第43回 エネルギーフォーラム賞

2023年5月15日

佐和隆光/京都大学名誉教授

少なくとも私の評価基準から推す限り、残念ながら今回は、力作・秀作に値する作品は見当たらなかった。

アンケート結果で首位に輝いた『カーボンニュートラル2050アウトルック』は、監修者1人、総合コーディネーター1人となっているが、実際は個人39人と8団体の著者が1項目5頁ずつを綴った辞書もどきの著作であり、何ごとかを主張する、あるいは説き明かす内容ではない。また、アンケート結果で第2位の『メタネーション』は、著者に個人2人と2団体が列挙されており受賞にはなじまない。

アンケート結果で第5位の『エコファシズム』は、著者たちがエコファシストの象徴と決めつける『人新世の「資本論」』の著者で哲学者の斎藤幸平氏を口汚くののしる(と私には思える)対談本であり、受賞対象とはなり得ない。

アンケート結果で第7位の『15歳からの地球温暖化』は、地球温暖化に関する定説を覆すデータを15歳の読者にあれこれ見せつけ、地球温暖化への懐疑論を醸成しようとする著作である。著者の杉山大志氏は、ハンス・ロスリング氏らの『ファクトフルネス』の信奉者と見受けられるが、実験科学でない限り、いかなる定説であれ、それを否定するかに見えるデータを探し当てることは、それを肯定するデータを探し当てるのと同じくたやすい。データが示唆するのはあくまでも可能性にとどまり、ゆえに予防原則に則り、地球温暖化緩和策を講じるべきだというのが定説となる。

アンケート結果で第9位の市村健氏の『電力セキュリティ』は、文章の明晰さ、内容のわかりやすさ、内容構成の巧みさからして普及啓発賞にふさわしい。あえて難を言えば、カバーの帯を見ると、まるで東京大学公共政策大学院特任教授の有馬純氏との共著のように見紛う点、また同氏との対談を巻末に加えた点が惜しまれる。

小山堅氏の『エネルギーの地政学』と『激震走る国際エネルギー情勢』は、ロシアのウクライナ侵攻が世界のエネルギー需給に及ぼす影響を説き明かす、時宜に適う好著であり優秀賞にふさわしい。ただ、著者1人に対して2作の受賞は前例がなく、アンケート結果で前者が第3位、後者が第5位であることに鑑み、前者に優秀賞を差し上げることとした。

エネルギーフォーラム小説賞の選考委員。右から江上剛氏、鈴木光司氏、高嶋哲夫氏

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