【コラム/5月16日】再生可能エネルギー電力促進のための経済的インセンティブ

2023年5月16日

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

国内外で、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるカーボンニュートラルが、重要な政策課題となっている。カーボンニュートラルの達成に向けて、再生可能エネルギー電源の大幅な増大が必要になっているが、同電源とりわけ陸上風力発電と大規模ソーラー発電の立地拡大に関しては、環境への影響や住民への負荷を考えると、パブリックアクセプタンス獲得のための一層の努力が求められている。再生可能エネルギー電源が飛躍的に増大しているドイツでも、さらなる立地について市民の理解を得ることが焦眉の課題となっており、同電源の立地促進のために様々な経済的インセンティブが試みられている。そこで、本コラムでは、その現状について紹介し、わが国における再生可能エネルギー電源拡大のための参考にしたい。

ドイツでは、いくつかの州で再生可能エネルギープロジェクトに関して経済的メリットを市民に供与している。そのうち、メクレンブルク・フォアポンメルン州の「市民・自治体参加法」( 2016年~)やチューリンゲン州の「フェア・ウィンドエナジー・テューリンゲン」ガイドライン (2016年~)が代表的な事例として挙げられる。メクレンブルク・フォアポンメルン州では、「市民・自治体参加法」により、風力発電事業者は、地元の自治体または市民(プラントから半径5km以内)に資本参加の機会(株式を購入する権利)を提供することが義務づけられている。同法の規定により、事業者は、新らたな風力発電所建設にさいして有限責任会社を設立し、この会社の少なくとも20%の株式を地元の自治体や住民に提供する(または、事業者が提案し、これを当該自治体が選択する場合には、自治体に、補償金を支払う)。

この「市民・自治体参加法」については、様々な問題点が指摘されていた。まず、メクレンブルク・フォアポンメルン州固有の義務や公課を同州で風力発電事業を展開する者のみに課すことの問題点が指摘された(他州で事業展開する者には課せられない)。さらに、事業者に補償金などの追加的なコストを発生させることは、財産権の侵害になるのではないかとの指摘もあった。また、このような資本参加の義務づけに関する規制は、鉄道など他のインフラ事業に対する規制と比較して、公平性に問題があることなども指摘された。しかし、2022年5月に、連邦憲法裁判所は、「市民・自治体参加法」は基本的に合憲との判断を下したことから、メクレンブルク・フォアポンメルン州をモデルとしたパブリックアクセプタンス向上策が、他州にも広まっていく可能性がある。

また、ドイツにおけるいくつかの研究調査では、地域市民や自治体のプロジェクトへの資本参加は、アクセプタンス向上に貢献していることを指摘している。連邦憲法裁判所の判決文では、メクレンブルク・フォアポンメルン州での調査結果として、経済的なインセンティブなしで自宅近くでの風力発電所の設置に賛成した住民は、半数を下回ったものの、それが付与される条件の下では、賛成は3分の2まで増加したことや、回答者の4分の3は、経済的なメリットが供与されることは、良い対策あるいは非常に良い対策と答えたことを挙げている。

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