菅首相が施政方針演説で言及 「炭素価格付けを検討」の波紋


昨年のカーボンニュートラル(実質ゼロ)宣言に続き、菅義偉首相がカーボンプライシング(CP)にも言及した。1月18日に衆参両院本会議で行った施政方針演説において、実質ゼロに向けた新たな方針として、2035年までに新車販売で電動車100%を目指すことなどと併せ、「成長につながるカーボンプライシングに取り組む」と述べたのだ。

施政方針演説で、菅首相が新たな方針としてCPに言及した (提供:朝日新聞社)


首相は昨年末、梶山弘志経済産業相と小泉進次郎環境相にそれぞれCPの検討を指示。その直後から、小泉氏は「来年(21年)のうちに一定の取りまとめを得ることを目指したい」と意欲を示していた。環境省は専門チームを立ち上げ、2月にCPに関する小委員会を再開させる予定だ。

同省はこれまで、CPの議論は産業界とも丁寧に話し合い、細く長く議論を続ける方針を取ってきた。だが、小泉氏が成果をアピールできる次の玉としてCPに目を付け、早期の決着を求めていることで、省内では今後の進め方について意見が割れ始めている模様だ。

一方、経団連の中西宏明会長が「拒否するという方向で出発すべきではない」と語るなど、経済界も一部では「CPには断固反対」という、かつての姿勢を軟化させるような雰囲気も漂う。だが、あるエネルギー業界関係者は「官邸は本質的な勘違いをしているのではないか。コロナ対応だけでなくこの問題でも迷走すれば、サービス業から製造業まで産業総崩れになる。こんな状況下で成長につながるCPの制度設計が本当に可能なのか」と訴える。

国民負担の増加は不可避 環境省と経産省の着地点は

一部報道では、現在の地球温暖化対策税率のCO2t当たり289円の4倍、同1000円超という水準が一つの目安になるのではないかと指摘されている。だが、電気料金だけをみても固定価格買い取り制度(FIT)の賦課金に加え、再エネ主力化に向けた送配電網の増強コストが、今後国民にのしかかってくる。

「例えば、部門ごとにトータルの電気料金はいくらまで許容できるのかをまず整理し、そこからCPの水準を導き出すアプローチでなければ、議論は平行線のままだろう」(前出の関係者)

一方の経産省は、17年にまとめた長期地球温暖化対策プラットフォーム報告書が議論の出発点となりそうだ。当時掲げていたのは実質ゼロではなく50年80%減目標だが、すでにパリ協定は発効済みの段階だ。

この報告書によると、日本はエネルギー諸税だけでもCO2t当たり約4000円と、炭素価格全体では国際的に高額な水準であり、追加的なCP導入は不要と結論付けた。また昨年の実質ゼロ宣言後も、ある経産省幹部は「CPには反対で、さらなる負担を経済界に求めるようなことはしない」と口にしている。  

日本経済の悪化に歯止めがかからない中で、増税につながりかねない政策に国民の理解が得られるとは考え難い。環境省と経産省が今後どのように落としどころを探っていくのか、注目される。

【特集2】超々臨界圧・微粉炭火力の新1号機 バイオマス混焼進め低炭素化へ エネ共存時代の火力運用


電源開発 竹原火力発電所

低炭素化に向け石炭火力の運用に新しい視点が必要となってきている。再エネ大量導入を見据えて負荷調整機能を高めながらバイオマス混焼も進める。

2020年6月、広島県竹原市の竹原火力発電所で約6年の歳月をかけ建設していた新1号機が営業運転を開始した。

新1号機は、出力25万kWの旧1号機と出力35万kWの2号機の合計60万kWと同容量の出力を持つ。

竹原火力新1号機と3号機の全景(提供:Jパワー)

蒸気条件として超々臨界圧(USC)を採用し、発電所の熱サイクルを最適化して向上させ、主蒸気温度600℃を実現(再熱蒸気温度は630℃、主蒸気圧力は27MPa)。微粉炭燃焼の火力発電設備として世界最高水準となる発電端効率48%を達成している。

さらに最新鋭の排煙脱硝・排煙脱硫・集じん装置の導入で、新1号機は旧1号機・2号機に比べ硫黄酸化物(SOx)・窒素酸化物(NOx)・ばいじんを大幅に削減。高効率の達成と最新鋭の環境対策設備の導入は、地域社会への環境負荷低減をもたらしている。加えてCO2排出量を大幅に削減。発電電力量当たりの排出量を約2割削減している。

