【特集2】供給体制から手掛けた燃料転換 点在する工場の低炭素化に貢献


【旭化成延岡地区】

旭化成延岡地区は複数点在する工場を自営線ネットワークで結び電力を供給している。電力の約90%は自家発電から賄われており、昨年3月にその電源の一部をコージェネに更新した。

旭化成延岡地区はグループ最大の生産拠点だ。1923年に合成アンモニアの製造を開始した同社発祥の地であり、現在も繊維、基礎化学品、樹脂・医薬品原料、メディカル製品、エレクトロニクス製品などを製造している。
工場は宮崎県延岡市内に複数点在しており、使用する電気の約90%を五ヶ瀬川水系にある水力発電所9基と、火力発電所4基でつくり、自営線で送って自給している。
このうち、火力発電所では昨年3月、CO2削減と、水力発電の利用拡大を目的とした需給調整力確保のため、第3火力発電所を石炭火力からガスタービンコージェネ(3万7000kW)にリプレースし運用を開始した。
コージェネ導入に当たっては、「燃料転換によるコスト増に耐えられるのかといった議論もあった。しかし、低炭素化、その先の脱炭素化に向けて天然ガスでいこうとの結論に至った」。延岡動力部動力課の弓削輝泰課長は、経緯をこう振り返る。

導入したガスタービンコージェネ


年間CO2排出量を削減 運用面でも改善効果大

従来の石炭火力では、石炭焚き水管ボイラーと抽気復水式蒸気タービンを組み合わせたボイラータービンジェネレーターを使用していた。蒸気需要に合わせて抽気蒸気量を、電力需要に合わせて復水蒸気量を制御するものだったが、蒸気タービンの運用制約上、復水蒸気量をゼロにすることができず、復水器で常時放熱ロスが発生していた。
これに対し、導入したコージェネは蒸気・電力需要の変化に対し柔軟な制御が可能であり、80?90%と高い総合運転効率を実現。経済的な価格差を縮小するとともに、年間CO2排出量を約16万t削減することに成功した。
運用面での改善効果も大きい。石炭火力ではミルで燃料を擦り潰してボイラーに投入する。この過程で石などの異物が混入するといったトラブルが多かった。着火するまでの時間もかかる。天然ガスは燃えやすく、需要への追従性が高い。負荷調整において1分で1000kWは楽にこなすとのことだ。コージェネでつくった蒸気と電力は、延岡地区の複数工場間で融通している。夏は空調など電力需要、冬は熱需要が高まる。これに合わせて、コージェネは出力を1万2000kWまで低減して運転できる仕様になっている。
コージェネ導入においては、燃料供給体制の構築も課題となった。同プロジェクト以前は、宮崎県内に大型内航船の受入基地がなく、新たな基地を建設する必要があったからだ。そこで旭化成、地元の都市ガス事業者である宮崎ガス、基地建設や設備に強い大阪ガスが中心となり、どのような規模と設備で、基地を建設すべきか検討を進めてきた。
その後、18年12月に同工場への天然ガスの安定供給と普及拡大を目的に「ひむかエルエヌジー」を設立。宮崎ガス、大阪ガス、九州電力、日本ガス、旭化成が出資する合弁会社で、宮崎県内最大規模のLNG基地と約6㎞のガス導管を建設した。同社によって、内航船で調達したLNGをタンクに受け入れ、気化したガスを導管に送出し、コージェネまでガスを送り届けている。基地とコージェネ間は通信回線で結ばれており、緊急時はガス製造を制御するなど、保安面での連携も行っている。

新設した「ひむかエルエヌジー」の基地


延岡地区の電力設備は50 Hz マイクログリッド運用に対応


旭化成延岡地区には、ほかにもユニークなエネルギー事情がある。創業期にドイツから50 Hzの発電設備を調達し、電源・送電網を自社で整備したため、西日本エリアでありながら、各工場では50 Hz対応の製造設備を運用しているのだ。自社で有する50 Hzの発電所や自営線、九州電力送配電からの60 Hzの系統電力が混在する。系統電力は周波数変換装置で50 Hzに変えて供給。導入したコージェネは社内環境に合わせた50 Hz仕様となっている。
エネルギーマネジメントにおいては、各工場のエネルギー情報を集約し、電力需要と各水力発電所の電力供給を精度良く予測し、60 Hz系統電力とコージェネを含めた自家発電設備の運用計画へ反映させている。
9基ある水力発電所は流れ込み式で、川の水をそのまま発電所に引き込み発電する。貯水槽を持たないため、夏の豊水期や冬の渇水期などは水量変化に伴い発電量が変化してしまう。これには、過去30年間に及ぶ発電実績データを基に水力発電の発電量を予測し、60 Hz系統受電と自家発電設備の運転を効率的に組み合わせて運用する。「台風シーズンは水量が増えて、土砂や流木が流れて取水できないこともある。水力を最大限活用していくが、できないときのバックアップとして、コージェネは一役買っている」(弓削氏)
また落雷の発生など、非常時にはその影響を回避するため、一般送配電線網から独立した運転を行う場合がある。こうした非常時には、延岡地区に分散する自家発電設備と各工場間を結ぶ自営線ネットワークで地域マイクログリッドを形成し電力供給を継続する。導入したコージェネは、こうした運用にも対応できるように機種を選定し、他の自家発電設備との負荷分担も考慮した制御を行っている。
同社では、今後も低・脱炭素化に向けた取り組みを継続していく方針だ。「稼働中の石炭火力発電がまだある。使用率の低減を図りながら、コージェネへのリプレースを含め検討中だ。バイオマス発電の拡大、水素やアンモニアなどの次世代燃料、CO2クレジットによる相殺などあらゆる選択肢を模索している」と弓削氏は話す。
製造業において、新たな設備やエネルギーを導入する際、コストは重要なファクターとなる。これをクリアできる低・脱炭素化技術の登場が従来にも増して望まれている。

【特集2】強風下での地震発生を想定 グループ大で複合災害の訓練実施


【東京ガスグループ】

「災害時における他社への応援をこれまで何度も経験し、復旧活動のノウハウは蓄積されているが、自社が被災した際の初動対応の経験はほとんどない。今回の防災訓練を通じて課題をしっかり抽出し、災害対策を強化したい」。東京ガスグループは7月12日、今年度の防災訓練を実施した。冒頭、東京ガスの笹山晋一社長はこのように述べた。

東京ガスでは、マイコンメーターの安全機能が作動し、限られたエリアで部分的にガス供給が止まる事態はこれまで何度も経験している。しかし、関東大震災以来、都心部で大規模な面的供給停止のような事態には幸いなことに直面していない。

関東大震災100年目のタイミングで行われた今回の訓練は、当時の状況を模して進められた。

複合災害を初めて想定 スパーリングで事前演習

1923年9月1日、関東エリアでは能登半島付近に位置していた台風により全域で強風が吹く中、神奈川県西部を震源とするマグニチュード7・9の地震が起きた。関東大震災は、強風下での地震・火災発生という「複合災害」であった。そうした複合災害を想定した訓練は、東京ガスグループとしては今回が初めてのことだ。今回の訓練にはグループ全体、協力企業含めで約2万人の従業員が参加している。

訓練は地震発生を休日と想定。オンライン併用型の体制とした。まず、台風接近の予報に対応して東京ガスネットワーク(NW)の沢田聡社長が災害対策本部の本部長を務める「第一次非常事態体制」を敷いた。

その後、台風がそれ、大規模地震による発災を受け、よりシビアな状況に対応する笹山社長を本部長とした「第二次非常事態体制」へと移行した。

一次と二次の違いは供給エリア内における災害度合いで決まる。供給区域内で震度6弱以上の地震が発生した場合は、自動的に東京ガスの社長が本部長を務める体制を設置する。

訓練に先立ち、東京ガスグループでは、「スパーリング」と呼ぶ演習を実施している。想定された情報に基づきガス製造、導管、小売り、広報、人事などあらゆる部門が対応方針などを検討・整理し、訓練事務局がその対応方針などを確認。質問や確認を重ねることでより具体的な災害時の想像力や対応力を高めるものだ。東京ガスNW関係者は「徹底したスパーリングを実施してきた」と話す。

実際の訓練では、各班から、リアルな情報が矢継ぎ早に上がってきた。

「台風の接近に伴う公共交通機関の運休を想定し、合計〇〇名の人員を確保」「LNG船の配船調整を終了」「ホームページやツイッターで注意喚起を実施中」「被害が軽微なエリアでは供給指令センターから遠隔操作で復旧作業中」「通信障害が発生。通信の代替手段を案内済み」「〇〇ガス発電所では地震後も稼働を継続していたが、津波警報の発令を受けて緊急停止」「東京消防庁から面的な供給停止の要請を受けて、二次災害防止のために〇〇エリアでブロック停止」―。

これらの情報をグループ全体で共有。本部が最善の対策を検討し指示を出していく。

また、各班に対しては「他社による応援部隊のロジスティック面や、当社側の受け入れ体制に問題はないか」「情報発信について、日本ガス協会と連携しながら行っていくのか」「応援部隊の都市ガス会社が台風被害を受けている場合、復旧計画にどのように影響するのか」など、さまざまな「シナリオレス」な質問が投げかけられていた。こうした取り組みは「実戦力」を強化するために欠かせないものだ。

警視庁との連携強化 状況を共有し早期復旧

今回の訓練では警視庁が参加したことも大きな特徴である。「東京ガスNWからの地震情報を基に〇〇道路の状況を確認し、通行禁止にしました。また、緊急自動車専用路を走行する際は、赤色灯、サイレンを吹鳴して走行ください。緊急車両の指定がない車両は、現場の警察官の指示に従って走行ください」など、警視庁はウェブ上で参加した。

警視庁と東京ガスNWは今年2月、大規模な災害発生時に相互に連携し災害応急対策や復旧作業を円滑に行うことを目的に協定を結んでいた。

平時では定期的な情報交換を行うほか、災害時や復旧作業時では交通規制情報の共有、東京ガスNWの高密度リアルタイム地震防災システム「SUPREME」で把握した情報の共有を図っていく。今回はそれらの取り組みを踏まえた訓練だった。

訓練冒頭で笹山社長は物理学者の寺田寅彦の言葉を借りこうも述べている。「正しく恐れることが大事。過大に恐れることでもなく、過小に評価するでもなく、適切に課題を抽出し、対策を強化しましょう」

