【目安箱/11月28日】好調な日立の危うさ 原子力で転んだ東芝と類似?

2022年11月28日

エネルギーの現場を歩くと電力でもガスでも、前から多かった日立の計測機器類、システムがこの10年でさらに増えた印象がある。I T化の動きにも対応し、より使いやすく、正確になっている。技術者など社員の努力に加えて、川西隆氏、故・中西宏明会長らの経営者の改革が実を結んだ結果だろう。ところが、中の人から見ると、絶好調から一転して経営危機に陥った東芝に「似ている」という声がある。エネルギー分野での心配という。本当のところはどうなのか。

◆足元絶好調、死角なし?

日立グループが10月28日に発表した中間決算発表は好調だ。⑳20、21年度と連続で過去最高益を出した強い成長は継続。22年度上半期(4~9月)の連結業績は、売上高が前年同期比12%増の5兆4167億円。円安による為替影響と電機、重電の世界的な市況回復傾向が影響した。

売り上げの伸びの中心は計測分析システムの好調と、20年に1兆円で購入したソフトウェア開発の米国のグローバルロジック社の効果だ。さらに、分析システムの機器と連携し、顧客のデータを使いシステムを共同で作り上げる「Lumada」事業も広がりを続けている。通年の売上高予想は、期初比5500億円増の10兆4000億円。ただし当期利益は変わらず6000億円となっている。

ウェブ会見した河村芳彦副社長は、この好調さにもかかわらず先行きで慎重な見方を示した。世界的なリセッションと中国ビジネスの不透明感を当面は警戒し、「地政学リスクを考慮すると、一部の拠点を国内や同盟国に戻すこともあり得る」と述べた。

◆財界活動を引き受けた悪影響

この決算を見ると、日立の行く末に問題はなさそうだ。ところが元幹部によると、「東芝に似ていないか」という声が社の内外に囁かれているという。特に、電力に関わる面に不安があるそうだ。この人によると、東芝と2つの類似点がある。

第一は、財界活動に巻き込まれ、本業が悪影響を受けることだ。

東芝は古くは、石坂泰三、土光敏夫という名経営者が会社を飛躍させ、その後に経団連会長になった。同社は三菱、三井、住友以外の非財閥系企業で、財界の中では中立的立場だ。そのために経団連会長になりやすい。東芝を、一時、重電、原子力で2000年代に成長させた西室泰三氏(1935-2017)は、亡くなる直前には、財界、本業以外の活動に積極的だった。05年に会長から相談役になった後で、公職を歴任した。

ところが西室氏は、社長を務めたゆうちょ銀行で不祥事の責任をとらされ、16年に退任。さらに東芝の経営危機は、西室氏が敷いた原子力への積極策が影響したとされる。西室氏の指名で後任になった西田厚聡元社長は利益水増し、原子力分野の巨額の買収の失敗などの失策を行なってしまった。

日立は2008年度決算で、約7800億円の赤字決算を出した。その際に、子会社転出後の役員らを呼び戻し、幹部を入れ替えた。川村隆氏(1939-)、中西宏昭氏(1946−2021)はその時、子会社の経営者から日立本体に復帰し、大規模なリストラと、今の重電、電子ソリューション分野への注力の路線を敷いた。

日立は、東芝と違って財界活動にはそれほど関心を示さなかった。いまは昔と違って各社とも経営に余裕はないし、利益にもつながらない。14年には川村氏が経団連会長に推薦されたが就任を固辞。中西氏は経団連会長に18年から就任した。当初は就任を固辞したが、今の財界の人材不足と、ふさわしい大企業がなかったために、引き受けてしまった。

川村氏は17年に東京電力会長に就任するが、20年に退任してしまう。早期の退任は年齢面もあるが「事実上国営化され自由に行動できない東電の経営の自由度を上げようと動きはじめ、政府に嫌がられた」(電力筋)という説もある。日立幹部O Bによると、こうした財界活動に引き込まれると、日立の経営に悪影響が出かねないという懸念が会社にあるという。

現在の東原敏昭会長、小島啓二社長は、中西氏に近い人材、その路線の忠実な後継者とされる。「危機の際に自発的に、同じ対応ができるか疑問」(日立幹部OB)という。

◆原子力の束縛の悪影響も

東芝との類似点の第二点は、原子力を巡る問題だ。筆者が懇談した日立幹部O Bは原子力の経歴はなかったが、こんなことを述べていた。「原子力に関わる人は、それを発展させなければいけないと、思い入れを持つ。川村さん、中西さんもそうだ。しかし国策であり、一企業ではどうしようもない。東芝はそれで転んだ」。経歴では中西氏はI T・システム中心だが、川村氏は原子力、発電畑の出身だ。2人とも原子力の必要性をことあるごとに強調していた。

20年の日立の英国からの原発事業の撤退では、同社は3000億円の損失処理を余儀なくされた。これは中西氏主導のプロジェクトだった。その失敗には、日英経済協力の外交案件になって、また英政府の政策変更に翻弄された気の毒な面があった。ただし撤退が遅れたのは、「中西さんらしくなかった。経団連会長職による束縛と、原子力への思い入れのためかもしれない」(同)。日立・G Eの原子力事業は次の成立しそうな案件は見当たらない。一方で中国、ロシア、韓国企業は世界で攻勢をかけている。

現在、日立は子会社の整理が終わり、前述のグローバルロジックなど巨額投資の結果を待っている状態だ。現時点では業績上の効果が出ている。しかし10年に原子力への巨額投資が一巡した東芝でも、似た姿があった。また独シーメンス、成長中の中国企業などとの競争の中で、システム、重電分野の日立の優位局面は長く続くとは限らない。

財界活動と原子力。この東芝をつまずかせた2つの問題をきっかけに、好調の日立の業績が暗転する可能性があるかもしれない。