【目安箱/1月12日】冬の停電危機、「嫌われもの」の火力と原子力が救う
◆電力会社の早期稼働の努力
2023年初頭の冬は、電力不足と停電が確実視されていた。ところが電力会社の奮闘で、「嫌われもの」である原子力と火力が稼働して、その停電の危機を止めた。このことを、多くの人は知らない。
以下は2023年初頭の電力予備率(2023年初頭の電力予備率の予想。22年6月と同12月段階)の状況だ。
(図)

予備率が東京電力管内では22年6月の時点で今年1月、2月にマイナス、その他の地域でもゼロに近いと予想されていた。政府は、7年ぶりとなる今年冬の節電要請を昨年夏時点にしていた。ところが問題は解消されそうだ。電力会社が頑張って供給力を増やし、12月の予備率は全国で5%前後に回復した。まだ危険な状況であるが、停電が確実な状況ではなくなった。
◆電力会社の奮闘、次々と石炭火力が運転開始
この理由は嫌われものである火力や原子力の発電所が、新規稼働、再稼働して供給が増えたためだ。

2022年の8月には、JERAの武豊火力発電所5号機(107万kW、愛知県)、同11月には中国電力の三隅発電所2号機(100万kW、島根県)が営業運転を開始した。JERAは東電と中部電の合弁火力発電会社だ。神戸製鋼所も22年度中に神戸で65万kWの石炭火力の営業運転開始を予定している。これらはすべて高性能の石炭火力発電だ。
さらに21年3月の福島県沖地震で破損して一時停止した東電の広野火力発電所の石炭火力である5、6号機(計120万kW)も、22年には通常運転に戻った。また関西電力は美浜原子力発電所3号機(82万kW)を22年8月から再稼働をしている。いずれの発電所も、当初の稼働予定を前倒した。
このほか、JERAが保有する姉崎5、6号機(計120万kW、千葉県)、知多5、6号機(計170万kW、愛知県)、四日市4号系列(58万kW、三重県)などの老朽LNG火力も供給力の戦列に加わっている。こうした事情から、経産省・資源エネルギー庁の出した昨年6月時点の見通しが大きく変わった。真冬の停電の危機から日本を救った、電力会社の人々の取り組みに深い敬意と感謝を述べたい。
◆当事者は石炭火力の活躍をなぜか沈黙
中でも石炭火力については、4~5年前に計画したものが完成した。各種電源の中では、一番早く建設ができる。また燃料となる石炭は、各種エネルギー源の中で比較的調達が容易だ。原子力は原子力規制委員会の過剰規制、特にテロ対策などの特別重要施設の工事で遅れていた。いずれも電力会社と協力会社の努力で、完工が早まった。
にもかかわらず、当事者である電力会社、電力供給の増加を支援する立場にあるエネ庁はなぜか、石炭火力と原子力によって電力危機が解消に向かったという事実の広報に積極的ではない。変な批判を受けることを避けようとしているのだろうか。
石炭火力はCO2排出量が多いため、国際環境NGOなどの批判にさらされている。東芝グループなど日本企業が最新型の石炭火力プラントをバングラデシュのマタバリ石炭火力発電所で使う計画があった。ところが、住友商事とJBIC(国際協力銀行)、そして日本政府は22年春にこのプロジェクトから撤退してしまった。環境への配慮のためとしている。まだ売り込みは続いているが、この発電所の増設も頓挫しそうで、現地の人も困っているという。
スウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリの関係する団体「フライデー・フォー・フューチャーズ」が、住友商事の株主総会に押しかけるなど、過激な反対行動が内外で見られた。同社などは明言していないが、そうした反対運動が影響した可能性がある。こうした団体の活動の背景は不明だ。
◆石炭、原子力の有効性を今こそ語ろう
しかし、自分の財布が痛むという現実を前に、世論は変わり始めている。
電気料金の上昇が、社会のさまざまな場所に悪影響を与えている。東京国立博物館の館長が、文藝春秋誌に寄稿し、ネットで1月9日に公開されて騒ぎになった。同博物館は年間予算20億円しかないが、2022年度には主に電力の光熱費が前年度の2億円から4.5億円に倍増し、運営に支障をきたしているという。
いわゆる左派の人たちは「自民党政権と岸田文雄首相が文化をなおざりにしている」「財務省が悪い」と政府批判に使った。しかし、その他の人が「あなたたちは原子力に反対しているからこうなった」と言い返し、ネットで議論が盛り上がった。日本人は愚かではない。エネルギーを巡る事実をしっかり認識している人たちがいる。
気候変動問題の活動家の人たち、有識者と称する人たち、メディアは、今回の電力危機や、続く石炭火力の再稼働には沈黙している。これは日本だけでなく、世界的に観察されることだ。2022年2月からのウクライナ戦争で、エネルギーにおける脱ロシアの動きが強まり、世界的にエネルギーの供給不足と価格の上昇が起きた。欧州は日本よりもエネルギー価格の上昇が激しい。その現実を前に、地球環境を巡る過激な主張ができなくなったのだろう。
気候変動は大切な論点だ。しかしエネルギーで日本と世界の「今そこにある危機」は安定供給と価格上昇の抑制である。その問題を、ある程度解消するのが、エネルギー源としての火力と原子力を活用することだ。当事者である電力業界、産業界、そして政府は、その事実を明確に述べ、その道を進むことを隠さずに堂々と宣言してもよいと思う。「ノイジーマイノリティ」は声の大きさはあるものの、現実を動かす力はそれほどない。そうした声に萎縮の必要はない。