安全・安定的にエネルギーを供給する事業者としての使命を果たすべく、限りなくリアリティーを追求した防災訓練だった。

【特集2】大地震での供給力被害を想定 グループの技術力を活用し対策


【中部電力グループ】

「中部地域では過去から大規模地震発生が危惧され、昭和50年代から大地震を想定して対策を進めてきた」―。

こう語るのは、中部電力防災・危機管理グループの中司賢一副長だ。2003年に中央防災会議が公表した東海・東南海・南海の地震に対し、中部電力グループは被害想定を行い、電力供給力と保安の確保を目的とした対策工事を計画。11年の東日本大震災を契機に、計画のさらなる見直しを進めた。14年に自治体などが公表した「過去5地震最大クラスの南海トラフ地震」(レベル1)、「理論上最大クラスの南海トラフ地震」(レベル2)による地震動・津波に基づき、電力供給力に対する被害想定を再評価し、早期供給力確保、減災、被災後の復旧について方針を取りまとめた。

変圧器基礎・本体を高上げし、津波から守る

レベル1の地震の場合、伊勢湾周辺の火力発電所全ての地点で震度6弱以上が発生するため、主要施設に被害、発電にも支障が出るとの想定の下、早期供給力確保を目指し、耐震対策として海水の取放水設備などを補強した。津波の場合、一部の自治体で津波浸水を受け、沿岸部の送変電設備の一部で被害が出るとの想定の下、変電設備の高上げ工事や防水壁の設置工事などの対策を行った。

レベル2のような地震の場合は、公衆保安の確保を基本として、減災の観点で電力供給確保を目指す。

事前対策だけでなく、発生後の復旧対策でも同社グループの技術力を生かす。中部電力パワーグリッド(PG)では、ドローンを用いた山間部の設備被害状況の巡視点検を行う。中部電力PG総務部総括グループの濱口宗久課長は「地震による停電などの被害は電力設備自体の損壊よりも、倒木や土砂崩れ、建物倒壊などの外的要因に左右されることが多い」と語る。特に山間部では、被害箇所へ人員を送ることが困難な場合もあり、ドローンで周りの環境変化を調べ、断線箇所を早期に発見し、より迅速な対応が可能となった。

そのほかスマートメーターやIoTデバイスを用いた現場管理の運用・保守サポート「らくモニIoT」は冠水感知、傾斜計などにも対応。早期復旧対策としては応急送電用の発電機車や、非常用通信手段などの資材を各事業場に配備している。

1万5千人参加の防災訓練 初動対応の迅速化が狙い

中部電力グループ全社を挙げての訓練も欠かさない。東日本大震災以降、毎年実施する防災訓練には、グループ全体でおよそ1万5千人が参加。南海トラフ巨大地震に伴う大規模な停電や浜岡原子力発電所のトラブル対応などを想定した訓練を行う。今年も11月に開催を予定しており、初動対応の迅速化を狙い、訓練シナリオは非公開とし、訓練の間は何が起こるか知らされていないという。

「台風や大雨などの災害は、予報による事前予見性がある。しかし、地震はいつ襲ってくるか分からない」(中司副長)。地震に対する適切な初動は、訓練を行い培うしかない。大規模災害発生時にも安定供給が求められる中部電力グループは、その職責を果たすため、対応力の向上にこれからも努める方針だ。

【特集2】欧州事情に見る合成燃料の行方 投資を呼び込む仕組みが必要


脱炭素化に向けて議論をリードしてきた欧州のエネルギー施策が変わってきた。日本においてはこれらを検証し現実に即した方法を見極める必要がある。

橋﨑克雄/エネルギー総合工学研究所プロジェクト試験研究部 部長

2050年のカーボンニュートラル(CN)実現の議論を先導してきた欧州。エネルギー転換部門(発電)からの石炭撤廃、再生可能エネルギー電源の導入、水素主力のCO2フリー燃料の活用、EVの普及と、転換を進めてきた。ドイツが国家水素戦略を20年6月に発表して以来、欧州各所でグリーン水素へ燃料転換を進めようと液体水素などを利用した各種デモンストレーションも大々的に行われた。しかし、昨今のエネルギー転換策は、エネルギートランジション時期(移行期)に合致したより現実的な施策になってきた感がある。

これらのCO2削減対策の一つに21年7月に欧州委員会(EC)より乗用車や小型商用車の新車によるCO2排出量を35年までにゼロにする規制案の発表があった。欧州議会(EP)も22年10月に欧州自動車団体の猛反発にあいながらも26年に見直す旨を追記することでEU加盟国といったんは合意した。

内燃機関の販売継続 既存インフラとの融合政策

ところが今年2月に自動車を基幹産業とするドイツ、イタリアなどがCO2排出をゼロとみなせる合成燃料の一つ、e―フューエルの利用に限り販売を認めるべきだと主張し、35年の内燃機関車の新車販売を禁止する方針は事実上撤回された。

これには、ECが25年7月からの施行を目指している欧州での乗用車の次期自動車環境規制「Euro7」が、実質エンジン車を排除するような非常に厳しい法案であったことも少なからずとも影響したと思われる。

日本でも21年6月の「グリーン成長戦略」には、「35年までに新車販売でEV100%(ハイブリット車を含む)を実現する」旨が明記されているが、合成燃料はハイブリット車にも使えるため、その開発に対する意義は揺るぐものではないだろう。ハイブリット車の方が燃費の向上とともに、搭載燃料量が少なくなるため、高いといわれる合成燃料の受容性は高くなるとみられる。

同じような展開は、CO2排出削減の困難な船舶・航空分野にも見られる。昨今、船舶分野では農業残渣や都市ごみなどを原料としたバイオメタノール(グリーンメタノール)、航空分野でも同様の原料を用いて製造したSAF(再生航空燃料)が注目されている。いずれもCNな炭化水素系燃料で、現有インフラを活用可能であり、早期に社会実装が可能な燃料だ。

技術成熟度レベル(TRL)も高い。デンマークの海運大手マークスは、すでにCNなメタノール燃料を使う船を19隻発注し、40年には温室効果ガス排出量実質ゼロを目指している。航空分野でも多くの航空会社が、50年実質排出量ゼロを宣言しており、すでに国際認証機関であるATSMインターナショナルの規格「ASTMD7556」に適合したSAFをドロップイン(上限50%で混合した)した燃料で航空機の実飛行も行われている。

さらに、都市ガス代替ガスについてもe―メタンやバイオガス(バイオメタン)の導入が注目されており、現有インフラを活用できる点が社会実装する上で重要な判断要素になっていると思われる。

エネルギーセキュリティーの確保は、資源の無い日本にとって最も重要な生命線だ。このような移行期の場面で重要なのは、最終目標を目指した開発だけを行うのではなく、現在のインフラと目指すべきインフラとのギャップを埋め合わせる技術開発である。あわよくば、今ある技術、あるいはその延長線上の技術で、どこまで最終目標に近づけられるかを考えることこそが社会実装への近道ではないか。その意味で、前述した各種合成燃料製造に必要な技術は「古くて新しい技術」ばかりだ。

大量の再エネが必要 セキュリティー確保に向けて

合成燃料の製造方法フローを左の図に示す。発酵、ガス化、熱分解、水素化処理、メタネーション、FT(触媒反応)合成、メタノール合成、水電解などの技術は、多くの開発がすでに行われている。これら技術を社会実装する上での最大の課題は、代替エネルギーという観点から規模感(量)と経済性であろう。日本の一次エネルギー(化石燃料)消費量は約1万9000PJ(ペタジュール)である。CNな合成燃料にその一部を担わせるとしても、相当量の再エネとバイオ燃料源の確保が必要だ。その解決策の一つとして、日本では、都市ごみの積極的利用や安価な海外再エネの活用が望まれるところだ。

経済性を持たせるためには、既存エネルギーに対する環境価値をお金に換算し導入しやすくさせる施策、例えば、欧州で取り組みが進む炭素排出量取引(ETS)、炭素差額決済契約(CCfD)、さらには炭素国境調整メカニズム(CBAM)の導入、米国のインフレ削減法(IRCセクション45Q)による税制控除のような設備導入支援策が必要であろう。

その効果は多くのスタートアップ企業の出現や産業間連携プロジェクト数の増加に見ることができる。ESG投資も増えている。惜しむらくは、この類の海外投資家による国内投資はほぼ聞かれず、国内企業の海外投資ばかりだ。日本のエネルギーセキュリティー確保に向け、日本独自の移行期にマッチした必要技術を見極め、国内投資を促進するためにも欧米のような仕組み作りが早急に望まれる。

合成燃料の製造方法のフロー図

はしざき・かつお 九州大学大学院総合理工学府量子プロセス理工学博士課程修了(工学博士)。2021年三菱重工業からエネルギー総合工学研究所に移籍。専門は、火力発電、CCUS、水素・水電解、リチウム二次電池、化学プロセス。

【特集2/座談会】合成燃料をGXの切り札に ガス・石油業界の果敢な挑戦


ガス・石油業界にとって合成燃料の開発は、自らの生き残りに関わる事柄だ。しかし技術面、コスト面で課題は多く、国の支援や協働での技術開発が欠かせなくなっている。

〈司会〉橘川武郎/国際大学 副学長

奥田真弥/石油連盟 専務理事

早川光毅/日本ガス協会 専務理事

橘川 国がGX(グリーントランスフォーメーション)政策を進める中、再エネや原子力発電が注目されています。しかし、石油、ガスは一次エネルギー消費の約6割を占め、同分野の脱炭素化を進めなければ、とてもカーボンニュートラル(CN)を達成できません。

ガス・石油業界はそれぞれe―メタン、e―フューエルといった合成燃料の開発を進めており、これらはGXの現実的な方策に欠かせないと思っています。

早川 先般のG7(主要7カ国首脳会議)で、CNには多様な道筋があると示されたことは意義深いことだと思っています。ロシアのウクライナ侵攻でエネルギーの安定供給や調達が危ぶまれた事例などからも、エネルギーを多様化することの重要性が増しています。

 また、価格のボラティリティーが増す中で、お客さまにとってもエネルギーを選択することでリスクを軽減できることからも多様化は欠かせない。さらに最近では、地震に加えて風水害など頻発化・激甚化する災害に対して、S+3Eの観点でもエネルギーの多様化が求められています。

 そうした中で合成燃料は環境性に優れ、既存のインフラをそのまま利用できる利点もある。お客さまに選択していただける多様なエネルギーを供給するという点で、大きな意味があると考えています。

業界としては、2030年までにe―メタンの都市ガス導管への注入1%以上の供給を目指しています。その目標に向けて技術開発を進め、サプライチェーンの構築にも取り組んでいます。

