【コラム/12月9日】卒FIT時代の再生可能エネルギー
渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 社長室長
以下は、JEPXの取引ガイドの「日本卸電力取引所(J E PX)の役割 はじめに」に以下の記載がある。
【そもそも電力事業とは,「発電」「送配電」「小売」の3つの事業から成り立ちます。2016年4月以降,電気事業法の改正により,これまで一般電気事業者(電力会社)や特定規模電気事業者(新電力)と統合されていた電力事業を,この事業類ごとに3つに分離されるライセンス制が導入されます。また,2020年までに法人格にグループ化されることも法定されています。事業ごとに分離するということは,それぞれの事業単位での利益を追求していくことになります。例えば,“発電事業者は効率的に発電して高く電力を売る”,“小売事業者は自社の顧客の電気を効率的に卸買いし,それを顧客に届ける”などの活動となります。この発電事業者と小売事業者の間の電力売買の仲介役として,取引所は機能します。取引所での取引を中心として,発電事業者は他の発電事業者より有利となるよう発電効率の向上に努めなければ,売ることが出来なくなります。小売事業者は取引所の価格を仕入れ価格の基準として,取引所から仕入れた電気に,自社の工夫,強みを付加して顧客に届けなければ,顧客に選んでもらえません。
このように発電事業者間,小売事業者間の競争が活発になってこそ,電気事業全体での効率化が図られ,日本の電気事業はさらに発展していくものと考えます。それこそ電力自由化の目的であると考えます。そのためにも安心できる売買を,日本で唯一の卸電力取引所であるJEPXが責任を持って担っていかなければなりません。信頼できる取引所として,JEPX が果たすべき役割を皆さんとともに考え,取り組んでいくことができれば幸いです】
さて、再生可能エネルギーは、FIT→FIP→Non-Fitという流れになっていく中で、発電事業者や電力小売り事業者等はこのJEPX市場において取引をすることが益々増えていくだろう。事実、2007年12月3日のTTVは5,774,500kWh→2022年12月3日のTTVは887,811,500kWhとなっている。直近3年間は8-9億kWh/日の取引量だ。
年月日(受渡日) | TTV(kWh) |
2007/12/3 | 5,774,500 |
2012/12/3 | 24,251,500 |
2017/12/3 | 190,695,500 |
2020/12/31 | 816,192,800 |
2021/12/3 | 910,994,650 |
2022/12/3 | 887,811,150 |
ここで①~⑤までのシステムプライスのグラフを見てほしい。①は今から15年前の2007年12月3日のグラフで、夜間が安く(6.25円)、朝方上がりはじめ、お昼に一旦下がって、午後は夕方まで高止まり(15円前後)、夜間に下がる。これはある意味再エネ導入量が少なく、また今のような電力需要が逼迫していない状況を表していると思う。
①2007/12/3受渡分

では直近の②の2022年12月3日はというと、夜間が高止まり(20円)、朝方から昼に向かって下がり、(12時で2円)、また夕方に向かって上がり、夜間に向けて下がるものの20円台くらいで推移している。
②2022/12/3 受渡分

その1年前(③のグラフ)も夜間でも10円超で朝方に向けて上がり、その後お昼にかけて下がり、そこから夕方に向けて上がり(夕方は30円)、夜間も下がりはするが、10円を超えている。
③2021/12/3受渡分

電力の逼迫が騒がれ始めた2020年12月の中旬過ぎ、その後年明けには200円を超えることになったのだが、④は2020年の大晦日のグラフである。夜間が20円以上で高止まり、朝方に40円近くまで上がって、お昼に向けて下がり、夕方に向けて上がる。
④2020/12/31

2017年12月3日(⑤のグラフ)は電力逼迫の年ではなかったので、価格は夜間で10円を超えてはいないが、お昼が一番安く、夕方が高い。
⑤2017/12/3受渡分

こうしてみると、やはり太陽光発電所の導入量が増加し、その発電量が減少する夕方に需給バランスが崩れて高くなるという傾向は今後益々顕著になってくるのではと考える。
今後、発電事業者であれ、小売電気事業者或いは需要家であれ、再エネ(特に太陽光)が普及することで、時間帯による価格が違うことを意識していくことになるであろう。
FIP制度が導入され、「丸紅と東急不、FIT太陽光をFIPに切替、市場高騰でFIPが有利に」といった記事も最近目にしたが、(FIPのメディア関連は主に太陽光のような気もするが)、太陽光は日中にしか発電しない。FITであれば、時間帯による発電量など気にせず、発電量×FIT単価=売電収入で良かった。月次レベルで日射量の違いを考慮する程度の因数分解だ。これが市場取引が前提となっていくと(相対取引でも市場価格を参考にしながら相対価格を決めるであろうことも含めて)、市場高騰といっても、どの時間帯で高騰しているかまでを見なくてはならない。②のグラフのように夜間や夕方が20円を超えてもお昼は2円なら太陽光発電にとっては高騰とは言えない。どの時間帯で、どのくらい発電し、時間帯毎の単価をいくらで想定するのかが重要となる。昼間にどんなに発電量が増えてもここ数年の傾向をみると単価は高くなく、高い単価の夕方の発電量は多くない。
一方、風力発電であれば、基本、24時間発電する。直近の傾向をみると夜間でもそれなりの単価(10~20円台)が見込める可能性がある。24時間発電できることがボラティリティの高い事業の予見性が見えないリスクなのか、収益機会が多いと考えるのか、発電事業者は今後このことを分析していくことになるだろう。
需要サイドにしても、例えば、デジタル化が進むとデータセンターの存在感は益々増し、24時間電気を必要とする。動画やオンラインゲームをする機会が増えたり、サッカーのワールドカップではないが、夜中の中継、しかもテレビだけでなく、インターネットとなればそれなりの電力量になる。我々の生活スタイルの変化が電力の需要カーブを変え、それは時間帯での電力単価がこれまでと異なることを意味する。そういうことを考えながら、今後再エネは普及していくことになるであろう。従って、蓄電池の活用はいよいよ重要になってくる。今後、太陽光発電で価格の安い昼間は電気を貯め、夕方に売るということを実際に行う発電事業者の話題がきっと出てくるだろう。早くそういう事例がメディアに取り上げられる日を見てみたい。
(出典)
取引情報:スポット市場・時間前市場|JEPX
丸紅と東急不、FIT太陽光をFIPに切替、市場高騰でFIPが有利に – ニュース – メガソーラービジネス : 日経BP (nikkeibp.co.jp)