原子力開発最前線 三菱重工業 「SRZ―1200」に〝横綱〟の風格

2023年8月4日

【澤田哲生 エネルギーサイエンティスト】

GXで原子力発電の役割が欠かせない中、三菱重工業は強力なラインアップを揃えた。

中でも安全性、経済性を格段に高めた革新軽水炉「SRZ―1200」には、〝横綱〟の風格が漂っている。

日本の重工業を常にリードしてきた三菱重工業。維新なった明治の治世、富国強兵策をガッチリと支えてきたのである。始祖・岩崎弥太郎の下、重厚長大をもって日本の産業構造の基盤を下支えすることは三菱の創業以来の至上ミッションであったし、それは実践と実績に基づいた史実でもある。

弥太郎の理念はその三綱領にあらたかである。①所期奉公(社会貢献)、②処事光明(フェアプレイ)、③立業貿易(グローバル対応)―。これらは昨今のSDGs(持続可能な開発目標)にも通じるものがある。

1873年の三菱商会の発足から今年でちょうど150年。三菱グループの枢要企業三社の一角をしめる三菱重工が、GX(グリーントランスフォーメーション)のエネルギー政策の要である「原子力発電を最大限に活用する」ための切り札を打ち出してきた。

それは三つの構成要素からなる。革新軽水炉、高温ガス炉、そして高速炉のトリニティだ。

最大限活用の切り札 三菱ならのラインアップ

SRZ―1200―。GXに欠かせない大量の電源、しかも既に実用化されている大型軽水炉の範疇で、太陽光や風力というVRE(変動電源)との相補性に優れる革新軽水炉をまず打ち出した。

革新軽水炉「SRZ―1200」のイメージ図

それに加えて、GXに欠かせない大量水素製造の可能性を秘めた高温ガス炉、そして資源小国日本の国是であるウラン資源の最大活用、つまり〝閉じた〟核燃料サイクルの中核を担うナトリウム冷却高速炉。いずれも実績に裏打ちされた原子力開発のリーディングカンパニーならではのラインアップである。それらは日本のみならずグローバルに通用するものである。

EUタクソノミーは欧州を基軸に、それぞれの発電方式が地球温暖化の阻止に役立つか否かのレッテルを貼る分類法であり、世界の価値基準と目される。そして、2023年1月に欧州議会で「原子力はグリーン」と裁定された。まことに真っ当かつ未来に明かりをともす喜ばしいニュースであった。

SRZ―1200は、3.11で得られた教訓が随所に実践展開された、まさに〝決め打ち〟の革新軽水炉である。

世界に目を転じれば、フィンランドでちょうど今年4月に稼働したヨーロッパ式大型軽水炉は、建造過程で変更に変更を重ね大幅な工期延長と最終的に1兆円を超えるコストを費やしてしまった。

三菱重工の〝決定打〟、SRZ―1200は、資源エネルギー庁が2030年の新設プラント建設費として想定している6200億円と同等の水準を目指すとしている。うれしい話ではないか。安全確保上、いわゆる世界一の極めて厳しい地震・津波対策が必須の日本でこの価格なのである。海外ではもっとお安くなるのではないか。

そして特定重大事故等対処施設(特重)は大幅な合理化も期待される。重大事故に対する安全確保の要は、建屋を強固な岩盤に埋め込むことによる耐震性強化、津波などによる溢水を排除するドライサイト、受動的と能動的な安全システムのベストミックス、二重格納容器による航空機などの外部飛来物への耐衝撃性の向上、そして放射性希ガス(XeやKr)さえも環境に漏らさない放射性物質放出防止システムの導入などである。

結果として、現行の原子力規制の下では追加設置が義務付けられているあの長大でドンキーな特重施設がもはや不要となる可能性を秘めている。これはとてつもなく明るいニュースだ。

3.11で得られた教訓を基に安全対策は多重性、多様性を重視している

原子力志望の若者 未来への熱い夢

原子力セグメント長の加藤顕彦常務執行役員の話では、ここ数年、三菱重工の原子力部門の新規採用は増加傾向にあるという。一部のアンチのメディアに惑わされることなく、自分の頭で思考する若者が確実に増えていることは、私自身の中学生や高校生への授業と対話交流、大学生・院生への講義などを通じて如実に感じてきた。

3.11以降、大学院の人財育成は助成金行政のもと、原子力分野では福島第一の廃炉と原子力規制に資源が集中投下されてきた。が、私に言わせればどちらも後ろ向きである。あまり夢がないのだ。これでは弥太郎の「三綱領SDGs」に能うところがない。革新的原子炉の研究にこそもっと熱い夢が語られ資源が配分され夢の実現がなされるべきである―そう思ってきた。

三菱重工には、原子力の革新的未来に応えようとする若者が集まってきているという。それは、いわゆる原子力プロパーの学部や選考ではなく、どうやらその他分野の工学や理学などから目先のきく若者がやってきているようなのである。

横綱を土俵に上げるには 政府は投資環境の整備を

土俵は整いつつある。つまり、政府はGXに向けて「原子力の最大活用」の掛け声のもと、革新軽水炉の新増設と従来の原子力政策を180度転換した。そして原子力産業の〝横綱〟、三菱重工はこれぞ決め打ちの革新軽水炉SRZ―1200をもって、土俵下でどっかりと構えている。横綱は呼び出しの声を待っている。設計図はある。工場も準備万端、手ぐすねを引いている。しかし呼び出し(発注)がなければ、横綱も土俵に上がることさえままならない。

電力会社が発注をためらう理由は何か。3.11以後の原子力を巡る環境の急速な悪化である。

稼働中の発電所をいきなり停止させる「仮処分」、いまだに再稼働の審査を続ける原子力規制委員会の怠惰、稼働を巡り「住民投票」をちらつかせる首長の存在―。 これだけのリスクが顕在化する中、誰がリプレース・新増設に数千億円の費用を融資するだろうか。投資した金額の回収を保証する枠組みをつくること。これこそが今、政府が取り組むべき事柄である。 今年、第7次エネルギー基本計画の策定が動き始める。この場で良識ある人たちが声を上げ、政府に重い腰を上げさせなければならない。

三菱重工は、呼び出されれば10年でSRZ―1200を完成させるという。政府が本腰を入れるならば、50年に向けてのGXにはなんとか間に合いそうである。

私たちは今、向こう半年程度で一体何が起こるのかを注視せざるを得ない―。そう思うのである。

さわだ・てつお 1980年京都大学理学部物理学科卒。三菱総合研究所、ドイツ・カールスルーエ工学所客員研究員、東京工業大学助教などを経て2022年から現職。工学博士。専門は原子核工学。著書に『原子核工学入門』『やってはいけない原発ゼロ』など。

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