温暖化対策目標がパリ協定に合致 SBTが大手エネ事業者で初の認定
評価するのはサプライチェーン全体の排出量で、その内訳は、①燃料の燃焼や工業プロセスなど、事業者自らによる直接排出である「スコープ1」、②他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出である「スコープ2」、③それ以外で事業者の活動に関連する間接排出である「スコープ3」―だ。九電の場合は主に、①には燃料消費および自家物流輸送に伴う排出量、②には他電力供給地域に立地する事業所の電力購入に伴う排出量、③には①②以外のガス販売事業や海外発電事業、各物品の購入、廃棄物の輸送・処理などに伴う排出量が該当する。
具体的な目標は三つで、いずれも20年比で30年の実現を目指す。一つ目は、スコープ1、2に関する排出量を1kW時当たり47%削減。二つ目は、販売された電力由来のスコープ1、3の排出量を同47%削減。そして三つ目が、スコープ3に該当するエネルギー関連活動や販売製品の使用に伴う排出量を総量で25%削減を目指す。
九電がこうした目標を設定できた背景には、自社の非化石電源比率の高さがある。電源構成の21年度実績は、原子力が36%、そしてFIT(固定価格買い取り制度)電気を含む再生可能エネルギーが21%となり、合計で57%に達する。また、地球温暖化対策推進法に基づくCO2排出係数は同年度1kW時当たり0.385kgで、電力業界全体の平均値を下回っている。「30年度に向けて原子力を最大限活用するとともに再エネ比率を高めていく。また、火力へのバイオマス混焼の拡大や、さらには水素・アンモニア混焼も検討し、一層の化石燃料の消費削減に努めていく」(江口部長)と説明する。
SBTの目標に直接リンクはしないが、ほかにも「カーボンマイナス」に向けた取り組みを展開する。例えば、地域のカーボンニュートラルを後押しする「J―クレジット創出支援事業」だ。
J―クレジットは政府が認定するカーボンクレジットの一種。今後、世界的なカーボンクレジットの取引活性化が見込まれており、国内でも今年度、政府が排出量取引市場を始めることから、急速に注目度が増している。ただ、政府公認クレジットのニーズは高いものの、取得手続きの煩雑さが課題となっている。
そこで同社は、自治体が所有する森林からのクレジット創出手続きを代行する事業を九州全域で展開。このスキームが奏功すれば、自治体はクレジット収入を原資に森林管理や地域課題解決を図り、クレジット供給量を増やすことで社会的なオフセットのニーズ拡大に応えることができる。
CDPでも高い評価 社内外にアピール
なお、同社はSBT認定とほぼ同時に、気候変動対策でのサプライヤーとの協働について国際環境NGO(非政府組織)のCDPが22年に実施した評価で、最高評価を取得している。今回、国内エネルギー事業者では唯一の選定だ。「投資家だけでなく、サプライヤーに対するアピール、そして社内のモチベーションアップにもつながるものと期待している」(同)
一連の評価は、ステークホルダーはもとより、国内の同業他社に対しても大きなインパクトを与えそうだ。そして石炭火力の利用方針などから日本の電力会社は環境面で批判されがちだが、そうした流れに一石を投じるかもしれない。
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