第43回 エネルギーフォーラム賞

2023年5月15日

なお、2014年にエネルギーフォーラムの創業60周年記念事業として、エネルギー・環境・科学に関する未発表の小説を顕彰する目的で創設されたエネルギーフォーラム小説賞(エネルギーフォーラム主催)については、今年で9回目を迎えたものの、作家の江上剛氏、鈴木光司氏、高嶋哲夫氏の3人の選考委員による厳正なる審査の結果、多数の応募の中、「該当作なし」となり、贈呈式は行われなかった。

一次候補作品として選ばれた上位作

選評(五十音順)

大橋弘/東京大学副学長

今回の候補作の過半は、エネルギーセキュリティーや経済安全保障、脱炭素などといった時代を反映したテーマを扱った良作であった。その中でも以下の2冊は出色の出来であった。

小山堅氏の『エネルギーの地政学』は、ロシアのウクライナ侵攻前から見られ始めていたエネルギー価格の高騰の背景を、著者の専門でもある国際エネルギー情勢の理解を踏まえて、足元の状況を丁寧に紐解いた著作である。本書が刊行される2カ月前、エネルギーフォーラムから刊行された同氏の『激震走る国際エネルギー情勢』が、脱炭素も含めて幅広い視野で一般読者に向けて分かりやすく論じていることと比べると、エネルギー安全保障に特化した本書の内容は、啓発書というよりはやや専門書にも近いが、同氏のエネルギー地政学に対する深い視座は、優秀賞にふさわしい。ただ、『エネルギーの地政学』の視座がやや足元の事象に引きずられすぎているようにも思われ、歴史を俯瞰してエネルギー地政学の淵源を解き明かすような著作を、将来ぜひとも期待したい。

市村健氏の『電力セキュリティ』は、エネルギー基本計画、パリ協定、脱炭素を軽快な文章でバランスよく盛り込んだ、素晴らしい啓蒙書である。脱炭素や安定供給の上で、需要側のデマンドリスポンスが重要な点も触れられており、この点をさらに詳しく勉強したい読者は、2021年に刊行された同氏の前著『電力システム改革の突破口』を読むとよいだろう。

エネルギー価格の高騰と、度重なる国内での需給ひっ迫、そしてカーボンニュートラルに向けた取り組みと、3Eのどれ一つとっても、わが国を取り巻く環境は激変のさなかにある。こうした激動する事象を象徴的に振り返っても、十分にドラマチックであるには違いないが、この激変を動かす背景は何かを、より深い思考と分析から学ばせてくれる良著が出てくることを今後期待したい。

エネルギーフォーラム賞の選考委員。右から佐和隆光氏、大橋弘氏、田中伸男氏、十市勉氏、山地憲治氏

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