【特集2】「可能性のタマゴ」がコンセプト 次世代エネ技術を面白く体験


電力館&ガスパビリオン〈館長インタビュー〉(電力館編)

岡田康伸館長(電力館)

伊藤 来場者の評判はいかがですか。

岡田 おかげさまで大盛況です。体験型の展示にしたのですが、皆さんから面白かった、楽しかったというお声をいただけています。同時に、運営の課題も見えてきました。人数が多くなりすぎると体験の数が減ってしまいますが、多くの人に見ていただきたい気持ちもあり、そのバランスをどうとるかが課題です。

伊藤 運営も同時同量が大事ですね。今回はタマゴがメインに出てきますね。

岡田 万博に出展するからには、ただ「楽しかった」だけではなく、お客さまに訴求したいテーマを見据えて企画しました。カーボンニュートラルが浸透しつつありますが、電力館ではその先の未来を見せたい。その結果、「可能性のタマゴ」という形が出てきました。エネルギーの可能性について、面白いと思う技術を中心にたくさんリストアップして、どういう体験にしようかとみんなで議論しました。

伊藤 私も発信をする中で、電力業界を志す若い方が減っているとよく聞きます。将来の可能性が見えたり、子どもたちに興味を持ってもらうことは大事ですね。今回の万博を機に、電気事業連合会や業界として取り組みたいことはありますか。

岡田 企業パビリオンではないので、ビジネスカラーは全面に出ていません。電事連としては、水素や核融合といった次世代の技術を世の中に訴えていきたいです。次の時代のエネルギーも見据えて取り組んでいることを知っていただきたいと思います。

【記者通信/5月26日】蓄電池普及を全面サポート NTTアノードエナジーが7月から新サービス


NTT系のエネルギー会社であるNTTアノードエナジー(東京都港区)は5月23日、蓄電池の新設から運用・保守までを包括的に請け負う新サービスの提供を7月に始めると発表した。再生可能エネルギー時代の調整力として導入拡大が進む蓄電池事業は、発電事業者のみならず、金融や不動産など異業種からの参入が増えるなど市場の広がりを見せている。同社はこうした動きに先駆けて、23年7月に田川蓄電所(福岡県田川郡)を運開。創業以来取り組んできた、通信拠点における電気設備の構築・保守で培った知見に蓄電池事業で得たノウハウを融合させ、系統用蓄電池を用いて売電に参入する事業者に向けて、最適なパッケージを提案する。

新サービス「蓄電所構築・運用おまかせサービス」は蓄電所の構築から運用・保守までを一気通貫で請け負う。利用者は用地を確保するだけで、以降の全工程を同社に委ねることができる。

独自の予測・最適化エンジンを用いて収益性の高い充放電計画を作成する

設計段階では、国内外16社のベンダーから最適な機器を選定し、トータルコストを抑えながら建設する。運用では、全国約11万9000カ所に設置した太陽光の発電実績を蓄積するシステム「エコめがね」のデータを基に、独自開発の予測・最適化エンジンが市場価格や電池劣化コストを加味して収益性の高い充放電計画を導き出す。保守体制も強化する。全国の拠点網を活用して24時間365日体制で対応。緊急時には原則2時間以内に現地へ駆けつけ、迅速な原因究明と対処で取引機会の損失を最小化する。

沖縄を除く全国9エリアでサービス展開し、28年までに10カ所以上の受託と売上高50億円を目指す。系統用蓄電所の自社展開も進めており、同日には埼玉県の和光市、三芳町、鶴ヶ島市の3カ所に新たな蓄電所を設置したと発表。国内最大規模の蓄電所オペレーターとして着々と歩みを進め、再エネ時代を下支えしていく。

【記者通信/5月26日】バイオエタノール本格展開へ取り組み加速 28年に一部地域でE10先行導入


資源エネルギー庁は5月22日、「次世代燃料の導入促進に向けた官民協議会 商用化推進ワーキンググループ(WG)」の第7回会合を開き、ガソリンへのバイオエタノール導入拡大に向けたアクションプラン(行動計画)の素案を示した。2030年度までに最大混合率10%(E10)、40年度以降に同20%(E20)の低炭素ガソリンを供給することが柱。また、30年度のE10本格展開を前に、28年度をめどに一部地域での先行導入することを盛り込む。課題を洗い出し、対応車両の普及状況を考慮した上で供給規模の早期拡大を目指す狙いがある。6月の脱炭素燃料政策小委員会での検討・審議を経て正式に決定する方針だ。

永井岳彦・燃料供給基盤整備課長はバイオエタノール導入の意義を強調

エネ庁は、昨年11月に「バイオエタノール導入拡大に向けた方針」を取りまとめ、アクションプランを策定する方針を示していた。これを受けて今年2月に石油連盟や石油元売り3社、関係省庁、シンクタンクなどで構成する「バイオエタノール導入拡大アクションプラン策定タスクフォース(TF)」が商用化WGの下に設置。①燃料品質・車両規格、②燃料調達、③供給インフラ――の3チームで議論を進めてきた。会合冒頭、あいさつした永井岳彦・燃料供給基盤整備課長は、「脱炭素化と経済性を両立できる液体燃料として、比較的安価なバイオ燃料が当面の主役となる」と述べ、バイオエタノールの社会実装に向けアクションプランを策定する意義を強調した。

