【目安箱/11月25日】米中間選挙とトランプ再出馬 エネルギー政策への影響は?
米国で11月8日に連邦議会議員の中間選挙が行われ、15日にトランプ前大統領が2024年に大統領選挙の出馬を表明した。上院は多数派を民主党が占めるものの、下院は共和党が過半数以上を占めるねじれ状態に。トランプ氏が大統領選挙で勝てるかは不明だが、彼を中心に米国の政治が回っていくことは間違いない。報道とこれまでの動きからの表面的分析だが、日本ではこの問題で、あまり情報がないので整理してみたい。

◆一理ある共和党保守派のエネルギー批判
共和党保守派は2月のウクライナ戦争の後で、エネルギーを軸に、バイデン政権を批判した。
テッド・クルーズ共和党上院議員(テキサス州)は、バイデン政権の2つの過ちが、ウクライナ戦争を誘ったと、指摘している。21年に行われたアフガニスタンでの米軍の無様な撤退。そして同年にトランプ政権が課していたロシアからバルト海を通じてガスを供給するノルドストリーム2への制裁を、バイデン政権が解除したことの2つだ。
マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)は、世界最大のガス・石油の産出国であるアメリカが、自由に開発と輸出ができなくなったからプーチン大統領が利益を得て増長したと主張。バイデン政権は、オバマ政権と同じように、環境ビジネスへの投資を促すグリーン・ニューディールを掲げているため、ルビオ議員は「最大の対ロシア制裁は、今すぐ愚かなグリーン・ニューディールをやめることだ」と述べている。
2人の発言は保守系のFOX Newsで今年3月配信されているのを筆者は見たが、同趣旨の演説やTwitterを2人は繰り返している。意見への共感もかなり多い。そして、この選挙で共和党の議員は、中道派でも似た意見で、バイデン政権を批判していた。今後、こういう認識と主張が、米国で一定の割合を占めるはずだ。
トランプ氏はまだ大統領選挙の公約を発表していない。彼は大統領の在任期間中、石油、石炭産業の支援を行い、気候変動問題については懐疑論に飛び付かなかったものの、米国の雇用を守るためとしてパリ協定を脱退した。
トランプ氏はその個性の強さが注目されがちだ。しかし、その政策では、共和党が掲げるマニフェストを着実に実行したものばかりだった。エネルギー政策では特にそうだ。彼はエネルギー問題で共和党保守派の議論に乗ってくるだろう。
◆世論調査で示される米国の分断
興味深い記事を読んだ。エネルギー論客である山本隆三氏が(常葉大学名誉教授)「米中間選挙の争点−エネルギー問題が日本に与える影響」というWedge Onlineの記事で、米国での世論調査をまとめている。
「クイニピアック大学が11月2日に発表した世論調査では、最も喫緊の課題は何かとの質問に対し、36%がインフレを挙げ、次いで10%が中絶の権利を挙げているが、共和党、民主党支持者間で大きな違いがみられる。共和党支持者の57%がインフレ、15%が移民問題を挙げたのに対し、民主党支持者は中絶の権利が19%、インフレが15%となっており、関心は大きく異なっている。」(以上記事)
米国の分断が指摘されるが、こうした意識の面からも、うかがえる。経済が低迷し、インフレが米国でも顕在化している。2024年の大統領選挙と、次の連邦議会選挙に向けて、共和党はインフレと経済を中心に論戦を仕掛けるに違いない。結果として世界のエネルギー需給・価格と各国の気候変動政策も影響を受ける。
◆気候変動を巡る対立は長期化しそう
米国は、議会の立法権限が強く、それが具体的で、政府の政策を規定する。8月に民主、共和両党合意の下に成立した「インフレ抑制法」は、10年間で約3700億ドル(約55兆円)のエネルギー・気候変動関連の支出をすることを決めた。補助金、アメリカらしく税額控除で支援をする。再生可能エネルギー、小型モジュール炉、水素製造、E Vのなどが対象になる。これらの産業をアメリカの政治家は党派を問わずに、これからも支援するだろう。
ただし前出のガス、石油などの資源貿易と米国内の生産では、党派的な対立が見込まれる。また気候変動をめぐる国際交渉でも共和党は、民主党攻撃を続けそうだ。バイデン政権は2050年に温室効果ガスの純排出量ゼロを宣言している。それは不可能そうだが、その目標を下さない以上、化石燃料を抑制する政策は転換しそうにない。
前述の2人の議員の発言は誇張された面がある。米国の産油量は、連邦、各州政府の政策が影響することは確かだが、市場原理によって左右される点が大きい。その産出は3−4年前に大幅に減ったが、直近2年ほどは増加している。しかし政治では事実よりもイメージが大切だ。「バイデン政権と民主党が政策の失敗で、エネルギー価格を上げている」という主張は、共和党支持者の耳に心地良いだろうし、トランプ氏もそこを攻めてくるだろう。
日本は米国でのビジネスで収益を上げる企業は多い。また気候変動交渉では、日米が協力して結んだ国際協定を2回も米国が脱退する経験をしている。京都議定書とパリ協定(バイデン政権では復帰)だ。もちろんそれに関心を向ける世界の大きな流れは米国政府でも変えられないだろうが、微妙に影響を与えるに違いない。政府も民間も、米国の政策に縛られた行動をするのではなく、いつでも米政府の勝手な方針転換に対応できるように、柔軟な構えをしておいた方がよさそうだ。