【特集2】持続可能な社会を実現へ 次世代ガス事業の在り方とは
日本ガス協会は4月、「Go! ガステナブル」をコンセプトワードに掲げた。ガスによる持続可能な社会実現に向け、どう取り組もうとしているのか。
本荘武宏/日本ガス協会会長
―脱炭素社会という新時代に向けた、都市ガス業界を取り巻く課題とは何でしょうか。
本荘 10月31日、都市ガス事業は1872年に横浜でガス灯が点灯し事業を開始してから150年を迎えました。これまで、社会や暮らしの変化に適応して成長を続けてきましたが、ここにきて大きな転換期に差し掛かっていると認識しており、脱炭素に向けた取り組みの加速と、エネルギーセキュリティの確保が課題となっています。こうした中、事業のさらなる発展に向け、日本ガス協会として、①カーボンニュートラル(CN)化の実現、②安定供給と保安の確保、③地域活性化への貢献―の三つを主要課題として取り組もうとしています。
安定供給と保安を堅持 低・脱炭素化にも役割果たす
―ガスのCN化には、どのように取り組んでいますか。
本荘 2021年6月に発表した「カーボンニュートラルチャレンジ2050アクションプラン」は、①30年NDC(温室効果化ガス削減目標)達成への貢献、②メタネーション実装への挑戦、③水素直接供給への挑戦―の三つの具体的なアクションで構成しています。わが国の産業・民生部門のエネルギー消費量の約6割は熱需要であり、ガス体エネルギーは熱需要の低・脱炭素化に大きな役割を果たすことができます。まずは、即効性があり確実なCO2排出削減が見込める他の化石燃料からの天然ガスシフト、コージェネレーションシステムや燃料電池といった分散型エネルギーシステムの普及拡大によるガスの高度利用、クレジットでオフセットしたCNLNGの導入を進めることなどで、NDC達成に貢献していきます。
―昨今、世界の天然ガス・LNGの需給ひっ迫や価格高騰が大きな問題になっています。
本荘 安定供給と保安の確保は、どのような局面においても、都市ガス業界の永遠の使命であることに変わりありません。産業界では、相対的なコストや省エネルギー性などを中長期的に見据え、他の化石燃料から天然ガスへのシフトが進んでいます。こうした取り組みを通じてCO2排出量を大きく削減できることは間違いなく、LNGの安定調達に向け国や事業者との連携強化を図るとともに、保安対策や激甚化する災害への対策を一層向上させることで、こうした産業界の要請に応えていきます。―脱炭素化には、メタネーションの実現が欠かせません。
本荘 「e-methane(e―メタン)」(合成メタン)の国際的な認知度を高めるべく、協会として取り組んでいるところです。50年までのトランジション期においては、社会全体のCO2排出量を削減していき、さらに将来的にはガス自体を脱炭素化したこのe―メタンに置き換えることで、シームレスなCN化が可能です。30年には都市ガス導管への注入1%以上、50年には90%以上を目指しており、残る10%のうち5%程度は水素を直接利用することで脱炭素化を達成したいと考えています。
e―メタンは、熱需要の脱炭素化の有効な手段であることに加え、何よりも天然ガスと成分がおおむね同じであることから、ガス導管などの既存インフラをそのまま活用することで社会コストを抑制することができます。国内のエネルギー自給率向上に寄与し、海外のLNGサプライチェーンの脱炭素化への貢献に期待できる点でも、導入には合理性があります。コストは大きな課題ですが、原料となる水素コストの低減に資するサプライチェーンを構築し、50年には1㎥当たり40~50円を実現し、既存の都市ガス料金とそん色のない水準にしていきたいですね。
―新たな制度の整備も必要です。
本荘 CO2カウントルールの整備や、国際的な環境価値取引の仕組みの構築が必要となりますので、協会の企画部内に「国際基準認証グループ」を4月に設置し検討を加速させています。また、30年時点ではどうしてもLNGよりも高コストですから、政府に対しても、FITや直接補助などコスト差を埋める仕組みを検討していただきたいと思います。
「第3の創業」へ 業界一丸で課題を克服
―メタネーションを機に、ガス業界はさらに大きな変革期を迎えることになりそうです。
本荘 ガス協会として、この4月に「Go! ガステナブル」をコンセプトワードとして掲げました。「ガスで実現するサステナブル(持続可能)な未来へ」という意味を込めています。その実現には、ガス事業のCN化と中長期的なエネルギーセキュリティの確保の両立が不可欠であり、その手段がメタネーションの社会実装なのです。半世紀前の天然ガス導入は「第二の創業」と言えますが、メタネーションの実現は、言わば「第三の創業」と呼べるでしょう。決して容易なことではありませんが、幾度となく困難を乗り越えてきた過去の経験を最大限に生かし、業界一丸となって乗り越えていきます。
―脱炭素化や安定供給に向け、地域に根差す事業者の役割も重要です。
本荘 地域に密着した活動を通じ、地域経済の中心的役割を果たしているガス事業者が、人口減少や地域経済の停滞、脱炭素化といった課題に貢献できるポテンシャルは大きいと思います。既に、再生可能エネルギーを中心にエネルギーの地産地消事業の取り組みが一部で始まっており、
地域の低・脱炭素化と経済循環による地域活性化を両立させる取り組みとして注目されています。地域の発展、ひいては地域のガス事業者の持続的な成長につながる取り組みですから、協会としても自治体への提案支援や国などステークホルダーに働きかけるとともに、協会として技術的な面でも事業者をサポートしていきます。

ほんじょう・たけひろ 1978年京都大学経済学部卒、大阪ガス入社。2009年取締役常務執行役員、13年副社長執行役員を経て15年社長。21年1月から同社会長、4月から日本ガス協会会長。