【特集1】地域インフラの将来像を考える 事業承継に三者三様の課題


地方のエネルギー事業が承継難の渦中にある中、LPガスではM&Aの動きが目立ってきた。
その実態を探りつつ、都市ガスやSSを含めた地域インフラの将来像を、識者3人が語る。

【出席者】角田憲司(エネルギー事業コンサルタント中小企業診断士)、橘川武郎(国際大学学長)、中原駿男(スピカコンサルティング代表取締役)

左から中原氏、橘川氏、角田氏

―自由化や脱炭素、人口減少などを背景に、エネルギーの需給構造が大きく変わる中で、地方の生活基幹エネルギーと言えるLPガス業界ではM&A案件が増えている印象があります。その実態を教えてください。


中原 もともとLPガス業界では商圏の売買が一般的でしたが、最近では株式譲渡によるM&Aが増えてきました。売り手が株式譲渡を選択する理由の一つが、法人格が残ることです。創業家からすれば社名や屋号を残せることは大きな魅力ですし、従業員にとっても就業環境の変化が少なく安心感があります。需要家に契約変更の手間をかけないことからも、事業承継を円滑に進めることができます。

橘川 さらに言えば、業界特有の四つの要因がM&Aを後押ししていると考えられます。一つ目は、需要の減少や後継者の不在、人手不足などを解消する最良な選択肢であることです。二つ目は、エネルギー業界の中でも粗利が高い構造にあることです。シェールガス革命を契機に米国で副産物として生産されるシェールLPガスの輸出が拡大し、サウジアラムコが主導してきたCP(コンタクトプライス)による価格決定の構造が崩れました。それに伴い、輸入価格や卸売り価格は大幅に低下しましたが、日本国内の小売価格はそれに連動して下がらなかった。つまり、小売段階で粗利が生じる構造であり、M&Aの買い手にとっての魅力になっています。三つ目は、大手LPガス事業者による顧客獲得戦略の変化です。一部大手は取引適正化の流れを受けて、かつての「過大な営業行為」に代わってM&Aを重視する動きを見せています。経済産業省は、過大な営業行為に厳しい態度を示す半面、M&Aについては歓迎する姿勢を取っています。これが四つ目の要因です。

角田 昨今の情報開示に対する社会的な要請の高まりで、かつて水面下で行われていたM&Aが可視化された面もあるのでは。

中原 その通りです。件数自体も増えていますが、公開される案件が増えたことが実態だと思います。例えば、当社が仲介の依頼を受けたエネサンス北海道が和光商会に出資した案件では、買い手のエネサンス側が積極的に情報を公表しました。きっかけは和光商会から「エネサンスを候補に考えたいが、株式譲渡での買収事例を聞いたことがなく難しいのではないか」と相談を受けたことです。エネサンスに話すと「M&Aの経験は豊富にあり、もちろん対応可能だ」と即答でした。業界では株式譲渡が一般的ではなく事業者が慎重な傾向にあると伝えると「それなら積極的に開示していこう」と、非上場企業ではあるもののプレスリリースを出すことになりました。

時代が変えた事業承継の価値観 レモンガス買収で浮き彫りに

―SMBCキャピタル・パートナーズがアクアクララレモンガスホールディングスを買収したことは業界関係者にとって驚きでした。

橘川 独立志向が強い会社であるだけに、今回の買収はやや衝撃的でした。業界内では日本瓦斯と親しい企業として知られていますが、同社が主導するプロジェクト「夢の絆・川崎」(川崎市)には加わりませんでした。こうした過去の姿勢を振り返ると、単なる身売りというよりも、プライベートエクイティ(PE)ファンドを活用しながら再生や発展を目指している可能性もあると注目しています。

中原 PEファンドは2000年初期から増えはじめ多くの業界でM&Aを手掛けてきましたが、LPガス業界では全く事例がありませんでした。関心がないわけではなく、むしろ当社への業界についての問い合わせは多かったくらいです。ですが、営業権1件に対して評価額が付く上にその水準が高く、長期的に利益を出し続けるイメージが湧かなかったのでしょう。そうした中でSMBCCPによるレモンガス買収で、ようやくこの業界に風穴が開いたという印象です。ファンドによる買収は、事業承継や成長戦略の有力な選択肢になります。加えて、複数の卸売り事業者と取引している場合、特定の卸売りに売却してしまうと他との関係が悪化するリスクがあります。そうした懸念を払しょくするためにも、ファンドは有力な選択肢になります。

角田 創業家の赤津裕次郎前社長はなぜ、パートナーを求めたのでしょう。経営的に困窮しているわけではなく、むしろ優良企業です。

中原 理由の一つは後継者問題です。今は息子に継がせることが唯一の選択という時代ではなくなりました。また、市場が縮小傾向にあるため、単独での打開は難しいとの判断もあったのでしょう。代々続いた家業であるため、身内で引き継ぎたいという思いはあっても時代は変わりました。さまざまな選択肢を天秤にかけた上で選択したと見ています。

