【特集2】火力対再エネ論争への疑問 日本の先進技術をPRすべきだ

2023年4月3日

再エネ大量導入には、「調整力」が備わる火力発電の存在が欠かせないと指摘する。不毛な「石炭廃止」議論に疑問を投げかける松橋隆治教授に今後の目指すべき姿を聞いた。

【インタビュー】松橋隆治/東京大学大学院工学系研究科教授

―カーボンニュートラル(CN)を巡る世界的な取り組みについて、どうお考えですか。

松橋 CNに向けた議論や取り組みはぜひ進めるべきですが、国内のエネルギー政策の議論に関わっていて気になるのが、ヨーロッパの善悪二元論的な考え方に引きずられすぎている傾向があることです。CO2を排出しない再生可能エネルギーは絶対的な善で、CO2を排出する火力を悪として捉え、「石炭火力をすぐにやめろ」や「ガソリン車を廃止しろ」というあまりに極端な議論に引きずられています。これは賢明な考え方ではありません。

 生産ライフサイクルで考えると、太陽光発電パネルの製造もCO2を排出しています。グレーな部分があるわけで、そうであるなら石炭火力だけを切り捨てて問題を解決しようという考えには疑問を感じます。それぞれの電源には長所や短所があります。石炭火力もそうです。賢いストーリーは、今ある石炭火力設備のアセットを有効に活用しながら、少しずつCNに向けて前進する方向性が賢明なやり方です。

再エネを補う石炭火力 系統安定化に貢献

―石炭火力の長所とは。

松橋 再エネがどんどん普及してくると、慣性力の課題が顕在化してきます。電力系統全体で慣性力が不足すると、電力系統の過渡安定度を維持することが困難になります。

 石炭火力は巨大な回転体を保有する発電設備です。ベースロード電源として安定的に系統に慣性力を与え続けているという意味で、石炭火力には系統安定化に貢献する大きな役割があります。つまりこれは再エネの弱点を補うわけです。もちろん、こうした機能は石炭火力だけでなく、同じく巨大な回転機を持つ原子力発電や火力発電全般に当てはまることです。

 慣性力については発電機の「空だき」のような形で慣性力だけを系統に供出するという技術研究も進んでいますし、再エネ自身に疑似慣性を持たせるグリッドフォーミングインバーターという技術開発も進んでいます。

 こうした系統安定化に資する技術は、電気工学を専門とする方々の中でもようやく認知されてきたかなと思っています。

―なかなか理解しにくい技術ですね。

松橋 技術系以外の方々にも理解してもらう必要があるのかなと感じています。理解されれば、「対再エネ」のような不毛な議論にはならないと思います。

 一方的に石炭を切り捨て、その次に石油、天然ガスを切り捨てる。最後は原子力と蓄電池と再エネで電力システムを組み込む。そうなると、資源のない日本にとって、一切の柔軟性を捨て去ることを意味します。また化石資源には発電燃料としての側面だけでなく、化学物質(原料)としても優れたところがあるわけです。トータルで考えたほうが結果的にコストを抑えることになるでしょう。

―とはいえ、石炭火力はCO2を多く排出します。

松橋 将来的にはCCS(CO2回収・貯留)という新しい技術を取り入れることでCO2を減らす考え方もあるし、あるいは、CCU(CO2回収・利用)といった取り組みも欠かせないでしょう。「U」については、農業向けや化学原料に使ったり、水素と合成して人工的に作り出すe-methane(e―メタン、合成メタン)やe-fuel(合成液体燃料)にCO2を使う技術開発も進んでいます。

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