【目安箱/10月14日】「統一教会」騒動に見るエネルギー業界への余波
旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題を巡る騒動が、エネルギー政策に影響を与えるかもしれない。安倍晋三元首相の死去と、自民党安倍派の影響力の低下によって、原子力の活用と電力システム改革の見直しに積極的だった議員の動きが抑えられるのではないかという観測が出ている。味方の少ない電力業界、原子力関係者にとって、応援する政治の力が弱くなりかねない状況は、視野に入れるべきかもしれない。

◆安倍派、エネルギーでの強さは福田赳夫首相時代から
安倍元首相は21年11月に細田博之衆議院議長の後で安倍派(清和政策研究会)の会長に就任した。自民党の派閥の政治的影響力はこのところ低下しているが、国民的人気があり、首相退任理由の病気も治癒し、影響力の増大を考えているように見えた安倍氏の下で、同派は大きな存在感を持った。現時点で所属する議員は97人と同党最大で、人事上も政府と自民党の主要ポストに人を送り込んでいた。
安倍元首相は在任中に、エネルギーの正常化や原子力の活用に熱心ではなかった。しかし7月に亡くなる前まで、原子力の活用、新増設と新型炉、電力不足の解消を訴えていた。同派議員によると、派内の非公開の会合ではエネルギーの正常化を「(政権で)やり残した問題の一つ」と、まで言ったという。
もともと安部派には、経済安全保障やエネルギー問題に関心を寄せる議員が多かった。自民党の議員グループで原子力の活用を訴える「電力安定供給推進議員連盟」は細田氏がまだ会長で、同派の議員が多い。この理由について、同派の中堅議員にかつて聞いたことがある。同派は福田赳夫元首相が作った政策グループだ。福田氏は首相在任当時(1975−76)に、第一次石油ショック(1972年)の反省から、自主エネルギー源の確保に関心を寄せ、原子力発電の建設を支援し、地方の議員と結んで原子力発電の立地を進めた。そうした地方政界の人々の一部をスカウトして国会議員にした。
また池田勇人首相が作り、のちに福田氏のライバルとなった大平正芳首相の派閥となった宏池会は官僚出身の議員が多く、リベラル色が強かった。それに対抗するため、福田氏は保守色を強め、台湾などとの関係を強めた。「世代は変わったものの、そうした人たちの二世議員や後継者が多くなり、清和会は党内の中で、原子力推進、経済安全保障重視の人が目立つようになった」(同中堅議員)という。
◆歴史の因果が今に影響、批判の対象に
ところが、その歴史の因果が今に影響を与えてしまった。安倍氏の暗殺事件で状況は変わる。統一教会で関係が深いと名前が浮上したのは、安倍派の有力議員が多かった。細田衆議院議長、羽生田政調会長などだ。同派はかつて反共を強く主張したため、それに共鳴した統一教会が、すり寄ってきたのだろう。そして、安倍首相の下で力を持った議員が多かったからこそ、安部氏の批判勢力に狙い撃ちされた傾向がある。さらに安部氏の存在感が大きかったゆえに、彼がいない後で派閥の求心力も党内での力も揺らいでいる。
「旧統一教会の問題では、本当に我々が標的にされるような状況の中で、悲しみと、つらさ、不愉快さも含めて皆さん方が結束を乱さず、耐え忍んでいただいている」。安倍派(清和政策研究会)が9月18日に行った研修会で、同派会長代理の塩谷立衆議院議員(静岡県)は苦しそうに述べたという。今後は塩谷氏を中心にしたベテラン議員が派閥を仕切るようだが、10月15日時点で安倍派の後継者は不透明だ。
さらに岸田文雄首相は、安倍首相に近かった甘利明議員(麻生派)、山際大志郎氏(同)、高市早苗議員(無派閥)から、岸田氏の宏池会の人脈に経済政策の主軸を移すとの観測が囁かれている。実際に9月の内閣改造では、安倍派から西村康稔議員が経済産業相に入閣した。安倍派外しの動きは見られなかったが、その懸念はくすぶる。
◆政治に振り回されたエネルギー業界、影響には警戒を
こうした安倍氏の不在と安倍派の力の低下は、エネルギーと原子力の先行きに影響を与えるかもしれない。前述したように、原子力の活用と電力自由化の問題点の是正に熱心な議員は安倍派に多かった。もちろん岸田首相も安倍派の議員たちも、同じ自民党である以上、経済政策の面で大きな違いはないだろう。しかし岸田首相は経済安全保障やエネルギー政策の正常化に、首相就任まで積極的に関心を示してこなかった。
元経産事務次官の嶋田隆氏が現在は首相補佐官だ。嶋田氏は原子力が動かず、自由化の軋みが出ている今の電力産業の問題を認識しているだろう。しかし経産省の担当者として、そうした政策を推進してきた人物だ。政策の転換よりも、失敗を認めずに、取り繕いを推進するだろう。それは波風を立てない岸田政権の態度と符号しそうだ。つまり安倍氏の不在は、電力の問題の是正のスピードを緩めてしまうかもしれない。
福島原子力事故以来、電力業界は政治に引き摺り回された面がある。こうした政治の微妙な力関係が、ビジネスに悪影響を与えてしまうかもしれない。社会を見る中で、視界の片隅に入れておいてよい動きだろう。