欧米並みの日負荷調整運転を 日本の賢い「原子力」活用法

2023年3月4日

【原子力の有効利用】本部和彦/東京大学公共政策大学院TECUSEプロジェクトアドバイザー

チェルノブイリ事故後、日本で初めてIAEA安全局に勤務するなど原子力政策に精通する本部和彦氏。

日本の再エネ・ポテンシャルと、再エネとの親和性を高める原子力の活用法を聞いた。

ほんぶ・かずひこ 1977年京都大学大学院修士課程修了、通商産業省(現経済産業省)入省。IAEA(国際原子力機関)安全局、原子力発電安全企画審査課長、資源エネルギー庁次長などを歴任。

 ―昨今の日本のエネルギー情勢をどう見ていますか。

本部 日本は安定供給・電力自由化・低炭素化の同時達成を目指して、三兎を追っています。しかしウクライナ侵略後、これらは〝三すくみ〟で同時達成できないことが明らかになっています。安定供給と低炭素化を目指すなら、完全な自由化は難しく、自由化と低炭素化を目指すなら、安定供給の実現は難しくエネルギー価格は上がらざるを得ない。ところが、このような「現実」を語らずに「競争を通じて電気料金が安くなる」「環境に優しい再エネ電源で安定供給」といった美辞麗句が生きている現状は大いに問題です。

日本は〝再エネ不適国〟 第七次エネ基のポイント

―太陽光発電をはじめ、日本における再エネの〝弱点〟を指摘されています。

本部 安価な太陽光発電資源に乏しい国、それが日本です。太陽光発電に向いているのは、人口に対して広い土地があり、しかも傾斜が少なく、森林を伐採する必要がない―といった条件が整っている国で、例えば国土の真ん中に砂漠が広がるオーストラリアはその典型です。

 一方、日本はどうか。国土が狭く、山々は急峻で、森林が多い。

さらに多くの人口と産業を抱え、電力需要は旺盛……。世界銀行やIRENA(国際再生可能エネルギー機関)のデータによれば、世界標準で太陽光発電の適地とされる土地を日本で全て開発しても、電力需要の0・57倍しか満たせないのです。世銀データで1倍を超えない国は世界でもまれで、適地がないからこそ乱開発が行われ、2次災害が問題になっています。

 また日本には梅雨があり、特に冬場は日本海側で晴れの日が少ない。少し前のデータになりますが、2009年の関東・東北地域に限定したシミュレーション結果では、1年で太陽光発電の利用率が年平均値の半分未満にとどまる日数が40日ほどあり、それが10~2月に集中しています。つまり電力需要が増える厳冬期に供給量が下がり、大量の補完電源が必要になる。日本での太陽光発電の主力化がいかに困難かお分かりいただけるでしょう。自然由来の弱点は、政府や産業界の努力では補えません。

―風力発電はいかがでしょうか。

本部 日本では6~9月の風況が悪く、設備利用率が低下します。また大規模導入が進められている洋上風力も、日本近海は水深が深く、よりコストが掛かる浮体式で建設せざるを得ません。ただ幸いなことに、太陽光発電と風力発電は弱点をカバーしあう関係にあります。

―日本が再エネ適地に乏しいという現実を踏まえ、どのような政策が求められるでしょうか。

本部 これまでエネルギー基本計画を巡っては、安定供給について年間の総発電量ベースで議論が行われてきました。しかし再エネを主力電源に掲げるなら、夏と冬の高需要期をどのように乗り越えるのか、安定で少しでも安価な供給を実現する具体策を示す必要があります。そして少なくとも日本の場合、再エネ変動分を補完できる低炭素主力電源となるのは当面、原子力しかあり得ません。

 今年から議論が始まる第七次エネ基では、原子力について「可能な限り低減」(第六次エネ基)から、「安全を確保しつつ最大限に活用」へ修正すべきです。

官有民営化も視野 原発の出力調整運転を

―岸田政権は次世代炉の開発・建設の方針を打ち出しています。国民や産業界に新増設・リプレース(建て替え)を提示するうえで、必要なことはありますか。

本部 50年カーボンニュートラルを実現するには、20年代に着工し、30年代には運開する必要があります。また安全審査を一定期間内に済ませるには、「革新軽水炉」と呼ばれる安全性を向上させた軽水炉の建設を急ぐべきです。国民に対しては、許容してもらうリスクの提示が重要です。例えば、革新的な安全システムの採用で炉心溶融の確率がどれくらい低下するのか、最悪の事故はどのようなシナリオなのか、分かりやすく説明しなければなりません。

 原発は投資回収の予見性が低いといわれます。今国会では40年+20年運転を原則としつつ、適合性審査に要した期間や運転差し止め判決による停止期間の上乗せを可能とする法改正が行われる見込みですが、原子炉圧力容器の中性子脆化の状況と主要部品の定期交換を考慮すれば、80年運転も十分に視野に入ると考えます。また英仏に倣った総括原価方式の導入や、官有民営方式も検討し、事業者の負担を軽減する必要があります。

―再エネと原子力の親和性を高めるため、原発の出力調整運転を訴えていますね。

本部 再エネとの親和性を高めるため、太陽光が発電しない夕刻から朝にかけては熱出力100%での運転を、日中は太陽光発電の発電量に応じて、出力を低下させて運転すべきです。これは「日負荷調整運転」といい、欧米では実施されていますが、日本の原発では行われていません。なぜなら、原発の設置許可申請書に〝基底負荷用として運転する〟と書かれているからです(基底負荷=変動しない一定の負荷)。かつてチェルノブイリ原発事故から2年後の1988年、伊方原発で出力調整の試験が行われた時、激しい抗議活動がありました。この苦い経験から、事業者は日負荷調整運転の導入を見送ってきたのです。

 今後、日負荷調整運転を行う場合、設置変更許可が必要かは解釈が分かれるでしょうが、私は必要ないと考えます。再エネの拡大により、日中と夜間の基底負荷が異なる時代を迎えたと解釈すれば、設置変更許可を行わずに日負荷運転を実施できます。安全上、追加で検討すべき問題はありません。

 エネルギー政策には、日本経済の浮沈と国民の生活が懸かっています。再エネ導入が進む今こそ、原子力の活用が必要なのです。

―ありがとうございました。