奥田 石油は今でもエネルギーの主役ですが、温暖化対策ではCO2排出削減が最も難しいといわれる運輸部門で大量に使われています。石油のCO2排出量は約4億t弱(19年度実績)で、製油所などで消費する分のスコープ1からの排出は約3千万tです。残りの約3・5億tがスコープ3、つまりガソリン、軽油、ジェット燃料などの石油製品からの使用排出です。ここを削減しないとCNは実現できません。しかし、これは非常に困難なことです。

困難なスコープ3の削減 まずSAFの供給から

橘川 大きな課題になりますね。

奥田 石油業界は昨年末にCNに向けたビジョンを改定し、スコープ3での実質ゼロにもチャレンジすることにしました。具体的な取り組みがe―フューエルであり、SAF(再生航空燃料)です。これらを開発して市場に提供しなければ、世の中は変わらない。そういう強い使命感で取り組んでいます。e―フューエルは30年代前半までの商用化を目標にし、SAFは25年頃からの国内製造・供給開始を目指して既に製造プラントへの投資が行われています。

 一方、早川さんが指摘されたように、エネルギー供給で多様な道筋を残すことも大切だと考えています。EV化の大きな流れは変わらないと思いますが、経産省の報告によると、50年の時点でも走行している車の約半分は内燃機関車です。われわれは、ガソリンや軽油を引き続き、できるだけCNな形で供給していかなければなりません。

橘川 CNというと、急速に電化が進んで、車が全てEVに置き換わるような印象が世間にはあります。しかし、決してそうはならないことが知られていません。

早川 供給側の論理で将来の姿を考えるべきではないと思っています。健全な競争環境の中でお客さまに選んでいただくことで、生き残っていくものと考えています。仮に選択肢を電気エネルギーだけに限定し、そのために全ての社会インフラを作り直したとすると、環境的には良いのかもしれないが、お客さまとしてはコスト増により経済活動が成り立たなくなり、ひいては産業がますます海外に流れていってしまうリスクもある。一番肝心な日本経済の活性化が成り立たなくなる。

橘川 奥田さんがスコープ3の排出削減に力を入れると言われましたが、たとえe―フューエル、e―メタンが普及しても、この部分でのCO2排出は残ります。

奥田 スコープ3を完全にゼロにすることは不可能です。そのことを前提にCCS(CO2回収・貯留)などを活用する、新しい技術を開発する、あるいはカウント(CO2排出量算定)ルールの制度を整えるなどの必要があります。

 e―フューエルの場合、非常に心強く思っているのは、各国で開発が進んで世界に仲間がいることです。ただ、米国やEU諸国との違いは、日本にはCO2フリー水素をつくるためのクリーンエネルギーの絶対量が足りないことです。

 では、どうするか。オーストラリアなどで太陽光発電を使って水素をつくることになる。すると、カウントルールが重要になります。本当は国際ルールにすべきですが、米国、EUは積極的ではないと思います。そうなると、国同士が話し合って、2国間でルールを決めていかなければならない。その戦略を国にきちんと考えていただき、ルールをつくっていただくことが大切になると思います。

橘川 日本にはクリーン開発メカニズム(CDM)という2国間クレジット制度があります。ただ、ほとんどが発展途上国向きで、合成燃料の製造とCCSの可能性も含めると米国、オーストラリア、マレーシアなどと2国間クレジット制度の仕組みを作らなければならなくなる。

早川 奥田さんが言われたように、いきなり国際ルールにするのは難しい。まずは、民間がプロジェクトを進めながら、それを通じて2国間で交渉し実績を積み上げていくことが現実的だと思います。

 例えば米国で進んでいるキャメロンLNG基地でのe―メタン製造のプロジェクトでは、米国で排出計上済みのCO2を使用するため、e―メタン利用時の排出をゼロカウントとすることは合理的と考えられます。

 まずは民間ベースでこれを合意した上で、それを基に国での二国間交渉に入るようにする。そういうことを積み上げていくことが必要でしょう。

奥田 同感です。いきなり国際ルールにするのはかなり難しい。まず民間で先方とプロジェクトを進め、その実績を積み上げていったうえで国に乗り出してもらう。そういうステップを踏んでいくことが現実的であると思います。

橘川 一方、合成燃料の製造では再エネでつくるグリーン水素が欠かせませんが、普及が進むと量が足りなくなる。化石燃料由来のブルー水素を使わざるを得なくなります。するとCCS、CCUS(CO2回収・利用・貯蔵)が普及の鍵を握ることになります。

 JX石油開発は米テキサス州で石炭火力から排出されるCO2を回収して、生産量が落ちた油田に圧入するCCUSのプロジェクトを進めています。これは世界最大規模のCCUSプロジェクトです。

危機の時代の国際石油情勢〈前編〉 西側脱露政策とOPEC減産の実情


【識者の視点】小山正篤/石油市場アナリスト

ロシアのウクライナ侵攻などの影響で、石油情勢は国際的な危機を迎えている。

西側諸国の脱露政策やOPEC減産の実情について、米ボストン在住のアナリストが解説する。

日本を含む西側諸国は、ロシアのウクライナ侵略に対抗する中で、国際石油秩序の担い手としての広い視野を回復し、その上で秩序基盤の再構築を図る必要がある。

このような視点に立って昨年の世界石油需給動向および西側の対応を振り返ってみよう。なお本稿は私見を述べるもので、筆者の所属する組織とは無関係である。

世界は露産石油依存が顕著 複雑化する西側の脱露政策

ロシアを除く世界全域における広義の石油需給を、国際エネルギー機関(IEA)統計に基づいて概観すると、昨年平均の需要量・日量約9600万バレルに対し域内生産量は日量8900万バレル。不足量は日量700万バレルを超える。これは日本の石油消費量の2倍以上に相当する規模だ。この不足分を埋めているのが、ロシアの石油輸出であり、昨年の輸出量は原油・日量約500万バレル、軽油など石油製品が日量250万バレル強と推定されている。

一方、世界の実効的な原油生産余力は石油輸出国機構(OPEC)加盟諸国、中でもサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)に集中しているが、昨年12月時点で両国合わせた余力は日量約250万バレル強にすぎない。すなわち、ロシア外の世界は、ロシア産石油を排除するに足るだけの石油生産力を持たないわけだ。

2022年の世界(除ロシア)石油需給

世界はロシア産石油を必要とする―。この簡明な事実は何を意味するか。英国とEUはロシア産石油の海上輸入を、原油は昨年12月、石油製品は今年2月以降、それぞれ禁ずる措置を採った。実際、昨年12月時点でロシアのEU、英国、米国向け石油輸出量は、年初に比べて日量計200万バレル強の大幅減少となった。

一方でインド、中国の2カ国向けは、合わせてほぼ同量の増加を見た。すなわち欧州・西側とロシアの分離に伴い、石油貿易ルートが新たに組み替えられた格好だ。

インド・中国などのロシア産石油輸入増を問題視する向きが多いが、それは自家撞着だ。非ロシア世界の域内石油供給不足という条件下では、ロシア産石油を追加的に引き取るインド、中国のような輸入国があってこそ、欧州・西側の脱ロシア依存が円滑に達せられる。両者は補完関係にあるのだ。

EU・英国はロシア産石油に対する海上保険を制裁対象に加え、これに米国が介入して上限価格(原油1バレル当たり60ドルなど)内であれば不適用とした。同制裁を事実上無効化する措置だが、これもロシア産石油輸出が阻害されれば、世界的な石油危機に直結し得る現実を反映している。本来、海上保険を制裁対象とする必要はなく、インド、中国などがリスクに見合う割引価格でロシア産石油を引き取れば済むことを、わざわざ西側が複雑にしている。西側自身の脱ロシア産石油依存は、ロシアに石油を外交的恫喝の「武器」として使われないように図る防御的措置だ。それをロシア経済に打撃を与える攻撃的措置として表明するので、取り組みが混乱する。

ロシアの石油輸出収入を断つとは、ロシア産石油の国際市場からの排除を意味する。それは、非ロシア世界の域内供給不足の解消と同義だ。大幅な石油増産と消費抑制がそこで並行して起こらなければならない。

これは少なくとも10年単位の射程を持つ中・長期的目標でなければならず、かつ、段階的な達成を順次図るほかない。また昨年時点で非ロシア世界の石油生産の4割はOPECが握っている。今後の増産にはとりわけサウジアラビアを筆頭とする中東OPEC産油諸国の同調が不可欠となる。

サウジアラビアの現実主義 OPEC減産報道の誤りとは

2021年6月から昨年10月までの間、サウジアラビアの原油生産量は日量200万バレル増加。米国の増産量・日量100万バレルをはるかにしのいだ。

同国は「OPECプラス」(OPEC側10カ国、非OPEC側からロシアを含む産油10カ国が参加)が合意した原油生産目標量に従って21年8月以降も継続的に増産し、その生産量はすでに21年12月時点で日量1000万バレルの大台に乗った。

昨年11月、OPECプラスは生産目標総量を削減し、これが「大幅減産」として広く報じられて波紋を呼んだ。削減されたのは名目的な生産目標量であり、基準とした昨年8月時点の日量4400万バレル弱から日量4200万バレル弱へと、確かに日量200万バレルの削減だ。しかし、同じ基準月の生産実績は日量4000万バレル強にとどまっていたため、もし当該の生産枠がそのまま実現すれば、日量約150万バレルの増産となった。

サウジアラビアのように実生産量と生産枠が合致する場合には減産だが、実生産が目標量と乖離して低迷する国々に対しては、反対に増産が求められた。実際、昨年11~12月の、ロシアを除くOPECプラス原油総生産量は、同年8月対比で日量50万バレル弱の減少にとどまり、対前年同期比では逆に日量100万バレルの増大を示した。つまり、かかる生産調整を大幅減産と見たのは誤りだ。

むしろサウジアラビアの動向から伺えるのは、自国の生産量を高位に保ちつつOPECプラスを通じた生産調整によって、国際石油需給の均衡を図る、いわば実務本位の冷めた姿勢だ。同国は緊急時の備えであるべき生産余力も堅持し、また27年を目途に、日量100万バレルの原油生産能力の増強計画を進めている。

このサウジアラビアの現実主義的な姿勢は、対ロシア産石油依存からの脱却と非ロシア世界の域内自給率向上という西側の目標に呼応している。この点はよく理解されなければならない。

※1 本稿での石油需給、貿易および在庫に関する数値はIEA統計(Oil Market Report)による。広義の石油は、NGLやバイオ燃料など、非石油由来の燃料を含む。

※2 ロシアに加えOPECプラスのうち8カ国が今年5月以降の追加減産を決めたが、昨年11月の減産がさほど大きくないと示した形だ。これも現状を供給過剰と見た実務本位の対応と考えてよいだろう。

