【目安箱/6月14日】原発再稼働容認に動く⁉世論調査の変化

2023年6月14日

日本原子力文化財団が2006年度から継続して調べている「原子力に関する世論調査」の2022年度版がこの5月に発表された。

東京電力の福島第一原発事故から、筆者はこの調査を見て、がっかりし続けてきた。原子力への不信感が非常に高い状況が続いたためだ。ところが21年度から状況に変化が生じ、今回の22年度には、原子力に対する見方は厳しさが残るものの、一時的な活用をすべきという考えが増えている。民の声は天の声―—。日本人の大半は賢明だ。この世論調査で、それが改めて確認できた。この好機を捉えて電力・原子力に関わる人々がその持ち場ごとに、行動を起こすべき時であると思う。

◆改善する原子力のイメージ

この調査では、18の質問を行なっている。その中から、「原子力発電の利用」に関係するテーマ3つを見てみよう。回答者は15~79歳の男女1200人で、全都道府県から無作為抽出された人々だ。昨年(21年)の10月に行った。

原子力発電に対するイメージへの回答(複数回答可)を示す(問1)。肯定的な意見をピックアップすると、「必要」が31.1%、「役立つ」が25.3%と、福島事故から最も高くなった。(図1)

図1

一方で、否定的なイメージへの回答だと、「危険」が61.5%、「不安」が48.8%、「複雑」が40.0%となっている。「危険」「不安」は前年とほぼ同じだが、複雑がここ数年増えている。人々の原子力への印象は、改善していることがうかがえる。

◆電力価格上昇が関心を高める

「エネルギーで関心があるテーマ」への設問への回答は次のとおりだ(問3)。

「地球温暖化」が52.8%と多かったものの、次の「電気料金」が48.3%、3位の「日本のエネルギー事情」が39.1%、4位の「電力不足」が38.9%、6位の「災害による大規模停電」が25.3%となった。「日本のエネルギー事情」は22年度から新しく聞いた項目で比較はできないが、その他の推移を見ると、「電気料金」「日本のエネルギー事情」「電力不足」「停電」は、いずれも関心が増えている(図2)。

図2

電気料金の高騰、電力不足、停電危機に直面し、人々の意識が変わったことを反映したものだろう。

◆原子力活用に対する厳しい見方は変わらず

原子力発電の利用に関する考えはどうだろうか(問8)。もっとも多い意見は「徐々に廃止」44.0%、次いで「わからない」28.8%。積極的な原発利用層である「維持」「増加」はそれぞれ 12.0%、5.4%となった。一方、「即時廃止」は 4.8%にとどまった。

原子力エネルギーをめぐる不信感は社会に根強く残る。それでも、即時廃止は東電事故以来最も少なく、肯定的意見はここ数年には漸増している。

目先の原子力再稼働についてはどうだろうか(問9、図3)。「原子力発電の再稼働を進めることについて、国民の理解は得られていない」という問いに「得られていない」が46.0%と、「得られている」の4.5%を大きく上回り、国民の視線は厳しい。

しかし「電力の安定供給」「地球温暖化対策」「日本経済への影響」などの理由を背景に、原子力発電所の再稼働を求める人が、ここ数年増えている。「電力の安定供給のために原子力発電の再稼働が必要」問という人は、35.4%に達した。

図3



このほかの調査でも、原子力の最終処分の必要性で認知は広がっていた。また信頼できる情報は少ないと感じる人が多かった。

この状況を見ると、ウクライナ戦争などエネルギーに影響を与える国際情勢の変化、日本国内の電力供給の混乱を前にして、人々はエネルギー問題を冷静に受け止め、原子力のあり方を考えようとしている。そして正確な情報を得ようとしている。日本人は賢明だ。

◆原子力の必要を主張するときか?

岸田文雄首相は昨年7月中旬、電力不足に備えて原発の再稼働を進める意向を表明。そして岸田政権は今年2月にグリーントランスフォーメーション(GX、脱炭素移行)戦略を決定し、そこで電力供給の安定化と原子力の活用を、政策課題の一つにした。東電事故以来、あいまいな状況であった原子力政策は「活用」に転換した。

しかし現時点では掛け声だけで、政府は具体的な対策に踏み出していない。原子力の発展に足枷になっているのは、原子力規制委員会による過剰規制による再稼働の遅れ、そして電力自由化による電力会社の経営先行き不安と原子力への投資の抑制の2つだ。それらの大問題には政府は手をつけていない。関係者からも「変えよ」という強い要求は出ていない。

世論の原子力への態度が、ここまで変わったのだから、政府、そして民間の担い手は、そうした原因の改善にもう一歩踏み出していいのではないか。また上記に示されたように「国民の理解が得られていない」としながら、再稼働を認める人が増えている。だとしたら政府と政治家、そして当事者の電力会社は、再稼働、また原子力問題について国民に語り、理解を深めるべきであろう。

状況は変わりつつある。それを動かしてほしい。