【特集2】ガス漏れを検知する「スマート兄弟」 保安の高度化に資する二つの製品
【東京ガスエンジニアリングソリューションズ】
人口減少に伴う建物の老朽化などが進む中で、スマート保安が求められている。東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は、都市ガス事業を通じて培った技術を商品化し、保安の高度化に貢献する。TGESがガス事業者向けに販売するのは「スマート兄弟」―30m先までレーザー光線を照射しメタンガスを検知する「レーザーメタンスマート」と、ガス配管の気密が保たれているかを圧力を用いて検査する「セーバープロスマート」だ。
レーザーでガス漏れ検査 離れた場所から検知可能
レーザーメタンスマートには、特殊なレーザー光線が用いられている。ほかのガスには吸収されないが、メタンに当たると吸収される、1・6μ m(ミクロン)という波長の光だ。このレーザーを照射すると、ガス漏れがない場合は反射する光が検知される。ガス漏れがある場合はメタンに光が吸収されるため、反射する光が減少し、ガス漏れと判断される。ガス漏れを検知すると、アラート音とLEDの点滅で知らせ、表示部に測定値を表示する。さらに検知時にレーザーを照射していた部位の画像と測定値をクラウドに送信できる仕組みも実装する。また、レーザーを使用して計測するため、光を透過するガラス越しでの検知も可能となっている。
同製品の最大の特長は、ガス漏れを遠隔で計測できる点にある。従来の検知方式には、ガスが触れるとわずかに燃焼しその温度変化を検知する接触燃焼式や、ガス分子により抵抗値が変わる性質を利用する半導体式などがある。どちらの手法も、作業員がガス設備の近くで計測する必要があり、高所や橋の下、私有地など立ち入りが難しい場所の検査は一苦労だという。点検は法律で義務付けられているため、ガス事業者は大幅なコストを掛けて、こうした点検を実施してきた。「現場付近まで行かなくてもガス漏れを検知できることは、ガス事業者の究極の夢」と、企画本部経営企画部技術企画グループの安部健技術顧問は話す。

これまでレーザー式のガス漏れ検知器は、他の製品の補助にとどまっていた。しかし、日本ガス協会が6月に発表した「供給管・内管指針」では、単独での漏えい検査方法として認められた。
レーザーメタンスマートの測定値の単位は、絶対濃度のppmにガスの厚みのmを掛け算した「ppm・m」となる。レーザーがどのくらいメタン分子にぶつかったのかで数値を算出するからだ。ゆえに、ガス漏れの場所や広がりの速やかな特定を得意とするが、漏れているガスの濃度を測定することはできない。従来の接触燃焼式や半導体式ではppmを計測しており、測定値の単位が異なるため、単純な性能の比較は難しいという。同製品と従来方式、それぞれの特質を理解して使用することが推奨されている。
レーザーメタンスマートの製造はガスターが手掛けている。製造数は年間500~600台ほど、レーザーメタンシリーズはこれまで計6000台ほどを製造してきた。その購入の9割は海外からだという。200社ほどの海外の代理店網を生かし、販売を拡大中だ。インフラの老朽化が進む米国ニューヨーク市の消防局では、約500台を導入。アメリカの環境保護庁が提唱する「Leak Detection and Repair(LDAR)」という、ガス漏れの発見から修理までを一気通貫で行うための管理コンセプトを導入している。 同製品ではガス漏れを検知すると、即座に画像と測定値がクラウド上に保存され、改ざんのない記録が蓄積されていく。LDARプログラムでは、こうした記録をデジタルで管理しないと罰則規定もあるという。「海外ではガス事業者の独自判断で導入するので、普及が進んでいる。日本ではスマート保安の新たな形として採用されたことが、非常に大きな一歩。保安の向上に寄与することがわれわれの責務だと考えている」(同)
温度補正機能が特長 3社共同で開発
もう一つのセーバープロスマートは、気密試験を行う機器だ。気密試験は、ガス管の両側を塞いだ状態で圧力をかけ、管の中の圧力の変化でガス漏れを検知する手法。正常だと圧力は変化しないが、ガス漏れがあると圧力は低下する。

同製品の特長は温度補正機能にある。気密試験を行う際、気温が上がりガスが膨張すると、ガス漏れがあっても圧力が上がってしまう。反対に気温が下がると、ガス漏れがなくても圧力は下がってしまい、いずれにしても正しく計測することができない。この課題を解決すべく、同製品ではガス管内に圧力をかけるのではなく、内と外の圧力が同じになるよう設定。ガス管内外の圧力が同一のため、圧力に変化があれば気温の影響であると推測できるという仕組みとなっている。
セーバープロスマートに用いられている技術は、エイムテックが開発・製品化したものだ。TGESと東洋計器がエイムテックと共同で都市ガス用の製品を開発し、2018年には日本ガス協会の技術大賞を受賞している。
TGESは、これら「スマート兄弟」のさらなる導入拡大を通じて保安の高度化を推進していく。