こやま・まさあつ 1985年東京大学文学部社会学科卒、日本石油入社。ケンブリッジ・エナジー・リサーチ社、サウジアラムコなどを経て、2017年からウッドマッケンジー・ボストン事務所所属。石油市場アナリスト。

【特集2】初期費用ゼロの太陽光発電 定額料金サービスで導入加速


【東京ガス】

2030年までにGHG(温室効果ガス)の排出量を20年比で半減させる〝カーボンハーフ〟を推進し、脱炭素化に取り組む東京都。25年4月から大手住宅メーカーが都内に新築する一戸建て住宅には、太陽光発電システムの設置が義務付けられている。

「この義務化の影響で、提供するサービスの引き合いが増えている」と話すのは、エネルギーサービス事業推進グループの小田明翔主任だ。

東京ガスは22年4月、新築住宅向けに「ずっともソーラー フラットプラン」(フラットプラン)のサービスを開始した。19年から提供してきた「ずっともソーラー」をブラッシュアップし、新築一戸建て住宅の太陽光発電導入に貢献。設備材料費などを東京ガスが負担し、顧客は月々の定額料金で太陽光発電を利用する。

フラットプランの主な特徴は、①初期費用ゼロで太陽光発電を導入、②割安な定額料金で自家消費を使い放題、③サービス期間終了後は全ての太陽光を自由に利用できる―の三つだ。

初期費用をゼロにすることで、顧客は建築費を抑えられる。電力会社への余剰電力の売電債権(売電収入)は顧客から東京ガスに譲渡する仕組みで、東京ガスはあらかじめ費用の総額から想定する売電分を差し引く。顧客は残りの費用を10年の契約年数で計算した月々の定額料金として支払う。

一般的なリース契約と比較すると、あらかじめ想定する売電分を差し引いている分、毎月の支出が減るため、導入のハードルが下がる。さらに面倒な書類審査が不要。利用可能なクレジットカードを保有していれば導入できる。住宅ローンに影響することなく、顧客は住まいのアップグレードに予算を充てられるのだ。

一例として、フラットプランの10年契約で初期費用ゼロの場合、月々の定額料金は6500円。初期費用として工事費を負担すれば、月々の料金を半額近くに減らすことも可能だ。

ずっともソーラー フラットプランの仕組み

調達・施工は東京ガス 十数社との提携進む

21年ごろまでは、太陽光発電を導入する住宅メーカーは大手が中心で、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及が目的だった。昨今は都の太陽光設置の義務化や電気代高騰で、顧客からの問い合わせが増加している。フラットプランでは、これまで太陽光設備を取り扱ってこなかった住宅メーカーに対し、設備の調達から施工まで全て東京ガスが請け負うことも可能だ。都の住宅事情に合わせ、2kW台の低用量帯から対応する。

首都圏で狭小な住宅を得意とするメーカー、オープンハウス・ディベロップメントでは、フラットプランをいち早く採用している。割安な定額料金で導入できるというシンプルなプランも相まって、顧客からも好評とのこと。

「わかりやすいサービスなので住宅メーカーにも顧客にもプラスに働いている」と同グループの中野亮課長は胸を張り、こう続ける。「分譲系やオール電化の住宅メーカーなど数十社と提携が進み、19年の『ずっともソーラー』スタートからわずか3年でターゲットが広がった」

さらに東京ガスは、電気代の高騰で自家消費として太陽光発電のニーズが高まっていることに注目。22年11月からオプションの提供を始めた。

セットプランも用意 全国の一戸建住宅に拡大

太陽光をより有効利用できるよう、蓄電池のセットプランを用意。一例として、5kW時の蓄電池を初期費用ゼロ、月々1万3000円の定額料金で追加できる。また、太陽光発電と親和性の高いハイブリッド給湯器やエコキュートを組み合わせるセットプランも用意した。東京ガスの電気で、これらのオプション設備を利用する場合は系統からの電気料金を3%、利用しない場合は2%割引きする。

サービスの導入で光熱費削減効果も見込める

フラットプランは全国で導入可能だ。小田主任は「脱炭素社会に貢献することが私たちの使命。その促進に向け、各地の住宅メーカーが抱える課題を解決し、顧客のニーズに応えることで、より選んでもらえる仕組みやサービスを拡充していきたい」と展望を語る。今後は既築住宅への展開も視野に入れていく。

ニーズに応えたいと話す中野課長(左)と小田主任

【特集2】受け継がれる「150年」の挑戦 LNG大国の経験が未来開く


都市ガス事業は、安定供給を支えながら日本や世界の産業を発展させてきた。過去の経験や蓄積から業界は何を学び、どのように次代につなげるべきか。

【出席者】

司会=橘川武郎/国際大学大学院国際経営学研究科教授

広瀬道明/東京ガス取締役会長

柳井 準/三菱商事顧問

橘川(司会) 都市ガス事業の歴史を振り返ると、いくつかの転機を乗り越えてきたと思っています。まずは1872年に横浜の馬車道通りにガス灯がともります。しかし、ガス灯は電球に、その座を奪われます。太平洋戦争後、エネルギーの主役は石炭になりましたが、50年代の終わりごろからエネルギー流体革命が起こり、石油の時代がきます。ところが大気汚染対策という環境規制のニーズから、1969年11月、米国アラスカ州からLNGを積んだポーラアラスカ号が東京ガスの根岸工場に到着した。ここからクリーンエネルギーのLNG時代が始まります。

 制度面でも転機がありました。システム改革が進む中で、2017年には小売り全面自由化、22年には大手3社の導管の法的分離が行われました。20年10月には菅義偉元首相がカーボンニュートラル宣言を行い、CO2排出の天然ガスも逆風の時代を迎えかねません。これらは大きな課題になると思います。150年の間、困難な課題をさまざまな知恵と努力で乗り越えました。その恩恵の上に今の業界があると思います。

広瀬 いろいろなところでお話する機会がありますが、そのテーマを「歴史に学び、時代を駆ける」としています。現在まで、先人たちは何を考え、何をしてきたかを振り返ることは大切です。今、将来展望を描きながら課題に向き合っていますが、それがまた歴史になります。橘川先生が指摘されたように、都市ガス事業は挑戦と革新の歴史です。昨年の大河ドラマで渋沢栄一は若い時パリを訪れ、ガス灯が照らす街や劇場の明るさに驚き、日本でもできないものかと考え、帰国後、自ら東京府ガス局長を10年間、初代東京ガス会長を25年間勤め、都市ガス事業の「黎明期」を切り開きました。

 これまでガスの製造、供給、利用の全分野で変貌を遂げましたが、常に新しいものに挑戦し、また時代の変化とともに革新する。この繰り返しでした。ただ一貫して変わらなかったのは、公益的な使命と社会的責任を果たすという渋沢の理念、これはDNAとして脈々として受け継がれ、将来も変わらないと思います。

柳井 商社から考えると、やはり最大の転機はLNG輸入です。ガスは本来、地産地消で使い、周辺へはパイプライン供給が常識でした。しかし、日本ではそれができません。そこで新しい発想として、アラスカからのLNG輸入を東京ガスさんと東京電力さんが決断された。このやり方は当時、北アフリカから欧州の一部エリアで実験的に小規模に行われていました。ところが両社の決断は、長距離かつ大規模に運ぶものでした。送り出す側や受け入れ側で、液化設備、LNG基地など、設計から建設まで膨大な投資が必要だったことを踏まえると、当時の経営決断に感銘を覚えます。

 その後、台湾、韓国などパイプラインの恩恵を得られない国が、LNGを調達することとなり、今では世界規模でLNG貿易が盛んです。その先駆者の役割を果たしたのは、東京ガスさんをはじめとした日本の事業者です。三菱商事はアラスカでのLNGプロジェクトで代理人に指名していただきました。その役割を果たせたことは非常に光栄で、幸運だったと思います。

熱量変更の大事業 インフラ整備も進展

橘川 その後、世界のエネルギー産業に恩恵をもたらしました。その先駆けとなったアラスカプロジェクトは、東京ガスの安西浩社長の提案を東京電力の木川田一隆社長が受け入れて、輸入のロットを大きくし、少しでも調達費を抑えるために両社が組んだものでした。ただ、使い方はだいぶ異なります。電力会社は、気化した天然ガスを発電するだけです。しかし、都市ガスは違います。それまでの5000kcalが1万1000kcalに増えるので、その熱量変更に伴い、あらゆる家庭のガス器具、工業用のガス設備などを変えなければならない。LNG導入の一番のハイライトは、そこだと思います。

広瀬 私は74年に入社し、配属先が熱変事業所(東京・南千住)でした。当時、約1500人の社員がいて、朝一斉に現場に出て、3日間で5000件ぐらいのお客さまの器具を変更します。当時、「転換地獄」と言われるくらい大変な職場でしたね。

 LNGを導入するため、東京ガスは3大プロジェクトと言われる、気の遠くなるような計画を打ち出します。一つ目は製造設備です。神奈川・根岸や千葉・袖ヶ浦市にLNG基地を建設しました。二つ目はガス供給のために、東京湾を囲む環状の高圧幹線を建設しました。三つ目がお客さまの熱量変更です。いま考えると、当時の経営者は本当によく決断したなと思います。

橘川 熱量変更が行われ都市ガスの普及が急速に進み、日本はLNG大国になりました。

広瀬 その要因ですが、LNGプロジェクトは数兆円の投資となり、それを民の力を結集して実現させたのが商社です。供給側と消費側の間をコーディネートし、多くの業界を取り込み、結実させました。商社無しに今日のLNG大国はなかったと思います。

 電力・ガス会社が協力して進めたことも大きかったと思います。日本は資源がなく、燃料・原料の輸入までは一緒の方が安く、国益や利用者利益の面でよいわけです。その後は「オール電化がいい」「料理はやっぱりガスがいい」というのはお客さまの選択の問題です。まさに協調と競争で、その良い面が発揮されました。

 さらに忘れてはならないのは、商品開発、技術開発の努力です。都市ガス会社は日ごろからお客さまと対面でお付き合いをしてきました。新しいエネルギー、LNGをお客さまのニーズに合わせ、機器メーカーさんと一緒にカスタマイズしてきました。そんな地道な取り組みも大きかったと思います。

育ての親「アジア諸国」 三菱商事の果たした役割

橘川 一昨年、ブルネイを訪れましたが、LNGプロジェクトでの三菱商事の存在感を実感しました。ブルネイはメジャーのシェルの力が強い国で、多くの取り組みを経て、メジャーや産ガス国と関係構築してきたかと思います。