―LPガスとは状況が全く違うのがサービスステーション(SS)です。事業承継が難しく、SS過疎地問題が深刻化しています。


角田 政府は長年、SS過疎地対策を行っていますが歯止めはかかっていません。22年度末時点の国内SSは2万8000カ所弱で、この10年で7000カ所近く減少しました。過疎地SSの地上タンク設置を認めるなど大胆な規制緩和策も講じていますが設備を更新する余裕すらない事業者が多いのが現実です。

橘川 この問題に拍車をかけているのが大型量販店コストコの存在です。昨年、滋賀県に1店舗進出したことで県全体のSS需要の1割が流れたと言います。残念ながら業界と行政は現時点で反論できるロジックを持っていません。とはいえこの環境下で残っている事業者はそれなりに経営体力があるはずですが。

中原 SS事業で利益を出している会社は少なくありません。ただし、M&Aの視点で言うと、買い手を探すのが長期戦になる。瞬間的に儲かっているとはいっても将来「負ののれん」になってしまうとの懸念が強くあり、買収判断のハードルを高くしています。

角田 長野県が3月に立ち上げたガソリン価格の適正化に向けた検討会の中で、会合に参加した王滝村の村長が、「SSがなければ観光需要にも応えられない」と危機感を示していました。SS過疎地問題はもはや、地域住民だけのものではありません。

人手不足は配送業務に直結する

需給バランスは危機的水準へ 休廃止計画を阻止できるかが鍵


2030年前後に火力発電設備の休廃止が集中し、中長期で需給バランスが厳しくなる――。そんな実態が、電力広域的運営推進機関が3月28日に公表した25年度供給計画(25~34年度)で明らかになった。政府の30年に向けた石炭火力フェードアウトの方針を踏まえて事業者が休廃止の計画を具体化させるほか、長期脱炭素電源オークションで落札された29年度以降に運開予定の新設LNG火力に、既設火力からのリプレース案件が含まれているため、工事期間中の20年代後半に供給力が減少することが主な要因だ。

27~29の各年度に休廃止する設備容量は、昨年度の供給計画(24~33年度)よりも増加。この結果、新増設から休廃止を差し引いた設備の減少量が昨年度の供給計画との比較で2倍以上に拡大した。30年度以降は新増設の設備量も増加するが、設備量の減少傾向は続く。一方で、データセンターや半導体工場などの建設に伴い、需要は昨年度計画よりも増加するとの想定だ。これにより、供給信頼度の指標となる年間EUE(停電予測量)は、27年度に北海道、東北、東京、九州の広いエリアで、28~34年度には東北、東京、九州で目標停電量を上回り、その基準を満たせない見通しとなった。

火力発電の新増設および休廃止計画の推移 出所:電力広域的運営推進機関

補修量の増加による影響も 電源確保の費用負担の検討不可欠

広域機関は同日、供給計画の結果を基に現状の課題を整理し経済産業相に意見を提出した。既設火力を維持するための方策として、低稼働の設備を供給力・調整力・慣性力として活用するなど、脱炭素と供給力確保の両立を図るための制度的措置についての検討継続を求めた。さらには、同機関が供給計画の内容を精査し、電源の休廃止やリプレースの時期が一時期に集中しないよう調整の余地を検討するとし、国にも連携して必要な対応を採るよう要請した。また、事業者に対しては、需給バランスに与える影響を考慮した休廃止やリプレース計画の再検討につながることへの期待を示した。

火力の休廃止のみならず、補修量の増加が需給バランスに与える影響も大きい。20年度以降、火力の設備容量が減少する一方で補修量は増加する傾向にある。背景には、設備の経年劣化に加え、建設業の「働き方改革」による工期の長期化や、再エネ拡大による出力調整の頻度増、起動・停止の繰り返しによる機器への負荷がある。同機関は、端境期に需給ひっ迫が生じやすいことからも、年間の補修停止可能量の見直しが必要であると指摘。見直しの際には、その妥当性のコンセンサス醸成や、見直しに伴う電源確保量の増分費用の負担の在り方について検討するよう求めた。

【特集2】供給量と輸出量の拡大に注力 日本のリーダーシップに期待


バイオエタノール大国である米国は輸出拡大を推進中だ。
日本での本格導入による展望や期待について話を聞いた。

インタビュー:セス・マイヤー(米国農務省 首席エコノミスト)

―米国でのバイオエタノールの現状と取り組みについて教えてください。

マイヤー 米国はバイオエタノールの世界最大の生産国であり消費国です。ガソリンへのエタノール混合が義務化されていることで、農村地域のビジネスチャンスになっています。エタノール混合率は2024年に10.4%に達し、エタノールが15%含まれるE15ガソリンの通年販売も許可されました。CO2排出量の低減、生産効率のさらなる向上、供給量や輸出の拡大などを推進するため、米国の関係者は日々努力しています。

