【特集2】製造効率の向上と脱炭素化 「上げDR」で一挙両得
【東京製鐵】
太陽光発電が普及する中で発生してしまう余剰電力を、有効に活用する試みが進められている。それは、特定の時間帯に電力需要を引き上げる「上げDR(デマンドレスポンス)」だ。
東京製鐵の九州工場で取り組む上げDRは、電力単価が高いとされている昼間にあえて工場を稼働し、電力需要を創出するというものだ。この取り組みが始まったのは、2017年のこと。九州電力管内では冷暖房の需要が少ない春と秋を中心に、太陽光を出力制御せざるを得ない状況が続いていた。そこで九州電力から東京製鐵に対し、昼間の余剰電力を割安な夜間と同等の価格で使用しないか、という提案があった。上げDRの対象日は火・水・金曜の週三日で、実施した場合、約5万3000kWの電力需要を創出する。
再エネと電炉は好相性 蓄電池代わりの上げDR
鉄鋼製品の製造法は主に2種類ある。鉄鉱石や石炭などを原料とする高炉法と、鉄スクラップを溶かす電炉法だ。東京製鐵が上げDRに応じられた大きな理由として、電炉法の採用がある。電炉には投入電力の上げ下げや、1分程度であれば投入電力をゼロにできるといった操業の柔軟性があるからだ。

電炉で鉄スクラップを溶かした後は、連続鋳造機で固めて半製品にする「製鋼」と、半製品に圧力をかけて加工する「圧延」を行う。一般的な一週間単位の操業パターンでは、製鋼は電力単価が安価な平日夜間と土日終日、圧延は金曜の夜から火曜の夜までに行われる。上げDR実施時の操業パターンでは、平日の昼間と夜間の電気料金が切り替わる午前10時と午後10時に製鋼の操業を停止。上げDRの要請があり、かつ圧延の操業がある火曜の昼間にまとめて稼働することで、製造工程の脱炭素化とコスト削減を実現した。
さらに、生産効率も改善したという。製鋼と圧延を同時に操業する時間の比率をシンクロ率といい、製鋼後の半製品を熱いまま圧延工程に受け渡す比率をホット率という。この二つがそれぞれ10%ほど向上した。製鋼と圧延の間が空くと、半製品が冷めてしまうため、再加熱しなければならない。上げDR実施すると、製鋼後の熱いままで圧延工程に移ることができ、再加熱が不要となる。これにより、加熱炉で使用する都市ガスの削減につながっている。
「高炉と比べてCO2排出量が少ない電炉と再生可能エネルギーを組み合わせ、蓄電池代わりに使ってもらう。われわれの柔軟な調整力を生かして、余剰な再エネを貯めるのではなく、使い切る形で協力していきたい」。中上正博九州工場長は展望をこう語る。
東京製鐵は現在、九州以外のエリアでも実証を進めているという。同社の上げDRの展開に期待が高まる。