【目安箱/9月29日】迷走続く日独の脱原発政策

2022年9月29日

日本の政治家の行動で、エネルギーを巡りまたがっかりする話があった。立憲民主党代表の泉健太衆議院議員と同党首脳部は、日本在駐の各国大使と意見交換をしているという。泉氏は9月17日にツイッターで次の文章を出した。

〈ドイツもロシアからのLNG供給制限で国内のエネルギー価格が高騰。それでも政府も政党も「新型炉には手を出さない。原発はゼロにする方針は不変」とのことでした。〉

この書き込みは間違っている。ドイツはロシアからLNGを購入していない。パイプラインでガスを引いている。そしてドイツの脱原発方針を肯定的に受け止めているようだが、それは同国内で、そして世界で問題になっている。それに気づいていないようなのだ。早速この書き込みは「炎上」してしまった。

◆ドイツ、脱原発を実施できるのか

ドイツは今年末までに原子力発電を全て停止する計画だった。ハーベック副首相兼経済・気候保護相(緑の党)は9月15日、現在稼働している3基の原発を計画通り今年末に停止し、脱原発を実行すると表明した。ただし、緊急時に備えて2基のみ来年4月まで待機状態にすることも発表した。

ドイツは福島第一原発事故後に脱原発を決め、徐々に原発の閉鎖を進めてきた。これは当時の保守政党系のメルケル政権が決定した。1980年代に創立した緑の党は脱原発を党是にしてきた。昨年末にできた左派連立政権に緑の党は参加し、その政策を継承した。ところが情勢は変わった。ウクライナ戦争以降の化石燃料価格の高騰、ロシアからエネルギーを買わないというEU全体の政策に押され、脱原発政策の見直しが問われていた。

ただし、脱原発を断行するとしても、その先行きは依然不透明だ。日本の資源エネルギー庁の資料によれば、ドイツは21年に石油で34%、天然ガスで43%、石炭48%をロシアから購入している。それをいきなりゼロにはできない。またドイツでは国と民間企業が世界各地で天然ガス、電力などのエネルギーを購入し、他のE Uの小国が、それらを調達しづらくなっている。

スウェーデン緑の党の国会議員テイク・アナンストゥット氏は、「もしドイツが自国のエネルギー安全保障に責任を持たないのであれば、スウェーデン政府にバルト海の送電線を切断するように提案したい。連帯は誰にも傷を負わせない限り成立する」と、ドイツの政治家とツイッターでやり取りし、世界中のメディアに転載された。欧州各国の政治家や、専門家から、ドイツの脱原発政策を批判する声が出ている。ドイツ国内でも議論が混乱し、連立を作る社会民主党と緑の党の対立も伝えられ、国内世論調査は原子力の停止の反対が多数になっている。9月の脱原発決定がそのまま実施されるかは不透明だ。

つまりドイツの脱原発政策は、「原子力発電が生み出せる巨大な電力の代替策をどうするのか」という根本的な問題に解決策を作れないまま進行してきた。とりあえずの対応策として「ロシアのガスを使う」という方向に動いたが、それが今では難しくなり、混迷の度合いを深めている。日本ではドイツの脱原発を讃える情報がメディアや研究者を通じて広がっている。しかし、現在起こっている混乱の情報量は少ない。

◆笑えない日本の政策の曖昧さ

しかし、日本政府もドイツと同じように原子力を巡る対応が混乱している。政府が8月24日に開いた「GX=グリーントランスフォーメーション=実行会議」で、岸田首相は地球温暖化防止と電力需給ひっ迫に対応するために、来年の夏以降の原子力の追加の7基の再稼働と、次世代革新炉の開発・建設など「(電源確保に)あらゆる手段を取る」と表明した。

これは、これまでの脱原発政策からの転換と受け止められた。けれども、その後に岸田首相は会見などで「脱原発政策は変わらない」と質問に答えた。同実行会議から1カ月近く経過したが、特に新しい話は政府から出ていない。掛け声だけだったのか。

2011年の東京電力の福島第一原子力発電所事故以来、日本ではエネルギー政策で原子力発電が中心になった。脱原発が当時の民主党政権、そして2012年から交代した自民党・公明党の連立政権でも政策になった。ところが、ドイツと同じように、政治的な思惑、反対への警戒で、脱原発が不可能と明らかになっても、なかなか政策が是正されない。

日本の岸田首相、ドイツのショルツ首相は共に、「リーダーシップに乏しい」と批判される。2人とも、世論に左右される問題で、途端に動きが鈍くなる。

◆政策は「合理性」で判断してほしい

印象的な光景があった。 NHK・BSが国際報道2022(9月1日放送)のリポートで、ドイツの脱原発を巡る問題を伝えていた。デモでは参加者は高齢者ばかりで、若者が「経済を考えろ」「電力料金が高い」とデモに野次を飛ばしていた。2013年ごろの日本の脱原発デモでも同じような光景があった。デモに若い人の数は少なく、世論調査でも現役世代、若い世代ほど原子力への感情的反発は少ない。

1960年代から、核兵器や反戦運動と絡んで、原子力が政治問題になってきた。その残滓が日独に残っているのだろう。他国ではこうした原子力に対する感情的な反発はあるものの、政策に影響を与えるまで至っていない。

電力料金の負担や暖房のない極寒の冬を経験したくはないのだが、その事実を深刻に受け止めない、もしくは知らない人たちが、エネルギーの政策、企業活動を左右する。これはおかしい。もちろん、エネルギーを巡る多様な意見を尊重するが、その議論では「合理性」が判断の中心になってほしい。存在する原子力発電所を活用する。それで多くの問題が解決するのに、なぜしないのか不思議だ。冒頭の事例でもわかるように、泉立憲民主党代表のように、世論におもねるが不正確なエネルギーをめぐる知識しか持たないのに、多くの政治家が問題に参加する問題もある。

日独の原子力政策の迷走を見ながら、民意とエネルギーの関係が、「これでいいのか」という思いは深まるばかりだ。