【特集2】液化バイオメタンの実証開始 高純度ガスを多彩な用途へ
【エア・ウォーター】
エア・ウォーターは、家畜のふん尿からつくる液化バイオメタンの実証を開始した。LNG代替に加え、高純度なガス質を生かしロケット燃料などの利用を目指す。
北海道十勝地方で、牛などの家畜から排出されるふん尿を利用して液化バイオメタン(LBM)を生成し、需要家に供給する実証が今年度から本格的に開始となった。
同実証は、環境省が推進する「令和3・4年度地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」において優先テーマとして採択されたもの。エア・ウォーターが中心となり、家畜ふん尿由来のバイオガスに含まれるメタンをLBMに加工。液化天然ガス(LNG)の代替燃料として利用することを目的として、LBM生成から需要家での活用までを実証する。サプライチェーン全体でのCO2排出量、温室効果ガスの削減とともに、家畜ふん尿に起因する臭気の減少にもつながることが期待されている。
電力での利用が困難 ふん尿の扱いに苦戦続く
酪農が盛んに行われている十勝地方は家畜から大量に排出されるふん尿の扱いが課題となっている。春や秋に畑の肥料として散布するが、この臭いが十勝地方の中心部である帯広の街中でも立ち込めることがある。これがイメージダウンにつながり、インバウンド需要に影響すると懸念する声もあるほどだ。一方で、エネルギーとして再利用することに関心のある酪農家は、固定価格買い取り制度(FIT)を活用し、ふん尿をバイオガス化して発電することを模索したが、送電網などインフラに関わる制約から活用は限定的で、長年解決策を見いだせずにいた。
このように、ふん尿をそのまま田畑に散布せず、新たな方策を見いだす機運が高まっていた。
そうした中、バイオガスをエネルギーに有効利用する手段として、エア・ウォーターが産業用ガス事業で培った極低温技術などを応用して同実証のスキームを考案。酪農家や乳業メーカー、同社グループ会社などの参画を受けて実証を行う運びとなった。
実証では、①酪農家の敷地内に設置したバイオガス捕集システムで家畜ふん尿由来のバイオガスを回収し圧縮や前処理を行い、ガスを貯めた吸蔵容器をセンター工場に輸送する、②センター工場で捕集したバイオガスを前処理した後、マイナス162℃まで冷やしメタンガスを液化する、③これを需要家に持ち込みボイラーなどで利用する―ところまで行う。
①バイオガス捕集システムは、今年5月に完成し試運転を実施してきた。酪農家に設置し無人で稼働するため、ガスを1MPa未満で捕集する。高圧ガスの複雑な保安体制を必要としない仕組みにした。ガス吸着剤に関わる知見を活用し、ガスが低圧状態でも容積の約20~30倍のガスを輸送できるものを開発した。装置は酪農家でも運用できるよう簡単な点検を1日1回行うだけで済むようにした。
②センター工場は1日当たり1tのLBMを製造する能力を有する。実証では30~50%程度で稼働させている。1日2台持ち込まれる吸蔵容器から抽出したバイオガスを圧縮した後、膜分離装置などでメタンからCO2、大気を除去。さらに深冷分離装置で液体窒素を用いて熱交換を行い、メタンを液化する。同工場は8月8日完成し試運転が開始となった。9月4日からは純度99%以上のメタンが製造可能に。10月13日には同センター工場からLBMが初出荷された。

③出荷されたLBMは、需要家であるよつ葉乳業でLNGと混合してボイラーで燃焼試験を実施している。11月からは、同社と三菱商事が共同で実証しているLNGトラック向け充填所にも出荷していく予定だ。
地球環境システム開発センターの田中真子部長は「燃料としてのLBMはメタン純度が99・99%(フォーナイン)と非常に高いのが特徴です。そうした品質が求められる用途向けにも展開していきたいです。LNGトラックには重質分が含まれていないことから火炎温度が上がらず適しているとされています。また十勝地方の大樹町には堀江貴文氏が設立者に名を連ねる宇宙ベンチャーの『インターステラテクノロジズ』があります。このロケット向け燃料として、高純度なメタン燃料であるLBMは非常に有望です。高付加価値向けにも訴求したい」と強調する。

LBMの都市ガス利用も 道内の複数地域に展開
地元の都市ガス事業者でも、LBMの導入を検討する動きがある。都市ガス大手3社に限定されているが、エネルギー供給構造高度化法で、条件を満たす余剰バイオガスについては80%以上を利用することが目標と位置付けられているのだ。
今後、こうした法律が地方ガス事業者にも適用される可能性がある。このため、LBMの取り組みに注目をしているとのことだ。
エア・ウォーターでは、道内の他の地域でもLBMサプライチェーンの展開を模索している。北海道産の新たな地産地消エネルギーとして、今後さらに注目を集めていきそうだ。