて大きな問題ですよね。

賦課金は工夫して見直しを 「手取りを増やす」エネ政策

玉木 再エネ賦課金は明らかに見直しの時期を迎えています。いまだに「太陽光が一番安い」という人がいますが、それなら補助はいらないでしょう 。即時廃止は難しいですが、例えば期間を長くすれば単一年度の負担を下げられるかもしません。既契約分は賦課金ではなく税金で国が肩代わりする手もあります。

竹内 国民負担からは逃れられません。所得が上がらない原因の一つはエネルギーコストですからね。

玉木 そうです。賃金を増やせと声高に主張するだけではダメで、これから電力需要が増える中でどのように安価で安定的な電力を供給していくのか。現実的な議論をしない限り、経済成長や「手取りを増やす」ことにはつながりません。そのためには、少なくとも安全基準を満たした原子力発電所は稼働させる必要がある。北海道で発電した電気を本州に運ぶ海底直流送電の計画がありますが、そこに莫大な資金を投入するくらいなら現地で産業を作ればいい。原子力規制委員会の運転中審査も認めて、「原子力新時代」を創らないといけません。

福島 2024年は円安と物価高が日本を襲いました。その主要因はエネルギーと食糧の自給率の低さです。輸入に頼れば頼るほど、それは円安要因になる。では負のスパイラルを脱却するためにどうするかを考えた時、原子力を手放すという選択肢はあり得ないでしょう。

玉木 日本のGDP(国内総生産)は約600兆円。そのうち約25兆円を化石燃料の購入費として支払っています。近年ではデジタル赤字も6兆円もある。国内で回せていれば誰かの所得になっていたお金が、国外に流出している。この構造を放っておいていいわけがない。