【電源開発 菅野社長】脱炭素と安定供給両立 より難しい局面こそ 果敢にチャレンジへ

2023年9月2日

火力アップサイクル 地点の特徴踏まえ判断

志賀 主要課題の一つである石炭火力の今後については、既存設備の低炭素化、そしてフェードアウトをどう進めるのでしょう。

菅野 「BLUE MISSION 2050」ではさまざまな電源を再生する「アップサイクル」が基本となります。中でも火力のアップサイクルでは、よりクリーンに近づける努力が重要で、50年にはCNにする必要があり、最終ゴールはCO2フリー水素発電だと考えています。ただ、全ての火力サイトがそうなるわけではなく、アップサイクルはサイトを選び進めることになります。その過程で、石炭火力発電事業全体としては規模を縮小していく方向です。

志賀 古い石炭火力から閉じ、比較的新しいサイトはアップサイクルするといった方針でしょうか。

菅野 古い順に判断の時期が来ますが、その行方は地元のご理解のほか、サイトの特徴、つまり電力マーケットの構造や需給関係の状況によります。50‌Hzか60‌Hzか、その中でも例えば九州は再生可能エネルギーの大量導入でエリアプライスが安い傾向にあるなど、地域の状況はさまざまです。さらに、アンモニア混焼を考える場合には、港が受け入れ可能な船の規模、あるいは管理上のリスクを考えれば設備と住宅地との距離なども勘案する必要があります。水素混焼においても個別課題があり、それらを俯瞰して判断していきます。

志賀 国内石炭火力の選択肢としては、足元ではバイオマス混焼拡大、その先でアンモニア混焼を掲げています。後者の技術的難易度はやはり高いのでしょうか。

菅野 技術的には可能だと確認されていますが、本格的な実証は他社を含めこれからですし、アンモニアの生産過程でのCO2処理の課題もあります。仮に当面はグレーアンモニア(化石燃料由来でCO2処理なし)を活用するとしても、何年も継続できるわけではありません。CO2を処理したブルーアンモニアと、水素実用化までの時間的距離感がどうなるのかが、ポイントとなるでしょう。

 足元の低炭素化に資するバイオマス混焼拡大については、広島県の竹原火力新1号機で既に重量比10%混焼を行い、さらなる利用拡大に向け取り組んでいきます。

CNに貢献するOCG(提供:大崎クールジェン)

志賀 水素発電につながる大崎クールジェン(OCG)の最終形態、CO2分離・回収型IGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)実用化の手ごたえは。

菅野 当社としては一番実現に近いCN策だと考えています。石炭をガス化すると一酸化炭素(CO)と水素(H2)が出て、OCGではこの水素を含むガスを用いてコンバインドサイクル発電を行います。この石炭ガス化技術の成果を実装するのが「GENESIS松島計画」です。

 なお、OCGでは石炭ガス化により出てくるCO2の分離回収までを行いました。この分離回収したCO2を貯留するのがCCSです。当社とENEOSグループ共同で、今年2月には、CCSの事業化に向けた合弁会社「西日本カーボン貯留調査」を設立しました。これまでの政府の調査では10か所で160億t程度の貯留ポテンシャルが示されましたが、同社としても調査を行い、30年には国内での貯留を実現すべく取り組みます。

 そして、CCSは国内外両方で行う必要があると考えています。国外でCO2を処理してブルー水素を輸入するスキームのポテンシャルは大きいでしょうが、国外処理一択だけで大丈夫なのか。CO2を国外に置いて帰ることと同義ですから。CO2処理においても地政学的なリスク分散を考える必要があります。

志賀 さらに船舶のCN化にも積極的です。石炭船用船への風力推進補助装置(ローターセイル)搭載などを進め、7月上旬にも飯野海運との間で合意したとの発表がありました。]

菅野 風の力を使って石炭専用船の省エネ・省CO2化を図る取り組みは今後も増やす方針です。20%程度の燃料削減効果が期待でき、特にある程度航路が決まっている船舶への取り付けは威力を発揮すると考えています。

1 2 3 4