トップ交代で難局打開なるか 新社長が語るエネ先物市場の行方

2020年8月7日

石崎 隆/東京商品取引所社長

コロナ禍真っただ中で、TOCOM社長として登板することになった。
総合エネルギー市場への脱皮を図る上で山積する課題にどう取り組むか、その手腕が注目される。


いしざき・たかし 1990年東京大学法学部卒業、
通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁
電力基盤整備課長、内閣府規制改革推進室参事官など
を経て、2020年6月から現職。

需要減に伴う取引低迷により、2016年3月期から最終赤字が続いていた東京商品取引所(TOCOM)。起死回生を図るべく、19年10月に日本取引所グループ(JPX)の子会社となり、再スタートを切った。7月には、貴金属市場などが大阪取引所に移管され、今後は、総合取引所の枠組みの中で、原油や電力に特化した「総合エネルギー市場」を目指すことになる。

そのかじ取りを担うのが、6月に就任した経済産業省出身の石崎隆社長。「石油、電気、そして現在検討を進めているLNG(液化天然ガス)の先物取引を一括上場することで、エネルギー事業者にとって使いやすいマーケットにしていきたい」と、就任に当たっての意気込みを語る。

電力先物の早期本格上場へ 実現に取引量拡大が課題

着任直前、新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済失速の影響で、石油などのエネルギー資源や電力の取引価格は、国内外で史上まれに見る異常な様相を呈していた。

原油は、昨年来の世界的な供給過剰感の高まりにコロナ禍による需要激減が追い打ちをかけ、米WTIの先物が一時ネガティブプライスを付けるなど大暴落。また、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格は、緊急事態宣言下の需要減に伴い、4~5月にシステム上の最低価格であるkW時当たり0・01円を連日付けていたのだ。

こうした価格の乱高下は、先物市場にとっては取引拡大の好機となる。価格のボラティリティに対し、事業者が次善の策を打つ必要性が高まるからだ。実際、原油先物の6月の取組高の残高が史上最高となるなど、TOCOMにとって思わぬ恩恵をもたらした。

一方、昨年9月に3年間の予定で試験上場した電力先物市場は、JEPXの取引量の0・5%をカバーしているに過ぎず、活性化には程遠いのが実情。石崎社長は、「3年という期間にとらわれず、できるだけ早期に本上場を果たしたい」意向だが、その実現には取引量の拡大が絶対条件だ。

電力先物市場の参加者は、試験上場当初の10社程度から、夏や冬の価格高騰リスクを回避したい新電力を中心に40社まで増えた。さらに数十社が口座開設を準備、もしくは検討中といい、参加者の裾野は着実に拡大しつつある。

そして、取引拡大の鍵を握るのが、国内の供給力の大半を占める大手電力会社だ。これまで取引参加には慎重な姿勢を見せていたものの、スポット価格の動向や容量市場の動向次第では、取引参加に踏み切る可能性がある。

石崎社長は、「大手電力会社が取引に参加するに当たっての最大の懸念材料となっていたのが清算機関の信用力だった」とした上で、「TOCOMの子会社である日本商品清算機構(JCCH)が担う清算(クリアリング)機能が、国内最大のクリアリングハウスである日本証券クリアリング機構(JSCC)に統合されたことで、懸念は払しょくできる」と、JPXへの統合のメリットを強調する。

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