【目安箱/4月4日】世界的な中国企業排除 エネルギー業界の対応は万全か?

2023年4月4日

欧米で中国系企業への重要産業からの排除の動きが広がっている。各国のエネルギー産業ではそれが特に進む。これまで重電や原子力プラントの輸出などが問題になってきた。最近では、太陽光、監視カメラ、EV、TikTokなど、エネルギー周辺に関係する個別の製品やサービスも警戒されるようになっている。欧米に比べて、この問題の反応に鈍かった日本政府と産業界も、ようやく動き始めた。エネルギー業界の準備は大丈夫か。

TikTok批判のきっかけは設備情報の映り込み

「TikTokから情報が中国に漏れている可能性がある」「米国でビジネスをするなら米国企業に売却するべきだ」――。3月23日に行われた、米連邦議会下院の情報通信委員会公聴会で、動画配信アプリTikTokを運営する中国企業バイトダンスの周受資CEOに議員たちが発言した。周氏は情報漏洩も米国企業への売却も否定。「企業活動の侵害である」「情報セキュリティが当社より適切に行われていない米国企業も多い」などと反論した。

対立した状況だが、意外な方向に転がる可能性がある。同委員会は、TikTokの米国内での活動を禁止する法案を超党派の賛成多数で2月に可決している。すでに米国は公的機関での使用を禁止しているが、法律での全面禁止など、さらなる規制がこの公聴会をきっかけに同社の活動に加わってしまうかもしれない。

TikTokは全世界で10億人、米国で1億人以上のユーザーがいる動画投稿アプリだ。若者を中心に人気がある。利用者の情報漏洩の可能性が指摘され、共和党保守派の批判だけではなく、民主党のバイデン政権も規制を進めている。2018年ごろに問題になったきっかけは、米軍の若い兵士たちが、映像を投稿し、それに軍の設備や部隊が映り込んで、当時のトランプ大統領や共和党保守派が懸念したことだ。

これはインフラ産業が警戒すべきことだ。社員や訪問者の何気ない投稿が、重要情報を拡散してしまうかもしれない。

中国企業の警戒へ 米国の雰囲気変わる

2023年の今、米英のメディアを見たり読んだりすると、中国の政府、企業に対する警戒感が5年前とは全く違っている。かつても政治家や有識者からの中国企業の懸念をメディアは報じていた。それでも「中国との貿易は利益になる」「中国と対立はするべきではない」と、中立性を保つ意見が記事で併記される例が多かった。

ところが今は中国政府と、同国企業の活動への警戒が一色だ。米国の東部や英国のリベラルメディア、両国のテレビが、英語を通じて国際世論を引っ張る。しかし、そこからは中国との友好の情報は消えている。政治家も中国への批判を繰り返している。

最近は、基幹産業だけではなく、個別の製品、企業で、中国企業の動きを警戒する記事が増えている。特に、エネルギー関連では、監視カメラ、太陽光発電、EVなどが目にとまった。

中国は6億台以上の監視カメラが国内にちらばる異様な社会だ。監視カメラの世界シェア1位は中国企業のハイクビジョン、2位は同ダーファ・テクノロジーだ。2社は中国政府に協力し、その監視システムを作り上げてきた。両社は海外での販売活動を行なっている

太陽光発電システムの原料のシリコンの世界の生産1位は、中国新疆ウイグル自治区の軍事組織「新疆生産建設兵団」だ。ウイグル人の強制労働などをしている疑いがある。米国は同組織が人権侵害に加担しているとして、中国製太陽光パネルの輸入を昨年夏から止めている。EVの世界4位の生産量を持つのは中国のBYDだ。同社は価格ダンピング批判や環境基準に抵触する生産を米政府に調査されている。

こうした企業は、日本のエネルギー産業に関係する。そして欧米から締め出されつつあることが影響してか、昨年ごろから日本での販売促進活動を活発に行なっている。

日本で変化の兆し 平和ボケも根強い

人権や安全保障に敏感に反応する欧米の政府や企業と違い、日本の官民の動きは鈍かった。ようやく変化の兆しがある。

日本では経済安全保障推進法が2022年に施行され、内閣府に担当大臣も置かれるようになった。その法で定められた「基幹インフラ事前審査制度」が23年以降に施行される予定だ。この法律と制度では、電力やガスなど重要な産業について、経済安保上の脅威となる外国製品の導入、外国企業の介入を防ぐように政府が指導できる。特定の国、企業を念頭に置いたものではないと繰り返されるが、実際には中国企業への対抗措置となろう。

同制度は現在、細則づくりが進んでいる。ただしエネルギー産業はこれまで、他産業と比べて、保安や事業の維持、情報管理の面では関心を持ち、対策をしてきた業界だ。21年に同制度が審議中のときにある大手電力幹部は、「すでに重要設備で外国製品は、原則として使っていない。制度が作られても、それを深掘りするだけだ」と、話していた。

建前はそうだが、実態は大丈夫だろうか。新しい技術や製品は次々と誕生し、使われる。例えば、今ではエネルギープラントの設備管理と監視にドローンが使われている。この分野では中国製品もあるし、日本製でも中国製部品を使っているものもある。外国製品を簡単に排除できない面がある。

また社会の雰囲気も「平和ボケ」が続く。例えば、デジタル庁は、昨秋、マイナンバーの広報のためにTikTokに広報動画を流した。メディアも積極的にPR映像を流している。知人に在京テレビの制作部署に勤める社員がいる。その人と2月に話したら、海外のTikTok規制の動きをほとんど知らず、「機密情報を扱っていないから大丈夫ですよ」と無警戒だった。これが日本の平均像だろう。エネルギー業界も、こうした社会の大勢に引っ張られ、隙ができてしまうかもしれない。

是々非々で中国企業に向き合う

米国は、その覇権を脅かそうとする国を、政府、産業界が一体になって叩く傾向がある。かつてのソ連、日本がそうだったし、今は中国なのだろう。そうした思惑に単純に同調する必要はない。

個人的には、中国企業の製品やサービスを排除することは是々非々であるべきだ、と考える。安く良い製品を使うのは消費者の権利だ。さらに中国企業の排除は、中国人との関係悪化、敵意の醸成という悪い方向につながりかねない。

しかし、日本の政府から企業までのあらゆる場面で、警戒感がなかったことは確かだ。そして世界的な中国企業排除の流れの中で、一個人、一企業が別行動するのは、大変な労力がいる。そして中国企業の場合は、政府による人権侵害への加担、情報漏洩などをしている可能性がある。

欧米発の異様な中国敵視の動きに同調し過ぎることはない。しかし中国企業とどっぷり関係を持つ必要もない。日本のエネルギー業界の各社はすでにやっていることであろうが、日本政府のつくる経済安全保障の仕組みを注視しながら、これまでに増して、自らの利益になる形で外国企業との関係を慎重に作る必要がありそうだ。