柳井 アラスカの後、ブルネイでのプロジェクト投資を決断しました。失敗したら会社がつぶれてしまうほどの投資で、当時の社長、藤野忠次郎はサインのとき、手が震えたそうです。

 三菱商事は昭和四日市石油をシェルと共同で運営していたので、シェルとは親しい関係でした。シェルがブルネイに大きなガス田を持っていて、開発に当たり「三菱商事も資本参加を」と話がありました。社内では賛否両論でしたが、結果、清水の舞台から飛び降りる覚悟で決断したわけです。この投資で三菱商事は、LNG事業のサプライヤーサイドに立つことになりました。それが結果的に良かったと思っています。

 大規模プロジェクトは、サプライヤーとバイヤーとの信頼関係が必須です。日本のガス・電力会社は、長期契約で15年間ほど引き取る保証をしてくれました。また、当時LNGのマーケットがない中、原油価格リンクの方式をつくりあげました。これらが両者の信頼関係を構築する上で、非常に大きな役割を果たしたと感じています。

 その後、LNGの需要、輸入数量は増えてビジネスは拡大し、三菱商事としてもマレーシア、オーストラリアへと投資しますが、それは常に信頼関係があったからだと思っています。そしてこのことが、結果的に日本の安定供給につながったと考えています。またシェールガス革命で、北米からのLNG輸出も幸いし、今後の安定供給源として期待されています。

広瀬 日本のLNGの歴史を見ると、アラスカが「生みの親」、アジアが「育ての親」だと思います。そのアジアの先駆けがブルネイです。私は日本ブルネイ友好協会の会長を務め、度々ブルネイを訪れています。その度に三菱商事さんがこの国・地域の発展に果たした役割の大きさを実感します。ブルネイのプロジェクトはLNGの歴史の中で大きな意味を持つと思います。

橘川 いま、西欧諸国では天然ガス価格が数倍に上がり、電気料金も上昇しています。しかし日本では値上げ幅は一定程度に抑えています。最大の理由はLNGの長期契約です。スポット市場での価格上昇に比べて、はるかに穏やかな値動きです。なかなか注目されませんが、ぜひメディアが取り上げてほしいと思っています。

ガス事業が抱える課題 メタネーションへの挑戦

橘川 当面、業界は「対需給」が課題です。中長期的には温暖化対策が大きな課題になると思います。今後の課題認識や取り組み方、加えて、次代の方々へメッセージをお願いします。

広瀬 現在、東京ガスの歴史で初めてのことが二つ起きています。一つが小売り全面自由化と導管分離です。製造、供給、利用の垂直統合モデルでしたが、導管部門は4月に別会社になりました。制度改革の趣旨に沿い、導管新社は安定供給と安全確保に万全を期し、一層の効率化に努め、小売り分野ではお客さまニーズに合わせガス、電気、サービスを一体とした営業力の強化に努めなければならないと思います。

 もう一つがカーボンニュートラルです。創業以来、原料は石炭、石油、LNGと変遷してきましたが、いずれも化石エネルギーです。これを、今後カーボンニュートラルエネルギーに変えていくという非常に厳しい取り組みですが、次代を担う若い方々にも受け継がれている挑戦と革新の精神で乗り越えられると考えています。

橘川 ガス業界はCO2と水素から合成メタンをつくるメタネーションに取り組んでいます。

広瀬 メタネーションの社会実装実現に向け、コスト面が非常に大きな課題です。しかし、50年カーボンニュートラルを目指す中、頑張らなければなりません。既に技術開発に取り組んでいますが、われわれの力だけでは限界があり、官民一体で進める中、メーカー・商社さんなどの協力が必要です。われわれとしては、まずはしっかりとパイプラインで供給できるように、またお客さまに安全に使っていただけるようにすることが使命だと思っています。

柳井 移行期のエネルギーとして引き続き重要な天然ガス以外に、メタネーションや次世代エネルギー、再エネなども加えた合わせ技で対応する必要があると思います。水素など数多くある脱炭素対策の選択肢の中で、メタネーションのメリットは、LNG船・基地、パイプライン、ガス器具・設備など、既存インフラ・設備をそのまま使えることです。従って比較的、ゴールが見えやすく、手をつけられやすい分野だと考えています。われわれとしても、LNG導入のようにサポートできたら思っています。

 また、若い方々に伝えたいのは、「日本には資源がない」という認識のもと、先人たちが大変な苦労をして、いろいろな場所でいろいろなエネルギー調達に挑んで今に至っていることです。このノウハウは、今後の取り組みにも生きてくる、ということを伝えたいですね。

橘川 業界は、今度はメタネーションでエネルギー利用の歴史を変えるかもしれない。困難かもしれませんが、やりがいがあるのではと思います。本日はありがとうございました。

きっかわ・たけお (左) 1975年東京大学経済学部卒、東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。一橋大学教授、東京理科大学大学院教授を経て2021年4月から現職。

ひろせ・みちあき(中) 1974年早稲田大学政治経済学部卒、東京ガス入社。 2006年執行役員企画本部総合企画部長などを経て14年代表取締役社長、 18年取締役会長。

やない・じゅん(右) 1973年早稲田大学法学部卒、三菱商事入社。2013年代表取締役副社長執行役員エネルギー事業グループCEOを経て16年から現職。

【特集1】新潟選挙区の動向 県知事選と同様の構図 原発再稼働は争点にならず


需給ひっ迫などの懸念から柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に期待が高まる中、新潟選挙区の動向が注目されている。自民党新人の小林一大氏、立憲民主党現職の森裕子氏ら4人が出馬。改選定数1をかけ事実上、小林氏と森氏の一騎打ちの様相だ。自民は同区の議席ゼロから1議席奪還を狙い、対する立民も最重要区と位置付ける。森氏が知名度では勝るものの、「県議の若手エース」と目され公認決定以降地道に活動してきた小林氏が追い上げを見せる。

 とはいえ「再稼働は争点にならない」というのが地元の一致した見方。再稼働容認派の品田宏夫・刈羽村長も「今は異常事態だがエネルギーは安定供給を損ねないことが当たり前で、再稼働は争点になりようがない」と強調する。

 それは5月29日の県知事選でも見て取れた。現職の花角英世氏が再稼働反対派の対立候補に大差で勝利。しかし花角氏は再稼働について「県の三つの検証結果が出るまで議論しない」とし、4年前の知事選の際から変わりはない。

 今回の公約でも、森氏はウクライナでの攻撃を踏まえ「原発リスクから新潟と日本を守る」と訴えるが、小林氏は「エネルギー資源を最大限活用し経済を活性化する」とし、原発は対立軸ではない。「ロシア問題で原子力を巡る潮目が変わるかとも思ったが、県民の原子力への関心は高くはない」(地元関係者)。政府が原子力政策を放置し、核物質防護に関する東電の不祥事が発生、さらに県の検証の完了も見通せない中、誰もすぐ原発が動くとは思っていない。

 地元では「東電が運転することが一番安全」(品田村長)などとなおも東電への信頼は厚い。ただ、関係者が議論を避け続けた結果が今の電力危機であり、そのツケはすぐ清算できるものではない。

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年6月号)


【神戸熱供給ほか/関西初となる地域冷暖房の脱炭素化】

関西電力や大阪ガスなどが出資する神戸熱供給は、HAT神戸(兵庫県)で手掛けている熱供給事業で、供給する熱エネルギーを脱炭素化した。対象となるのは10施設で、関西エリアの地域冷暖房で脱炭素化したのは初めてのことだ。今回、供給する熱エネルギーを作り出す電力とガスの全量についてCO2フリーのエネルギーを活用する。関西電力が提供する「再エネECOプラン」によって実質CO2フリーの電気を利用するほか、大阪ガスが提供するカーボンニュートラル都市ガスを活用する。これらの取り組みによって年間2000tのCO2を削減する。神戸熱供給は、「兵庫県や神戸市が推進する脱炭素社会の実現に貢献できる」としている。

【北海道電力ネットワーク/住友電工/系統側蓄電池設備の運用開始】

北海道電力ネットワークは、住友電工のレドックスフロー電池設備(設備容量5万1000kW時)を系統側蓄電池として導入し4月から運用を開始した。北電ネットワークは設置した系統側蓄電池に係る費用を共同負担することを前提とした風力発電の募集を「系統側蓄電池による風力発電募集プロセス(Ⅰ期)」として実施している。この募集によって、すでに優先系統連系事業者15件、16万2000kWが決定しており、これらの連系のために必要となる系統側蓄電池として同設備を利用する。北海道電力と住友電工は2015年から北電の南早来変電所で同蓄電池の大規模実証試験を行い、系統安定化を目的とした運用において安定・安全に運転できることを確認している。

【リニューアブル・ジャパン/太陽光発電所管理実績が100万kWを突破】

リニューアブル・ジャパンは、発電所のO&M(オペレーション・メンテナンス)実績が1GW(100万kW)を突破した。再生可能エネルギー発電所の開発、発電、運営管理を手掛け、2月末時点で全国28カ所に拠点を設けている。自社開発のみならず、外部受託案件にも対応。除草や除雪、年次点検など徹底した業務内製化を図り、システムを共有して素早いトラブル解決と低コスト高品質のサービスを可能としている。また、4月には大垣共立銀行から融資を受け、長野県松本市の太陽光発電所購入を進めると発表するなど、今後も事業を拡大。一方で第二種・第三種電気主任技術者の育成など、次世代社員教育にも力を入れる「RJアカデミー」も開始し、業界をリードしていく方針だ。

【静岡ガス/JAPEXほか/愛知県でバイオマス発電所を建設】

静岡ガスはこのほど、石油資源開発、東京エネシス、川崎近海汽船、第一実業、岩谷産業、Solariant Capitalの6社と連携し、愛知県田原市の工業団地にバイオマス発電所を設けると発表した。木質ペレットを燃料とし、出力は5万kWを見込む。2022年10月に着工し、25年4月に運転開始予定。中部電力パワーグリッドに約20年売電する。この事業は静岡ガスが運営する。出資7社は、再生可能エネルギー由来電力の普及拡大と地域経済の発展へ貢献していく構えだ。

【大阪ガスほか/世界最高水準の高効率コージェネを共同開発】

大阪ガスと三菱重工エンジン&ターボチャージャは発電出力850kW級の高効率ガスエンジンコージェネレーションシステムを共同開発した。停電発生時にはガスを燃料として発電し、必要な設備に電力を供給する事業継続計画対応機能や、設置スペースはそのままに、燃焼の最適化や高効率部品の採用などにより、出力アップと効率アップを両立した。従来機種を大幅に改良したことで、850kWの発電出力としては世界最高クラスの発電効率41.9%を達成した。

