【コラム/4月27日】赤字国債麻痺の膨張予算を考える~歳出は大胆、負担先送り、公債残高増の行く末
飯倉 穣/エコノミスト
1,予算成立ながら、尾を引く本質的な問題
国会の予算審議が終了した。23年度は巨額予算である。そして予備費使用の決定もあった。報道は伝える。「過去最大114兆円予算成立 防衛費、破格の1.4兆円増」「物価高対策2.2兆円 予備費の支出決定」(朝日23年3月29日)、「最大の114兆円予算成立 23年度 首相人への投資、経済再生」(日経同日)。
少し経済知識や家計をかじっていれば、財源に首を傾げ財政事情を心配するが、その声は大きくならない。電力会社の料金値上げにも通じる。事業会社が赤字でも存続すると警戒感を持たない政治、国民、報道がある。同じ日に少子化対策のたたき台の公表もあった。児童手当、出産費等の経済支援に冷めた目は少なく、財源の議論も始まる。
現在の財政事情と公債残高の行方を、古書の指摘を思い出しながら考える。
2,23年度予算の姿は引き続き諦観と不安混じり
23年度予算は、全体予算114兆円(前年度比6%強増)である。増加科目は、防衛費10兆円(同89%増:除強化資金繰入26%増)、国債費25兆円(同4%増)、社会保障費37兆円(同2%増)、そして予備費5兆円強(同額)である。
歳入内訳は、強気の経済見通しで租税69兆円(6%増)、特会等のやり繰りでその他収入9兆円(71%増)と大幅増を見込みながら、公債は36兆円(3%減、うち建設国債7兆円、特例公債29兆円)と桁外れが続く。
本年度予算の姿を整理すれば、公債依存度31%、名目GDP比公債比率6%(同赤字国債比率5%)である。96年度以降28年間連続公債依存度20%超(99年度以降25年間30%超)である。また28年連続赤字国債発行(22年連続赤字国債発行20兆円超)となる。公的債務残高は23年度末1068兆円(名目GDP比187%)を見積もる。
毎年借金で30兆円を経済に投入する状況が継続している。長期にわたる公債依存度は、緊急対策、不況対策の位置づけを越える。
3,その経緯を振り返れば
97・8年の金融危機対応、2001年以降の小泉政権の増税忌避、08年リーマンショック対策、11年東日本大震災対策があった。13年以降意味薄弱なアベノミクスの機動的な財政出動(毎年補正予算措置)、20年以降コロナ対応、23年度のエネ価格高騰・物価対策・防衛費増となる。
10年代に消費税増税(税率5%引上げ)もあったが、財政均衡軽視、歳出膨張・国債日銀買取りで、公債依存引下げの展望も見えない。借金による花見酒経済の浮かれが続く。
4,何故こうなるのか
財政運営では、経済論は方便で政治的思惑が優先する。経済論的には、景気変動を緩和する視点で、循環的な景気後退期でも財政出動を是とする経済思想の蔓延、財政支出で需要牽引・経済成長可能という強弁等がある。政権好みの論である。経済の流れを考えれば適切か否か疑念がある。経済は、経済均衡に至る方向に(需給と価格調整で)動くと考えれば、大きな流れを財政・金融政策で変えるには限界がある。
又財政の切回しは、経済論より政治事情が優先する。その意味で財政学は政治学である。時に経済の実態と関係なく、政治サイドの事情が財政均衡を破壊する。情緒的な国民世論や選挙が背景にある。各政党の主張や国会の議論を見聞すると歳出増に熱心だが、何時も国民負担は先送りである。この国では、中選挙区制と小選挙区制で政治家の対応が異なる印象を持つ。万人向けの主張が必要な小選挙区制度は、正論より投票である。官邸主導の選挙向け政策、金融・国債頼りで国民負担先送りの経済対策、そして近時のMMT論(現代貨幣理論)への傾斜等に馴染み易い。