また、さらなる低炭素化を実現するために木質バイオマス燃料を積極的に活用することにも注目したい。一般的には数%程度の混焼率であるが、竹原火力では10%の混焼率を達成すべく高い目標を掲げている。

今後も導入拡大が進む再生可能エネルギー電源の出力変動にも柔軟に対応する、高い運用性能を実現する。

CO2削減に挑戦する火力 エネルギーの安定供給のために

新1号機の建設は14年に始まった。旧1号機(1967年運転開始)、旧2号機(74年)は設備を廃止するまで可能な限り稼働させつつ、3号機(83年)の運転にも支障をきたさないよう建設を進めてきた。廃止設備を運転させながら建設を進める「ビルド&スクラップ方式」を採用し、通常の建設工事に比べ1.5倍の工期をかけながら、難易度の高い建設をマネジメントしてきた。その間、定期的に工事状況についての説明会を実施し、刊行物を発行するなど地域の理解を得ながら工事を進めた。

民家との距離も近い立地であるため、旧1号機の運転開始から半世紀たった現在も変わらず環境対策に取り組み、地域住民とのきめ細かい情報共有に努めている。

竹原火力発電所は半世紀を超えてなお地域とともに歩み、高効率石炭火力の世界最高技術でCO2削減に取り組み、国内の安定供給を支えていく。

情報発信の弱点 PDF依存から脱却を


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOKIA代表

パソコンでお馴染みの「PDFファイル」に、日本の政府や企業は依存し過ぎだと思う。

日経6月6日朝刊「IT競争力 コロナが試す」と「日本はデータ貧困国 コロナ情報収集・開示の手際悪く 迅速な対策の足かせに」が、警鐘を鳴らしている。

記事は「危機対応で各国政府のIT(情報技術)競争力が試されるなか、日本の出遅れは際立つ。接触確認アプリの開発は遅れ、給付金のネット申請では障害が頻発する」と憂える。さらに「対策に必要なデータが見劣りする。政策、経済活動、医療が場当たり的となり、民間の創意工夫も引き出せない」と手厳しい。

具体的には、「(感染者数などのデータを)コンピューターで加工しやすい形式にまとめている自治体がある一方、PDFファイルを載せるだけの自治体もある。これでは迅速な比較・分析はできない」と問題点を挙げる。

PDFは、印刷用のデータ形式だ。書籍や報告書の作成には便利だが、書かれた内容をネット経由で読み取ったり、加工・分析したりするのには向かない。

残念な例の一つは、感染最多の東京都の対応だ。感染データはPDF形式で都のサイトに公表されるため、市区町村ごとの感染者の増減などを追いにくい。

評論サイト「マスメディア報道のメソドロジー」は手動で市区町村データを分析した。その結果、感染は一貫して新宿、渋谷、港の3区に集中していたが、全域の自粛で甚大な経済損失が出た。こうした対策評価も手間がかかる。

既にPDF利用を抑制する国は多い。その理由を、例えば英国政府のサイトは「パソコン画面のサイズでは読みにくい」「どこに何が書いてあるか分からない」「データを活用しにくい」などと列挙する。日本は真逆だ。コロナ対策を含めて、PDFが政府サイトに溢れる。企業も変わらない。

PDF依存は、2011年の東日本大震災でも問題視された。例えば東京電力管内で計画停電が実施され、ネットでの情報提供が試みられたが、混乱した。記載方法がバラバラのPDFで公表されたうえ、変更が相次いだためだ。

東電の情報提供にボランティアで協力したグーグルの「クライシス・レスポンス」サイトには、「情報化というのは、紙で行っていた作業を単純にコンピュータに置き換えるだけでは不十分だ」との訴えが今も残る。以来10年近く、ほとんど進歩がない。

情報発信の弱点にはメディアもつけ込む。東京新聞18年8月20日「福島第一のトリチウム水 基準超す放射性物質検出」はその一例だ。政府がこの問題で公聴会を開く直前に出た。

トリチウム水の海洋放出は世界の原子力施設で珍しくない。東京電力福島第一原子力発電所でも有力な処分法だが、記事は「(トリチウム以外の)放射性物質が除去しきれないまま残留」と批判的に報じた。公聴会では、放出に反対する意見が相次いだ。