―世界のエネルギーを取り巻く環境において、バイオエタノールの果たす役割は。

マイヤー 温室効果ガス(GHG)排出の削減、化石燃料依存度の低減、エネルギー安全保障の促進、世界中の農村経済活性化などをもたらす重要な再生可能エネルギー源です。世界の輸送部門の脱炭素化において、農業が重要な役割を果たします。生産国また消費国にとってエネルギーの持続可能性を高め、エネルギーミックスの多様化に貢献できるウィンウィンの関係を構築し維持することができます。

―日本でバイオエタノールが普及すると、どのような効果がありますか。

マイヤー 低炭素社会実現への移行につながり、バイオ燃料インフラの需要創出が期待されます。その結果、アジアでバイオエタノール導入がさらに進む可能性もあります。GHG排出の削減において日本の環境目標達成にも貢献するでしょう。

―2月の日米首脳会談後の合同記者会見で石破茂首相からバイオエタノールについて言及したことをどう受けて止めていますか。

マイヤー 良い意味でのサプライズでした。両国政府のトップから米国産トウモロコシ由来のエタノールに対する支持表明がなされたことを大変喜ばしく思っています。米国のバイオ燃料を安定的に輸出することで、日本の消費者の皆さんにとって信頼に値するエネルギー源となることを期待しています。

―バイオエタノールの将来をどのように展望していますか。

マイヤー 将来の展望は非常に明るいです。バイオエタノールは、食糧と競合しないセルロース系エタノールやCCS(CO2の回収・貯留)技術などの発達で、さらにサステナブルに進化しています。低炭素燃料を求める世界のエネルギー転換戦略に重要な役割を果たし、日本の動向を注視するアジア諸国に、日本は強いリーダーシップを発揮できると思います。

せす・まいやー アイオワ州立大学で学士号と修士号、ミズーリ大学で農業経済学の博士号を取得。ミズーリ大学食糧農業政策研究所(FAPRI)の研究教授、副所長を歴任。

【特集2】地の利を生かして大転換を図る 発電・熱・原料を先駆的に利用


【川崎市】

水素に取り組む先駆的な自治体の一つが川崎市だ。国の「水素基本戦略」より2年早く、2015年に「川崎水素戦略」を策定。菅元首相が「カーボンニュートラル宣言」を表明した20年には、ブルネイからメチルシクロヘキサンに変換した水素を運び、発電所使用で実証するなど確かな実績を築いてきた。

こうした経験を踏まえ22年、新たに「川崎市カーボンニュートラルコンビナート構想」を策定した。その背景にあるのが川崎ならではの産業構造だ。川崎臨海部には石油・化学コンビナートをはじめ、約2700もの事業所が立地する。製造品出荷額は政令指定都市の中でトップクラス。一方、臨海部立地企業の上位30社が市全体のCO2排出量の7割以上を占めている。臨海部国際戦略本部成長戦略推進部カーボンニュートラル推進担当の江﨑哲弘担当課長は「CO2を限りなくゼロにしつつ、高い産業競争力の維持・強化も図っていく」と話す。

同構想のポイントは、「地の利」を最大限に生かすこと。柱の一つが、コンビナートに近接する川崎港で海外からCO2フリー水素などを受け入れ、カーボンニュートラルエネルギーの供給拠点を作ることだ。川崎臨海部には800万kW以上の火力発電所が集積する。燃料を水素に置き換えるとともに、CO2フリーの電力供給で一般消費者など、脱炭素化も進めていく。

二つ目が、同じく臨海部に立地する素材・化学プラントや廃プラスチック工場などを活用した炭素循環型コンビナートの整備構築だ。将来、水素などへのエネルギー転換が進むと石油に代わる炭素資源が必要になる。そこで、首都圏からの廃プラスチック回収やCO2などの再資源化を進めることで、炭素資源から素材・製品などを製造する体制を構築する。三つ目の柱としては、臨海部の企業間連携・ネットワーク化により、水素をはじめとするカーボンニュートラルなエネルギーの地域最適化を進める方針だ。

企業や自治体との連携強化 協議会設立で93社が加盟

臨海部全体での取り組みにはさまざまな連携が必要だ。こうした中、川崎市は「川崎カーボンニュートラルコンビナート形成推進協議会」を設立。臨海部の企業をはじめ、技術面や資金面で連携が見込まれる企業を含む93社が加盟している。また、京浜工業地帯を構成する東京都や横浜市とは連携協定を結んだ。

商用化を見据えたプロジェクトも動く。川崎市が低未利用地の活用を進める中、市内の扇島におけるJFE東日本製鉄所の高炉休止後の跡地に、日本水素エネルギーが行う「液化水素サプライチェーン商用化実証」の液化水素国内基地の整備が決まった。30年度の商用運転に向けた実証事業の拠点とする。

市が民間企業と連携して実施した調査によると、川崎臨海部の水素需要は年間約42万t、近隣の羽田空港および周辺エリアの水素需要は年間約4~6・6万tと潜在需要がある。水素エネルギーの「商用化」という次なる目標に向け、川崎市の取り組みが注目される。

