【特集2】LPガス事業者がなすべきこと 今こそ求められる「原点回帰」

2022年9月3日

かねてから地域のエネルギー供給を支え、地域と共に発展してきたLPガス業界。脱炭素時代に事業者が取り組むべき施策を、コンサルタントの角田憲司氏が解説する。

角田憲司/エネルギー事業コンサルタント

LPガス事業はいろいろな意味で地域の発展に貢献できる事業である。クリーンな化石燃料であるLPガスは地域の低炭素化に貢献し、自立稼働が可能な分散型の供給形態は災害に強く、地域のレジリエンスに貢献する。これはLPガスの原料特性・供給特性に由来する貢献である。ただし脱炭素時代にあっては、グリーンLPガスへの置き換えや、LPガス非常用発電機の地域マイクログリッド組み込みなど、時代にふさわしい貢献が求められる。
LPガス事業者は大規模企業系から小規模個人経営系まで多様だが、地場系事業者が大半であり、その多くは今もLPガス以外の燃料(ガソリン、灯油など)も取り扱うことで、地域のエネルギー企業として貢献している。また、LPガス事業者が地域を支える代表的な企業であることも多い。
では、LPガス事業者は、地域が直面する脱炭素化と人口減少・過疎化の潮流の中でどういう役割を果たせるのか。ちなみに二つの潮流は、エネルギー(ガス)を減らす、市場(地域経済)を縮退させるという点で、LPガス事業者の持続可能性にも大きく影響するので、期待される役割は「自社の持続可能性のために何をすべきか」と実質的に同義になる。
日本の脱炭素政策は、地域では「地域脱炭素」として進められる。これは、地域(地方自治体)が主役となり、支援する関係省庁が縦割りを排し水平連携して、個々の地域での脱炭素を進める政策だと解せる。だが国との実力差が大きい自治体だけで進められる地域脱炭素には限界があり、おのずと民間からの援軍(脱炭素パートナー)が必要となる。ゼロカーボンシティ宣言自治体を中心に、脱炭素に関する連携協定や、コーポレートPPAを求める公募プロポーザルが増えているのはそのためである。
ただ当面、自治体が支援を求めるのは、自治体庁舎や施設・遊休地などへの太陽光導入、再エネ電力調達、公用車の電動車化といった電力分野の取り組みである。電力会社にとっては本業領域だが、ガス事業者にとっては、大手・中堅の都市ガスのように一定レベル以上の電力事業(再エネ発電、電力小売など)を営んでいなければ、直接的な連携が難しい領域である。


地域脱炭素化のカギ LPG事業者が中核に


しかし、地域に根ざすLPガス事業者は地域脱炭素に全く関与できないわけではない。あえて尖った提案をする。
結論を言えば、地域のLPガス事業者には、地域貢献と脱炭素化の交点としての「地域脱炭素化推進事業体」の中核的な推進者になってもらいたい。地域脱炭素は、今は自治体回りの脱炭素化が中心だが、いずれこうした事業体の必要性が理解され、設立を検討する自治体が増えてくる。一般的に「地域新電力・自治体新電力」と呼ばれるが、それは事業体の一側面しか表していないので、あえてこの聞きなれない環境省用語を使う。筆者は事業体の本質を、地域に賦存するエネルギーや資源を地域内で産出し、地域内で有効に利活用することでエネルギーの地産地消や資源の地域内循環に資するとともに、地域のステークホルダーの「サステナブル・マインドセット」を醸成するプラットフォームとなることだと理解している。資源循環まで視野に入れるのは、それがエネルギーにも資源にも恵まれないわが国の「地域」が進むべき方向であり、結果として地域が自立し地方創生にもつながると確信するからである(その意味では「カーボンニュートラル」ではなく「サステナブル」の形容になる)。


地産再エネをブランド化 自治体とタッグが必須


この事業体は、出だしはエネルギーの地産地消を担う地域新電力とみなされるが、今の地域新電力は「公共施設から始めて企業、家庭へ」としているものの、現実に地域住民まで巻き込めていない。地産地消は地域ぐるみで行うからこそ価値があり、その推進者は極めて重要である。LPガス事業者によっては、電力ビジネスゆえ腰引けになるかもしれないが、これは「電力小売事業ではなく、地域の宝である地産再エネ電力を地域ブランド化し、それを地域の脱炭素化と地域経済貢献のために最大限普及させる地域事業」だと考えてほしい(図参照)。電力ビジネスの難しい部分は専門家と連携すればよい。地域事業案件として参画意義を見出してもらいたい。

「地域脱炭素化推進事業体」の当面のイメージ


こうした事業体を地域脱炭素の中核に据えることで他のメリットも期待される。一つ目は、地域脱炭素施策の究極課題を解決しやすくなることである。その課題とは、住民や中小規模事業者(以下、住民など)といった、脱炭素ビジネス目線からでは動かない人たちの態度変容・行動変容をどう図るか、である。事業体の事業を通じて住民などと密接な関わりを持つことで、それが醸成される。
二つ目は、地域脱炭素ビジネスと地域貢献ビジネスのつなぎができることである。地方創生に資する地域脱炭素を志向していれば当然の帰結ともいえ、そこに関わっていればLPガス事業者にも新たなビジネスチャンスが見えてくるはずである。これらにより「地域脱炭素化推進事業体」は「地域サステナブル公社」に昇華できる。そのためにも、LPガス事業者をはじめ地域企業や団体が自治体のパートナーとなることが必要不可欠である。
おわりに、時代とともに柔軟な業態転換を果たしてきたLPガス事業者の「原点回帰」を強く望みたい。

つのだ・けんじ 1978年東京ガスに入社。家庭用部門、熱量変更部門、卸営業部門などに従事。2016年日本ガス協会地方支援担当理事。現在、業界向けに個社コンサルティングなどを行っている。