実は、この4年前の14年に公表済みの事実だった。原子力規制委員会が同年、被曝低減のため貯蔵タンクの水から出る放射線量を下げるよう指示し、東電は浄化装置をフル回転させた。時間をかければ排水基準まで除去できるが、スピードを優先し、残留物が少し残る「貯蔵水準」に留めた。排出時には当然、基準まで浄化する。経緯はPDF書類として、東電サイトに掲載されていた。

まずPDF依存を脱したい。

いかわ・ようじろう デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【原子力】六ヶ所工場「合格」 将来に役立つ知見


【業界スクランブル/原子力】

資源小国日本は原発から出る使用済み核燃料を再処理し、再利用可能な資源を取り出して有効活用するとともに、有害なごみを高レベル廃棄物として処分する原子燃料サイクルを原子力政策の柱としている。その中核施設である六ケ所再処理工場が5月中旬に原子力規制委員会の安全審査に事実上合格した。原子燃料サイクル政策にとっては大きな一歩だ。

六ケ所工場の規制委への申請は2014年初頭だった。その規制委は地震や津波などを想定し、さまざまな角度から安全性を評価した。6年余りも費やしたのは、審査実績の多い軽水炉と違い、規制委にとって前例・経験のない、手探りの審査であった証拠ではなかろうか。そこで得た知見は将来役に立つに違いない。次のサイクル施設がわが国に必要であり、その具体化に今回の知見が必ずや役立つと考えるからだ。

例えば、六ケ所工場で取り出した有用資源を再利用することによってウラン資源は2割程度節約され、資源の有効利用・廃棄物の低減に役立つ。だが、原子燃料サイクルのエースは高速炉である。高速炉ではウラン資源の利用効率は飛躍的に高まり、核兵器の原料にもなり得るという懸念のつきまとうプルトニウムの有効利用・燃焼は思いのままであり、さらに核廃棄物の無害化もこなしてしまうという点でメリットは枚挙に暇がない。

ところが、わが国はこの高速炉について、原型炉「もんじゅ」が本質的技術の面ではなく、むしろ社会対応性の問題でつまずき、結局廃炉が決定した。政府は経済産業省を中心にフランスとの連携による高速炉開発を模索したが、結局、フランスの高速炉計画、アストリッドがついえた今、わが国は高速炉開発の駒を持っていない。ロシアがBNというタイプの高速炉開発で商業炉レベルまで達し世界のトップを走っている現在、技術立国の看板を掲げるわが国がいつまでも指をくわえていていいわけはない。いつまでも六ヶ所再処理合格に浮かれていないで、わが国は政府を中心としてさらなる高み、高速炉開発を目指すべきだ。(Q)

【住宅】自家消費の蓄電池 支援の正当性は


経産省は6月5日に公開した「エネルギー白書2020」の中で、住宅用太陽光発電の固定価格買い取り制度(FIT)の終了が、2023年に累計165万件、670万kWに達することに言及しつつ、今後は余剰売電を前提としたFITから、FIT対象外となった自立電源と蓄電池や電気自動車(EV)を組み合わせて自家消費率の向上を図っていくことが、新しいZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)のあり方として検討されるべきとしている。

増えていく卒FIT太陽光に対応し、今年は蓄電池を売りたいメーカーや事業者が群雄割拠している。しかもテスラの「Powerwall」という格安の黒船が予約販売を開始しており、激しい競争が予想されている。

一方、住宅用太陽光発電に蓄電池を追加する際の支援政策としては、「災害時に活用可能な家庭用蓄電システム導入促進事業費補助金」という補助制度がある。18年に発生した北海道胆振東部地震による北海道全停電を受け整備された。公募は昨年の11月末でいったん終了。現在は6月末が締め切りの追加公募を残すのみで、以降追加の予定はないという。

もともと同制度は時限的なもので、しかもその目的は災害対策であるので、必ずしもエネルギー白書に示されているような平時の自家消費を目的としたものではない。終了によって勢いづくかと思われた家庭用蓄電池市場にブレーキが掛かるかもしれない。

制度の終了に伴い、追加の支援を求める声があるが、そもそも太陽光発電の自家消費を目的とした家庭用蓄電池の価値が、その蓄電池の価格に見合うものなのか、公的な支援に値するものなのか、という疑問もある。

多くの場合、節電効果で蓄電池のコストを回収することは困難であり、さらに蓄電池がなくても電力事業者による電力の買い取りや仮想預かりのサービスがあるので、必ずしも蓄電池を購入する必要はない。万が一のための非常用電源としても、蓄電池を購入可能な個人のみを支援することは、公平性の観点からも問題がある。(T)