最新技術の「アップサイクル」 CO2フリー発電への第一歩

2022年9月4日

【Jパワー 松島火力発電所】

Jパワーは2021年4月、次世代エネルギーシステム「GENESIS松島計画」を発表した。

運転開始から40年を過ぎた松島火力発電所2号機に新設備を付加し、CO2排出削減や水素発電につなげる。

 長崎県の西彼杵半島沖に位置する松島は、大正初期から昭和初期まで「炭鉱の島」として隆盛を極めていた。石炭火力発電所の建設により、現在では「電力の島」として生まれ変わっている。対岸の港から市営船で10分ほど、島一周が10㎞弱で、島の大半が山林の自然豊かな土地だ。

島内には、発電所運転開始のタイミングで植えた桜の木が並ぶ。松島火力運営事業所の椎屋光昭所長は「社員寮への道に桜を植林して40年。桜坂と呼ばれ、春には島民の憩いの場になっている。これからも松島火力は地元の皆さんと一緒に歩み続ける」と話す。

松島火力発電所は1981年1月に1号機(50万kW)が、同年6月に2号機(同)がそれぞれ運転開始。高度経済成長後の石油危機の影響で、石油に大部分を依存してきたエネルギー供給源の多様化・分散化が叫ばれた時期。石炭火力の重要性が改めて見直され、日本初の海外炭専焼の大規模火力発電所として稼働を始めた。

島内から望む発電所(上)と内部のタービン(下)

石炭火力で初となる「超臨界圧貫流ボイラー」を採用。主蒸気圧力24・1MPa、主蒸気温度538℃は、当時世界最高水準の効率を達成していた。50万kWの単機出力も、石炭火力として当時最大級だった。燃料となる石炭は、豪州のほか世界各国の銘柄を輸入。異なる銘柄の石炭を組み合わせて燃やしている。1号機と2号機の発電電力量は、長崎県の平均電力需要量の約7割に相当する。

訪れた2022年7月12日は1号機、2号機ともに定格出力運転を続けていた。施設内部、特にボイラー付近の室温は50℃に迫る。

現地に駐在するJパワー火力エネルギー部の大根田健一審議役は「松島火力は運転開始から40年を過ぎたが、適切なメンテナンスと機器の入れ替えを行い、発電効率もほぼ変わらない状態で運転できている」と語る。

CNと水素社会実現へ 新技術を既存設備に付加

日本の石炭火力発電の高効率化は世界に冠たる技術だ。一方で50年カーボンニュートラル(CN)へ向け、石炭を含む火力発電所のさらなる低炭素、脱炭素を求める声が高まっている。JパワーではCNと水素社会実現のため、さまざまな次世代技術の開発・実装を進めている。

Jパワーが21年2月に公表した「J-POWER”BLUE MISSION 2050“」では、CN実現へ30年までに国内発電事業でのCO2排出量の4割削減(17~19年実績平均比)を目標に掲げている。その達成のための柱の一つが、新技術を採用した設備を既存の設備に付加する「アップサイクル」だ。

こうしたCN社会における次世代エネルギー供給に関するビジョンについてJパワーは「J-POWER GENESIS(Gasification ENErgy Sustainable Integrated System)Vision」と命名。CNと水素社会実現に新たな価値を生むという意味を込めた。このビジョンを実現するため、開発中のエネルギー転換システムを他施設へ展開していく。

GENESIS松島計画の概要

Jパワーは21年4月、「GENESIS松島計画」として、松島火力2号機にガス化システムを付加し、水素発電への第一歩とすることを発表した。2号機は高効率の酸素吹石炭ガス化複合発電(IGCC)への転換を進めていく。IGCCへの転換で発電効率が約1割上昇、CO2排出量も約1割削減できる。

将来的にはアンモニアやバイオマス燃料の混焼とCCUS(CO2回収・利用・貯留)を組み合わせCO2の排出量を実質ゼロとすることを目指す。さらに、既設のボイラーを撤去することで、大気中のCO2を燃焼前より削減することも視野に入れる。

高い出力調整機能有し 次世代エネルギー支える

GENESIS松島計画は、21年9月に設備の追加工事に向けた環境影響評価手続きを開始。24年の着工、26年度の運転開始を目指す。酸素吹IGCCに関しては、大崎クールジェンでの実証試験の成果を踏まえ、商用化へつなげていく。バイオマス燃料やアンモニアなどの燃料設備エリアやCCUSの追設可能エリアも発電所敷地内に設置する。

この計画が実現した場合、松島火力発電所はこれまでのベースロード電源としての役割に加え、石炭ガス化炉の高い出力調整機能を生かし、負荷追従性に優れた発電所となる。再生可能エネルギーのさらなる導入の課題となる出力の変動を補える発電所に大きな期待が寄せられている。ガス化設備で発生する水素に関しては、発電設備に利用するほか、他産業への供給も視野に入れているという。

椎屋所長は「新設のガス化炉にも負けないように、60年、70年と運用を続けていき、皆さまへ安定供給をしていかなければならない」と、今後の松島火力発電所の未来を語る。

既設火力をアップサイクルすることで、CO2フリー火力運用へ第一歩を踏み出した松島火力発電所。かつて石油危機後の石炭燃料活用の道を切り開いた松島が、今度は次世代のエネルギー供給を支える道標となる。CNと水素社会実現へ、松島から始まる新しい挑戦に注目だ。

松島火力発電所とその周辺地図

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