【コラム/11月8日】電力料金負担緩和策を考える~電力システム改革で低下した対応能力
飯倉 穣/エコノミスト
1,エネルギー価格の高止まりが継続している。米国の金融引締め政策の影響でドル高・円安も懸念材料である。公共料金であった電気・ガス料金の値上げが、消費者物価を押し上げ、国民の不満を募る。政府は、企業・家庭向け電力料金等軽減策に執着し、総合経済対策(22年10月28日)に盛り込んだ。報道は伝える。
「電気代支援1月にも 政府、ガス料金も軽減 財政支出バランス懸念」(日経10月15日)、「家庭電気代2割支援へ 1月以降 財政負担兆円規模」(朝日27日)。「総合経済対策 エネ高騰対策 脱炭素に逆行 歳出膨張 強まる懸念」(日経29日)、補助金は、企業向け3.5円/KWH、家庭向け7円/KWHのようである。
今日不安定な政策が後を絶たない。果たして政府補助金は、今後の日本経済の活性化に寄与するであろうか。改めて電力システム改革後の電気料金軽減策を考える。
2,資源エネルギー輸入価格の上昇は、経済にどんな影響を与えるのか。繰り言だが、マクロ経済的に見れば、輸入エネ価格上昇は、所得の海外移転で当面縮小均衡調整となる。
価格転嫁で諸物価を引上げ、需給調整等を通じて、次の経済均衡点を模索する(数%低下見込み)。価格上昇の原因は国内でなく海外なので、現実を受容せざるを得ない。
働く人(消費者)は、当然生産性向上がなければ賃上げがない。観念して、その価格上昇を受忍せざるを得ない。その状況から脱却するには、当面新価格容認(価格転嫁)、消費量減(所得効果)、中期的に他の安定的な財の開発・生産(代替効果)、生産性向上(成長模索)等である。それが市場経済の自然な姿である。
3,近時の政府は、上記のような見方を国民に知らしめ、節約の協力、価格の容認を求めず、経済変動を軽視し、経済水準維持を声高に叫ぶ。要請等も曖昧なまま、高騰分緩和の補助金給付という政策に走る。昨年決定のガソリン価格激変緩和補助金であり、今回は電力料金等抑制のための補助金となる。その問題点は何か。
4,多くの企業は、急激な変動に戸惑う。屡々企業人は、コスト高対応の調整・期間等を確保する意味で緩和策の導入を叫ぶ。今回も世論意識で電気代軽減という思いつきが浮上した。ポピュリズム的ではなかろうか。
大事なことは新価格体系への迅速な適応である。各企業は、価格高騰となれば、使用するエネルギーの合理化、代替品の導入・開発等の対策を打つ。個人も代替品がなければ、消費量を削減する工夫を行う。ここでは経済の担い手の合理的行動が、改善をもたらす。調整期間は、一般企業の場合、高価格の継続性を睨みながら、1ヶ月(節約)、3ヶ月(代替品か仕入れルート)、半年(合理化)、1~2年(設備投資)程度の対応策を検討するであろう。対応に補助金不要である。補助金は、適応を長引かせ、企業活力を低下する危惧がある。それは市場を歪曲し、人為的コストの嵩上げで経済調整を遅延させる。創意工夫こそ企業の生きる術である。
5,電力業はどうか。エネルギー産業は、原油・LNG価格上昇の直撃で、コスト増となり収支維持のため価格転嫁が必要になる。勿論合理化等でコスト増を吸収する努力を行い、又値上げに伴う需要減も考え、さらに競争力を確保するため値上げ幅も要検討事項である。基本は、企業存続・活動に必要な収支の維持である。企業であれば当然である。私企業であろうと公的企業でも変わりない。
6,電力システムの有様が、電気料金値上げ幅や時期に微妙に関係し、政府の対策を左右する。政策手段として適当か否か議論もあるが、過去の9電力(需給調整・料金規制・総括原価)のような公益事業なら、原価・事業報酬の査定、意見聴取の場(公聴会)もあり、必要な情報公開もあることから、値上げ幅・日程に納得感がでる。又料金引き上げの若干の遅れで生じる収支のずれがあっても、金融サイドは、信用力の評価で、査定の余裕があろう。
一般企業であれば、価格転嫁に伴う原価が必ずしも合理的かわからない。且つ競争下では、合理化もあろうが、価格付けは企業任せである。且つ競争的な市場の一般企業の場合、金融サイドの収支の見方はより厳しくなる。故に早急な価格転嫁が必要となる。
7,値上げは当然でも、業態で需要家の受け止め方も異なる。値上げに対し需要家の理解を腐心せず、私企業の価格面への政府関与はいかがであろうか。公益事業なら、料金値上げの幅や時期の検討で需要家が認容せざるを得ない環境を作りやすい。輸入価格高騰に伴う物価対策なら、国民にとり現行システムより公益事業体制のほうが分かりやすい。
8,既述したように企業・個人の適応軽視、不満対応の政策は、方向を歪め、経済の展開を遅らす。企業は水膨れのまま、消費者は環境適応できない状態を現出する。経済論的には、電気料金引き下げの補助金が、なぜ必要なのか首を傾げる。また中長期的影響も懸念される。まして電力自由化・市場重視の下では、さらに意味不明である。
適切な対応とは何か。縮小均衡調整の下で、企業は、新価格に対応した適応を図る。合理化を進め、創意工夫を行う。個人も消費行動の合理化を模索する。政府のあるべき施策は、一時的な緩和策でなく、スムーズな適正な価格転嫁とその監視であろう。企業・個人の新環境への適応を促進することこそ、経済的ショックへの適切な対応である。また電力システムの在り方として、海外ショックへの対応では、公益事業体制が優れているようである。現システムの見直しこそ必要である。輸入価格高騰というショックは、臥薪嘗胆とまではいかなくとも、資源少なく人多い日本列島の現実を考えて対応すべきである。
【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。