【コラム/6月23日】経済財政運営と改革の基本方針2023年を考える~雇用重視の経済運営が基本だが

2023年6月23日

飯倉 穣/エコノミスト

1,基本方針23の高揚感は

日本経済は、ウクライナ侵略戦争・エネ価格変動・金融不安等の下で、一進一退かつ日銀頼りである。そして政治的課題満載である。現状少子高齢化、地域、国土保全、経済安全保障等が話題となり、又過去の誤謬による経済不均衡(財政悪化等)も継続している。これまで同様、苦境を改善する経済運営に関心が集まっている。

その打開策の項目出しとなる「経済財政運営と改革の基本方針2023」(以下基本方針23という)を決定した(23年6月16日)。報道もあった。「「骨太」財源あいまい 防衛増税 後ろ倒し示唆 閣議決定尾」「骨太の方針 メタボ化 与党要望丸のみ 財政健全化の道筋欠く」(朝日同6月17日)、「賃金底上げで好循環 負担増の議論先送り 骨太の方針 閣議決定」(日経同)。目玉無しで焦点定まらずの印象である。

基本方針23は、「新しい資本主義」を通じて、経済の付加価値を高め、企業が上げた収益を構造的賃上げによって労働者に分配し、消費も企業投資も伸び、更なる経済成長である「成長と分配の好循環」を成し遂げると述べる。一見もっともな表現だが、実現に首を傾げる。政策の実効性があるような、ないようなで、貫徹に向けた高揚を感知できない。経済の流れから乖離する論理や逆立ちの発想もある。毎年の見直しの意味を探りつつ、生産・所得・支出という経済の流れから、基本方針23の経済政策を考える。

2,新しい資本主義の意味、誤解なき読み方は

今回の注目点は、現政権提唱の新しい資本主義の中身の具体化、目指す経済運営の姿と盛り込まれた具体的施策の妥当性である。資本主義とは何か。繰り言になるが、現代的意味では「資本という貨幣を媒介として、生産手段の私的所有を前提として、自由市場で利益獲得を目的に商品・サービスの生産を、雇用を通じて行う経済システム」であろう。今回、この捉え方を再定義する内容は見当たらない。(「資本主義を超える制度は資本主義でしかあり得ない」:新しい資本主義の グランドデザイン及び実行計画 2023改訂版参照)。

そうであれば「新しい」は、経済運営の理念的なことであろうか。下村治博士は、経済均衡を念頭に置いた「節度ある経済運営」を訴えていた。平成時代は、手当たり次第の運営で、現状の日本経済・財政(停滞・破綻状態)がある。今回「新」手当たり次第になっていないことを願いたい。

政策的な新規性はどうだろうか。市場経済における生産と所得への介入の視点である。過去経済政策の流れは、平成前の市場経済尊重・雇用重視から、バブル形成・崩壊以降「新自由主義・市場経済徹底・競争重視」となる。現政権は、従来の新自由主義・投資金融尊重を踏襲している。故に新しいとは言いにくい。

これらの点を踏まえれば、「新しい」に違う意味や使い方を見出すことが必要なようである。基本方針23の文中にある「新しい資本主義」の使い方を見てみよう。基本方針23は、様々な施策の羅列である。この言葉を施策の総称と考え「各施策」に置き換えて読めば、大変理解しやすい。新しい資本主義の意味は何かと、あまり深く定義や内容を追求すると、誤解を生む。方針作成者の知恵なのか政治家の都合か不明である。

3,期待ばかりの成長理論

基本方針23で述べる様々な政策・施策は時宜を得ているか。また論に適っているか。まず経済面では、価格転嫁・労働市場改革・民間投資に期待する。そして賃金と物価の好循環、成長と分配の好循環を目指す。それぞれ一理はあろうが、経験的に蓋然性に乏しい。価格転嫁は、当然価格効果で経済縮小である。三位一体の労働市場改革(リ・スキリング・能力向上、職務給導入、労働移動円滑化)は、効果不鮮明でまた不安定雇用改善の経路が不明である。成長産業があれば、施策なしで労働移動となる。オイルショック後半世紀の産業構造の変化と雇用の推移を思い出して欲しい。成長産業少なく、衰退産業もあり、規制あるも雇用を守りきれず、低生産性のサービス分野等に労働を押し込めてきた。

生産性向上とイノベーションに向けた民間投資を引き出す、またGX等官民連携投資等で国内投資拡大と述べる。この考えは、論理の逆転か過剰期待である。本来イノベーションを背景とする設備投資が生産性を向上すると考えれば、本末転倒である。技術革新は、個々人の創意工夫とその集団的活動である。創造醸成の環境づくりが肝要である。これまで国立大学・国立研究所の独法化で研究者の生活不安定を招いている。また市場経済重視(投資金融重視等)で企業の研究開発力が上昇していない。期待のスタートアップは、ベンチャーの焼き直しである。つまり研究・開発環境と研究・開発力の劣化がある。

技術革新は期待したいが、原動力となる研究開発体制の修正を模索せざるを得ない。経済成長は、過去40年の経験を踏まえれば、意図して可能ということでなく、過去の幸運なエネ・国際環境下の企業活動の賜のようである。「市場も国家も」「官も民も」ということでない。

現状は、経済の水準維持に注力することが必要である。その意味で、今回ようやく経済安全保障の、エネルギー確保で再エネに加え、原子力活用が少し前進したことは評価できる。引き続き自由化失敗の電力の安定供給体制の再構築が求められる。

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