「市の特色を出したい」と江﨑さん

【特集2】法人車両のドラレコを活用 AIを活用した新保安システム


【岡山ガス】

業務効率の改善に向けて、DXの導入を検討する都市ガス事業者が増えてきた。そうした中、岡山ガスはこのほど、保安業務の向上に寄与する「AI道路工事検知ソリューション」をNTTコミュニケーションズ(コム)と協力して開発した。

都市ガスや電気、通信、上下水道、道路などのインフラ工事では着手前に事業者が相互に情報を共有し、設備の破損事故を防止するよう努めている。岡山ガスではこの情報共有に加え、独自に道路情報を収集するため、社用車でエリア内のパトロールを行ってきた。

河原勲供給部長は「道路情報を精緻に知ることは安定供給を維持するために重要だ。同ソリューションは社用車での巡回作業を減らしながら、道路情報を取得できるため、保安の精度向上と同時に、業務改善、コスト削減、人材不足への対応に寄与する」と説明する。

NTTコムの技術と融合 最新の道路状況が判明

今回のソリューションは、NTTコムのサービス「モビスキャ」を活用する。モビスキャはNTTドコモの5G回線で通信しながら、街中を走行するバスやタクシーなどのドライブレコーダーに収録した映像データを効率的に収集するサービスだ。岡山ガスはモビスキャのデータ活用パートナーとして、企画段階からAIの学習担当を担い、実証試験を重ねるなど検知精度の向上に協力してきた。

同サービスでは、映像データから道路とその近辺での自社以外のインフラ工事をAIが判定し、必要な情報のみを抽出してサーバーに蓄積する。また、AI技術がデータ容量を削減し、個人情報の保護を行った上で有効なデータのみを受領する仕組みになっている。
岡山ガスでは同サービスと既存の「保安管理システム」を連携させ、工事の未知/既知の判定をしながら、工事の危険度レベルを把握することで、より効率的な現場管理を行っている。

モビスキャにおいては、バスやタクシーなどの他に宅配業者や貨物トラック、営業車なども、ドライブレコーダーとカメラを搭載して映像を提供するモビリティパートナーとなり得ると考えている。この採用台数が増えると、より多くの高品質な道路映像データの提供が可能になり、リアルタイム版「グーグルストリートビュー」のようなソリューションが構築できる。これを利用すれば、高齢者の徘徊や子どもの通学路の監視、交通情報の高度化など、インフラ保安にとどまらず、さまざまな用途に活用できると想定する。

同社では、他の点検業務に利用しているドローンにもAIカメラを搭載し、収集する画像を増加することや、工事情報だけでなく、地域の顧客の安全性を向上させるさまざまなサービスなども検討中だ。
「当社は新技術をまず試して見る企業文化がある」(河原供給部長)。今後も、新技術を積極的に利用して新たなサービスやソリューションの創出に取り組んでいく構えだ。

AI道路工事検知ソリューションで監視する

【特集2】LPガスの安全をメーターで維持 集中監視システムも早期に構築


【東洋計器】

第1世代のスマートメーター(スマメ)の設置を終えた電力業界と、スマメ導入を進める都市ガス業界。両業界が検針業務の効率化や災害からの早期復旧の観点でスマメの導入を促す中、LPガス業界も着々とメーターで実績を積み上げてきた。実は同業界はいち早く、通信網を通じて「集中監視」と呼ばれるシステムを構築してきたのだ。

LPガスの消費量、地震によるLPガス容器の揺れ、ガス漏れによる異常検知など、販売や保安に関する細かなデータをメーターから一括して収集するシステム、まさに「スマメの源流」ともいえる仕組みを手掛けてきた。このLPガスメーターの分野でトップシェアを誇るのが、長野県松本市に拠点を置く東洋計器だ。

同社による集中監視の歴史は、昭和にさかのぼる。「固定電話のアナログ回線から始まり、PHS、3G、4G回線と通信技術の発達に伴いシステムを改善し、運用コストを低減してきた」(総合企画部)。
電力や都市ガス業界と大きく異なる点は、メーターメーカーが大きな役割を果たしていること。メーカーが集中監視のインフラを構築し、LPガス事業者・販売店がそのインフラを利用する構図だ。
それぞれのエネルギー事業形態や事業法が異なるため、一概には比較できないが、メーカーの存在感が際立っているのがLPガス業界である。

そんな業界で存在感を発揮する同社は、土田泰秀会長の編著のもと「計量の価値を高めて~東計会41年をふりかえる~」を今年発行した。この内容をひも解くと、大震災のたびに集中監視が保安で威力を発揮してきたという歴史を垣間見ることができる。

東日本大震災や阪神淡路大震災の発生後に実施したアンケートでは、「ガスの元栓を閉めていたことを忘れていた。ガスが使えなくなった理由が分かり安心した」(消費者)、「遮断した顧客に遮断弁を復帰してもらい、出動が1件もなかった」(販売店)、「ガス容器からガス機器までをつなぐ配管の間の漏れを発見して対応できた」(販売店)といった声が寄せられた。

他産業への広がり 都の水道局でも活用

現在主力とする製品が「IoT―R」だ。集中監視システムに対応する最新の通信端末で、18年に販売し、累計で400万台出荷した。KDDIの携帯電話網を活用し、検針値やガス漏れ通報などを同社のマルチセンターに自動通報する。

