原子力開発最前線 日立GEニュークリア・エナジー 「HI―ABWR」はGX戦略の要

2023年9月4日

【澤田哲生 エネルギーサイエンティスト】

「HI―ABWR」には、ABWR(改良型沸騰水型炉)建設の実績が合理的、実務的に取り入れられている。

GXが投げ掛ける課題に対する「解答」であり、日立製作所のフラッグシップとなる大型革新軽水炉だ。

ごく最近、カナダにおいて小型軽水炉BWRX―300(出力30万kW)をGE日立が4基受注すると報じられた。推定受注価格は1基当たり700〜800億円だという。

4基120万kWで3000億円程度である―。これは「お安い!否、安すぎないか」が私の最初の印象であった。これなら、3・11前の130万kW級大型炉のコストとさして変わらないではないか。もちろんカナダと比べて、地震大国のわが国では事情は異なろうが、それにしても安い。

早ければ2028年にも初号基が完成するという。実際にどの程度の工期で出来上がるのか、そして最終的にコストがどこまで積み上がるのか、今から非常に楽しみである。そんな中、日立製作所・原子力ビジネスユニットCEOの稲田康徳執行役常務に話を伺った。


カナダでの新設に関与 ビジネスの近未来を刺激

稲田氏は、紳士然としたたたずまいだった。開口一番、「まだ受注が決定した訳ではありません」。穏やかな語り口調からは、慎重ながらも確固とした自信をうかがい知ることができた。

また、1基当たりの価格の新聞報道については現時点でなんとも言えないとも。さらに、受注する本体は米国のGE日立であり、日本の日立GEは米社に常駐する社員のパイプを通じて、サプライヤーとして関与していくことになると、ここでも慎重姿勢を崩さなかった。慎重さは誠実さの証なのだろう。

なんであれ、日本の日立がこの新規の小型軽水炉建設に深く関与することには違いない。英国のホライズンプロジェクトでの苦難の経験も慮れば、実に喜ばしいことである。革新型軽水炉の新設機運のあるわが国において、〝Inspire the Next〟……原子力ビジネス界の近未来を大いに刺激することは間違いない。

GX(グリーントランスフォーメーション)に向けて、日立GEは、BWRX―300に加えて、次の3炉型を合わせた4炉型を戦略的に開発している。

①HI―ABWR(Highly Innovative ABWR)、②RBWR(Resource Renewable BWR)、③PRISM(Power Reactor In-novative Small Module)―。

「HI-ABWR」のシビアアクシデント対策

HI―ABWRは、3・11の教訓である地震・津波などの自然災害対策、シビアアクシデント対応、テロ対策などが、これまでのABWR建設の実績を踏まえて極めて合理的かつ実務的に取り入れられた大型革新軽水炉(130~150万kW級)である。

私はこれが日立GEのGX対応への「解答」であり、フラッグシップになるのだなと感じた。つまり、東芝の「iBR」、三菱の「SRZ―1200」と比肩するのがこの炉型である。私見だが、これまでの国内でのABWR建設実績に基づけば、一歩先んじているようにも思われる。

RBWRはプルトニウムを含む超ウラン元素(TRU)の燃焼を実現しようとする軽水冷却高速炉である。既存のABWRの設計をベースにし、まずは現行既設炉に適用可能な四角格子燃料で早期実現し、ゆくゆくは六角格子燃料を採用することで中性子のスペクトルを硬くし、TRUの燃焼が多数回、回せるマルチサイクルを狙うという。ABWR2基から出てくるTRUをRBWR1基で消費するのだという。

私の率直な感想は「うーん、軽水冷却高速炉でマルチサイクルかぁ」。なにか難しそうでやや眉唾ではと当初思ったが、自信に満ちた説明に耳を傾けるうちに、エンジニアリングの実態に迫っているのかもと思い始めた。実績のある軽水冷却技術でもわが国の核燃料サイクルを支えるという気概なのか。

そして、PRISMはGEの設計であり、金属燃料を用いたナトリウム冷却の小型モジュール炉である。

新型炉開発の変遷

安全面においては重力落下や熱膨張などの物理法則に根ざした固有の安全性が非常に高いとされている。そのルーツは米国で開発されたEBR―Ⅱ(1965年臨界、94年閉鎖)であり固有の安全性の高さは実証済みである。ビル・ゲイツ氏もその開発に投資している「Natrium」の原子炉はこのPRISM炉であり、その運開目標は28年だという。計画はやや遅延気味とも聞くが、いずれにしても日立GEもこの開発に関与するわけである。つまり高速増殖炉「もんじゅ」の廃止以降、国内の高速炉計画は混迷を極めているが、日立の技術と人材がPRISM/Natriumの建設現場で実力を発揮することになろう。これは極めて明るいニュースだと断言できる。

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