【JFEエンジニアリングほか/ゴミからメタノール製造 国内初の取り組み】

JFEエンジニアリングと三菱ガス化学は、都内の清掃工場「クリーンプラザふじみ」の排ガスから回収したCO2を原料に、メタノールへ転換に成功した。国内初のこと。CO2の回収率は90%以上、CO2純度は99.5%以上であることをJFEが確認。その回収CO2を三菱ガス化学がメタノールに転換した。両社のCO2利用技術に期待が高まっている。

【平田バルブ工業/JIS Q 9100の認証取得 航空宇宙分野へ事業拡大】

平田バルブ工業は「航空・宇宙および防衛分野の品質マネジメントシステム(JIS Q 9100:2016)」の認証を取得した。この認証は、ISO9001に航空宇宙業界特有の要求事項を追加したもの。日本で制定された世界標準の品質マネジメント規格だ。同社は認証取得により、航空宇宙分野への事業拡大に向け、取り組みを加速させるとしている。

安心・安全・信頼のブランドを継承 原点に立ち返ってガスの普及に臨む


【東京ガスネットワーク/野畑 邦夫社長】

のはた・くにお 1984年東京工業大学大学院理工学研究科修了、東京ガス入社。執行役員、東京ガスエンジニアリングソリューションズ社長執行役員、常務執行役員、副社長執行役員、代表執行役副社長などを経て2022年4月から現職。

―4月1日、導管ネットワーク事業会社として新たなスタートを切りました。

野畑 ガス事業とは本来、導管を通じてガスを供給する事業であり、それを承継したのは当社であり第三の創業期と位置付けています。社員に対しても、東京ガスが136年の歴史の中で、最も大切にしてきた安心・安全・信頼のブランドを引き継いだ重責と誇りを持って仕事に臨むようメッセージを伝えています。

 電力会社の法的分離と大きく異なるのは、ガス漏れや定期点検の際にお客さま宅を訪問するのはネットワーク会社であるため、そのことを社会に広く知っていただく必要があるということです。そのため、会社発足と同時にテレビCMも展開しています。

―法的分離の実施まで、特に苦労した点はありますか。

野畑 法的分離による分社化と同時に、導管の建設・維持管理業務を担う二つの子会社を吸収合併しました。これは、地域に根差したネットワーク会社として、現場により近い会社にしていきたいとの思いからです。ただ、システムの改修など法的分離に向けた手続きと同時並行で行ったため、こなさなければならない業務量が膨れ上がりました。

 このため、新会社をどのような会社にするのか、ビジョンを描くことを先送りせざるを得ませんでした。まずは半年ほどかけてこれまでの取り組みを総点検し、中期経営計画やビジョン策定につなげていく方針です。例えば効率化を最優先にすることで犠牲にしていることはないか、ネットワーク会社としてガスの普及にどう取り組むかなど、ガス会社の原点に立ち返って考えていきたいと思います。

若い働き手の確保へ 現場作業をスマート化

―ガスの需要開拓にどのように取り組みますか。

野畑 当社の供給エリアである首都圏でも、都市ガスが行き届いていないエリアは相当あります。低炭素化に向けた電化推進が言われていますが、そういったエリアの自治体や地域の住宅メーカーなどに働きかけ、ガスの良さを知ってもらい、レジリエンスの観点から電気とガスの互いの良いところを選んで使っていただけるよう提案していきます。

―安定供給と効率化の両立をどう図りますか。

野畑 デジタル技術をいかに活用できるかにかかっています。ウェアラブルカメラを装着することで現場に行かずに複数人で現場の状況を共有したり、写真を取り込むことで施工図を自動的に作成したりと、デジタル化による業務の効率化を着実に進めていきます。

 また、工事現場でのオペレーションに伴うCO2排出削減にも取り組んでいきます。作業のデジタル化や重機のEV化など大阪・東邦ガスネットワークや他のインフラ産業とも連携し、高齢化が進む中で若い人に魅力的な職場だと思ってもらえるようなスマートな現場をつくっていければと思っています。

【インフォメーション】 エネルギー企業の最新動向(2022年3月号)


【東京電力ほか/宅内IoT利用の防災・減災サービス実現へ】

東京電力ホールディングス、東京電力パワーグリッド、足立区は共同で、宅内のIoT機器を活用した防災・減災サービスの実現に向けた実証を始める。このほど、実証に関する協定を結んだ。国土交通省の「サステナブル建築物等先導事業」の採択を受けたもので、国内初の取り組み。具体的には電力センサー機能を持つ「宅内IoT機器」を分電盤内に設置し、電気火災を予兆検知する。検知した場合は、技術員を派遣して対応する。宅内IoT機器を情報のハブとすることで、自治体が持つ防災情報の伝達の効果などを検証していく。足立区は今年度中に5世帯、来年度中に95世帯のモニターを募集する。東電HDがサービスを設計し、東電PGが電力データを収集する。

【東京ガスほか/自治体施設を利用したメタネーション実証】

東京ガスと横浜市は、メタネーションの実証試験に向けた連携協定を締結した。東京ガスは3月から、横浜テクノステーション(横浜市鶴見区)で実証を開始する。内容は太陽光発電から水電解装置・メタネーション装置の実力や課題を把握し、カーボンニュートラルメタン製造から利用までの一連の技術・ノウハウの獲得を目指すもの。一方、横浜市は下水道センターなどから、下水処理してろ過した再生水、下水汚泥の処理工程で発生する消化ガス(バイオガス)、排ガスから分離回収したCO2など、環境負荷の低い資源を原料として東京ガス側に供給していく。こうした一連の取り組みにより、将来の脱炭素化に向けた技術開発を進めていく。

【東芝エネルギーシステムズ/大牟田市のバイオマス発電所が運開】

東芝エネルギーシステムズのグループ会社シグマパワー有明(SPAC)は、バイオマス発電所「大牟田第二発電所」(福岡県大牟田市、22万1000kW)が運開したと発表した。第一発電所は昨年12月に運転を開始しており、これでフル運用となった。同発電所は、2018年11月に建設を決定。SPACが既に運営するバイオマス発電「三川発電所」の隣接地に約200億円を投じて建設された。燃料にはPKS(ヤシ殻)を使用する。同社は太陽光発電、風力発電などの再エネ設備と蓄電池の分散型エネルギーを組み合わせ、発電量予測やリソース制御を行う「再エネアグリゲーション事業」に注力する。大牟田発電所も再エネ電源の一つとして活用し、事業間シナジー効果の創出を図っていく。

【三菱造船/舶用高圧式エンジン向け新システムを受注】

三菱造船は、舶用高圧式二元燃料エンジン向けのLNG燃料ガス供給システム「FGSS」を初受注した。システムは、LNG燃料タンク、ガス供給ユニット、制御装置などで構成されている。省スペースかつメンテナンス性に優れた機器モジュール設計によるカーゴスペースの最適設計、またカスタマイズ可能な独自の制御装置の採用などにより、優れた操作性と安全性の両立に貢献できる。今治造船グループ会社で建造されるLNG燃料自動車運搬船6隻に搭載される予定。

【IHI/アンモニア専焼に特化 ガスタービンを開発】

IHIは東北大学、産業技術総合研究所と共同で、NEDOの「グリーンイノベーション基金事業/燃料アンモニアサプライチェーンの構築プロジェクト」において、液体アンモニア専焼ガスタービンの研究開発に関する実証を行う。期間は2021年度から27年度まで。ガスタービンコージェネシステムからの温室効果ガス削減に向けて、2000kW級ガスタービンでのアンモニア100%専焼技術を開発するとともに、実証試験を通じた運用ノウハウの取得や安全対策などの検証を行い、早期の社会実装を目指す。

【富士電機/蓄電池用パワコン発売 再エネ普及拡大に貢献】

富士電機は再エネの普及拡大に向けて、電力系統の安定化を実現する大容量蓄電池用パワーコンディショナ(PCS)(DC1250V/2600kVA)を発売した。蓄電池の充放電機能を備えている。自社製パワー半導体を搭載し、最大98.2%の電力変換効率で電力損失を大幅に低減。待機時の電力消費量も97%削減する。昨年4月に始まった需給調整市場では、2024年度から電力系統内で需給バランスを調整し周波数を整える取引が開始される。電力系統に直接接続する大型蓄電池の需要の高まりが予想されている。

【住友共同電力/新居浜LNG基地にタンカー入港】

住友共同電力が購入するLNGを輸送するタンカーが、新居浜LNG基地に入港し、荷役を開始した。LNGは東京ガスとの売買契約に基づき購入するもので、基地のタンクは23万kl×1基。同社が7月の営業運転開始を目指している新居浜北火力発電所の主燃料として使用する。発電所は住友化学愛媛工場新居浜地区内に建設中で、化学プラントで発生する副生ガス(水素)も燃料として利用する計画だ。設備は発電効率に優れたコンバインドサイクル発電方式。工場の生産工程で必要なプロセス用蒸気を供給する熱電併給のコージェネレーションを構築することで、最新鋭のLNGコンバインド発電設備より優れた総合熱効率になる。省エネやCO2排出低減を実現する。

【大阪ガスほか/地元電源活用で再エネの地産地消】

大阪ガスとJR九州は、佐賀県内の駅舎に再エネ電気を供給することで合意した。Daigasグループが保有する佐賀県内の肥前・肥前南風力発電所(1500kW×20基)を利用し、非化石証書を組み合わせて再エネ電気をJR筑肥線の10の駅舎に供給する。大阪ガスの代理店となるDaigasエナジーが販売を担当。料金メニューはRE100の要件を満たす「D-Green RE100」となる。この取り組みによって、地元産の再エネ電源による「再エネ環境価値の地産地消」を実現する。

【中遠ガス/水道・ガスメーター活用 高齢者見守りの実証】

静岡ガスのグループ会社である中遠ガスは1月から約1年間、掛川市内の高齢者世帯13戸を対象に水道と都市ガスの使用量データから生活動向を24時間確認する実証実験に参画した。このような手法を見守りの用途に活用する取り組みは、静岡県内初の試み。今回の実証実験では、スマートメーターを取り付け、見守りサービスの有効性を検証する。

【古河電気ほか/EVでまちづくり 鉛蓄電池を供給】

古河電気工業と古河電池は、佐賀県上峰町と九州電力グループの連携協定における「EVを中心としたまちづくりプロジェクト」に対し、バイポーラ型鉛蓄電池を供給する。両社は、協定の目的に賛同し、このプロジェクトを通じて、EVなど電気を活用したまちづくりと、蓄電池を活用した災害などの緊急時における電力レジリエンスの強化に貢献していく。