さらに遠隔での開閉栓も可能だ。最近では都市ガスのほか、灯油や産業ガス、水道といった他のユーティリティーでも利用されている。

「東京都水道局に納入し、検針の合理化や効率的な漏水管理を支援している。全国各地で老朽化に伴う漏水や設備維持に課題を抱える水道事業にとって都の取り組みは参考になると思う」と総合企画部の担当者。保安や災害対応のみならずインフラの維持でも、今後もメーターと通信端末が大きな役割を担っていきそうだ。

主力製品の「IoT―R」

【特集1】新市場に挑戦し成長軌道へ 業界を政策側から後押し


安定供給の使命と脱炭素化で揺れるエネルギー業界。

石油産業を巡る政策の今後の方向性は。和久田肇資源・燃料部長に話を聞いた。

【インタビュー:和久田 肇/資源エネルギー庁資源・燃料部長

―脱炭素社会を目指す中で、エネルギーとしての石油に求められる役割とは。


和久田 脱炭素化とは言っても、あくまでも排出されるCO2をいかに削減するかが鍵であり、安定供給の観点から石油が引き続き重要なエネルギー源であることに変わりはありません。例えば自然災害の際には、機動性、可搬性などに優れる石油がなければ、復旧の現場や避難所へのエネルギー供給に支障をきたしてしまいます。運輸部門では、脱炭素燃料を導入しながら既存のエンジン車を活用していく選択肢が重要になってきます。さまざまな脱炭素技術の中で、今、直ちにどの技術が優れているかを決めることはできません。過渡期においても必要なエネルギーがきちんと供給されるよう、脱炭素化の努力をしつつ、石油の供給体制を適切に維持していかなければなりません。


―世界的にも、石油をはじめ化石燃料に対する風向きが変わりつつあるようです。

和久田 確かに、各国がカーボンニュートラル(CN)を宣言した2020年ごろは、各国政府、企業ともに3E(安定性、経済性、環境性)のうち「環境」に重きを置く傾向にありましたが、最近はバランスを取る政策、事業戦略に転換する動きが目立ってきました。3Eのバランスの重要性は日本政府がかねてから主張してきたことであり、ようやく世界が歩調を合わせてきたと実感しています。

高止まりの中東依存度 調達の多角化が課題

―調達における中東依存度の高止まりが課題です。

和久田 なるべく多様な調達のポートフォリオを構築することは、エネルギー安全保障上、大きな意味があります。こうした観点から、中東に過度に依存している現状は、必ずしも強じんな調達構造であるとは言えません。1970年代のオイルショック以降、アジア地域やロシア、米州などからの調達を増やすなど、さまざまな形で多角化を目指してきましたが、経済発展によりアジア地域が輸入国に転じたこと、最近ではロシア・ウクライナ戦争などが影響し、理想通りに中東依存度を下げることができていないのが実情です。一方で足元では、OPEC(石油輸出国機構)の協調減産を緩めれば、日量550万~600万バレルの供給余力があると言われています。幸いにも、需給に余裕があり、ファンダメンタルズ面では価格が大きく上昇するような状況には陥っていませんが、高い地政学的なリスクにさらされていることは間違いなく、引き続き緊張感を持って中東情勢を注視していきます。

―長期的な需要の不確実性が高まっています。自主開発比率の目標設定についてはどう考えますか。


和久田 どのような状況下においても、日本企業が上流開発に参画する重要性は変わりありません。単なる調達に依存してしまえば、処分権を持つことができず、価格決定に関与することもできないからです。第6次エネルギー基本計画では、そのための重要な指標として自主開発目標を見直し、30年度に50%以上、40年度に60%以上という目標を明記しました。その方向性は変わることなく、第7次エネ基においても、自主開発目標の在り方を議論していくことになると考えています。

石油政策の行方は……

【特集2】24時間体制で保安管理 丁寧なヒアリングを基に営業


【八戸ガス】

北東北有数の工業都市で知られる青森県八戸市で都市ガスの供給を担う八戸ガスは、重油よりCO2排出量が少ない天然ガス燃料に転換する取り組みをけん引している。

その展開で大きな役割を担っているのが、ENEOSエルエヌジーサービスが運営するLNGの輸入・供給基地「八戸LNGターミナル」だ。この基地が2015年に運営を始めたことをきっかけに、工業設備向けボイラー燃料を重油からLNGに置き換える事業者の数が増加。脱炭素化の潮流に乗って、LNGが工場地帯を支えるエネルギーとして市内に広がっている。
燃転の際の売りが防災面の対応力だ。取締役の舘綾子営業部部長は「万全な保安管理が強みだ」と強調。有事に備え、素早く現場に向かい24時間体制で需要家のガス利用をサポートする体制を整えている。

舘氏が日々の営業活動で心がけている取り組みが「丁寧なヒアリング」。ガスを利用する工場を定期的に訪問して吸い上げた現場の声も、防災対策に生かされている。今後もこうした取り組みを武器に、市内産業の燃転ニーズの開拓を目指す。

