三隅2号運開で今冬の供給力積み増し 非効率石炭火力フェードアウトに貢献
【中国電力】
中国電力の石炭火力・三隅発電所に、最新鋭で発電効率の高い2号機が新たに加わった。
全国的に厳しい需給予想の今冬を前に供給力を積み増すことができ、安定供給への貢献が期待される。
島根県浜田市三隅町にある中国電力の三隅発電所2号機(石炭、100万kW)が2022年11月1日に営業運転を開始した。2号機の発電方式は最新鋭の超々臨界圧(USC)で、着工から丸4年かけて運転開始に至り、1号機(USC、100万kW)と併せた同発電所の出力は200万kWに達した。他社電源を含めて中国地方最大の発電所になり、同社の需要の3割を賄う電源だ。今冬、全国的に電力の需給ひっ迫が懸念され、経年火力も駆使しての供給力確保が至上命題となる中、最新鋭石炭火力という大きな戦力が加わった格好だ。

河本修一所長は、「建設工事にご理解いただいた地域の皆さま、そして工事従事者の方々のおかげで、予定通り三隅2号の運開を厳寒期に間に合わせることができた。当社として新規の火力発電所を運開するのは、大崎発電所以来22年ぶり。総出力が倍増した三隅発電所が安定供給の中核を担えるよう、所員一丸となって取り組んでいく」と意気込む。
経年火力削減を後押し バイオマス混焼率の拡大も
三隅発電所は1号機が1998年に運開し、当初はそこから間を置かずに2号機を建設する予定だった。しかし当時は原子力ルネサンスの真っただ中。その後、11年3月に東京電力福島第一の事故が発生し、一転して全国的な石炭火力計画ラッシュを迎える。同社も火力電源入札を行い、16年に自社応札での落札が決定。1号機運開から足かけ20年でようやく建設工事に着手した。
着工後もさまざまな苦労があり、中でもコロナ禍での対応は最大の難関となった。新型コロナウイルスの感染が急拡大した21年4~6月ごろには、2号機建設工事に1号機の定期点検も重なり、ピーク時には4000人ほどが構内で作業していた。関係者の間で感染が拡大し、濃厚接触者も含め待機を余儀なくされたため、作業が遅延する局面もあった。また、地元の医療体制に限界もある中、地域に迷惑をかけないよう最大限配慮。作業員には感染防止対策を徹底してきた。
さらに海外のロックダウンにより一部資材調達が遅延したが、工程を調整して工事を進め、無事予定通り運開できた。パリ協定発効以降に石炭火力新設が困難になったことを考えると、エネルギーセキュリティー上、多様な電源が必要な日本にとって、三隅2号は貴重な存在であると言える。

三隅2号の運開は、中国電力のカーボンニュートラル(CN)戦略の一翼を担っている。一つは、非効率石炭火力のフェードアウトへの貢献だ。三隅2号で自社電源が100万kWプラスになったことで、23~24年にかけて瀬戸内側の経年火力4基の廃止を進めていく。エネルギー政策の要請に沿い、火力の新陳代謝を図る形だ。
もう一つの視点が、木質バイオマスの混焼だ。三隅2号では22年秋から木質チップやペレットの混焼試験を開始しており、年平均で混焼率10%を目指す。100万kW級での10%混焼は、機器設計上、かなりチャレンジングな水準になるという。これらにより、年間約50万tのCO2排出量削減につながる計算だ。
さらに三隅2号は、炭種を拡大し調達先の多様化を図る観点から、瀝青炭より安価で低品位な亜瀝青炭の専焼を可能としている。また、22年はオーストラリアの石炭産出エリアでの水害や、インドネシアでの石炭輸出禁止措置など、産炭国側の供給支障リスクが発生。そして、豪州産一般炭価格が一時1t400ドル超となるなど、空前の高値を記録した。このように調達を巡る情勢が不安定さを増す中、炭種拡大はリスク低減対策として一層重要になっている。
地域共生の意識高く 世界に誇る技術発信へ
「発電所建設の申し入れから現在まで地域とのお付き合いは40年以上になった。これからも地域の方々に親しみを持ってもらえる発電所であり続けたい」と語る河本所長。人口6000人程度の三隅町に、中国地方最大の石炭火力が存在しているインパクトは大きい。地域にとって身近な発電所と受け止められるような取り組みを常に心掛けているという。
例えば、2号機工事に合わせてリニューアルしたPR館「ふれあいホール」は、建物内から発電所建屋の全景がきれいに見える。また、同発電所は粉じんの飛散防止を図るため、日本最大の石炭サイロを採用している。さらに、石炭とバイオマス貯蔵設備の横には、地域住民が利用できる公園を整備中だ。
「2号機建設は地域でも心待ちにされていたプロジェクト。加えて、途上国でのクリーンコール技術へのニーズは引き続き大きく、貴重な技術を世界に発信していくことも重要な使命だ。世界に誇る技術が三隅にはあると喜んでもらえるよう、今後とも発電所全体の運用最適化に向けた対応に努めていく」(河本所長)。1号機は運開から四半世紀を迎える。2号機と共同での運用は始まったばかりであり、まずは今冬、2基態勢で安定稼働を続けることが当面のミッションだ。
電力の安定供給が脅かされる中での貴重なベース電源である三隅発電所には、CN対応やクリーンコール技術を通じた世界全体のCO2削減への貢献など、今後も大きな役割が期待されている。
