「今までの延長線上にない事業へ」 再エネ・合成燃料で脱炭素社会に対応

2023年6月6日

【コスモエネルギーHD】

原油価格下落で苦しい立場にいる石油元売り業界。脱炭素社会に向け方針転換待ったなしの状況だ。

コスモHDは4月に新社長に就任した山田茂氏の指揮の下、再エネ事業強化で生き残りを図る。

コスモエネルギーホールディングス(HD)の山田茂社長は4月27日、都内で報道各社の合同インタビューに応じた。山田社長は「石油だけではなく、今までの延長線上の先にない事業に取り組まなければならない」と、再生可能エネルギー事業を強化する考えを示した。2025年度までに風力発電事業に830億円を投じ、30年度までに風力を含めた再エネの発電能力を200万kWまで引き上げる方針だ。

山田社長は1988年コスモ石油(現コスモエネルギーHD)入社。供給部門で石油精製事業全体を統括し、原油調達や生産計画の立案、在庫管理や製品輸送まで行う運用実務を長年担ってきた。東日本大震災で被災した千葉製油所の再稼働にも尽力した。

経営企画部門に移ってからは、洋上風力プロジェクトなど大規模な投資案件を担当してきた。再エネ事業を推進するコスモエネルギーHDで、これまでの実務経験を生かす。

合同インタビューに応じる山田茂社長

風力発電・蓄電事業に注力 次世代エネ戦略を推進

脱炭素の潮流に加え、原油・石油の需要減が進む状況で、石油元売り各社はさまざまな手段で生き残りを図る。中でもコスモエネルギーHDは他の大手元売りにない独自色を打ち出している。

コスモエネルギーグループの第7次連結中期経営計画「ビジョン2030」によると、「グリーン電力サプライチェーン強化」を柱として、30年までに3000億円の戦略投資を進める。とりわけ洋上風力には、そのうち1300億円を振り分ける。稼働中の陸上風力30万kWに加え、陸上風力・洋上風力それぞれ60万kWの開発を推進し、風力発電の容量を150万kWまで高めたい考えだ。

一方で課題となる再エネ事業の安定化については、「再エネが世の中で普及するに従って、電力価格や需要の変動が大きくなる。その点で、蓄電の重要さは今後ますます高まっていくだろう」と蓄電ビジネスの重要性を指摘。製油所の遊休地に蓄電池を設置するなど、23年度からビジネス実証をスタートする。

次世代エネルギー分野では、持続可能な航空燃料(SAF)に活路を求めている。22年11月に廃食用油を原料とした国産SAF製造供給を行う新会社「SAFFAIRE SKY ENERGY」の設立を発表。商用規模で国内初となる年間約3万klの生産・供給を予定する。25年運転開始を目指して、16日には起工式を行った。

山田社長は記者からの質問で国内SAF事業の実現性を問われると、「航空業界からは相当量必要だという声が上がる中、需給バランスの面で見ると圧倒的に供給が足りない。コストをかけず量産する必要があるが、収益性は決して悪くないとみている」と話す。自社単体での水素・合成燃料製造や炭素貯留には、コストの問題もあり「あくまで全方位に進める」と述べるにとどめているが、CCUS(CO2回収・利用・貯留)技術を含めて「形には見えていないかもしれないが、準備万端で遅れは取らない」と脱炭素時代に向けた事業拡大に自信を見せた。

競合他社には国内の製油所の統廃合を進める動きもある。これについて、山田社長は「(統廃合は)当面考えていない」と明言。今後の需要ペースと自社製油所の稼働率の高さから十分な採算が確保できるとした。「石油はしばらく社会を支える。再エネとの『二刀流』で脱炭素に取り組む必要がある」。石油事業を重要な柱とする方針に変わりはない考えを示した。

一方で、既存ビジネスからの脱却と脱炭素への転換を促したい投資家は、コスモエネルギーHDにさらなる対応を迫る。コスモHD株の20%超を保有する大株主の一人は、風力事業を手掛けるコスモエコパワーの上場を求めており、6月の株主総会で社外取締役の選任を求める株主提案を行う予定だ。この問題について、山田社長は「風力事業をグリーンサプライチェーンとして成長させていくことが、企業価値向上につながる」と説明。上場による短期的な収益向上には慎重な姿勢を見せた。

22年度決算は増収減益 再エネ事業で難局突破

5月11日には、コスモエネルギーHDが22年度通期決算を発表した。売上高は2兆7919億円と、原油高を背景にした価格上昇などで対前年比14.4%の増収となったものの、為替の影響による備蓄原油評価額の縮小もあり、純利益は逆に51.1%マイナスの679億円と減少に転じた。

決算資料の中で「グリーン電力ならびに次世代エネルギーへの取り組み」と題して、①風力発電所のFIT(固定価格買い取り)制度に頼らない電力供給協業を開始、②国産SAF製造へ、スシローなどを傘下に置く「FOOD&LIFECOMPANIES」と廃食用油供給で提携、③脱炭素分野でタイ大手エネルギー企業バンチャックと覚書締結―などを記載。グループ全体で再エネ事業を盛り上げていく方針を打ち出している。

山田社長は4月の社長就任の際、社員に向けて「社員相互で理解し合い、エネルギーを生み出してほしい」とげきを飛ばした。

脱炭素社会に向け目の敵にされやすい石油元売りだが、「誇りに思える会社にしたい」との思いで難局を乗り越えていく。

一部株主による再エネ事業分離提案について質問が及んだ