保安管理に強みを持つ八戸ガス

岸田首相は総裁選に出馬せず 電力側の評価は高かったが……


8月14日、岸田文雄首相が次期総裁選に出馬しない意向を表明した。政治資金パーティを巡る政治と金の問題などで支持率が低迷するなど、世間的には厳しい評価にさらされている岸田政権だが、エネルギー、とりわけ電力業界からは高評価の声が少なくない。安倍晋三政権時代に行き詰まっていた重要課題を一挙に解決へと導いたからだ。大手電力の幹部が言う。

次期総裁選への不出馬を表明した岸田首相(8月14日) 提供:首相官邸

「何よりも福島第一原発から出る処理水の海洋放出を実現させた。地元漁業関係者との交渉や、中国をはじめとした海外諸国の反発を抑え込んでの英断は見事だった。また原子力政策では脱炭素電源法に基づく運転期間延長を実現させたほか、エネルギー政策全般でも3・11以降の脱原発から原発推進へと大きくかじを切った。嶋田隆首相秘書官ら官邸スタッフの功績も大きいが、岸田首相の思い切った政治決断があればこそだと思う」

14日の会見で、岸田首相はエネルギー政策についてこう言及した。「原発の再稼働、革新炉設置を含めたエネルギー政策についても、電力自由化が進む中で、いかに電力投資資金を確保するか。電力安全保障と脱炭素化をいかに両立させるか。第7次エネルギー基本計画の下で方向性を確かなものにしていかないといけない」

9月27日投開票が決まった自民党総裁選を巡っては、小林鷹之前経済安全保障相、小泉進次郎元環境相、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相のほか、斎藤健経済産業相、高市早苗経済安全保障相、上川陽子外相ら計11人の名前が挙がる。エネ政策のかじ取りに注目だ。

【特集2】ガスタービンで水素30%混焼に成功 アンモニア燃焼システムも開発中


三菱重工業が水素・アンモニア発電用ガスタービンの開発に注力している。次世代ニーズに対応するため近年中の完了を目指す。

【三菱重工業】

三菱重工はカーボンフリー燃料として水素・アンモニアを利用するガスタービンの開発に注力する。水素ガスタービンの早期商用化に向けては同社高砂製作所内に「高砂水素パーク」を整備、水素の製造から発電までにわたる技術を一貫して検証している。

水素ガスタービン開発では昨年11月、実証発電設備で最新鋭の「M501JAC形」ガスタービンによる水素30%混焼運転に成功した。今後、中小型ガスタービンは25年、大型ガスタービンは30年以降の水素専焼での商用化を目指し、新型燃焼器の開発を進めていく。

水素は天然ガスに比べて燃焼速度は7倍と高く、燃焼器で天然ガスと水素を混焼、または専焼すると、天然ガスのみを燃焼した場合よりも火炎位置が上流に移動し、空気と十分混合する前に高い火炎温度で燃えるため、NOXが増加する。また、燃焼器の上流に火炎が遡り、逆火が発生するリスクも高くなる。そうした課題を解消するため、専焼用のマルチクラスタ燃焼器では混焼用燃焼器より、高流速かつ混合距離が短縮可能で、逆火耐性が高いものを目指す。また、火炎を多数に分散することでNOX低減を図る。

アンモニアでは2方式を検討中 安定した火炎保持が課題

一方、アンモニアは天然ガスに比べて発熱量が3分の1、燃焼速度が5分の1と低いため、燃焼が不安定になりやすく、火炎を安定して保持することが難しい。また、窒素分を含んでいるため、燃焼の過程で発生するフューエルNOX(燃焼由来)が生成されるため、NOXを低減する手法が必須だ。そこで同社はアンモニア燃焼システムとして、直接燃焼GTCC(ガスタービン複合発電)と分解GTCCの2方式を検討中。直接燃焼GTCCはNOX排出量を低減するアンモニア用燃焼器と高効率脱硝装置を組み合わせた。同システムは中小型H-25形ガスタービンで開発を進め、25年以降の実機運転、商用化を目指す。分解GTCCは実用化を検討中だ。

長期脱炭素電源オークションに参加するうえで、火力発電の次世代燃料への対応は必須条件となる。こうした発電ニーズに三菱重工はさまざまな開発を進めて応えていく構えだ。

高砂水素パークで混熱運転を進める

【特集2】供給体制から手掛けた燃料転換 点在する工場の低炭素化に貢献


【旭化成延岡地区】

旭化成延岡地区は複数点在する工場を自営線ネットワークで結び電力を供給している。電力の約90%は自家発電から賄われており、昨年3月にその電源の一部をコージェネに更新した。

旭化成延岡地区はグループ最大の生産拠点だ。1923年に合成アンモニアの製造を開始した同社発祥の地であり、現在も繊維、基礎化学品、樹脂・医薬品原料、メディカル製品、エレクトロニクス製品などを製造している。
工場は宮崎県延岡市内に複数点在しており、使用する電気の約90%を五ヶ瀬川水系にある水力発電所9基と、火力発電所4基でつくり、自営線で送って自給している。
このうち、火力発電所では昨年3月、CO2削減と、水力発電の利用拡大を目的とした需給調整力確保のため、第3火力発電所を石炭火力からガスタービンコージェネ(3万7000kW)にリプレースし運用を開始した。
コージェネ導入に当たっては、「燃料転換によるコスト増に耐えられるのかといった議論もあった。しかし、低炭素化、その先の脱炭素化に向けて天然ガスでいこうとの結論に至った」。延岡動力部動力課の弓削輝泰課長は、経緯をこう振り返る。

