【特集2】脱炭素時代も中核エネルギーへ 世界に先駆けた技術開発に挑戦を

2022年11月1日

これまでと変わらずエネルギー供給の中核を担うことが期待される都市ガス事業。新たな資源エネルギー技術に挑戦し世界をリードすべく国の役割も欠かせない。

松山泰浩/経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部長

―都市ガス事業が始まってから150年。この間にガス事業が果たしてきた役割について、どのように見ていますか。

松山 日本の文明開化と同時に都市ガス事業が始まり、これまで一貫して社会の発展、経済成長に大きな役割を果たし続けてきました。53年前の1969年には、生産国からのパイプライン供給が当たり前だった天然ガスを液化しLNGとして輸入する事業が始まり、日本のエネルギー供給に大きなインパクトを与えました。「液化などばかげている」とさえ言う人がいる中、真剣に取り組み、実現し商業化させ、日本を世界一のLNG輸入国としただけではなく、世界のガスマーケットを大きく変革させ供給体制の拡大をもたらしたのです。今やLNGは、パイプラインガスと並び立つエネルギー市場へと大きな成長を遂げました。業界をけん引してきた先人のご苦労と先見の明には尊敬の念に堪えませんし、これを礎に、私たちは未来を切り開いていかなければならないのだと強く認識しています。

―昨今のエネルギー危機を背景にガスの重要性が再認識される一方、将来に向けた脱炭素化の潮流が加速しています。

松山 資源とエネルギーの利用技術の非連続のバージョンアップを図ることによって、次の時代を模索しなければならない時期に差し掛かっているのだと思います。実際、現在は次の時代の先導権を握ろうと、世界の国々が脱炭素化技術でしのぎを削っています。国家間の勝ち負けというよりも、競い合うことで未来を創るのだと考えるべきでしょう。日本としても、これまで培ってきた技術や知見の延長線上に次世代の技術を作り出し、カーボンニュートラル(CN)の実現に向け世界に先駆けることに挑戦しなければなりません。この歩みは、どのようなエネルギー危機に直面しようとも止まることはありません。

 一方で、それが実現するまでの間は、現在の資源利用を継続することになります。社会をより安定的に維持・発展させていく意味でも、今ある供給システムを盤石にすることは国、そしてエネルギー供給事業者の責務です。一見、CN化と現行システムの維持は矛盾しているようですが、今ある供給システムを守ることが未来への挑戦を否定するものではなく、両立させていきます。

エネルギー構造改革は地域の産業やインフラと一体で進む

変わらないガスの有用性 エネルギー供給の中核担う

―安定供給を維持しながらCNを目指すためにも、ガスは欠かせないということですね。

松山 ガスは、社会生活におけるエネルギー利用の可能性を広げ、底堅い社会の成長や豊かさを生み出してきました。現在も、再生可能エネルギーが主力になった欧州の一部では否定的な見方があるのは事実ですが、大宗を占めるのは、ガスを含む化石資源の有用性を評価し、燃料転換は引き続き大きなツールであるという考えです。CO2削減に電化は大きな効果を持ちますが、一方で、ガス体エネルギーは効率が高い。もっと脚光を浴びるべきだと思いますし、政策としてもそこに力点を置いていきたいと考えています。そして、引き続きエネルギー供給の中核を担うからこそ、ガス体エネルギー、熱エネルギーのセクターは、未来に向けてのトランジションに真剣に取り組まなければなりません。

―都市ガス業界は、業界一丸となって低・脱炭素化に取り組もうとしています。

松山 2020年10月の政府の「2050年CN宣言」を受けて、いち早く未来ビジョンやロードマップ策定の検討に乗り出したのが都市ガス業界でした。エネルギー供給主体としての責任や役割を強く意識した未来を描くよう、動かれたことは素晴らしいことだと評価しています。今後、こうしたビジョンの具体化に向けて、官民を挙げて取り組んでいきます。

―都市ガス原料のCN達成のカギを握るのがメタネーション(合成メタン)です。

松山 メタネーション技術には、排出量全体を減らす上で現実的、有効なアプローチになると期待しています。炭素利用、排出元での処理では、合成燃料(e-Fuel)の議論が進んでいますが、中でもメタンの議論が先行していると認識しています。

 メタンのみで議論が完結しないよう、炭素利用と処理という大きなくくりの中で、社会全体でどう取り組むのか。21年に「メタネーション推進官民協議会」を立ち上げ、製造、利用、設備メーカーが一緒になって具体化するための課題を検討しているところですが、国内外で議論を深め、世界をリードしていけるような新しいシステムを作っていきたいと思います。

メタネーションが実現する 地域社会のCN化

―メタネーションの社会実装は大きな課題です。

松山 そのために大事な概念が「地域」だと考えています。これまで、産業構成に合わせてエネルギーや輸送のインフラが構築され地域は成り立ってきました。今後は、このように成り立ってきた地域社会や産業が、エネルギー構造改革を念頭に既存インフラを活用、革新しながら次を模索してくことになります。産業界の炭素処理のニーズに対し、メタネーションを含むe-Fuel、CCUS(CO2回収・利用・貯留)など多様なアプローチが考えられますし、供給される水素が、メタネーションに利用されたり都市ガス導管を介して直接供給されたり、ガス火力に混焼されたりといった可能性があり、地域の産業構造など特性に合わせた選択が求められます。

―地域経済の衰退が言われていますが、それが地域の競争力、活力につながる可能性がありますね。

松山 エネルギー供給のトランジションを考える上では、地域の産業やインフラと一体で未来を描くことは欠かせません。今ある社会基盤を活用しながら大きな意味でのトランスフォーメーションを果たしていくために、メタネーション技術の確立は大きな意義があります。そして、それに付随するさまざまな産業界、地域、そこで働く人々がさまざまな可能性を模索しながらタイアップしていくことで、地域をベースにした取り組みとして拡がるのです。ガス業界は、既にこうした課題を認識し、その課題解決に貢献していこうと強い意欲を感じます。政府としてもこれを後押しし、官民が一体となってCN社会に向けた地域の革新を進めていきます。

まつやま・やすひろ  1992年東京大学法学部卒、通商産業省(現経済産業省入省)入省。ジェトロ・ロンドン産業調査員、石油・天然ガス課長、経産相秘書官、省エネルギー・新エネルギー部長などを経て2020年7月から現職。