【エア・ウォーターほか/ハイブリッド冷暖・給湯 省エネ大賞受賞】

エア・ウォーター北海道は、リンナイ、コロナと共同で、2021年度省エネ大賞の製品・ビジネスモデル部門で、省エネルギーセンター会長賞を受賞した。受賞した製品は、3社が共同で開発した寒冷地向けハイブリッド冷暖房・給湯システム「VIVIDO(ヴィヴィッド)」だ。LPガスのボイラーと電気式のヒートポンプを組み合わせた設置の制約もないハイブリッドシステムにより、ガスと電気の特性を発揮する。快適性、省エネ性、経済性、環境性を高いレベルで実現したことが高く評価され、同賞の受賞につながった。

脱炭素社会へ正念場の年  「不都合な真実」直視し協調を


【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞論説副委員長

COP26で脱炭素化は国際的な合意を得たが、その直後に各国は化石燃料の取り合いを始めた。

浮き彫りになっているのは、カーボンニュートラルという「理念」と「現実」との間の壮大なギャップだ。

 「われわれがこの問題を何かしら解決したなどと勘違いしようものなら、致命的な過ちになりかねない」――。

英国グラスゴーで昨秋開かれた国連気候変動枠組み条約の第26回締約国会議(COP26)。参加した197カ国・地域が「産業革命前からの気温上昇を1・5℃に抑える」「石炭火力発電を段階的に削減する」と合意できたにもかかわらず、議長国・英国のジョンソン首相の記者会見は厳しい発言が目立った。

COPの崇高な理念をよそに、足元では脱炭素化の取り組みの後退を示す「不都合な真実」が露呈していたからだ。

再エネ加速で電力不足 化石燃料依存に逆戻り

象徴的なのが昨年半ばに始まった欧州発の天然ガス価格の歴史的な高騰劇だ。英国を含む各国は近年、風力や太陽光発電を軸に温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーシフトを加速させてきた。ところが、皮肉にも気候変動問題を背景とした天候不順で再エネ発電の稼働率が低下。新型コロナウイルス禍からの経済活動再開が重なり、深刻な電力不足に陥った。各国は火力発電で補おうと天然ガスの調達に一斉に走った。

だが、エネルギー企業に対する環境規制の強化や、化石燃料関連への資金提供を敬遠するESG(環境・社会・企業統治)投資拡大による新規開発の停滞も災いし、天然ガス需給は極度にひっ迫。価格が一時、原油換算で1バレル当たり200ドルを超える異常事態となった。天然ガスの代替需要で原油や石炭の価格も跳ね上がった。

欧州と協調して脱炭素化を推進してきた米国のバイデン大統領も「直ちにグリーン経済へ転換するのは困難」と認め、最近は石油やシェールガス採掘規制の緩和に動いている。日本や中国を巻き込んだ異例の原油の国家備蓄放出まで余儀なくされた。「脱炭素に逆行する」との批判もものかは、電気代やガソリンの価格高騰などが国民や企業を苦しめる事態に「背に腹は代えられない」ということだろう。

欧米と同様に風力発電の稼働率低下で昨秋に大規模停電が発生した中国は、温暖化対策上「禁じ手」としていた石炭火力向け国産炭の増産にまで踏み込んだ。

今では世界的な化石燃料高騰がさまざまな原材料価格を押し上げる「グリーンフレーション」が懸念されている。脱炭素の取り組みを示す「グリーン」と、継続的な物価上昇を表す「インフレーション」を組み合わせた造語で、性急過ぎる脱炭素化の流れに実体経済が追い付かないジレンマを示す。

年明けには、電力用の一般炭で世界最大の供給国であるインドネシアが1カ月間、石炭の輸出禁止措置を発動し、業界に衝撃を与えた。国内の電力供給の安定確保を優先するためというが、化石燃料不足が価格高騰にとどまらず、供給停止に発展するリスクが意識された。エネルギーの大部分を輸入に頼る日本が厳しい状況に直面していることは言うまでもない。

COP26が高らかにうたった合意と裏腹に、相次いで表面化した「不都合な真実」が示す教訓は何か。それは2050年のカーボンニュートラルという「理念」と、世界各国が経済活動や社会生活を維持するために当面、化石燃料を使い続けなければならないという「現実」との壮大なギャップだろう。

 欧州委員会が1月1日に、原子力発電と天然ガスを「温暖化対策に役立つエネルギー源」として認め、環境に配慮した持続可能な投資先(タクソノミー)に分類する方針を示したのも、再エネ一辺倒の直線的な脱炭素化の取り組みでは危ういと判断したからだ。実需があるにもかかわらず、理念だけで化石燃料を無理に排除しようとすれば、投機マネーに目を付けられて相場が混乱するのは必定だ。ESGブームの圧力で欧米エネルギー企業が化石燃料の開発・投資から撤退を続けることで中東やロシアなど資源国の影響力が強まり、地政学的なリスクも高めている。

手段だけに目を奪われずに 実効性のある工程表が必要

経済産業官僚時代に京都議定書に関する国際交渉を手掛けた有馬純・東京大学公共政策大学院特任教授は、交渉の実態について「『地球環境を守るために力を合わせましょう』という美しいものではなく、各国は完全に国益で動いている」と解説。「温室効果ガスの削減は、地球レベルでの『外部不経済の内部化』であり、そのコストを各国の間でどう負担するかというゲーム」と喝破する。その上でCOP26の成果を認めつつ「地球全体の温度目標を定めるトップダウンの性格と、各国が実情に応じて目標を設定するボトムアップの性格が微妙なバランスを取っていたパリ協定の性格を大きく変えることになる」と指摘し、先進国と途上国の対立激化を懸念する。

有馬氏が言うように本質が各国の産業競争力や雇用をかけたゲームだとしても、欧米による自国への利益誘導が目立つままなら、世界的な脱炭素化の取り組みは行き詰まりかねない。

電力不足を各国は天然ガス火力で補おうとしている

問題は、COPが石炭火力削減やガソリン車の排除、カーボンプライシングなど脱炭素化の手段にばかり熱心で、世界全体が化石燃料依存からどう脱して、再エネに転換するかという実効性ある工程表づくりを怠ってきたことだろう。脱炭素社会というゴールに到達するには、再エネの安定電源化に不可欠な大容量の蓄電池開発や、水素の活用、メタネーションなど相当の技術革新が必須だが、いずれも発展途上だ。それまでの数十年間は、省エネや火力発電の低炭素化などあの手この手で化石燃料依存を秩序立てて減らしつつ、経済や生活に必要な石油や天然ガス供給は確保しなければならない。

日本は欧米が主導する脱炭素化の国際ルールづくりに乗り遅れまいと焦燥感を高めるが、アジア各国や中東産油国などと連携し世界共通の脱炭素化の工程表づくりにも乗り出してほしい。回り道のように見えても、そうしてCOPの協調を支えることがルールづくりで主導権を取り戻し、国益に資する道につながるはずだ。

自社の利益を最優先に戦略策定を 一方的に不利益を被る可能性も


【羅針盤(最終回)】巽 直樹 (KPMGコンサルティングプリンシパル)

「石炭火力の段階的縮小」で合意したCOP26。そこでの議論は、まさに国益のぶつかり合いだった。

自らの利益を最優先にしたGX戦略の策定へ、国や企業はしたたかに取り組んでいくことが求められる。

 2021年11月に開催されたCOP26で採択されたグラスゴー気候合意には、世界でさまざまな事後検証がなされ、多くの議論を巻き起こしている。個別の項目についての是非はともかく、今後の脱炭素対策の方向性を考える上でいくつかの示唆があったことは事実だ。これらをどのように個々のGX戦略に落とし込むのかを検討することが、今後一層重要になる。

COP26を踏まえて 削減をどう実現するのか

合意文書では、1・5℃目標追求の決意表明や、開発途上国への資金支援の拡充、石炭火力の段階的削減、国際的な排出量取引のルールなどが打ち出された。

特に排出量取引については、30年の削減目標に算入可能となることが決まった。排出量取引の方式はいくつかあるが、ここでは二国間取引(JCM)について考えてみたい。京都議定書時代には京都メカニズム(柔軟性措置)の一つとしてクリーン開発メカニズム(CDM)があった。先進国が開発途上国で取り組みを実施するこの種のプロジェクトの目的にはいくつかの動機があった。当時の日本でも質の高いインフラ輸出がセットとなって、国内排出量とのオフセットを目的に削減排出量を獲得することが目指された。

各国で異なる温室効果ガスの限界削減費用には大きな格差が存在することから、こうした取り組みの経済合理性は極めて高い。少し古いが、16年の長期地球温暖化プラットフォーム国内投資拡大タスクフォースの資料によれば、日本の限界削減費用はスイスの炭素1t当たり380ドルに次いで378ドルという高水準にある。 これは図に示した通り、仮に日本国内で二酸化炭素1tを削減するコストを他国に投入すれば、限界削減費用が1ドル程度の国々では378tの削減が可能となることを意味する。国内で乾いた雑巾をさらに絞る努力をするよりも、限界削減費用の低い国々で排出削減投資を実施し、そこで得られた排出量を二国間取引で日本に移転させる方が効率的なのだ。

CDMの時代においては、新興国や開発途上国では日本の高度な省エネ技術は高価なものとして敬遠されてきた。これらの国々では温室効果ガス排出量の多寡よりも、安価な技術によって経済成長を実現させるエネルギー供給体制の構築が優先されたからだ。しかし世界全体でパリ協定に基づく脱炭素化を目指す潮流が大きく変わらないのであれば、かつては敬遠された省エネ技術を売り込むチャンスが今こそ巡ってきたともいえる。

COP26閉幕の数日後、ドイツのメルケル首相が中国の李克強首相との電話会談で、中国の新設石炭火力の高効率化を促したことが通信社によって伝えられている。この中で、ドイツ企業の技術に言及し、排出削減に資するこうした技術の輸出を、ドイツは禁止するものではないと発言したという。資金援助はできないものの、技術支援をしたたかに売り込むドイツの戦略を、ただ手をこまねいて眺めている場合ではない。これが世界で是とされるならば、日本もIGCCやIGFCなどのクリーンコール技術を売り込むべきだろう。世界全体での段階的な排出削減に、確実に貢献するものは何かをよく考えるべき時である。