導入したガスタービンコージェネ


年間CO2排出量を削減 運用面でも改善効果大

従来の石炭火力では、石炭焚き水管ボイラーと抽気復水式蒸気タービンを組み合わせたボイラータービンジェネレーターを使用していた。蒸気需要に合わせて抽気蒸気量を、電力需要に合わせて復水蒸気量を制御するものだったが、蒸気タービンの運用制約上、復水蒸気量をゼロにすることができず、復水器で常時放熱ロスが発生していた。
これに対し、導入したコージェネは蒸気・電力需要の変化に対し柔軟な制御が可能であり、80?90%と高い総合運転効率を実現。経済的な価格差を縮小するとともに、年間CO2排出量を約16万t削減することに成功した。
運用面での改善効果も大きい。石炭火力ではミルで燃料を擦り潰してボイラーに投入する。この過程で石などの異物が混入するといったトラブルが多かった。着火するまでの時間もかかる。天然ガスは燃えやすく、需要への追従性が高い。負荷調整において1分で1000kWは楽にこなすとのことだ。コージェネでつくった蒸気と電力は、延岡地区の複数工場間で融通している。夏は空調など電力需要、冬は熱需要が高まる。これに合わせて、コージェネは出力を1万2000kWまで低減して運転できる仕様になっている。
コージェネ導入においては、燃料供給体制の構築も課題となった。同プロジェクト以前は、宮崎県内に大型内航船の受入基地がなく、新たな基地を建設する必要があったからだ。そこで旭化成、地元の都市ガス事業者である宮崎ガス、基地建設や設備に強い大阪ガスが中心となり、どのような規模と設備で、基地を建設すべきか検討を進めてきた。
その後、18年12月に同工場への天然ガスの安定供給と普及拡大を目的に「ひむかエルエヌジー」を設立。宮崎ガス、大阪ガス、九州電力、日本ガス、旭化成が出資する合弁会社で、宮崎県内最大規模のLNG基地と約6㎞のガス導管を建設した。同社によって、内航船で調達したLNGをタンクに受け入れ、気化したガスを導管に送出し、コージェネまでガスを送り届けている。基地とコージェネ間は通信回線で結ばれており、緊急時はガス製造を制御するなど、保安面での連携も行っている。

新設した「ひむかエルエヌジー」の基地


延岡地区の電力設備は50 Hz マイクログリッド運用に対応


旭化成延岡地区には、ほかにもユニークなエネルギー事情がある。創業期にドイツから50 Hzの発電設備を調達し、電源・送電網を自社で整備したため、西日本エリアでありながら、各工場では50 Hz対応の製造設備を運用しているのだ。自社で有する50 Hzの発電所や自営線、九州電力送配電からの60 Hzの系統電力が混在する。系統電力は周波数変換装置で50 Hzに変えて供給。導入したコージェネは社内環境に合わせた50 Hz仕様となっている。
エネルギーマネジメントにおいては、各工場のエネルギー情報を集約し、電力需要と各水力発電所の電力供給を精度良く予測し、60 Hz系統電力とコージェネを含めた自家発電設備の運用計画へ反映させている。
9基ある水力発電所は流れ込み式で、川の水をそのまま発電所に引き込み発電する。貯水槽を持たないため、夏の豊水期や冬の渇水期などは水量変化に伴い発電量が変化してしまう。これには、過去30年間に及ぶ発電実績データを基に水力発電の発電量を予測し、60 Hz系統受電と自家発電設備の運転を効率的に組み合わせて運用する。「台風シーズンは水量が増えて、土砂や流木が流れて取水できないこともある。水力を最大限活用していくが、できないときのバックアップとして、コージェネは一役買っている」(弓削氏)
また落雷の発生など、非常時にはその影響を回避するため、一般送配電線網から独立した運転を行う場合がある。こうした非常時には、延岡地区に分散する自家発電設備と各工場間を結ぶ自営線ネットワークで地域マイクログリッドを形成し電力供給を継続する。導入したコージェネは、こうした運用にも対応できるように機種を選定し、他の自家発電設備との負荷分担も考慮した制御を行っている。
同社では、今後も低・脱炭素化に向けた取り組みを継続していく方針だ。「稼働中の石炭火力発電がまだある。使用率の低減を図りながら、コージェネへのリプレースを含め検討中だ。バイオマス発電の拡大、水素やアンモニアなどの次世代燃料、CO2クレジットによる相殺などあらゆる選択肢を模索している」と弓削氏は話す。
製造業において、新たな設備やエネルギーを導入する際、コストは重要なファクターとなる。これをクリアできる低・脱炭素化技術の登場が従来にも増して望まれている。