「ちりつも」で今冬のひっ迫改善へ 家庭向けDRサービスの効果と期待
【SBパワー/ファミリーネット・ジャパン】
物価高騰と電力需給ひっ迫を受け、政府は「節電ポイント」などで需要家向けDRの拡大を後押しする。
以前からDRを積極展開してきた事業者にこれまでの成果や、需給緩和への寄与の可能性を聞いた。
岸田政権が物価高騰や今冬の電力需給ひっ迫対策として節電ポイントを付与する事業を行うと発表して以降、需要家向けDR(デマンドレスポンス)への注目が高まっている。ただ、新規でDRサービスをいざ提供しようとしてもシステム構築などのハードルに直面するケースが多い。また、特に家庭向けDRについては、特高や高圧と異なり1件ごとの節電量はわずかで、需給改善効果は限定的と見る向きもあった。こうした意見に対し、以前からDRに積極的な事業者からは「ちりも積もれば山となる」とひっ迫改善への貢献に期待する声が挙がる。
専用アプリでDR通知 積極的に他社にも提供
ソフトバンク系の小売り事業者であるSBパワーは、専用のスマホアプリ「エコ電気アプリ」を使った家庭向け節電サービスを2020年夏から提供する。当時は21年初頭の市場高騰前で、周囲からは「家庭向けDRは手間暇はかかるが、積み上げても効果はそれほど期待できない」との見方が多かったが状況は変わり、参加者はサービス開始時の数万世帯から最近は50万世帯を突破。ほかの事業者でも、九州電力や東京電力エナジーパートナー、東邦ガスなど数社が「エコ電気アプリ」をベースにしたシステムの提供を始め、今後も拡大するという。

同サービスでは、JEPX(日本卸電力取引所)からの調達価格が提供価格を上回った際などにDRを発動し、「節電チャレンジ」として節電に参加協力してもらえるよう需要家に依頼。参加した需要家が、その時間帯の前日予測需要量=ベースラインを下回り節電に成功すると、報酬をキャッシュレス決済サービス「PayPay」で還元する。21年度の節電効果は約508万kW時だった。
当初の成功報酬は1回1~2円程度相当だったが、今の高騰局面では数十円程度のケースもあり、6月以降は毎日のようにDRを発動。さらに3月22日の需給ひっ迫警報時の実績を検証したところ、節電チャレンジ不参加に比べ、参加者の節電効果が10%高かった。ひっ迫警報や政府の呼びかけに加えての同サービスの展開で、節電効果が高まることが確認できた。
ソフトバンクは「アプリを通じて顧客が状況を理解し活動することで、ある程度の塊として節電を制御できる可能性が出てきた。ゲーム感覚で節電を楽しんでもらえるサービスにすることで継続的に協力いただけるようにすることがポイントだ」(エナジー事業推進本部事業開発部)と説明する。
同社では世帯ごとに翌日の需要を予測しベースラインを算出しており、グループ会社のエンコアードジャパンの特許技術を活用している。ただ、別の事業者が同様の仕組みを新たに自社で始めようとするハードルは高い。
「DRだけで家庭向けサービスが完結できるわけではなく、新電力各社の限られたリソースをDR開発だけに割り当てられないと思われる。かといって導入を見送るのではなく、当社のシステムを広く活用してもらうことで、全体として節電量を増やし効率的なエネルギー消費に向かうことができれば、ソフトバンクらしい取り組みとして提供の意義が示せる」(同)と強調する。
一括受電でもDR実績 デマンドを3段階で評価
マンション一括受電でも、DRの実績を培ってきた事業者がいる。ファミリーネット・ジャパン(FNJ)は、2012年から新築マンション向け一括受電でのDR型電気料金プラン「スマートプラン」を提供する。一括受電は、計画停電の経験から東日本大震災後に急増し、当時は大手電力の経過措置規制料金と比べて数%安いとのうたい文句形が主流。それと「スマートプラン」は一線を画し、当初からエネルギーマネジメント志向のプランを提供してきた。エネマネ志向に理解を示したデベロッパーに採用を続けてもらい、現在は首都圏、名古屋市、仙台市でサービスを提供している。
同プランの特徴は、デマンドを3段階に分けて料金を変動させ、節電を促す点だ。リアルタイムの節電量と、ピークが立つかどうかで、30分ごとに料金が変動する。ピークを立てないよう家電を使うタイミングを変え、ベースライン(2段階目)以下に納まるように家電を使うと、東京電力の従量電灯B、Cより5%安くなる。最も低い1段階目の範囲に収まった場合は、さらに安くなる。自社開発のインジケーターでリアルタイムの電気の利用状況を知らせ、ピークを抑制するような行動を促す。スマートメーターなどを使い30分値で料金変動するプランはほかにもあるが、リアルタイムの使用量を反映するプランは珍しいという。

野村不動産と共に、14年夏、冬に千葉県船橋市の5棟約1500世帯を対象に行った実証では、スマートプランと見える化、さらに省エネアドバイスレポートの提供まで実施した場合、kWを低減するピークカット効果が約11%、kW時を削減する省エネ効果は約7%との結果が示された。今年3月の需給ひっ迫時も、顧客向けに料金確認画面や専用ホームページなどで政府からの情報を随時発信し、無理のない範囲の節電を呼び掛けた。今冬に向けては、さらに啓蒙の仕方を検討する考えだ。
同社は「スマートプランは10年目となり、その趣旨がようやく政策と合致するようになってきた。デベロッパーの関心も高まっており、DR自体が定着してきている」(草刈和俊・取締役常務執行役員)と手応えをつかんでいる。
本番の冬に向け、今後各社のDRサービスが続々発表されそうだ。緊急措置的な側面はあるにせよ、「ちりつも」DRが需給改善にどれだけ貢献できるのか、引き続き検証していくことが重要になる。