限界削除費用と二国間取引
出典:各種資料を参考に筆者作成

今後の展開を注視 戦略の柔軟性確保を

豪州のモリソン首相は、COP26後に自国の国益優先を鮮明に打ち出した。その中で、今後も石炭産業にコミットすることを堂々と宣言している。

COP26直前のG20では、石炭火力への公的金融支援の21年内停止で合意したことが数少ない成果とされたが、9月に中国が表明したことの繰り返しで新鮮味はなかった。これを上回る合意がCOP26で可能とは考えられていなかったが、フェーズアウトからフェーズダウンへトーンダウンしたとはいえ、石炭火力を巡る議論の火種を残した格好だ。この状況では、ドイツのようにしたたかな外交戦略を描けないと、一方的な経済的不利益を被る可能性が高まる。奇しくもCOP26開催期間中に米国南部バージニア州知事選挙で共和党が勝利した。仮に22年11月の中間選挙で民主党が敗れるようなことがあると、米国は脱炭素への対応に大きな変更を余儀なくされる可能性も出てくる。欧州では、脱炭素化のために原子力発電の活用について新設も含めた計画の具体化や検討が広がっている。これは欧州にとどまらず世界的な潮流となる可能性がある。国内で原子力利用を禁止しているオーストラリアが可能性を模索している動向などが顕著な例だ。

ドイツでは環境NGOが脱炭素化のために原子力発電の運転停止延期を求めてデモが展開されている。これは環境活動家すら一枚岩ではないことを示している。カーボンニュートラルに向かうパスについての議論が多様化していることは、ある意味で健全な社会現象ともいえる。

さらに、燃料需給のひっ迫を契機としたエネルギー市場の価格高騰は、現時点の脱炭素対応への警鐘ともいえる。エネルギー以外の他のコモディティ価格の高騰も相まって、マクロ経済上の問題に及ぶ可能性が高く、脱炭素を実現する前に経済的に破綻しては身もふたもない。こうした国際情勢に目配せした上で、さまざまなリスク分析が重要になる。

国内ではトランジション・ファイナンスに向けた技術ロードマップが鉄鋼、化学分野で示され、電力、ガス分野などでのそれが今後の争点となっている。また、自民党総裁選の際、岸田文雄首相が示したクリーンエネルギー戦略の検討もいよいよスタートし、これらの政策の方針にも沿わなければならない。

自社の利益を最優先にGX戦略を正しく策定することには、かなりタフな知的格闘が求められる。

たつみ・なおき 博士(経営学)、国際公共経済学会理事。近著に『まるわかり電力デジタル革命EvolutionPro』(日本電気協会新聞部)、『カーボンニュートラル もうひとつの″新しい日常〟への挑戦』(日本経済新聞出版)。

【特集2】発想「大転換」の再エネ推進策 既存設備と連携し最適制御


既存のインフラを生かし、太陽光や風力を主力化する新発想が生まれている。 「分散型コージェネ」を使った再エネ共存策のアイデアもある。

東光電気工事のクロス発電 新発想「光×風」の真骨頂

「クロス発電」という耳慣れない言葉がある。クロス発電とは、太陽光発電と風力発電を効率よく制御して、一つの連系枠を有効に利用するシステムのことだ。こんなユニークな仕組みの再生可能エネルギー発電が動き出している。2020年9月から福島県飯舘村で「いいたてまでいな再エネ発電所」が国内初のクロス発電所として、運転を開始している。

いいたてまでいな再エネ発電所。「までい」は「物を大切に」「心を込めて」の福島の方言

始まりは太陽光発電所としての稼働だった。11年の東日本大震災後、全村避難となった飯舘村の遊休地を利用して太陽光発電所を建設する案が浮上。復興のシンボルとなるべく、東光電気工事と飯舘村が共同出資して「いいたてまでいな再エネ発電」を設立した。

牧草地だった約14 haの平地に太陽光パネル約4万5000枚を設置。パネル容量が1万1800kW、連系出力1万kWの太陽光発電所として、15年3月に運転を開始した。

東光電気工事は建設に取り組む中で、培った風力発電の知見からこの地が風力発電の適地であると予想。太陽光の運転開始後に風況観測を開始した。

太陽光発電は夜間や曇天では発電量がほぼゼロになる。契約容量は1万kWでも全体の設備利用率は14%程度だ。一方、夜間や天候が悪い日にも風は吹く。晴天時には風が弱く、風の強い日には天気が悪いという気象の特徴からも、太陽光と風力は補完し合える。設備未利用の約86%分を風力発電で補えば、発電量は増やせる。

こうして1990年代から風力発電の建設にかかわってきた同社のノウハウを生かし、敷地内に3200kWのGE社製風車2基の建設が実現した。

独自開発の制御システム 安定した再エネ電源を目指す

同社は、変動する二つの再エネが契約容量を超えないようコントロールする制御システムを開発した。実際の発電の変動に合わせて24時間365日、双方の設備を自動制御している。タイムラグも計算するリアルタイム制御だ。太陽光と風力のどちらを優先させるかも設定できる。

この再エネ発電所はクロス発電で、年間の太陽光発電量は約1200万kW時、風力発電量は約1100万kW時の実績となり、発電量は倍になった。太陽光発電を効率良く補う風力設備の導入で、出力制御が必要だったのは全体の1%程度と、ロスもほとんどなかった。

クロス発電の発電量推移

クロス発電は、契約容量はそのままで、二つの再エネを稼働できることがメリットとして挙げられる。同発電所は、契約容量が1万kWのところに風力を6400kW増設した上で、両方の出力をコントロールして1万kW以下で発電している。

初の取り組みを巡って、東北電力とは協議を重ねた。太陽光と風力の買い取り価格は異なるため、契約メーターの手前に個別にメーターを取り付け、それぞれの発電の割合で契約をしている。発電量は全量を東北電力に売電。収益の一部を村の復興に役立てる。

再エネ事業部の原隆之営業部長は「今ある容量の枠を無駄にせず、有効に活用するにはどうしたらいいか、というのがクロス発電の発想」と話す。国が目指す30年の再エネ電源構成比率24%を目標に、送電網を強化する取り組みの一方で、クロス発電を導入すれば設備更新を抑えつつ再エネ電源を増やしていくことができるのだ。

発電量推移のグラフを見ると、クロス発電を導入しても設備利用率は30%程度。契約容量にはまだ余裕がある。原部長によると、クロス発電で再エネをさらに増やす場合、安定的な水力やバイオマスなどをベース電源として組み合わせ、変動部分を太陽光と風力で補うことも可能だという。

「培ったノウハウでお手伝いし、連系枠を有効に活用してもらいたい。再エネを拡大させながら社会的コストの削減に貢献できると考えています」

現在は1サイトでの活用だが、連系協議が認められれば離れたサイトを一つの連系枠で接続するなど、活用の幅も広がる。復興のシンボル、いいたてまでいな再エネ発電所は、連系容量を有効に活用して効率良く再エネを供給する新しいモデルになりそうだ。

「再エネ×コージェネ」 二つの分散型の親和性

需要地で熱と電気を発生させるガスコージェネレーションシステム―。この分散型に、もう一つの分散型である再エネ電源を加えて共生を図ろうとするユニークな発想がある。

コージェネは優れた省エネ性と、ガス導管のレジリエンス性の高さを持つ。停電時も継続的・安定的に発電できる分散型エネルギーシステムとして、工場などの産業用、商業施設や病院などの業務用、家庭用などさまざまな分野で活用されてきた。11年の東日本大震災以降、災害対応への意識が高まったことなどから、さらに導入が進んでいる。そんなコージェネが、昨今の再エネ普及の社会情勢と相まって、新たな役割で注目されている。

変動型の再エネが拡大する中、「いつでもすぐに出力調整が可能」というコージェネの特長を生かし、その再エネの変動性を補う調整力・供給力としても期待が高まっているのだ。コージェネは再エネとの親和性が高く、「調整力」のほかにもいろいろと果たせる役割がある。簡潔にまとめると、①送電容量の確保、②自然条件や社会制約への対応、③系統の安定性維持、④コストの受容性―といった面での貢献が考えられる。

送電線を使わない電力 社会的コストの削減

この四つの視点を説明しよう。①の送電容量の確保は、再エネ由来の電力を送電するには大規模な設備投資を伴うことから、大きな課題になっている。その背景は、再エネポテンシャルが高い地域と需要地が離れていることにある。そこで、コージェネの出番だ。再エネ由来の電気から、「メタネーション」につなげていく。圧縮性が高く長期間にわたって、品質が劣化しない「合成メタン」を作ることで、ガス体エネルギーとして貯蔵するというアイデアだ。ガス導管に流してコージェネで利用することも可能だ。送電せずに需要地で発電できるため送電容量の確保につながる。

②でも同様、合成メタンの出番だ。日本は再エネの開発余地が少ないことから、海外の再エネ適地の安価な電力でグリーン水素を作る。CO2と合成し、合成メタンを製造。これを輸送することでコージェネの燃料としても使おうというグローバルな視点での発想だ。一方、国内事情に目を向けると、都市部では狭小ビルが多く、屋上に設置する太陽光発電には限りがある。場所を取らないコージェネを併設すれば、都市部でも地産地消の電源が実現できる。

③は、ようやく国内でも議論の俎上にあがってきた「慣性力」という極めて重要な技術的視点だ。突発的な事故の際にブラックアウトを避けるためには系統全体で慣性力の確保が必要。太陽光や風力発電は、周波数などに急激な変化があるとその電子機器を守るため発電を停止する。他方、コージェネはタービンなどの回転で発電しており、急激な変化に対して、同じ周期で回転を維持する慣性力が働く。火力、原子力、水力などのタービンを回転させる電源と同様に系統安定に貢献できるのだ。

系統安定化には慣性力のある電源が不可欠だ。(出展:20年11月17日資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」

④は、エネルギー・資源学会にて発表された三菱総合研究所の分析を例に紹介する。この分析によると、50年にCO2排出量80%減を実現するために必要な社会コストについて、電化中心のシナリオでは、系統増強費、発電所を調整電源として維持する運営費などに費用がかかる。他方、メタネーションを活用したシナリオでは、合成メタンにより既存インフラを利用してこれらの費用を抑制することができる。電力システムの合理化にもつながることが示唆されている。

全国のコージェネの設置容量は約1300万kW。再エネ拡大を、系統増強や調整力としての火力発電の維持、蓄電池など、電力系統だけで部分最適とするのではなく、コージェネやガス導管といった既存インフラを最大限活用することで、社会コストを低減し、レジリエンスの向上や地域内経済循環のメリットが見込める。

こうしたコージェネとの親和性について日本ガス協会は「再エネ導入を加速させる中で、コージェネの利点が生かせるような制度設計をしてほしい」と話している。

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クロス発電にしても、コージェネ利用にしても、大切なことは「既存のインフラを無駄なく使う」という視点だ。こうした取り組みは、結果的に、国民負担の低減につながっていくことになる。