【特集2】新たなエネ供給の形を提示 再エネを利用した電力網構築
【千葉県 いすみ市/リソルの森】
大規模発電所の電力供給に頼らず、コミュニティーで電源と消費施設を持ち地産地消を目指すマイクログリッドが注目を集めている。再生可能エネルギーを用いて、カーボンニュートラル(CN)を目指すほか、地域経済の発展、BCP対策など目的はさまざまだ。千葉県では2019年に台風が襲来し、長期間にわたる停電が発生した。こうした影響もあり、分散型エネルギー導入への関心が高く、複数のプロジェクトが進められている。その代表的な事例が「いすみ市地域マイクログリッド構築事業」と、複合リゾート施設「リソルの森」だ。
関電工が設備構築を手掛けた「いすみ市地域マイクログリッド構築事業」は災害などで系統からの電力供給が途絶えた際に、地域マイクログリッドを立ち上げ、大原中学校やいすみ市役所を含むエリア一帯に電力を供給するもの。関電工といすみ市、東京電力パワーグリッド木更津支社と共同で、この事業を推進してきた。
主な設備は太陽光パネルと蓄電池、LPガス発電機だ。これらをエネルギーマネジメントシステム(EMS)で制御していく。メーカーと共同開発したLPガス発電機を用いることで、長時間の安定した電力供給を可能にした。
いすみ市役所の屋上に216枚の太陽光パネル、大原中学校の屋上に528枚の太陽光パネルを設置。さらに、大原中学校の敷地内にEMSと蓄電池、LPガス発電機、インバータ、バルクなどが設置されている。
LPガスは、アストモスエネルギーと大多喜ガスが供給するCNLPガスを使用する。発電機が4日間以上稼働できる量を備蓄しているという。
安定した電力供給が可能 強靭化に資するシステム
マイクログリッドの立ち上げから復旧までを、3者が連携して行う。①停電の原因調査・復旧の見通し調査、②マイクログリッドの使用判断、③マイクログリッド系統の構築要請、④マイクログリッド関係者への周知、⑤マイクログリッド系統の構築、⑥マイクログリッドモードへの設定変更と発電機起動、⑦復旧―の7ステップだ。完成披露式では、実際に一時的に系統電力を遮断した実演「ブラックスタート」も行われた。

「今回、関電工は太陽光発電と蓄電池、LPガス発電機の三つの電源を統合し、制御するシステムを開発した。これにより、安定した電力供給が可能となった。国土強じん化に貢献する新しいエネルギー供給の形を示せた、と自負している」と、関電工の中摩俊男社長は話す。次なる取り組みとして、システムの標準化とコストダウン、配電事業ライセンスの取得を目指すという。配電事業ライセンスを取得できれば、発電と小売りの兼業が可能となる。関電工は、再エネの地産地消のさらなる促進を目指していく。
もう一つの事例であるリソルの森は、千葉県の中央に位置する複合リゾート施設だ。別荘やホテル、ゴルフ場をはじめ、フィットネスや医療施設を有するメディカルトレーニングセンター(MTC)など、さまざまな施設が330万㎡の広大な敷地に点在している。こうした施設にも脱炭素の波は押し寄せている。
「これまで脱炭素の取り組みは企業が主体だった。いずれは一般の需要家にまで波及する。脱炭素への取り組みがリゾート施設を評価する基準の一つになるのではと考えている」。こう語るのはリソル総合研究所の湯田幸樹会長だ。
施設内で利用し自家消費 自己託送でゴルフ場に送電
同社がエネルギーに関わるようになったのは、ゴルフ場の未利用地を活用するため、再エネ固定価格買い取り(FIT)制度で太陽光発電所を手掛けたことに始まる。ただ、FITは長期にわたり継続できる仕組みではない。このため、エネルギーを地産地消できるやり方を模索していた。そうしたときに、東京電力グループから低炭素投資促進機構(GIO)の支援による「郊外型スマートコミュニティ構築事業」について声がかかり、今回のマイクログリッドを手掛けるようになったという。
同システムは、リソルの森の敷地内に太陽光発電設備(1200kW)を設置。主要施設のMTCで自家消費し、余剰分を隣接するゴルフ場のクラブハウスに託送して、発電した電力を全量消費する仕組みになっている。「当初は全て自営線を敷設して運用しようと考えたが、距離が長くなってしまう。そこで、東京電力パワーグリッドと相談して、系統を利用することで自営線を半分に短縮して敷設し、コスト低減が図れることを確認した。結果、自己託送を行うシステムになった」と設備を管理する東光高岳の石渡剛久フューチャーグリッド推進室長は話す。

マイクログリッドの運営では、前日昼までに自己託送計画を策定し、電力広域的運営機関に提出している。当日は、計画に従い発電量や需要量を制御し、30分間の電力量を計画と一致させている。同時同量が達成できない場合は、インバランスとしてペナルティーが発生する。「ウクライナ危機以降のエネルギーコストの値上がりで、インバランス料金がシステムを運営する上で足かせとなっている。なるべく出さないように注意している」と湯田氏は苦労を語る。
自己託送ルールを順守しながら、インバランスを最小限に抑えるため、MTCには据置型蓄電池100kW、VtoHシステムが1台、ゴルフ場にヒートポンプを設置し、自己託送を実現する制御対象としている。今後はEVや電気カートなどリゾート施設内に導入し太陽光発電の電気をさらに有効活用していく構えだ。