先進国vs途上国の対立が激化する中、COP30は米国不在で途上国に軍配が上がった。
パリ協定10周年というタイミングだったが、最終文書では化石燃料への言及すらできなかった。
寄稿/有馬純(東京大学公共政策大学院客員教授)
2025年11月10~22日にブラジル・ベレンで開催された地球温暖化防止国際会議・COP30はパリ協定10周年という節目に当たり、「行動・実施のCOP」となることが期待されたが、そもそも何を議論するかで対立が表面化していた。途上国がパリ協定9条1項に基づく先進国の資金協力義務の厳格な実施、気候変動対応を目的とした貿易措置に関する協議を議題化することを要求する一方、先進国、島しょ国は1・5℃目標に整合した野心レベル引き上げをエンカレッジするためのプロセス、国別の削減目標(NDC)統合報告書、隔年報告書を活用したレビュー制度の強化を議題化することを提案した。
これらの議題提案はいずれも先進国、途上国のレッドラインに関わるものであり、その採択に合意することは不可能である。このため、通常議題を採択する一方、この4案件については議長国ブラジルの下でムティラオ(協同作業)を実施することとなった。4案件を巡る対立は俯瞰すれば「野心レベル向上を求める先進国(+島しょ国)」と「資金援助拡大を求める途上国」の対立構図そのものであり、パッケージとして一体的に解決するしかない。加えて、1・5℃目標や緩和との文脈の中で83カ国が化石燃料終了に向けたロードマップ策定を要求したことから、化石燃料問フェーズアウトを巡って先進国・島しょ国などと資源国、中国、インドなどが鋭く対立した。
COP30の会場(ブラジル・ベレン)
議長からの第1次ドラフトでは資金援助については「第9条第1項の実施に関する法的拘束力のある行動計画」、化石燃料については「化石燃料の依存を段階的に克服するためのロードマップ策定」などの「尖った」オプションが含まれていたが、最終的に採択されたグローバル・ムティラオ決定では4案件について以下の決着となった。
化石燃料への言及なし 脱炭素よりも安保・価格
〈資金問題〉
・パリ協定9条全体に関する議論を整理・深化させるための2年間の新作業計画
・35年までに適応資金を少なくとも3倍に増加
〈貿易問題〉
・世界貿易機関、国連貿易開発会議、国際貿易センターその他の関連ステークホールダーの参加を得て26~28年の補助機関会合で対話を実施
〈1・5℃、NDC野心〉
・NDC・国別の適応計画(NAP)の実施を加速するための協力的、支援的、自主的なグローバル実施アクセラレーター(GIA)の創設
・1・5℃目標への軌道復帰のための「ベレン1・5℃ミッション」 の開始
〈化石燃料〉
・言及なし
COP30において最後まで争点となった化石燃料フェーズアウト問題は23年のCOP28で熾烈な交渉の結果、エネルギー転換を扱うグローバル・ストックテイク(GST)決定パラ28において「化石燃料からの移行」を含む八つの行動を列挙し、「それぞれの国情、道筋、アプローチを考慮し、国ごとに決定された方法で貢献する」という玉虫色の合意で決着した経緯がある。そうした中で化石燃料のみを特掲したロードマップの策定は、微妙なバランスに立脚したCOP28の合意をリオープンするものにほかならない。ロシア、サウジアラビアなどがこれを受け入れる可能性は皆無であり、もともと無理筋な提案であった。
予想されたように最終結果からは化石燃料への言及は削除され、新たに設置されるGIAは化石燃料からの移行を含むアラブ首長国連邦(UAE)コンセンサスを含む過去の決定を考慮することとなっているものの強制力はない。クロージング・プレナリーでド・ラーゴ議長が脱化石に向けた議長ロードマップ策定に言及したが、あくまでブラジルのイニシアティブであり、COP決定とは重みが異なる。
近年の地政学リスクの高まりにより、先進国、途上国問わず、温暖化防止よりもエネルギー安全保障や手ごろなエネルギー価格(affordability)の優先順位が高い。米国の経済アナリストであるダニエル・ヤーギンが指摘するように、エネルギー転換に関する国際的な議論は「イデオロギーからプラグマティズム(実用主義)」へ転換している。「化石燃料フェーズアウト問題への言及がCOPの成否のメルクマール(指標)」という議論は世界のエネルギーの現実から遊離したものと言わざるを得ない。とはいえ、一国主義、ポピュリズムが台頭する中で温暖化防止に対する国際的な結束を打ち出した議長国ブラジルの努力は評価すべきだろう。
対立構造変わらず 1・5℃目標は破綻
今回のCOPを俯瞰すれば、9条1項を含む作業計画の設置、適応資金を35年までに3倍増、貿易措置を巡る対話の実施など、途上国の主張がある程度通っている一方、NDCの野心的引き上げのための強力なプロセスや化石燃料フェーズアウトといった先進国の主張は通っておらず、全体としてみれば途上国に有利な決着であったと言えよう。米国がいなくなったことにより、先進国の交渉力が相対的に低下したことは否めない。
交渉全体を俯瞰すれば、「1・5℃目標達成のため、化石燃料フェーズアウトを含め、野心レベル引き上げとそのためのプロセス強化を最重要視する先進国」と「野心レベル引き上げよりも先進国からの公的資金援助大幅拡大が先決と主張する途上国」の対立構造は全く変わっていない。
1・5℃目標を前提とした議論を続ける限り、現実解不在の状況は続く。26年には28年の第2回GSTに向けたプロセスが始まるが、1・5℃目標の破綻が誰の目にも明らかな中で、どのような議論になるだろうか。
ありま・じゅん 1982年東京大学経済学部卒、通商産業省(当時)入省。国際交渉担当参事官、大臣官房地球環境担当審議官、日本貿易振興機構ロンドン事務所長などを歴任。2025年から現職。